原作本は4巻か5巻、アニメは全部見たかな?
それが私のISの知識です。
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強くなりたいと願った。
強くありたいと思った。
失いたくないから、零したくないから。
一瞬の想いのまま、彼は道を選んだ。
それが、シン・アスカの始まり。
『シン!!』
いきなりの怒声は頭の中で響き渡る。
ハッとして気がついたときには、体が勝手に動いていた。
現在状況、不明。どうやら路地裏らしいが、周辺の『構造物』は銀河帝国の基準値以下だ。
主星以外の場所。それはない。銀河帝国の支配地域で、ただのレンガ造りの建物など許可が下りない。
路地裏も、あり得ない。
あの宰相殿が、路地裏なんて場所を作るわけがない。それに見たことがない。
任務で方々に飛ばされたことがあったが、記憶の中にこんな場所はない。
ティス―デスティニーの記憶領域にも一致する場所はなし。
天体の位置も該当なし。
『シン!』
再びの警告、人が近づいてくる気配多数。
不味い、今の自分は正装のままだ。
銀河帝国の領域でないならば、他の国家群の何処か。
政庁直属部隊の自分の顔は知れ渡っている。
無許可に他の国の中に、中央の軍人がいると知れたら。
「アイリスさんに殺される?!」
『そうそう!!』
国際問題、そんなのは些細なことだ。
他国に対して攻める理由を作る。今だって、周り中が銀河帝国に対して攻撃を仕掛けたいのに。
単独で敵地のど真ん中。何時ものことだ。
「ティス!」
『現在位置のマップ作成完了! 座標データ更新終了! 何時でも行けるよ!』
優秀な相棒は相変わらず仕事が速い。
まずは何処かへと考えるシンの視界の中、角を曲がって姿を見せたのは。
「あ・・・・・」
涙を浮かべた少女だった。
金髪を三つ編みにした、何処にでもいそうな純朴な。
「えっと・・・・・」
彼女が立ち止まり、こちらを見てくる。
泣いている理由を聞くべきか、それとも道を譲って立ち去るべきか。
グルグルと頭の中で考えが回るシンは、一歩も動けずにいた。
『女性に優しくね』と、テラが脳裏で言っている。
理由を聞くべきだと動き出した体が、別の言葉で止められる。
『女性に騙されて任務失敗なんて、ないようにね』と、アイリスが笑顔で語っていた。
少し、優しい笑顔の間から、『怖さ』が滲んでいたが。
アイリス・クロームクラウン・エーテル銀河帝国宰相。テラの奥様の内の一人にして、剣と槍を同時に使う達人。
勝てたことないんだよな、とシンは胸中で付け足しながら、どうするべきかと悩む。
「・・・・・あの人に雇われた人?」
シンが悩んでいる間に、少女から声をかけてきた。
「え、えっと、誰のこと?」
「なんとかってISの会社の」
ISってなんだ。意味不明な単語に少しだけ気を取られる。
「違うの?」
「いや、ISってのは知らないけど。俺はちょっとここにいるだけで」
言っていて、これじゃ訳が解らないだろうと、シンは自分のことながら笑ってしまう。
「それじゃ・・・・」
「いたぞ!」
別の声が、二人の間に差し込まれた。
違う角から現れた二人の黒服の男に、少女が怯えた顔を見せた。
だから、シン・アスカは動いた。
「なあ、あんたら。この子に何か用事なのか?」
「はぁ? おまえには関係ないだろ?」
男の一人が睨んでくるが、シンにとっては怖くもなんともない。
もっと怖い人たちは、睨む前に殺しにかかるので。
「彼女、怯えているだろ? 女の子に優しくしろって習わなかったのか?」
「おいおい坊主、かっこつけたいなら余所でやれ」
「かっこつけたいわけじゃないけどさ」
そう見えるのだろうか。当り前のことを言っているだけなのに。
シンが視界を反らすと、男の一人が拳を振りかぶった。
見えているし、回避するのは余裕。けれど、彼はあえてその一撃を貰った。
左頬に一撃が入った瞬間、シンの右手が男を沈黙させる。
帝国軍の規則によると、軍人の防衛行動は相手側から攻撃が加わった場合のみ許されている。
だからシンは一撃を貰い、そして二人を落とす。
「さてと、話を聞かせてもらうぞ」
「え、え? どうやって倒したの?」
「こんな連中、拳一つで十分」
「ちょっと待ってよ、『見えなかったけど』」
一般人に見えるほど、柔な鍛え方はしてない。
シンは内心でいいながら、少女に手を差し伸べた。
「俺は、シン・アスカ。あんたは?」
「シャルロット」
ファミリーネームを名乗らず、少女は自らを告げた。
路地裏では何なので。
場所を変えて話を聞かせてもらうことにしたのだが、場所をとはいってもカフェテラスくらいしかないが。
襲われた人物がカフェテラスで優雅にお茶。
二度目の襲撃を希望します、と看板を出しているようなものだ。
もし、ここが帝国であったならば、シンは迷わずにバーを探して入る。
バーは、『隠れ場』。重い扉の先では、外の事情を持ち込まないのがルールで、何があっても揉め事に発展しない。
いや、発展したら帝国軍じゃなく騎士団が出撃する。
特に銀河帝国上層部が大いに好んでいるバー『イーデンホール』で、もめ事なんかあった日には。
十四の騎士団の全戦力が、相手が個人だろうと殲滅戦を行うだろう。
色々と考えたシンが選んだ場所は、やはりバーだった。
「未成年はお断りだ・・・・・・といいたいがな」
店のバーテンダーは、一目の時に文句を言い掛け、続いて二目の時には軽く首を振って奥のボックス席を示した。
「ありがとうございます」
「いいさ。訳ありなんだろ?」
「ええ、まあ」
シャルロットを連れながら通り抜けると、バーテンダーは軽く肩をすくめていた。
「痴情のもつれは勘弁してくれよ」
「はは、ないですよ。これで」
そっとシンがカウンターに置くのは、念のためにで持っていた宝石。
「本当に内緒の話みたいだな」
「外に秘密が漏れないのが、バーのいいところだ、ですよね?」
バーの扉の先は、秘密の共有場所。昔は警官と犯罪者が、同じテーブルで酒を飲んでいたらしい。
「それを知っているおまえさんは、未成年じゃないな?」
「ははは」
軽く笑って誤魔化してみる。
銀河帝国にとって、成年は二十歳から。ただし、仕事に就いていない場合はという前書きが付く。
「適当に持っていってやる。これじゃ、場所代には多すぎる」
「お願いします」
ボックス席につき、彼女に着席を促してから、シンも座る。
「本当に大丈夫?」
「大丈夫。こういった昔ながらのバーは、客の秘密は守るから。それにさ」
シンはチラリとバーテンダーに視線を向けた。
彼はシェイカーを無言で振っている。
こちらの様子を窺いながらも、何か言ってくる様子はない。
「バーテンダーは、世界一結束の固いギルド。客に対して誠実であるならば、彼らほど心強い味方はいない」
「詳しいんだ。シンってさ、何歳?」
「十七。それなりに色々なことを見てきたからね」
安心させるように微笑みながら、シャルロットに話を促す。
彼女はポツリポツリと語る。
母親と二人暮らしだったこと。その母親が亡くなったこと、父を名乗る男が来たこと。
彼が作った会社のこと、自分のISの適正がA判定で、テストパイロットを命令されたこと。
話は途切れ途切れで、彼女の主観情報が入っていて。
「妾の子がって、怒られちゃった」
最後の一言に、シンは返答できずに考え込む。
奥さんがたくさんいるって、大変なのだろうか。
ちょっと思い出すのは、師匠であるテラ・エーテル。十三人も奥さんを抱えていて、彼は自分らしく馬鹿らしく真っ直ぐだ。
いや大変だったな、と考え直す。奥様全員が大変だった。
馬鹿でアホで、真っ直ぐに問題に突撃するのが彼だから、傍にいると命がいくつあっても足りないらしい。
思考が逸れた。
シンは考えを戻すために、バーテンダーが持ってきてくれたカクテルに手を伸ばす。
何が出てきたかと思ったら、『シャーリー・テンプル』。
ノンアルコールのカクテルだが、味がしっかりとしていて、彼の腕の高さが伺える。
「シン、私はどうすればいい?」
泣いているシャルロットに、彼は反射的に答えていた。
「考える時間を作ってやるよ」
彼はゆっくりと部屋に入り、深々と溜息をついた。
取り逃がしたらしい。
部下からの報告に、苦々しい思いを感じてしまう。
部屋を通り過ぎ、自分のイスへと向かう。
正直な話、彼女を愛していたかなど解らない。
仕事に行き詰まり、人生に悩んでいた時の、一時の安らぎを求めていただけなのかもしれない。
彼女に子供がいると知ったとき、『そうか』とだけ思った。後に感想もなく、今まで忘れていた。
けれど、その娘にIS適正があって、それが『A』だと判明した時は幸運が巡ってきたと思った。
これで、我が社も盛り返せる。イギリスやドイツに遅れることなく、計画から外された恨みを晴らせる。
「なあ、あんたにとって、あの子はそれだけなのか?」
気がつけば、イスに座った自分の目の前に少年が立っていた。
赤い、揺れるように紅蓮の瞳を持った、黒髪の少年。
その瞳に見つめられると、何故かとても寒く感じてしまう。
「誰だ、君は?」
「質問しているのは、俺なんだけどな。シャルロットは、あんたにとって、それだけか?」
少年は、真っ直ぐにこちらを見てくる。
身構えるでもなく、武器を持っているわけでもない。
なのに、体中が震えてくる。まるで刃を心臓に突きつけられたように。
「それだけ、とは?」
「恨みを晴らすための道具。周り中を見返すための切っ掛け。それだけなのか?」
何故だ、どうして知っている。
言葉は吐き出されることなく、口は凍りついたようにしゃべれなくなった。
「解った。もういい」
少年は背を向けて、そして消えた。
途端に、男は全身で息をする。体が忘れていたように、酸素を欲して心臓の鼓動が早鐘にように鳴り響く。
「なんだ、今、何がいた?」
男はようやく動いた口でそう呟き、やがて呆けたように止まった。
「ん、いかんな疲れているようだ。眠ってしまっていたな」
軽く背伸びしてイスに座りなおした男は、書類を持ち上げて目を通していく。
まるで、先ほどのことがなかったかのように。
彼の記憶の中に、先ほどまでいた少年のことは、綺麗に消えていた。
子供は親の道具じゃない。
シンは出かかった言葉を飲み込み、デュノア社を見下ろしていた。
『いいの、シン? 今なら『記憶』だけじゃなくて命も消せるよ』
「消したところで、問題の解決にはならないさ。今、必要なのはシャルロットが考える時間と、それと俺達の身の振り方かな?」
振り返った先、デスティニーの首のところから、ティスが舞い降りてくる。
『消せば全部解決』
自信満々に答えるティスに、『いや、そんな短絡的な』とシンは思うのだが。
別世界の彼は、かなり短絡的に動いていたような、と誰かから突っ込みが入るのだが、このシン・アスカは短絡的に動いた結果に死ぬ思いをしたことがあるため、よく考えることにしている。
ただし、しているだけでかなり短絡的に動くことは多いが。
「デュノア社を潰したところで、シャルロットの問題は解決しないさ。誰か別の存在が、彼女を狙ってくるだけだ」
『ふ~~ん。シンって考えられるんだ!』
「おい、ティス」
尊敬の眼差しで見てくる彼女に、拳を握ってしまうシンだった。
とにかく、これでデュノア社と話し合う選択肢はなくなった。
もし、彼に少しでもシャルロットに対して後ろめたい気持ちがあったなら、話しあってお互いの妥協案を探したのだが。
『で、どうするの、シン?』
「あのバーテンダーさんの師匠さんが、イギリスにいるらしいから、そっちに行ってみるか」
フランスに留まるのは、見つけてくださいと言っているようなもの。
ならば、いっそのこと国外に出てみるのも手だ。
こうしてシンはシャルロットをつれて、イギリスに向かうことに決めた。
デュノア社は、その後シャルロットの行方を探し続けたが見つからず、ISの開発は遅れに遅れることになった。
「いや、テストパイロットがいないってなんだよ」
『うん、何だろうね』
結果を知ったとき、シンとティスは呆れていたというが。
突然の出会いは、道を決めるのは十分な理由をくれた。
戻らないといけないのだろうが、彼女を放置して戻ったら絶対に殺される。
だから、彼女が安心できる場所を見つけるまで、この世界に留まる。
理由を話せば、きっと解ってくれる。
たぶん、きっと。
大丈夫だろうな、ティス。え、解らない?
ちょっと待て、逃げるなよ。
一蓮托生だよな?