GGOで凸砂する   作:MKeepr

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ヤベー奴は惹かれあう


VRの申し子なヤベー奴と凸砂のヤベー奴とランガンのヤベー奴

「そうかー今度のミニ大会にレンちゃんも出るのかー」

 

「ミニ大会じゃなくてスクワッド・ジャムだよ! 凸侍さん」

 

「どうして俺はここに呼ばれたんだ……?」

 

 グロッケン内にある試射場、凸侍が凸砂の実験に使ったりする何時ものパツキンハートマム軍曹が管理している試射場と違い走る、撃つのランガンを練習できるかなり広いタイプの試射場で、その真ん中にこじんまりとしたテーブルを置いて折り畳みの椅子に座る三人がいた。

 壁の銃掛けにはそれぞれ、異形と化したAW50、極彩色のドピンクP90、普通に黒いキャリコM900Aが置かれている。

 

「あっそのっなんというか凸侍さんの動きを参考にさせてもらおうと思って声をかけてみたら凸侍さんがもっといいのがいるって」

 

 あまり男性と喋ったことがないのか、しどろもどろに喋るレン。わちゃわちゃする様が子供っぽい外見をさらに子供っぽく見せている。

 強面の鶏冠ヘアーがチャーミングな男、闇風が得心が行ったように頷いた。

 

「懸命だな……とは言っても……俺が教えることか……」

 

 そう言って足を開きすぎな闇風はバイオグリーンティーとパンキッシュに書かれた缶から湯呑に茶を移し、啜る。

 わざわざ湯呑に移して飲む意味はあるのだろうか、と魔法瓶から出した紅茶を飲むレンは思った。

 成分調整安全牛乳(総督府保障書付き)と厳格なフォントで書かれた缶を一気飲みした凸侍が何か思いついたように缶の底を闇風の方に向ける。

 

「闇風アレは? ホレ第三回の時俺の銃撃避けたヤツ」

 

「<インビジブル>か? ……たしかに、それが最適だな」

 

 大股開きのまま立ち上がり、マントを正す闇風にレンが目を向ける。

 

「いいんですか? そんな技術を私なんかに――」

 

 闇風が手でレンを制する。その顔には父性的な微笑が浮かんでいる。

 

「いいんだ、AGI型全体のレベルが向上することは切磋琢磨するうえで良いことだからな……」

 

「ほいほいレンちゃん闇風が実演してくれるらしいぞ」

 

 それに合わせて立ち上がった凸侍がAW50を手に取る。

 

「……待て、なぜそれを持った?」

 

「え? 実演するんじゃないのか?」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

「「…………」」

 

 闇風があきらめたと言わんばかりに溜息を吐いて座っているレンに向き直る。

 

「今からやるインビジブルは、非常にシンプルな歩法だ。AGI型の速度で走る中一瞬地面を他方向に蹴り、再びその逆方向に蹴る。ただそれだけだ」

 

 言葉で聞くと非常に簡単そうに感じる。それは闇風も思っているのかすっと手をあげてから試射場の中を走り回り始める。

 AGI型として速度に結構自身のあったレンはその速度に顎が落ちそうになった。

 

「ほいじゃーいくぞー」

 

 高速で動く闇風の進行方向に凸侍のバレットラインが発生し、それになぞって闇風に吸い込まれていく。闇風の姿が一瞬ブレ、何事もなかったかのようにそのまま走り続ける。背後でけっこう大きな爆発が起こったところで闇風が止まった。

 

「アアアアアア俺の二万五千クレジットがあああああ!!」

 

「……おい一体何を撃った」

 

 黒く焼け焦げた壁を一瞥してから凸侍に詰め寄る闇風の図である。

 

「いやDEX前より上がったし第三回の憂さ晴らしに回避失敗したらそのまま爆散してもらおうかと思って、イイジャン別に死んでもランダムドロップしないしここ」

 

「「…………」」

 

 笑顔を向けあう二人の空気が歪んでいることを無視して暢気にクッキーを食べる。蛍光色のどう見ても体に悪そうなクッキーだが味はふつうである。

 

(さっきから第三回って何の話だろう?)

 

 レンはGGOの事情にそう詳しくない。PVPやらPVEしながら神崎エルザの曲を聴くゲームと化している。リアルマネーをゲットするため本気で稼いでるわけでもないのでAGI型の強さに関しても小柄なレンっぽさを追求した結果である。最初凸侍を見たときの真似をしようとレミントンM700をチュートリアルで凸砂風に使ってみたのだが金髪のお姉さんNPCにこのクソ虫が!! とパワーボムを仕掛けられる結果に終わったので、凸侍の遊び方は変な遊び方してるんだろうなぁとは認識している。

 まさか目の前の二人がレンがヤベーヤツ認定しているピトフーイよりヤベーヤツらだとは思いもよらないのはきっと幸せなことなのだろう。知らぬが仏である。

 

「で、レン……さっきのを見ていてどう思った?」

 

「えっ、えっと、闇風さんが弾丸をすり抜けた様に見えました」

 

「その通りだ。これは対狙撃手と相対したときに用いる歩法で、当たったと錯覚させることが肝だが、それ以上にアバターの精密コントロールの練習にもってこいだ」

 

 闇風がマントの裾をめくり、足の動きをゆっくりと見せる。瞬間的な反復横跳びを走ったままやっているような動きだと、ゆっくり見せてもらえてようやくレンは理解した。

 

「俺たちAGI型は走り、止まらないことが最も被弾が少ない、そのためにはただ速度を出すだけではだめだ。高速で動く足の動きを把握し、速度を落とさない方向転換、急制動が必要になってくる。AGI型で伸び悩んでいる奴らはここに問題があることが多い……直進が速いだけではただの的だ……」

 

 ただ走るだけでロボット馬やバイク並に速い闇風が言うのだからきっと間違いないだろう。レンも具体的根拠は示されなくても信頼できる言葉だった。

 

「さっきのコイツの動き、俺が狙いやすいように直進だっただろう? 前なんか動きが不規則すぎて意味が分からんかったわ」

 

 レンの身長とほぼ同等のでかい銃を担ぎながら凸侍が補足する。

 

「確かチーム組む奴と会うのは明日なんだろ? とりあえず闇風とここで鬼ごっこでもすれば嫌でも歩法は良くなるだろ」

 

 凸侍が馬の被り物を被ったNPCに話しかけると、平地だった試射場に窓枠の付いた壁や低い段差などが追加される。

 

「レンちゃんが凸砂をやろうとしてたことにこの凸侍、感動いたしました故に、闇風を鬼ごっこで捕まえたら豪華景品を差し上げます」

 

「先にインビジブルの練習を少ししてからだ……」

 

 最初歩法の練習を少ししてから、闇風に言われたことをしっかりと守りながら障害物の中を鬼ごっこで駆け回っていくレン。しばらくしてだいぶ足への意識ができてきたところで、P90を持たせられた。足を意識しつつスナップショットで闇風をぶち抜けとのことで、闇風が被弾すればタッチ扱いになるとのことでレンは奮起する。

 黒い風となり疾走する闇風のあとをバレットラインを引きながら疾走するピンクはレンだ。元来の運動神経の良さと闇風の真似により足の動きがかなり改善され、AGI本来の速さを発揮しだしている。

 STRで優れているとはいえ重い狙撃銃を持っている凸侍には無理な、身長の小さいが故の非常に小回りの利いた速さだ。

 一発、一発が闇風の頬を薙いだ。

 驚きの表情から笑みを浮かべた闇風、ギアを一個上げて逃げ回る大人げなさを発揮しその後は弾が掠ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 大の字に床に寝っころがって溶けてしまいそうになっているレンに凸侍が声をかける。足の動きを意識することとそれをこなしながら銃を撃つことを考えていると脳が沸騰しそうな気分のレンだった。

 

「これ、豪華景品のハンドガンです」

 

 そんな気分を吹き飛ばし勢いよく起き上がって受け取ったそれは、ハンドガンと呼ぶには重い。具体的に言うとレンの持つぴーちゃんより普通に重い。全長はピーチャンより短いのに、重い。

 

「は、ハンドガン?」

 

 レンがチュートリアルで見たハンドガンや映画とかで見たハンドガンとあまりに見た目が違う。なんかこう、筒にグリップをくっつけたような印象だ。

 

「はいこれ弾、後ろのここをスライドさせて突っ込むのです」

 

「ちょっと弾が大きくないですか!?」

 

 レンの細い指より普通にでかいどころか手首から中指の先よりも普通に長い。意外と装備重量的には問題ないらしく弾を込めてすんなりと構えることはできた。

 構えて引き金に手を掛けたことでバレットサークルがレンの視界に現れる。

 

「とりあえずこれ撃ってみ?」

 

 凸侍がストレージから出てきたのは色彩を反転させたスイカ、スイカ・オルタであった。闇風は生暖かい目でその様子を眺めている。

 

「それじゃあ、うちます!」

 

 バレットサークルがスイカ・オルタを捉え、引き金を引いた瞬間、爆音と共に激烈な衝撃が腕にかかり、鈍い音と共にダメージエフェクトが発生しレンの視界が天井を向いた。レンの視界の端のHPが2割ほど減った。

 ガインッという音に後ろを見ると自分の手にあったはずのハンドガンが地面に落ちていた。前を向きなおすとスイカ・オルタはかけらも存在せず青色の汁と皮のかけらが置いてあった場所から爆散したように飛び散っていた。ついでにスイカオルタの在った場所の先に弾痕があった。

 

「「…………」」

 

 闇風とレンの沈黙に、気まずそうに凸侍がストレージから弾が5発入った箱とむき出しの緑と白に先端が塗られた弾を出す。

 

「なんとお得セットでこちらの弾丸5発とお詫びに特殊弾を1発贈呈です」

 

「ななな……」

 

「ナナナ?」

 

「なんてもの撃たせるんですかー!!」

 

「うわああああ!! レンちゃんが怒ったあああああ!!」

 

 ピーちゃんを振り回しながら凸侍を追い掛け回すレン。普通に発砲してくるので凸侍、AW50を持ったまま闇風と同じように障害物の中を逃走を開始する。当然闇風より遅いので被弾はするのだが防弾アーマーのお蔭で死なずに済んだのだった。

 闇風はその様を楽しむ様に椅子に座りなおしてバイオグリーンティーを啜るのだった。

 レンはしっかりそのハンドガンと弾セットと特殊弾を受け取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せっかくですし、お二人も一緒に出ませんか!? スクワッド・ジャム!」

 

「「いや……」」

 

 お二人なら活躍できると思うんです! と顔を輝かせるレンの顔を見て困ったような笑みを浮かべ。

 

「……無理だな」「そう言うのはちょっと」

 

 凸侍は肩をすくめ闇風は顔をそらした。

 想像してもらおう、男性と喋り慣れてないレンと一緒に出るということはおそらく女性、場合によってはレン並の身長俗にいうロリっぽい外見。その両脇に凸侍と闇風。

 事案である。ついでにオメーラ出張ってくるなと文句を言われまくるのが目に見えている。

 その様を想像して二人は遠い目になった。

 

(二人とも意外と恥ずかしがり屋さんなのかな……)

 

 レンは見当違いなことを考えていた。




エム(なんかすごい動き良いな……)
レン「次はどうすればいいですかエムさん?」
エム「あ、ああ、次は銃を撃ちながら――」






急にUAが伸びて散弾のバレットラインばりにビビり散らしてますがご覧いただきありがとうございます!

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