────魔法。
それが伝説や御伽噺の産物ではなく、現代の技術となって既に久しい。今や魔法を扱う者達、『魔法師』は、国家の重要な財産としての役割を担っていた。
そして、この巨大な建物は【国立魔法大学付属第一高校】、通称『一高』。全国に九つ存在する魔法科高校の中でも特にエリートと称される、魔法の学舎である。
「ご覧下さい広海様。桜がとても綺麗ですよ」
「え?おお、ホントーだ。全然気づかなかった」
そして今日はそんな一校の入学式。春の日差しも麗らかなこの頃、新たなスタートを切る新入生達にとっては、まさに絶好の入学式日和だと言えた。
「ねえねえ、橙子さん」
「はい」
「僕はさ、今どうしても気になることがあるんだ。聞いてくれる?」
「なんなりと」
「うん、ありがとう。じゃあ言わせてもらうけど......」
「...........この状況は一体どういうことだ説明しろこんちくしょォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!」
Q, ただ今の状況は?
A, メイドの格好した女の人が車椅子担いで全力疾走しております。
.........数多くの新入生が新たなスタートを切る今日。
『彼』の青春は、絶叫と共に始まった。
*
「......こッ、怖かった.....怖かったよう.......」
「安心してください広海様。着きました」
「何でそんなに冷静なのかな!?アナタ様はおそらく人類史上初めての
一部漢字がおかしいが、けして誤字ではない。少なくとも、この良くいえばスタイルのいい、悪く言えば非力そうな体格のメイドさんが、人一人乗せた車椅子を担いで忍者のごとく屋根から屋根へ飛び移る姿はどうみても何コレ○百景だ。
「入学初日から遅刻など、広海様のメイドとして断じて見過ごせることではありませんでしたので」
「だからって車椅子担ぐのかオノレは!!もっとこう、僕の心に安心安全な運び方あった気がしてならないんだけど!!」
「昨晩明日は『寝坊しないぞー!』とかぬかしていらっしゃったにも関わらず、あっさりと寝過ごしやがった広海様が全面的に悪いかと」
「ああそうだよ!!悪いのは起床時間を1時間ほど過ぎてからやっと起きた僕だよチクショー!!!!!!!」
「高校生にもなって朝一人で起きれないとか.......草」
「橙子さんは僕に何か恨みでもあるのかな!?」
「さて、早く行きましょう。まだ入学式までは時間があるとはいえ、あまりのんびりしているのは感心しません」
「ううう....どうして僕のメイドさんはこんなに辛辣なんだ」
「これもひとえに、広海様を心配するがゆえの愛なのですよ」
「あっ、そうなの?えへへ、そっかぁ〜」
「(チョロい.......)」
そんなやり取りをしている2人は、当然目立つ。というより、広海の車椅子と、生徒ではないのに校内にいる橙子が目立っている。この一校では、入学式は基本的に保護者は同伴できない。故に、校門の前でちらほら見えた保護者達も、名残惜しそうに校門から我が子の新たなる旅立ちを見守るのだ。
「では、今度こそ行きましょうか」
「よっしゃあ佳代さん!新天地に向けて面舵いっぱ~い!!」
「面舵ですね。承知しました」
「ごめん嘘嘘嘘だからッ!!お願いだから綺麗な笑顔で僕を噴水の中にぶち込もうとするのをやめて!!ぎゃあああああ!!!!」
だがそんなことはお構い無し。視線などまるでないかのように気にもとめず、彼らは進み出した。一応自分の主となっている彼を躊躇なく水に落とそうとする彼女は、きっと大物だろう。
「服がビショビショだぁ.....」
「魔法で乾かせばよいのでは?」
「魔法を無闇に使うのは禁止って知ってるかな?」
「何ですかそれは。知らない子ですね」
「ちくせう.....あ、そういえばさ」
某不幸少年よろしく打ちひしがれていた広海が、なにかに気付いたように顔を上げた。
「まだ講堂の中見たことないから分かんないけど.....俺こんなんだし、座席に座るのはパスなんだよね」
「まあ...わざわざ座り直す必要もありませんしね」
「ということはだよ。自然と、入口付近かもしくはある程度スペースのあるところで入学式に出なきゃいけないんだけど......今行ったら、正直相当邪魔になると思うんだよね」
「あー....それもそうですね」
ただでさえ広海の車椅子があり、そこに更に付き添いの橙子がいるとなると、相応に広いスペースでなければならない。講堂の中の構造を橙子は記憶しているが、確かに邪魔になるだろう。
「だから中に入るのはもちっと後の方がいいと思うんだよね」
「なるほど、広海様の言う通りですね。その楽観的お気楽脳みその中身はスカスカだとばかり」
「ねえ、そろそろ僕のメンタルはポッキリいく頃なんだけど、それについてはどうなのかな」
「広海様のガラスの
「扱い雑すぎだよね!?」
「ほら、騒ぐと周囲に迷惑ですよ。あちらの方々も何やらこちらを見てヒソヒソと話していますし」
言われて視線をやると、確かにこちらを見てくすくす笑っている男子が二人いた。もう泣きたい気分である。
「誰のせいだと思ってええいこんちくしょう!!!!とっとと時間潰せる場所探すよ!!」
「畏まりました。豆腐メンタル(笑)広海様」
「.......グスッ」
橙子が綺麗にお辞儀とついでとばかりに吐いた毒のおかげで、広海の精神ライフはもうゼロを振り切っていた。べっ、別に泣いてないんだからね!悔しくなんてないんだからねっ!!
「(まったくもう橙子さんは!!もっと僕のことを優しく手厚く扱ってくれてもバチは当たらないと思うんだよ!!)」
「(.....先程広海様をウィードなどと揶揄した男子生徒二人.....取り敢えず、後でO☆HA☆NA☆SI しておかなければいけませんね)」
なんだかんだ、主人想いのメイドさんであった。