自由度が高すぎる上にダメな条件も提示されない印象がある。
凸砂たるものあらゆる状況を想定して準備することが大切。
アタッシュケースから工作機械が飛び出したような外見のアイテムを前にウンウンと唸りながら奮闘する男の姿があった。凸侍である。あーでもないこーでもない言いながらストレージからアイテムを取り出しては工作機械に突っ込み、取り出しを繰り返している。格好も防弾服ではなく作業着風のオーバーオールだ。
それを無視してベンチに座る6人と折り畳み椅子に座る水色髪の少女アバター、シノンの姿があった。一見するとシノンが恐喝かなにかされてるかのような外見的威圧感持つが、少し緊張しているのかもぞもぞしていたり、憧れのキラキラした目をシノンに向けている彼女らはSHINCと呼ばれるGGOでは珍しい女性チームである。
「そう、対物ライフルを入手する方法ね……」
壁に立てかけられたヘカートⅡを見てからシノンは口を開いた。
「トラップで転送される高難易度ダンジョンがあるんだけれど、それをクリアすれば手に入る可能性もあるわよ」
「「「「「「おお……」」」」」」
「そのダンジョン知ってる気がする。あそこ対物ライフルの出土率ヤバくない?」
全サーバーに十数丁あるか無いかの対物ライフルの内二つがあそこからドロップしていると考えると確率は恐ろしいものがある。光明が見えたことに6人の顔に笑顔が浮かんだ。
「代わりに難易度はとても高いわね、私も偶然狙撃ポイントで一方的に撃てたから勝てたような物だし」
「芋は死すべし」
「話の腰を折らないで、それでもとれる中では一番確率が高いと思うわよ。帰りも外部を移動するわけじゃないからPKに襲われる心配も少ないし」
「「「「「「ありがとうございます! シノンさん!」」」」」」
いいのいいの、と軽く手を振って礼に応える。すごく女子会の雰囲気がある。そして場違いな凸侍であるが、居るのはいつものパツキンハートマム軍曹NPCの試射場なので凸侍が居るのはいつも通りである。むしろなんでここで話し合いしてるんだと凸侍は思っている。
「にしてもエムの盾なぁ、あれズルいよなぁ、しかし見てくれ。そのエムの盾を正面からぶち抜く弾が完成した」
工作機械から離れいい笑顔でやってきた凸侍が普通のフルメタルジャケット弾風の.50BMGを見せびらかす。先端は黒く塗られている。
「何作ったのよ」
「宇宙戦艦の装甲板を加工して作った弾頭。なんとジャケットとかではなく全部装甲板」
「だ、大丈夫なんですかそれ……?」
銀髪ベリーショートのターニャが声を上げ、他5人も心配そうな顔で見てくる。
「大丈夫ダッテブルガリアヨーグルト」
AW50を壁際に備えられた台座に置くと、隣にそれをのっぺりと、まるでテクスチャを全部鉄の質感にしたかのような同じ形の銃が出てくる。これは第二回BoBの後に実装されたコピー銃と呼ばれるもので、弾頭製作で作った弾を試射するときに使うように実装された物だ。
セットされた銃と同じ性能ののっぺりした銃を生み出してくれる。さらに内部にセンサーを搭載しているという設定でどこに負荷がかかっているのかをデータログとして出してくれる優れものだ。
弾頭製作された弾は設定がおかしかったりすると弾詰まり、暴発などが起きるのだがそれによって銃自体が全損することもある。作って試し打ちするだけでそのリスクは辛く、弾頭製作をしている人々は実装直後大歓迎の狂喜乱舞である。凸侍も何度か試しスプリングフィールドを爆散させていたため、代えの利かない対物ライフルの弾頭製作はこの機能実装までやっていなかった。
「しゃー行くぜ見てろよ見てろよ」
ストレージから宇宙戦艦の装甲板を取りだし、的の所に固定すると、弾を込めて構える。
これが成功したなら対物ライフルをゲットした際に依頼して作ってもらうのもありかも知れない、とリーダーのエヴァは真剣な目で見ている。
銃口からバレットラインが発生し、設置された装甲板の真ん中を射抜く。そうして凸侍が引き金を引いた瞬間、AW50のコピー銃が爆裂した。
「ゴバハッ!!」
弾けたコピー銃の破片が7人の辺りまで飛んできて光となって消えていく。ついでに吹っ飛んだ凸侍も消えていく。HPを全損したのである。
「「「「「「えええええええええええええええ!!?」」」」」」
「あらっ……と、あちち……ってこれは……ふうん……」
驚愕の絶叫が響き渡る中シノンが放物線を描いてゆっくり飛んできた物ををキャッチし、納得いったように頷いた。
試射場はグロッケン内部にある設定なので、入口の所で凸侍がリスポンしてきた。顔を両手で覆ったままやってくる。
「違うんですよ。違うんだ。こう、暴発の危険性をみんなに知ってもらいたくて……いやマジでなにが起きた???」
言い訳を取り繕う以上に困惑が上回り首をかしげる。自分的に最高傑作の徹甲炸裂弾を試行錯誤で作っている時ほどの威力ではないが、なんで爆発した原因が思い当たらない。
コンソールを開いてログを見ると薬室付近から銃身の途中までとても圧力が掛かっている。破裂の原因はこれであることは明らかだった。
「原因はこれね、はい」
渋い顔でコンソールを除きこんでいる凸侍に金属が投げ渡される。
シノンが投げたのは、さっき製作された弾頭である。あの爆裂の中であっても“傷一つない”宇宙戦艦の装甲板の加工品の面目躍如な姿を晒している。
「ああ……察し……大丈夫じゃなかった」
「ど、どういうことですか?」
おそらく対物ライフルを手に入れたら使うであろう、ドラグノフ使いのトーマが問う。
「絶対に壊れないから、ライフリングで詰まった」
ライフリングは弾丸が“食い込む事”で回転を与え安定させる物だ。傷一つつかない最強の弾丸はライフリングによる線状痕がつくことさえ拒否、途中までライフリングを逆に食いつぶしながら無理やり発射されようとしたものの圧力が限界に達し破裂したという訳である。
「まあ弾頭製作だとよくあることだうんそう納得しよう今ので材料費で五万クレジットぶっ飛んだのは必要な犠牲だったんだ」
「ヒエッ」
「実際使うにしてもコストが厳しすぎない?」
「割と自由度が高いのがズルい。……えっちょいまって素材にプラズマグレネードまで突っ込めるのはダメだと思う」
弾頭製作の魔境っぷりに戦々恐々するSHINCを尻目に凸侍は次の合成の仕方を考えつつ工作機械に向き戻った。
シノンは慣れた。某二位黒いビームサーベルネカマと同じく気にしたら負けである。
「それじゃ、難しいダンジョンだろうけれど、貴女達六人ならきっと大丈夫。私やあいつだって一人でクリアできたんだから」
シノンのその励ましに感謝しつつ、SHINCは精鍛な顔をしながら試射場から退出していった。これから早速ダンジョンに向かうのだろう。
後ろで再び爆発音がして悲鳴が聞こえるのを彼女たちは努めて無視した。
「あ、あとアンナさんとトーマさんは是非とも“全GGO凸砂の会”に入って欲しいから招待送っておこ」
「それいま“狙撃銃使いの集い”よ」
「ファッ!?」
アンナとトーマの元に『狙撃銃使いの集い』のチャットグループへの招待が来て、二人は入るかどうするかリーダーを交えて結構悩むこととなった。
エヴァ「情報収集によさそうだから入っておきましょう」
トーマ・アンナ「イエス・ボス」
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