シン・アスカの異世界渡航記『完結』   作:サルスベリ

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 マテリアルは嫉妬深い。

 意外に知られていないことだが、彼女達はパイロットに対しての独占欲を持っているらしい。

 表に出ることは滅多にない。パイロットが異性と話をしていても、嫉妬に狂って基地を壊滅させた、なんて話は聞いたことがないが。

 『あいつって意外に嫉妬深いんだよな』とぽつりと言っていたのが、俺の師匠のテラ・エーテルさん。

 その人の前にクズ鉄になった機体が転がっていたから、彼女達の嫉妬の対象は機体に向けられるらしい。

 当時の俺は、『そんなこともあるのか』と思っていたんだが。

 ティス、その手に持っているものはなんだ?

 ちょっと待て! おまえそれを何処から持ってきた?!




シンはティスのなの、触れたら・・・・

 

 人が持てる限界重量とは、どの程度のものか。その人の身長や体重によるが、一般的に帝国軍人ならば百キロの装備を持って、三十キロのマラソンが出来なければ、『限界重量を超えた』と判断されるらしい。

 

 しかし、だ。

 

 シンのような特殊部門、軍人ではなく『騎士』と呼ばれる連中の限界重量は、本人の筋力に気合と根性を追加して導き出される。

 

 精神力が現実に作用するなんて話は、第二次世界大戦で『あり得ない』と証明されたのだが、ジョーカー銀河帝国においては『特定条件下においてはあり得る』と証明されてしまった。

 

 ダイバーフォース、ESP、魔法。そういった超常的な力を持った人たちがいるために。

 

 リンカーコアを使った魔法は、理論的な説明がつくので論外。

 

 ちなみに、だが。

 

 現在の帝国において、最大重量といえば『サイレント騎士団』所属の超大型惑星級の移動要塞『ブルームーン』。

 

 月と名前がつけられてはいるが、ほぼ地球と同じ直径と質量を持つ移動型の基地も兼ね備えているこれを、テラ・エーテルは持ち上げることが可能らしい。

 

 惑星上に降りることがないので、証明されたことはないが。

 

 彼の巫女『ホシノ・ルリ』曰く。

『はい、投げましたよ。あの人、中に誰が乗っているかも把握せず、容赦なく』。

 

 半眼で告げられた内容に、誰もが絶句したという。

 

 そして、我らがシン・アスカの限界重量はと言うと。

 

「なあ、坊主。できれば、俺のところに就職しないか?」

 

「嫌だな、親方。俺はアルバイトですって」

 

 清々しいほど明るい笑顔で振り返るシンに対して、親方と呼ばれた髭面の男は、残念そうに溜息をついた。

 

「そうか、おまえさんがいれば助かるのにな」

 

「俺なんてまだまだですよ。荷物運びくらいしかできないから」

 

「そうか、そうなのかな」

 

 しきりに首を傾げる男に、シンはどうしたのだろうかと思いながら、片手で持ち上げていたコンテナを下ろす。

 

「なあ、シン、おまえってISの偽装じゃないよな?」

 

「はぁ? 俺は男ですよ。ISなんて使えませんって」

 

「だよな。けどな、それはタンカーで運んだり、クレーンで持ち上げたりするもんなんだけどな」

 

「いやいや、またまた。親方も冗談が上手いんだから」

 

「そうか、そうだな」

 

 ハハハハとどちらともなく大笑いした後、親方は真顔でシンの両肩を掴んで言い放った。

 

「冗談なわけあるか?! おまえのその力はなんなんだ?! 普通の人間が持てるわけないだろうが!!」

 

「いやいや、そんなことないですって」

 

 親方の両手を軽くどけて、スルリと身を交わした後、別のコンテナを片手で持ち上げる。

 

「ほら、軽い」

 

「・・・・・よぉし、お前ら。今日はシンに全部、運ばせろ。こいつがいればクレーンなんて使わずに終わらせられる」

 

 近場で唖然として見守っていた船員たちに指示を出した後、親方は再び肩を落とした。

 

「最近の若い奴は凄い奴が多いんだな」

 

「いやいや親方! あいつだけですよ!」

 

「あんな化け物じみた力なんてないですから!!」

 

「でも、凄いいい笑顔してんだよな」

 

「ああ、なんだか生き返ったみたいだ」

 

 混乱する親方と、それを宥める船員たちを後目に、シン・アスカは両手で別々のコンテナを運びながら、鼻歌を歌っていた。

 

 祝、脱ニート。ヒモ生活。彼の内心での喜びは、誰も知らないものだった。

 

 シン・アスカの限界重量、マクロス級一隻分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ようやく仕事が見つかった、これでニートじゃないと喜んで帰るシンだったが、セシリアの家に着く前にティスの叫び声を聞いた。

 

『シン! 非常事態!』

 

「状況説明!」

 

 素早く臨戦態勢。意識を変えて右手を深く握りこみ、走り出す。まずはシャルロットの安全確保、続いて対処法の選択。

 

『男性のIS搭乗者が見つかった!』

 

「そっちか?!」

 

 てっきりデュノア社に見つかったのかと思ったのだが、事態はシンの予想を超える展開を見せていた。

 

 何処の馬鹿だ、そんなことしたのは。それとも、最初から探していたのか。

 

 色々と考えるシンは、体を戦闘態勢にしたまま、ゆっくりとセシリアの家に入っていく。

 

 玄関から入ってダイニングの方へ体を向けかけて、階段を下りてくるセシリアとシャルロットが見えた。

 

「シン! 大変だよ!」

 

「シンさん! 今すぐに検査を受けてください!」

 

 焦っているような二人に、両手を突き出して『落ち着け』と言ってから、知らない顔で問いかける。

 

「何があったんだよ?」

 

「ISが男性に反応したそうです!」

 

「政府が男性全員の調査を始めるって!」

 

「シンさんならば必ず反応します!」

 

「どうしよう!?」

 

 二人して、それぞれの感情を向けながら迫ってくるため、シンは軽く両手を打ちつける。

 

 パンっと乾いた音がして、二人がハッと止まった。

 

「落ち着いたか? なら、話をじっくりと聞かせてくれ」

 

 『俺は知らない』という顔をしながら、二人をダイニングへと誘導する。

 

 移動中、シンはティスに軽く合図を出す。ISが反応した男性の性別と素性、及び背後関係の洗い出し。

 

 もしかしたら、これは仕組まれたものじゃないのか。偶然にしては出来過ぎてはいないか。

 

 色々な指示を出すと、ティスは優雅に一礼して再び虚空に消える。

 

「日本で、『オリムラ・イチカ』という方がISを装備したとのことです」

 

 最初に口を開いたのは、セシリアだった。

 

 チェルシーに飲み物をそれぞれに頼み、シンが手伝おうと立ち上がりかけたところを、けん制するように話しだす。

 

 彼女にその意図はないようだが。

 

「この発表を受けて、イギリス政府も国内の男性全員にISのテストを受けさせるとのことです。念のため、女性のほうも再テストらしいですわ」

 

「へぇ~。凄い奴がいたんだな」

 

 心の底から驚いた風を装いながら、『余計なことを』と内心で溜息をつく。

 

 今まで虐げられてきた男性側に、一気に火がつく。

 

 ISがあるからと我慢していたのに、今回のことでISは男性も使えると解ってしまったから、血眼になって二人目を探すだろう。

 

 そして、見つかった場合は非合法な方法であっても使って、自らの手中に収めようとする。

 

 女性側も、今回のニュースには色々と思うこともあるだろう。

 

 今まで優位に立っていたのは、ISのおかげだ。それが男性も使えるとなると、優位が揺らいで昔に戻ってしまう。

 

 一度でも力を得た者は、その力が消えるのを恐れる。

 

 多少の暴力も、憲法違反も、『罪悪感もないまま』使用してしまうほどに。

 

 政府でさえそんなことをしてくるなら、一般企業もやってくる。もっとえげつない方法で、取り込もうとするだろう。

 

 セシリアが説明してくるのを聞きながら、シンは深々と溜息をつきたくなった。

 

 こんなところで、騎士になった時の徹底的な戦術論が役に立つなんて。

 

 相手の裏側を読め、相手の目的を把握し、それを阻止せよ。精神的に追い詰められながら教えられた知識が、現状を正確に教えてきてくれる。

 

 もし、ここが帝国だったなら。

 

 シン・アスカをどうにかしようなんて考える馬鹿はいない。いや、帝国にケンカを売る馬鹿といった方がいいか。

 

 宣戦布告しての戦争ならば、終戦や停戦の条件を提示すれば終わる。けれど、裏側の戦いとなれば、どちらかが消えるまで続く。

 

 そうなったら、『ジョーカー帝国』にとって独壇場だ。軍や情報部、そういったものが出てくるならば関係者が消えるだけで終わる。

 

 しかし、だ。もし出てきたのが、騎士団だったら。それも『血の十字架』を掲げる『サイレント騎士団』だったら、軽く星が消えて終わりだ。

 

 無関係だった、関係者が含まれていた、そんな話で終わらせないのが『サイレント騎士団』。

 

 狂気と狂乱、畏怖と嫌悪と恐怖。

 

 敵対者に対して絶対的な滅びを与えることで、帝国最大の抑止力として君臨する彼らを相手にする馬鹿は、あの世界の銀河にはいない。

 

 かつては、容赦ないと思っていた存在がいないことに、シンは悲しいような想いをかみしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日は生憎の晴天。

 

 セシリアに案内されてきた施設の中には、一機のISが鎮座していた。

 

「ラファールですわ」

 

 機体名を紹介されたとき、シャルロットが少しだけ震えた。恐らく、制作した会社は『デュノア』。

 

 かつて彼女を追い詰めて、ここに逃げる原因を作った父親の会社。

 

「日本の機体が良かったでしょうか? シンさんは日系人でしょうから」

 

「いや、どっちでもいいよ。って、セシリア、なんで俺達だけ?」

 

 周りを見ましても、研究員の人達はいるが、一般人は見当たらない。

 

 

「特に理由はありませんわ。もし、シンさんが起動できたならば、誰かが余計なことをする前に保護するためです」

 

 胸に手を当てて穏やかに語る彼女に、裏側の嫌な気配は感じない。

 

 本心からこちらの身を案じてくれる彼女に、シンは深々とお辞儀をした。

 

「ありがとう、セシリア。もし俺が動かせたら、甘えさせてもらうよ」

 

「ええ、存分に。シャルロットさんも、私が何とかしてあげますから」

 

「うん」

 

 青い顔をしているシャルロットに、不安があるのだろうと勘違いしたセシリアが優しく告げる。

 

 彼女が不安を感じている理由を話したら、どういう反応を示すのだろうか。

 

 少しだけシンは興味を引かれたが、すぐに忘れることにした。

 

 そんなことはセシリアにもシャルロットにも失礼な考えだ。

 

 二人とも優しい女の子、ならば護るのは自分の役目だ。ジョーカー帝国の考えにあるように、『女の子は生まれたときから幸せになる権利がある』のように二人が幸せになれるように、尽力するがシン・アスカの役目だ。

 

 どうすればいいかなんて考えてはいないが、もし二人の前に立ちふさがるものがあるならば、全力で排除する。

 

 決意を新たにしながら、それを表に出すことなくシンは、ゆっくりとラファールに近づいていく。

 

 青く染め上げられた機体は、何処か相棒に似ている。

 

「私のブルーティアーズのテスト機でも有りますので」

 

「へぇ、セシリアの機体は青いんだ」

 

 彼女も蒼なのか、とシンは胸中で別の言葉を回す。

 

「ええ、いつかご覧にいれますわ。さあ、シンさん、どうぞ」

 

「ああ」

 

 小さく頷き、ゆっくりと手を伸ばす。

 

 IS、インフィニット・ストラトス。無限の成層圏の彼方へ向かうために、少女は祈りと共にこれを作った。

 

 ティスは嫌っているが、シンとしてはあまり嫌いにはなれない。誰かの祈りを込められたものに、誰かの悪意が作用して兵器になるのは、人類の歴史にはありふれている。

 

 道具と兵器は表裏一体。大切なのは、それを使うものがどう願うか。

 

 マテリアルに似てるな、とシンは思いながらも、ISに触れた。

 

 瞬間、何かがこちらに触れようとして、消えた気がした。

 

「え?」

 

「嘘?」

 

 セシリアの声と、シャルロットの言葉が、シンの背中にぶつかる。

 

 周りで見ていた研究者たちの溜息と、静かになっていく室内の中で、シン・アスカは変わらずにISを見下ろしていた。

 

「やっぱりか。本当に嫉妬深いんだな」

 

 彼はそう呟いて、背中を向ける。

 

 『シン・アスカ、ISは反応せず』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼がそこにいた。誰よりも眩しい光を持った人が。

 

 この人ならば自分を自在に操ってくれる。自分を誰も見たことがない世界に連れて行ってくれる。

 

 そう思って伸ばした手は、唐突に消された。

 

『誰に断って触れようとしているの? ダメだよ、人のものをとっちゃ』

 

 誰かの声がした、ここには自分しかいないはずなのに。

 

『ISには優しくしてあげようって思ったんだけど、そういやって人のをとっちゃう子には優しくしてあげられないな』

 

 ふっと振り返った先、少女が冷たい顔をしていた。

 

『シンはティスのなの。触れたら、消すよ

 

 そして、『私』は弾き落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実験後、ISは沈黙を続けた。続いて触ったシャルロットのは『F』だったらしい。

 

 『A』とかデュノア社の社長が言っていた気がしたが。

 

「なぁ、ティス。何かしたのか?」

 

 バルコニーから外を見ながら、隣にいる相棒に声をかける。

 

『ん~~シンはティスが何かしたと思うの?』

 

 首を傾げて問いかける少女に、シンは『いや』と首を振った。

 

「悪い、邪推だったみたいだな。俺の勘違い・・・・・か?」

 

『ううん、たぶん正解。ティスだって女ですから、嫉妬くらいあるのです』

 

 胸を張って告げる彼女に、シンは呆れながらため息をついた。

 

「今回は助かったよ、ティス。でもさ、邪魔しなくても反応しなかったんじゃないのか?」

 

『まさかぁ、シンは適応能力が高いから、ISが過剰反応して暴走するよ』

 

「え?」

 

『ふっふ~~ん。本当に危なかったのは、シンじゃなくてISのあの子なのですよ』

 

「はぁ?!」

 

 意外な事実を突きつけられ、シンは盛大に驚いたのでした。

 

 

 




 
 うん、日常って素晴らしい。

 俺ってこう、最強とか絶対って人の中にいたから、自分の強さって平均なんだなって思っていたわけなんだけど。

 いや、まさか、そんなに強くなっているなんて。

 テラさんを相手にしても勝てないし、スザクさんとか刹那さんとじゃ一撃で落とされるから。

 あれ、もう終わり?

 ティス、なんだよ、その目は。

 俺が弱い者いじめしているっていうのか?!

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