鋼鉄の魂   作:雑草弁士

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『エピソード-094 第4次継承権戦争勃発』

 あと数日で『SOTS』が惑星ニューイヴァーセンへ向けて旅立つという3028年8月5日の事である。『SOTS』幹部会議で、部隊資産つまりはキース個人の財産とほぼ同義であった幾つかの機体が、下賜される事が決定。即日、対象メンバーに引き渡された。

 機体を下賜されたのは、以下の者達である。ます連隊指揮中隊からは、偵察小隊小隊長のルートヴィヒ・フローベルガー中尉が選ばれた。

 A大隊からは大隊長のジーン・ファーニバル少佐、第1中隊指揮小隊の隊員エドウィン・ダーリング曹長、エルフリーデ・ブルンスマイアー曹長、第2中隊中隊長ケネス・ゴードン大尉、指揮小隊隊員のドロテア・レーディン准尉、マイケル・ニューマン准尉、第3中隊中隊長のジェラルド・ハルフォード大尉だ。

 B大隊は第4中隊偵察小隊小隊長のエリーザベト・メリン中尉、第6中隊中隊長のジョシュア・ブレナン大尉、偵察小隊小隊長のヤコフ・ステパノヴィチ・ブーニン中尉が機体を与えられた。

 C大隊では第7中隊火力小隊小隊長のハーマン・カムデン中尉、副隊長のアナ・アルフォンソ少尉、隊員のメアリー・キャンベル曹長、偵察小隊小隊長のアルマ・キルヒホフ中尉、隊員のマキシーン・ウィンターズ曹長、アドルファス・マコーマック曹長、第9中隊中隊長アラン・ボーマン大尉、指揮小隊隊員のレノーレ・シュトックバウアー曹長が下賜の栄誉を受けた。

 

 これらの部隊員は、最古参でこそないものの初期の『SOTS』を支えた、かなりの古株メンバーである。たしかに(うらや)む声こそ上がったものの、この件に関してはまったく不満の声は聞こえなかった。まあ彼らの功績や立場から言って、文句を言う者が居ないのは当然であろう。

 ちなみにエドウィン曹長、エルフリーデ曹長は訓練生から叩き上げた、言わば生粋の『SOTS』構成員である。彼らを教え鍛えたキース、アンドリュー少尉、エリーザ少尉、教育担当官のヴァーリア・グーテンベルク中尉達は、彼らに特に祝福の言葉を送ったものだ。

 

 そしてその翌々日の8月7日、惑星首都ワロキエ市にある一流ホテルのホールで、盛大な式典が開かれた。何の式典かと言うと、サオルジャン伯爵にしてテナール男爵であるキースより、ヴィオネ男爵であるヒューバート少佐と、ジロ女男爵であるアーリン少佐に、それぞれユニオン級降下船エンデバー号、同級ミンドロ号を下賜する式典である。

 これまでキースが権利を持っていたこの2隻であるが、今後はヒューバート少佐とアーリン少佐が恒星連邦貴族として権利を保有し、『SOTS』に貸し出す形を取る事になる。まあ内実は今までと全然変わらないのだが、これによりサオルジャン伯爵にしてテナール男爵であるキースのハワード家と、ヴィオネ男爵であるヒューバート少佐のイーガン家、ジロ女男爵であるアーリン少佐のデヴィッドソン家に強固な繋がりを構築し、同時にそれを内外に知らしめる目的があった。

 式典終了後、疲れ果てたアーリン少佐は言ったものだ。

 

「ふう……。まあ、必要性はわかるけれど、言わばショーよね?」

 

「まあ、確かに疲れたけれどね。それこそ必要性がある事なんだ。キース大佐と俺たちの政治的他の繋がりが太い事を示しておかないと、下手したらひよっこ貴族である俺たちを金銭なりなんなりで懐柔して、キース大佐の下から引き抜こうとする動きが出ないとも限らないからな。事あるごとに、双方の絆を目に見える形で誇示しておかないと……」

 

「ヒューバート少佐の言う通りだな。将を射んと欲せばまず馬を射よ、とばかりにジョナス卿バレロン伯爵閣下の派閥を崩そうとする者が、俺を狙って来る可能性は無くも無い。そして俺が狙われるとなれば、今度は貴官ら2人を狙って来る可能性もあるんだ」

 

「「……やれやれ」」

 

 キースの台詞にげんなりしたヒューバート少佐とアーリン少佐だった。

 

「まあ、ショー要素が強い今回の下賜だったが。けれど今後は貴官らが『SOTS』に降下船を貸し出す形になるからな。『SOTS』から、幾ばくかなりとレンタル料金の支払いが発生するぞ? イヴリン少尉のイェーガー家にも、レパード級ゴダード号のレンタル料金が出てるので、それに準ずる形だな。降下船のトン数や乗員数等々でかなり金額は違って来るが」

 

「けれど『SOTS』のお財布は、わたしたちへの払いが発生しても大丈夫なのかしら?」

 

「その辺は大丈夫だ、心配いらんよ。それよりも3日後に迫った、惑星ニューイヴァーセンへの出立の事を考えねばならん。大至急、準備をせねばならんよ。

 本当は今回の下賜も、次の任務が終わってからにしたかったんだが……。次の任務は、いつ終わるかわからんからな……」

 

 実のところ任務終了すなわち第4次継承権戦争終結は、キースの記憶している歴史通りならば3030年の1月、1年半ばかり先の事だ。下手をするとキースたち『SOTS』はその間ずっと惑星タワスⅣに帰って来られない事になる。

 

(……あ。ワロキエ市に建設途中の俺の邸宅、どうしよう。確実に完成までに帰って来られないぞ。完成記念式典とか、どーすんだ本気で。あくまで『完成までに帰って来られない場合』って事で、クリスティアンと話をしておいた方がいいなあ。あと、常駐して邸宅を管理する人員の事も、相談しておかないと……)

 

 いきなりキースの背中が(すす)けたのを見て、ヒューバート少佐とアーリン少佐は唖然としたのだった。

 

 そして3日後の8月10日、この日は『SOTS』が惑星ニューイヴァーセンへと出立する日であった。混成傭兵連隊『SOTS』の居城であるヘルツォーク城の宙港施設より、次々に『SOTS』の降下船群が発進していく。

 惑星軍の戦車部隊および恒星連邦の駐屯軍バトルメック、そして居残り部隊である訓練中隊第3小隊のカメレオン練習機が礼砲を放つ中、『SOTS』降下船群は宇宙へと飛び立って行った。

 

 

 

 

 

 

 惑星タワスⅣの軌道上から天の北極ゼニス点ジャンプポイントまで5日間の航行、更に目的星系のジャンプポイントまで7回のジャンプを行う。途中の星系に幾つか補給ステーションがあったとは言え、7回ものジャンプには結局数日を必要とし、ニューイヴァーセン星系は天の南極ナディール点ジャンプポイントに到達したのは3028年8月20日の事であった。

 降下船フォートレス級ディファイアント号のデッキでは、連隊指揮中隊の女性メック戦士たちが噂話に興じている。ちょうどデッキに出ていたキースは、その声を聞くともなしに聞いていた。

 

「あー、結婚かあ。できれば早目にしたいよねー」

 

「メック戦士としては、家を保つために必須ですからねー。でもエリーザ少尉は、お相手とかは?」

 

「んぐっ……。目をつけてる相手はいるんだけどね……。相手はメック戦士じゃないから、お婿に来てもらわないとダメだけどねー。でもその相手、感じからすると脈が無いわけじゃないんだけど、なんか煮え切らなくて。気を惹こうとするだけじゃ、やっぱりダメかー。ちゃんとはっきり意思表示する時期かなあ。

 ラヴィニア曹長は?」

 

「あー、わたしは……」

 

 別に聞き耳を立てているわけでは無いが、なんとなく盗み聞きでもしている様な気分になったキースは、その場を立ち去ろうとした。彼は航宙艦マーチャント級クレメント号とのドッキングハッチへ向かおうとした。あちら側のアーダルベルト艦長と、降下船切り離し前の挨拶に行こうとしたのである。

 その時、キースの耳にイヴリン少尉の声が聞こえた。

 

「結婚と言えば、今日は恒星連邦のハンス・ダヴィオン国王陛下と、ライラ共和国次期国家主席のメリッサ・シュタイナー様の結婚式ですよね? たしか地球の式場で披露宴が開かれるはず……」

 

「あー、各国から沢山の来賓を集めて、壮麗な式を挙げるみたいだよねー。あー、ちょっと憧れちゃうなあ。あたしたちも、披露宴に出席できるほど身分があればなー」

 

「ウチの隊長でも出席できなかったんだから、ダメダメ。伯爵閣下でも難しいんだから」

 

(いや、俺は出席できたとしても、可能ならば断わってたぞ。……まあ、もし話が来てたら、断れはしなかっただろうが)

 

 キースは知っている。前世の記憶による中心領域の歴史では、そのハンス・ダヴィオンとメリッサ・シュタイナーの結婚披露宴の式場で、いきなりハンス・ダヴィオン国王陛下サマが言い放つのだ。『妻よ。我々の結婚を祝して、このウェディングケーキに加え、君に大きな贈り物をあげよう。ここに我がいとしの君に……。君に、カペラ大連邦国を捧げよう!!』と。

 つまりは、カペラ大連邦国に対するいきなりの宣戦布告であった。だが結婚披露宴に参列していたカペラ大連邦国首相、シーアン公マクシミリアン・リャオは防戦のため急ぎ国元へ帰還するかと思いきや、たまげた行動に出る。披露宴では、様々な惑星の紋章が描かれたケーキ皿が配られていた。彼は部下に命じ、その皿を奪い集めさせたのだ。曰く『皿を集めろ! これは軍事情報だ! 皿の模様は奴が征服を意図している、目標星系を意味しているのだ!』……だそうである。

 そして現場の披露宴式場は、阿鼻叫喚の坩堝(るつぼ)と化した。貴族やメック戦士が、惑星の紋章が描かれたケーキ皿をめぐって乱闘を始めたのだ。皿が、ケーキが、宙を舞った。

 

(……んなわきゃ無いだろ。そんな重要情報を結婚式のケーキ皿に描くかよ。よく言っても、欺瞞情報とかだろ。

 たしかジョナスは、結婚式には新郎ハンス国王陛下の側近の1人として、参列してるはずだな。……ジョナス、無事だといいんだが)

 

 キースはキャイキャイと黄色い声を上げる女性陣から離れ、航宙艦とのドッキングハッチへ向かい、逃げるように去って行った。

 

 

 

 

 

 

 この3028年8月20日、第4次継承権戦争が勃発した。恒星連邦軍のラット作戦発動により、第一波攻撃としてカペラ大連邦国の9つの惑星を急襲。ほぼ同時に、ライラ共和国軍の神々の黄昏(ゲッターデメルンク)作戦が発動、ドラコ連合の23の惑星へと侵攻開始した。

 キースと『SOTS』の面々がそれを知ったのは、ジャンプポイントから惑星への降下中、時間にして1日後の事である。惑星ニューイヴァーセンの深宇宙通信施設からジャンプシップへと通信が送られ、その内容がジャンプシップから降下船に転送されたのだ。まあキースからしてみれば、前世情報通りに事が推移した、という事ではあったが。

 

 

 

 

 

 

 ナディール点のジャンプポイントから5日かけて、『SOTS』降下船群は惑星ニューイヴァーセンの指定された地点へと降下した。降下地点はヴィアンデン城と言う城塞で、小規模ではあるが専用の宙港施設が完備されている。このヴィアンデン城が、これからしばらくの間『SOTS』の居城となるのだ。

 まあ、契約上からすれば『SOTS』はしょっちゅうドラコ境界域のあちこちの惑星へ飛び回らねばならない。そのため、ここに腰を落ち着けるのもそんなに長くは無いはずであった。ちなみにこのヴィアンデン城の管理それ自体は、惑星軍が人員を出して行っている。先にも述べた通り、『SOTS』はしょっちゅう出撃する事になるので、『SOTS』から管理の人員を出したりその都度雇用したりするのは逆に無駄が多いのだ。

 とりあえずキースは、ヴィアンデン城の司令執務室に腰を落ち着ける。

 

「ふむ……。さて、近日中に惑星首都へと出向いて、惑星公爵閣下にご挨拶申し上げなければならんな」

 

「お名前は、リコ・スティーブンソン閣下でしたね」

 

「あ、その事ですが……」

 

「「?」」

 

 惑星軍との連絡士官であり、ヴィアンデン城に常駐を命じられているアーヴァイン・ガスリー大尉が声を上げる。キースとジャスティン大尉は怪訝そうな顔になった。ガスリー大尉は言葉を続ける。

 

「つい今しがたの連絡ではニューイヴァーセン公爵閣下は、今晩早速にサオルジャン伯爵閣下と『SOTS』メック戦士、航空兵らを招いて歓迎の宴を開かれるそうで……。惑星時で16:30、連盟標準時で14:27分までに惑星公爵邸宅までおいで頂けと……」

 

「む、そうか。あと6時間弱か。ジャスティン大尉、全メック戦士と航空兵に通達を。ガスリー大尉、公爵邸までの脚は? 用意が無いならば、我々で手配するが」

 

「はっ。惑星首都の空港までは惑星軍の輸送機を、そしてそこからは専用バスを用意してあります。合計2時間で向こうに到着できます」

 

「了解した。だが急いだ方がいいな」

 

 キース達は急ぎ準備を整えると、メック戦士や航空兵たちを連れて惑星軍の輸送機に乗り込む。輸送機の乗り心地は、相応に悪かった。

 

 

 

 

 

 

 惑星公爵たるリコ・スティーブンソン閣下に挨拶を無事終えた後、更に惑星の高官連中とも顔合わせを行い、キースはようやくの事で堅苦しい公務から解放される。同様の処遇に遭っていたヒューバート少佐、アーリン少佐も一見無事な様に装っているが、目元に疲労が浮き出ていた。やはりお貴族様1年生の彼らには、辛いものがあった模様だ。

 

「……ニューイヴァーセン公爵閣下の折角の心づくしだ。何かいただくとしよう」

 

「そうですな、サオルジャン伯爵閣下。ボーイを呼びましょうか」

 

「そうしましょう、サオルジャン伯爵閣下、イーガン男爵」

 

「レイディ・アーリン、お疲れの様だし少し休んでいたらどうかね?」

 

「ありがとうございます、伯爵閣下。大丈夫ですわ」

 

 人目があるために歯が浮くような台詞を吐きつつ、さっさとヴィアンデン城に戻りたいと願うキースら3人であった。彼らにとって幸いと言って良いのか分からないが、ここでもキースの迫力が仕事をしていたため、彼らに自主的に声を掛けて来る者はそう多くは無い。そのため彼らはボーイが運んでくる適当な料理を、邪魔されずにいただく事ができたのである。

 そしてキースらが一息吐いた頃合いに、ようやくの事で彼らに声を掛けて来る者が現れた。

 

「おお、キース卿サオルジャン伯爵閣下。イーガン男爵閣下とレイディ・アーリンもご一緒で。先ほどは挨拶のみで失礼いたしました」

 

「おお、恒星連邦駐屯軍、惑星守備隊『カーペンター咆哮大隊』のカーペンター少佐だったね。我々の部隊『SOTS』はこの惑星に駐留はするが、いざ事あらば即応して近隣星系へ出撃せねばならない。だが我々が居る間にこの惑星それ自体が攻められた場合、我々の戦力もあてにしてくれて構わないよ」

 

「その場合には、共に肩を並べて戦う事になるね」

 

「その時には、よろしくお願いしますね」

 

「はっ! ありがたきお言葉に存じます!」

 

 コーニーリアス・カーペンター少佐率いる『カーペンター咆哮大隊』は、この惑星ニューイヴァーセンの本来の駐屯傭兵部隊だ。ただし恒星連邦に対する忠誠心という面では充分に高く信頼できるものの、練度はさして高く無い。先ごろの某惑星での防衛戦で大ダメージを受け、新人を受け入れて再編成したばかりなのだ。平均的な技量はおおよそ一般兵レベルに達するかどうか、そして新兵の割合がかなりに至っているのである。

 そんなわけでどうやらカーペンター少佐としては、もしこの惑星が攻められるとするならば、『SOTS』が駐留している間にして欲しい、と心の底から願っている模様である。それもあり、キースのところへご機嫌取りに来たらしかった。まあキースの側としても、もしこの惑星が『SOTS』が居る間に攻められたのなら、協力して事にあたるのはまったく問題ないというか、当然の事ではある。

 キースはボーイに持って来させた料理を片手にカーペンター少佐と話し込む。そして多少のリップサービスと幾つかの助言をし、幾ばくかの噂話を仕入れたのを成果としてカーペンター少佐と別れた。

 

「ふむ……。ニューイヴァーセンは直接狙われることは、しばらくは無さそうだが……。最も近場では、危ういのはマーダックあたりか? あそこは重要な惑星なんだが、その割に常駐戦力が薄い。先日も某所より引き抜いて増援に充てたばかりの戦力を、緊急で他所の惑星に回した模様だ。

 あの惑星に残っているのは、老朽メックと年老いたメック戦士が中心になって編制された、民兵だけらしいな……。恒星連邦に戦力の余裕があるならば、至急マーダックに駐屯軍を送り込むべきなんだが……」

 

「となると伯爵閣下。我々の第4次継承権戦争での初仕事は、マーダックになる可能性もありますな」

 

「いえ、そう決めつけるのもいけないわ、イーガン男爵。できるだけ視野を広く取って、緊急事態に備えられる様にしておかないと」

 

「レイディ・アーリンの言う通りだな。まあ、我々『SOTS』としては『上』からのお達しが来ない限りこの惑星から動けんし、お達しが来たら来たでそれに従って出撃せねばならん」

 

 キース達はとりあえずの結論を出した後は、とりあえず飲み食いに専念する。まれにキースの威圧感バリアを突破して来る者には、きちんと礼儀をもって対応するが。ちなみにそう言った強者は確かに少なかったが、予想よりは若干多かった模様である。

 

 

 

 

 

 

 惑星公爵が開いた『SOTS』歓迎パーティーから、おおよそ10日が経過した。おおよそと言うのは、惑星時と連盟標準時にズレがあるため、感覚的にその程度だろうなと言う事である。正確にはこの日は連盟標準時で3028年9月4日、パーティーより10日が経過していた事になる。

 この10日間『SOTS』は、ヴィアンデン城に付属の演習場で演習を行ったり、あるいはシミュレーター訓練を重ねて牙を研いでいた。そしてついに、彼らに対し出撃命令が下される事になる。今現在、キースはヴィアンデン城の指令室で、惑星公爵リコ・スティーブンソン閣下からの通信を受けていた。

 

『……というわけでの、キース卿サオルジャン伯爵。貴君らの部隊『SOTS』は明朝の惑星時で05:00、連盟標準時では07:29時をもって当惑星ニューイヴァーセンを出立。この星系から1ジャンプで到達できるところにある、ドリステラ星系の惑星ドリステラⅢへ向かってくれい』

 

「了解です、公爵閣下。我々は即刻出動準備に入ります」

 

『うむ。装甲板や弾薬、食料品他の補給物資はヴィアンデン城に備蓄されている物を自由に持って行ってかまわぬ。と言うよりも、それを前提にしてそちらの城に備蓄してあったのじゃて。ただし使わなかった分は、後日返却じゃよ。

 その他、向こうの惑星における風土病などのワクチンについては、後で惑星軍連絡士官からも通達があると思うが、惑星軍の輸送機で今しがた首都の空港を出たところじゃて。では貴君らの勝利を祈っておるでの』

 

「はっ! ありがとうございます!」

 

『うむ、ではな』

 

 キースの敬礼に、画面の中の惑星公爵は右手を挙げて応える。そして通信が切れると、キース達は早速動き出す。

 

「ジャスティン大尉! 惑星軍のガスリー大尉から輸送機の到着予定時刻を聞いて、輸送機の受け入れ準備を!」

 

「了解です!」

 

「キース大佐、では早速メックや戦車他と物資の降下船への積み込みに入ります!」

 

「ああ、頼んだ! キャスリン准尉、アッカースン先生たちと語らって、早速予防接種の準備を始めてくれ! ワクチンが届いたら、すぐに開始するんだ!」

 

「はい、了解です!」

 

 てきぱきとキース達は出動準備を整える。流石に歴戦の部隊である『SOTS』は、あっと言う間に準備を整えてしまった。翌朝出立直前、キースはヴィアンデン城の司令執務室の鍵を、惑星軍の連絡士官であるガスリー大尉に手渡す。

 

「それでは我々は出立する。ガスリー大尉、後の事はよろしく頼むぞ」

 

「了解いたしました。無事任務を果たしてお戻りになられるのを、お待ちしております」

 

 そして『SOTS』の降下船群は急ぎ発進。軌道へ向けて駆け上がって行った。ちなみに緊急の出立であったため、何時もの駐屯軍のメック部隊や惑星軍の見送りは無かったが。

 

 

 

 

 

 

 惑星ニューイヴァーセンの周回軌道を離れ、航宙艦群が待つ天の南極ナディール点のジャンプポイントへ航行するフォートレス級ディファイアント号の司令執務室で、キースは物思いに沈む。

 

(……ドリステラⅢ、か。『SOTS』が小隊単位だった頃に駐屯していた惑星。あの惑星で当時中尉だったアーリン少佐と出会い、メックが壊れて借金を背負って困窮していたヒューバートと再会したんだったなあ。そして、アルバート中尉……。

 色々な人の助けを借りて、どうにか仇討ちを成し遂げたのも、あの惑星だし。何か色々と懐かしいよなー。たった3年前だって言うのにさ)

 

 そして『SOTS』の降下船群は、ひたすらジャンプポイントまで宇宙空間を進む。目的地は惑星ドリステラⅢ。かつてのキース達が、過去の因縁と対決する事になった惑星だ。その地では友軍が敵の攻撃を必死になって持ちこたえ、一日千秋の思いで援軍を待っている。

 その思いに応えるべく、『SOTS』降下船群はひたすら宇宙を航行する。ドリステラⅢは戦略上重要な位置にあり、そこをドラコ連合に取られると厳しい状況に陥る。しかしその惑星の経済規模は大きくないため、多数の軍を常駐させて置くのは難しい。

 

(……間に合うか? いや、航宙速度や軌道は緻密な計算の上で成り立ってるし、そうそう変えようが無いんだが。間に合ってくれよ……)

 

 内心の焦りをかけらも表に出さず、キースは表面的に泰然自若を装う。連隊副官ジャスティン大尉の淹れてくれたコーヒーの香りが、若干だが気を落ち着かせてくれた。




 続編、投稿いたしました。第4次継承権戦争、始まってしまいました。ハンス・ダヴィオン国王とメリッサ・シュタイナー次期国家主席の結婚披露宴の会場では、歴史通りのドタバタが繰り広げられた模様。そう言えば結婚式の席上で、タカシ・クリタにジェイム・ウルフが挑戦を突き付けるんでしたか。その件も(つつが)なく行われたものとします。
 ……しかしマクシミリアン・リャオは何考えてるんでしょうね。絵皿の模様が各惑星の紋章だったからって、なんでそれが恒星連邦軍の戦略目標だと思い込むんでしょうか。いくらなんでもハンス国王がそこまでやるかなあ。
 そしてキース達の第4次継承権戦争最初の戦いは、かつて舞台となったオリジナル星系、ドリステラⅢです。さて、どうなることやら……。
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