あなたと有咲のありえたかもしれない物語。

できるだけ三人称にしようとして失敗してる感はある。


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私はバンドリでは百合しか認めんって人はブラウザバック推奨です。




あなたの、ありえたかもしれない物語

夕日に染まる公園であなたと市ヶ谷有咲は向かい合って立っている。

 

この公園はあなたと有咲が昔よく遊んだ思い出の場所だ。これから告白(・ ・)をするにはうってつけの場所に思えた。

 

あなたと有咲は親が仲がいいことから知り合い、ほとんど一緒に育ってきた。いわゆる幼馴染というやつだ。

高校では有咲が女子高に入ったので会う機会が減ったが、むしろそれが想いを強くした。初めて出会った時からあなたは有咲にぞっこんだったのだ。小学校で何度も告白したし(まともに取り合ってもらえなかったが)、中学校ではそれなりにアピールした。

いざ、改まって告白しようとすると、自分ではそれなりに手応えがあるものの、やはり不安だった。もし本当に断られたら、今の心地よい関係が崩れないか。だが、それでもあなたはこの気持ちを伝えようと決めていた。

きっかけはなんだったか?有咲がガールズバンドを始めて、男のファンがいると電話越しに知った時だろうか?キーボードを弾く有咲の可憐さにまいった時だろうか?もう、些細なことだ。現に有咲は目の前にいる。

 

「な、なんだよ。急に話があるって」

 

髪を弄りながら有咲が尋ねてくる。その頬が真っ赤なのは夕日のせいか、はたまた……

 

あなたは素直に気持ちを伝えた。勘違いされたり、曖昧にされないよう、はっきりと。

 

「……うぇ!?」

 

有咲の体が強張る。

有咲としては心の準備はしていたつもりだった。こんな雰囲気のいい場所に呼び出され、相手は幼い頃から共に居た異性。もしかしたらとは思っていたのだ。だが、

 

「(は?なんだこれ?好意を向けられるのってこんなに恥ずかしいのかよ!?うぅ~どうすりゃいいんだ!?)」

 

実際に伝えられると、その気恥ずかしさは想像以上だった。

 

返事が何も無いことからあなたは最悪の想像をしてしまう。無かったことにしようと口を開きかけると、

 

「お、お前は!」

 

有咲が声を上げた。あなたは死刑の宣告を待つような心境で耳を傾けた。

 

「愛想は悪いし、しょっちゅうちょっかいかけてくるし、カッコつけだし、顔はイマイチだし!」

 

有咲の言葉があなたのメンタルをボロボロにしていく。あなたは思わず俯いてしまった。

 

「私が辛いときに優しくするし、私のことずっと応援してくれるし、笑顔がズルいし!」

 

ん?とあなたは顔を上げる。あなたが見た有咲の顔は夕日よりも真っ赤だった。

 

「ばーかばーか、もっと言葉考えろよ!まっすぐすぎんだろ!?」

 

あなたは安心する。それはよく見る、有咲の照れ隠しだったから。

 

「だから……その……」

 

有咲の言葉が尻すぼみになっていく。

 

「こんな私だけど、よろしく」

 

返事は有咲らしく無愛想だった。溢れ出る幸せで、あなたは笑顔になる。

 

「な、なんだよ!笑うなよ!!」

 

ポカポカと叩かれるも、全然痛くない。思わず頭を撫でてやる。

 

「うっ……って!そんなので誤魔化されないぞ!?にやにやすんなー!!」

 

あなたは有咲への愛しさを噛み締めながら、一緒に帰路についた。

 

────◇◆◇────

 

「あっ、〇〇くんだ!やっほー!!」

 

香澄からの挨拶にあなたは返事をする。あなたが今いるのは花園女子学園の前。有咲と付き合い始めてから時間があれば、あなたは有咲と一緒に帰るようにしていた。

 

「お、有咲ー、旦那さんのお迎えだよ」

「誰が旦那だ!?」

 

沙綾のからかいに突っ込みをしながらも、有咲が小さく手を振ってくる。その、他の人に見られないようにしようという涙ぐましい努力があなたの笑いを誘った。

 

「あっ!お前まで!わーらーうーなー!!」

 

有咲を適当にあしらいつつ、みんなで歩き始める。ポピパのメンバーは最初こそ遠慮していたものの、今では一緒に帰るような仲になった。

 

「それでねそれでね!さーやが……」

 

このメンバーの中で一番話すのは香澄だ。今もあなたは学校の出来事を聞き、相槌を打っている。

 

と、何者かがシャツの裾を引っ張った。

 

振り返ると有咲が裾を少しだけ掴んでいる。視線で何事か問いかけるも目を逸らされてしまった。

 

「ねー?聞いてるー?」

 

あなたは謝りながら香澄に向き直る。と、また直ぐに裾が引っ張られた。

 

あなたは怪訝そうに有咲を見た。有咲の顔は不機嫌な時特有の膨れっ面だった。

 

「……嫉妬?」

「ばっ、ちがっ、これは……」

 

たえの指摘に赤くなっていく有咲の顔を見ながら、あなたは意外に思った。今まで嫉妬するのはもっぱらあなたの方で、有咲から嫉妬されるなんて思わなかったのだ。

 

あなたは有咲に本当なのか聞く。

 

「あっ、うっ……」

 

真剣に見つめると有咲はしどろもどろになる。そして、逃げた。

 

「お、お前が悪いんだからなー!!」

 

呆気にとられるも、あなたは我に返るとすぐ有咲を追った。ポピパのメンバーはそれを苦笑しながらも見送っている。

 

────◇◆◇────

 

「……うるさい、構うな」

 

あなたは困っていた。これはかなりめんどくさい有咲だ、と経験則から分かっていたのだ。

 

試しにお菓子で機嫌を取ろうとしても、

 

「お前の中で私は子供かよ!」

 

と火に油を注ぐ結果となってしまった。

 

現在、あなたは有咲の部屋の扉の前で困り果てて座り込んでいる。有咲の祖母に事情を話すと快く有咲の部屋に通してくれた。扉は有咲に押さえつけられていて、入ることが出来ない。

 

あなたは何が気に触ったのか、どうすれば機嫌を直してくれるのか有咲に聞いてみる。

 

「別に……気に触ったとかじゃなくて……大体、お前が私をほっといて香澄と……」

 

普段からしているような他の娘との会話が今回の嫉妬の原因だったと分かり、あなたは苦笑いする。

 

そして、ならばと有咲の部屋に無理矢理入った。

 

「……は!?おま、なに勝手に入ってきてんだよ!?」

 

突然のことに驚いたのか有咲は扉を押し返すことが出来ず、見事にあなたに侵入されてしまう。

有咲の部屋は女の子らしい可憐さに和の盆栽が見事に(?)融合した謎空間だった。いい匂いはした。

 

あなたは有咲と話をすることを伝える。嫉妬させてしまった分、いつもより多く。幸い、親に事情を伝えれば嬉々として長居を許可してくれるだろう。

 

「……はぁ……馬鹿というか、真面目というか……というか!人の部屋に許可なく入ってくんなー!!」

 

その日は有咲とひたすら世間話をした。晩御飯も一緒に食べて、それからまた話をして。

 

あなたは部屋に二人きりという状況からソッチ(・ ・ ・)方面に思考が行きそうになるが、有咲が楽しそうだったので我慢した。

 

────◇◆◇────

 

「き、今日はありがとな」

 

夜も遅くなった頃、お互いに話すことも無くなってきたのであなたは帰ることにした。有咲が泊まりを提案してくれないかと淡い希望を抱くものの普通に玄関まで来てしまった。無念。

 

「あー、今日は私もちょっと酷かったと思うし、ポピパのみんなには私が謝っとく」

 

だが、それなりにいい雰囲気なのだから何かないだろうか?少しくらいボーナスがあってもバチは当たらないと思う。

 

「おい?……おい!!聞いてんの!」

 

あなたは有咲の怒った声で我に返った。慌てて返事をする。

 

「ったく、そんなんだから私が拗ねるんだっつーの」

 

あなたは頭を掻きながら謝った。有咲に大きなため息をつかれてしまう。

 

そろそろいいだろうと帰ろうとするあなた。

 

「……ちょっと待て」

 

だが、有咲に引き留められる。

 

「……あー、あれだ。今日は私が悪かったってことで、その、お詫びっていうか、なんというか」

 

妙に有咲の歯切れが悪い。珍しいことなのであなたは思わずきょとんとしてしまう。

 

「ったく、こっちが悩んでるのも知らねーで」

 

何か言ったような気がして、そのことをあなたが訊ねるより早く、有咲が胸に飛び込んできた。あなたは恐らく過去最高の反射速度で有咲を抱きとめる。

 

有咲はあなたの腕の中に収まったまま、潤んだ目でこちらを見上げていた。

 

「お前も、男だろ?……察して?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファーストキスは緊張でよく分からなかった。

 

 

 

────◇◆◇────

 

来週は有咲の誕生日だ。

 

ということで、あなたはプレゼントを選ぶにあたって強力な助っ人を用意していた。

 

「あ!こっちだよー!!」

 

有咲と仲がいい香澄だ。プレゼント選びのことを話すと食い気味に承諾してくれた。お互いに有咲が好きな者同士、優秀なプレゼントを見つけれるのではないかと期待していた。

 

期待していた(・ ・)

 

「あ!これなんかいいかも!でもでもこっちもなー!あ!あっちにも!」

 

あなたは香澄の自由奔放さを有咲から嫌という程聞かされてきた。だが、それでもまだ楽観していたのだ。プレゼントを選ぶだけならと油断していた。

 

香澄の好奇心は幼稚園児並だということを。

 

なんとかプレゼントを選び終えた頃には日が傾いていた。

 

「あー!つっかれたー!」

 

あなたは疲労困憊ながらも感謝を伝える。間違っても疲れた理由の八割が寄り道だったことを指摘してはいけない。

 

「どういたしましてー!」

 

少しの苦情も香澄の満面の笑みに苦笑に変わっていった。

 

香澄と帰路が別れる地点までくると香澄はあなたに向き直って言う。

 

「あのね、有咲って強がりで素直じゃないけどとーっても寂しがり屋なんだ。だからね、有咲をよろしく!」

 

それまでの幼い印象が薄れ、大人びた表情で告げる香澄にあなたは大きく頷き返した。これからも有咲と仲良くしてくれとも伝えようか迷ったが、それは愚問だとあなたは口を噤み、そのまま家へ歩みを進めるのだった。

 

 

後日、貴方から贈られたプレゼントを見てニヤニヤする有咲がポピパのメンバーによって確認された。

 

────◇◆◇────

 

ある日、あなたは有咲にりみと仲良くなりたいことを伝えた。あまり愛想のよくない方の人間であると自他共に認めるあなたは、りみからそれとなく怖がられていた。

 

「……へーぇ、りみに興味あるのか」

 

どこか冷えた口調で話す有咲に冷や汗をかきながら、あなたは頷く。

 

有咲の友達と仲良くしたいというのは当然のことではないのか?と一応言い訳を試みるあなた。

 

「友達、かぁ……ま、まぁ!それだったらしょうがないかもな!」

 

未だに友達という存在がどこか慣れない有咲。それでも改めて友達と言われるとやはり嬉しそうだ。

 

「ま、りみばっか構ってたらどうなるか……だけどな?」

 

それでも一応釘を刺してくる有咲にあなたは苦笑する。いつだってあなたの一番は有咲から変わったことがないというのに。

 

「……お前、そういうとこだぞ、ほんと。口に出てるから」

 

気づけばあなたの心の声はダダ漏れだったようだ。顔を真っ赤にする有咲を見てあなたもなんだか恥ずかしくなってくる。

 

「そっかー、一番だったか……ふふっ」

 

有咲はよく表情に表れると言わずとも心で思うあなただった。

 

────◇◆◇────

 

それからというもの、有咲は積極的に計画をたててくれていた。だが、やはり第一印象が怖いからなのかりみからの対応に壁を感じるあなた。

 

「だぁー!!ほんっとに上手くいかねーのな」

 

大量の計画を実行したはずだが、効果があったように思えないものばかりだった。

 

「なんかもーいいんじゃね?りみとも全く話せねー訳じゃねーし」

 

それでも、とあなたは悩む。未来の奥さん(未定)の友人だ。これから末永くお付き合いするためにも、不和の種になりそうなものは排除しておきたいというのがあなたの考えだった。

 

「……奥さんって、お前気が早すぎないか?」

 

今のはわざと声に出したと白状すると、ポコポコ叩かれた。腕がふにゃふにゃで一切力が入っていなかったので、好きにさせておく。

 

「なんか馬鹿らしくなってきたな」

 

有咲は大きくため息をつく、とポンっと手を打った。

 

「まだあれがあるか」

 

────◇◆◇────

 

結論から言って、

 

チキチキ、牛込りみと仲良くなろう~チョココロネで買収編~

 

は呆気なく成功した。チョココロネ凄い。

 

「その作戦名もうちょっとどうにかならなかったのかよ!」

 

ちなみに発案者は有咲だ。

 

「嘘をつくなっ!」

 

「あははー、そういうことだったのかー」

「よかったね、りみりん!」

「その作戦名、いいと思うんだけど」

 

「ふぇ?」

 

今日は休日で、ポピパのメンバーととある多目的公園に遊びに来ていた。丁度昼食時の広場。あなた達のメンバーの中心には夢中になってチョココロネを頬張るりみがいた。

 

あなたは手元のチョココロネをりみの前で振ってみる。りみの目がチョココロネを追ってちょっと楽しい。

 

「りみで遊ぶなー!」

 

当然のように有咲から叩かれた。結構本気だったようでかなり痛い。

 

謝りながらチョココロネを渡すとりみは目を更に輝かせる。

 

ふと、有咲を見るとりみを羨ましそうに眺めていた。

 

有咲を手招きで傍に呼ぶ。

 

「……なんだよ?」

 

あなたの昼食はサンドイッチだ。それを小さくちぎり、有咲の口許に持っていく。

 

「うぇ!?お、お前そーいうのは二人っきりのとき……に……」

 

『(ワクワク)』

 

完全に4人から注視されている。それでもあなたは有咲の口許へ。

 

「え、ほんに?ほんとにやるのか!?」

 

ただひたすら口許へ。

 

「う、うぅ~……えいっ!」

 

『おお~』(パチパチパチ)

 

有咲がようやく手元のサンドイッチを口に入れると、周りからどよめきと拍手が起こった。どうやら他の家族にも見られていたようだ。熱いねー、若いねー、などと言われている。

 

「あ、あ、あ……ば、ばかやろー!!!」

 

有咲は予想以上の人数に見られていたのが恥ずかしかったのか、広場から逃げ出してしまった。去り際に叩かれた頭が地味に痛む。

 

前にもこんなことあったなと思いながら、あなたは有咲の後を追った。

 

 

 

 

ご機嫌取りは倉の片付けを命じられた。解せぬ。

 

────◇◆◇────

 

あなたは今日、有咲と水族館デートをする予定だ。集合予定の1時間前に最寄り駅前に到着する。

 

普通に有咲もいた。

 

「へぁ!?おま、早すぎだろ!?」

 

それはお互い様だと指摘すると、有咲はそれ以上の追求を避けるように駅のホームへ逃げ込んだ。

 

電車は休日の朝ということもあって満員だった。あなたは有咲を守るように中央に背を向けながら壁に手をつき、後ろのおっさん達とおしくらまんじゅうを繰り広げていた。

 

「その、悪いな、なんか」

 

当たり前だ、と返すと有咲は顔を赤くして黙ってしまう。

 

黙っているのも気まずいので、あなたは今日はいつから待っていたのか聞いてみる。

 

「……2時間前」

 

は?と思わず聞き返してしまう。

有咲は先ほど以上に顔を赤くしていた。

 

「た、楽しみにしてて悪いかよ」

 

いや、とあなたは首を横に振る。そして、自分はもっと楽しみにしていたとも伝えた。

 

「は?ばっかじゃねえの?」

 

そう言って嬉しそうに笑う有咲にあなたは見惚れた。

 

────ガタンッ

 

突然、電車が大きく揺れる。手が滑り、あなたは有咲を抱きしめる格好になってしまった。

 

これは小言を言われるかと身構えるが、有咲は何も言ってこない。それどころか控えめながらあなたの背に手を回した。

 

あなた達は目的地に着くまで、そのまま抱きしめ合っていたのだった。

 

────◇◆◇────

 

「はー、楽しかった!!」

 

今日の水族館デートは成功といって差し支えないだろう。有咲が魚よりも水草の配置や色合いに興味を持ったのは想定外だったものの、それも含めて楽しかったとあなたは胸を張って言えた。

 

「そ、そうか?途中から私が振り回して気がするけど」

 

確かに、とあなたは納得する。有咲の興味のあることに対する好奇心は凄かったとあなたは思わず苦笑いした。

 

「うっ……悪かったよ」

 

申し訳なさそうな有咲を見て、あなたは吹き出した。

驚いた顔(怪しんでいるとも言う)をしている有咲に、あなたは伝える。

 

有咲が楽しんでいるのなら、自分も楽しいのだ、と。

 

「なっ……」

 

有咲が赤面していくのを、あなたはニヤニヤしながら眺めている。

 

「うぁ、うぅ、……あー!!!もうっ!!!お前ってやつは!!このっ!ニヤニヤすんなー!!」

 

足を蹴ってくる有咲から逃げながら、あなたは笑っていた。

 

────◇◆◇────

 

時は巡り結婚式の前夜。

 

あなたは有咲と向かい合ってベットに入っていた。

 

「なぁ……」

 

明日は早いのでもう寝ようとすると、有咲が声をかけてくる。

 

流石に別れ話ではないと思いたい。

 

「ばっか、そんなんじゃねぇっつーの」

 

有咲に優しく額を小突かれる。そのまま有咲はあなたの腕の中に潜り込んできた。

 

「ほんとにあたしで後悔しないか?」

 

何を今更、とあなたは笑う。

 

「お前は、その、いいやつだ。私はあまのじゃくで、頑固で、素直じゃなくて、その、釣り合わないんじゃないかって……」

 

聞くに耐えなくて、あなたは有咲を抱きしめる。

 

「あ……」

 

あなたは前々から感じていたが、有咲は自分のことを卑下する傾向が強い。今だって自分のマイナス面を挙げてプラスの所に目を向けていないのだ。

 

「でも……」

 

有咲は優しく子だ。もちろん、素直ではないが、

 

「……一言多いんだよ」

 

が、それでも、あなたはめんどくさい有咲のことが好きだ。

 

「……うぁ」

 

大好きだ。

 

「……もういいって」

 

愛してる。

 

「もういい、てかお前わざとだろ!?」

 

バレたか。

 

2人でひとしきりじゃれ合うと(一方的に殴られていただけだが)、有咲がポツリ

 

「ありがとな」

 

とこぼした。

 

どういたしまして、とわざと偉そうにあなたは応える。

 

「お前も変わったやつだな」

 

有咲に言われたくはない。

 

そんな何気ないやりとりに幸せを感じつつ、あなた達は穏やかに眠りについた。

 

────◇◆◇────

 

それからまたしばらく経つ、

 

そんなある日の朝、

 

あなたは先に起きて盆栽の世話をしていた有咲におはようと挨拶をする。

 

「ん、おはよう」

 

有咲が世話をしているのは2人で住むマンションでも置けるような小さい盆栽だった。それでも拘りがあるらしく、この前は1時間ほど魅力を語られ辟易とした。

 

なんとなく、あなたは有咲の隣に立ち盆栽を眺めた。

 

『盆栽ってさ、愛情をかけた分だけすくすく育つんだ』

 

そんなことを有咲が言っていたのはいつだったか。

 

一生懸命にお世話された盆栽を見ていると、あなたはそこはかとなく可愛らしさを感じた。あと、少しだけの嫉妬も。

 

と、いつの間に移動したのか後ろから有咲が抱きついてくる。

 

「いいだろ?たまには」

 

甘えた声で言われては何も言えない。あなたは有咲の手を握りながら盆栽をそのまま眺める。

 

「私、今幸せだってはっきり言えるわ」

 

なにもしてないのに?とあなたは尋ねる。結婚指輪を渡した時なんかは幸せそうだったが。……いや、あれはサプライズが失敗して……

 

「あはは、あったな。そんなことも」

 

苦い思い出にあなたが顔を顰めると、有咲が更にぎゅっと腕に力を込めた。

 

「そーゆー特別なのもいいけどさ、私はなんでもない思い出が好きなんだ。こーやって最愛の人とぼーっとすることとかさ」

 

最愛の人とはまた似合わない言葉だ。

 

「あーもう、うるせーな。黙って聞いとけよ!」

 

怒られたのであなたは大人しく有咲の言葉に耳を傾ける。

 

「私は幸せ者だ。こうやって私の欲しかったなんでもない朝が、こんなに簡単に、あなた(・ ・ ・)の傍で過ごせるんだからさ」

 

あなたは言葉を失ってしまう。それほどまでに、有咲の言葉には重みと、確かな暖かさがあった。

 

「ん、お前が照れるなんて珍しいな」

 

しょうがないと思う。誰だって、不意打ちには弱いものだ。

 

「はぁ、ったく」

 

ふと、背中の温もりが離れていく。振り返ると満面の笑みの愛しい人(有咲)がいて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────これからもよろしくな、あなた(・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きっとあなたはこの笑顔を守るために、

 

この幸せを守るために、

 

今日、何でもない日を、彼女と生きていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、そんな、ないようで、ありえたかもしれない、あなたと彼女の、なんでもないような物語。


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