どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい   作:けし

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季節から大きくズレた日常回。気づいたら1万字超えてた上に季節が地球の裏側に移動していた件について。
時系列は死神代行消失編がひと段落したくらい。
視点が飛び飛びだし、肝心の原作主人公はいません。申し訳ない。
黒崎くんはほら、ぶっちゃけ穂積様とほとんど関わってないし。
あと、九番隊のモブ(名あり)が居ますが、空の境界を知ってる人はわかる方もいるかもしれません。

あ、この話を投稿する前に51話が投稿されてます。





幕間の物語
50話記念回 『年の瀬、雪の大晦日』


「なに?穂積のことをどう思うのか、だって?」

 

 唐突な質問に俺は首をかしげた。

 藍染たちの騒動が終息し、それから訪れたひと時の休息。

 破面にやられた傷は浅くなく、その傷を卯ノ花隊長に治してもらってからも、部下たちの熱烈な休めコールに大人しく従って、俺は庵にて休んでいた。

 そんな時、九番隊の隊士が訪れ、俺に穂積のことを尋ねてきた。

 

「は、はい。藍染惣右介にトドメを刺したのは穂積副隊長であると、もっぱらの噂でして…。それに、『反膜(ネガシオン)』も斬ったということが事実として広がっていますので、最近売り上げが右肩下がりの我々瀞霊廷通信の、起死回生のチャンスにしようかと…」

「へぇー。穂積のやつ、そんな有名になっちゃったか…」

 

 気付けば瀞霊廷のそこらで名前が拡がっているらしい。

 本人に言わせれば興味ないだとか面倒だとか言いそうではあるが。

 

「それで、穂積のことを俺に聞きに来たのはいいとして。なんで俺なんだい?穂積本人に聞けばいいじゃないか?」

「い、いや、あの人なんかおっかなさそうじゃないですか…」

「そうなのか?」

 

 見た目は少々目つきは悪いが、万人が見ても整っているだろう。

 男から見れば女に。女から見れば男に見える。京楽曰くそんな見た目らしいが、俺にはよく分からない。

 たしかに髪の毛は肩にかかるほどだが、切るときはかなり雑だ。身長の低さは密かなコンプレックスらしく、たしか160cmくらいだったはず。出来れば170cmまで伸ばしたいと零していたのは少し覚えている。

 まあ確かに、比較的仲の良い虎徹勇音副隊長と比べれば、彼女の肩くらいしかない身長ではある。

 七夕で願うほど子どもではないようだが、伸ばせるなら伸ばしたいといったところだろうか。

 

「まあ、琴線に触れなければかなり面倒見はいい奴だ。気軽に聞いてみるといい」

「睨まれたら逃げますよ…?」

「俺の名前を出すといい。すげなくあしらわれたりはしないさ。それでも無理なら周りの奴に聞いてみるといい。…そうだな、虎徹勇音副隊長や、日番谷くんはどうだ?比較的交流はあると思うが…」

 

 一般隊士が足を運ぶには少々及び腰になりそうなところだ。

 四番隊はともかく、日番谷隊長は彼らにとって怖いかもしれないな!はっはっは!

 …とまあ冗談はさておき。

 

「取材するのなら連絡はしておこう。どうする?」

「…とりあえず、お願いします…」

「分かった」

 

 最近現世から輸入された技術である電話を使って、日番谷隊長に電話をする。存外に快く受けてもらえて良かった。

 それにしてもこの電話というのはすごいな。浦原喜助が各隊に数台ずつ、隊長室に1つ設置したこれは、手にとってボタンを押すだけで相手と繋がるのだから。いや、現世も侮りがたいものだ。

 ちなみに電気は各隊に設置された発電機で賄われているらしい。

 

「ん…、かなり冷え込んできたな…」

 

 冬が栄え、一年が終わる瀬戸際だ。病弱の身には響くな。

 俺は布団に臥せっているときは外の景色をよく眺める。

 春夏秋冬、この庵から見える景色は様々で、春は桜が、夏は蝉が、秋は銀杏が、冬は雪がやってくる。

 だけど特にこの冬の景色は、早朝の澄んだ空気が気持ちいい。針のような冷たさが、俺を外に連れて行ってくれるから。

 だからまあ、冬は好き…、なのかもしれないな。

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「冬…か」

「なんだ織。感傷なんて似合わんぞ?」

 

 相変わらず陰気な部屋だ。

 変わらず光を取り込み続ける天窓が、外界と内界をつなぐ境界。

 電気的な光は、俺の眼に見える世界を満たす光のうちの、ほんの僅かだ。

 眼鏡を外したラフな言動の橙子は、やることなすこと終わって(藍染との戦いを終えて)しまった俺を、端的に表した一言を発した気がした。

 

「四季なんて、そっちの世界(尸魂界)にもあるんだろう?」

「まあ、あるにはあるんだけどな」

 

 こっちの世界(現世)ほど激しく変化はしない。どちらかといえば緩やかな変化で、激しい猛暑も厳しい寒さも、中心である瀞霊廷にはやってこない。流魂街の端に行けばあるのかもしれないが、俺の知るところではない。

 

「へぇ、一度はお邪魔してみたいものだ。今度喜助にでも言ってみるかね」

「やめとけ。霊力のれの字もないオマエが行っても、なにも感じられないぞ?」

「霊力と魔力は少し似ているようだし、代わりくらいにはなると思うが?」

「…まあ、少なからずはな」

 

 魔術回路から発せられる魔力というものは、己の生命力を変換して得られる力だという。霊力も生命力としてカウントできるのなら、生命力が根幹にあるところから多少の互換性はあるのかもしれない。

 といっても、そのあたりをどうこうするのは俺ではなく橙子とか浦原とかの役割だ。

 ──最近涅マユリがヤバい研究をしだしたという噂を聞いて、なんとも言えない嫌な予感がしたのは、記憶に新しい。度々虚圏(ウェコムンド)に赴いては、ツヤツヤした笑顔で帰ってくるんだとか。

 

「ま、その話は追々持って行くとして、だ」

「なんだよ、妙に嬉しそうだな」

「もう年の瀬だぞ?たまには話せる奴とのんびり過ごしてみたいとは思わないのか?」

「ああ、そんな時期だったなこっちは。あっちでも年の瀬は1人だぞ?やる事ないから流魂街に迷い込んだ虚を殺したりしてたからな」

「…お前らしいよ、それは」

 

 今更な話だ。

 しかし、橙子の口数が多いのは珍しい。独り身はつらいと聞くが、あの橙子でもそうなのだろうか。

 ──やっぱり、センチメンタルなのは否めないらしい。空っぽの俺を満たそうなんて衝動が失せた感じ。

 

「お前には、何かやりたい事はないのか?」

「だからさっき言ったような」

「違う。お前自身から流れ出る『やりたい事』だ」

「………」

 

 言われて、何も返せない自分がいる。

 その時、懐の携帯が震えた。

 

「………」

「出たらどうなんだ?」

「…あぁ」

 

 下手をすれば護廷十三隊の誰よりも現世に慣れ親しんだ気がする。

 手慣れたように携帯(PHS)のパネルに触れる。緑色の応答ボタンを携帯を持った左手の親指で押した。

 

『もしもし、織さんですか?』

 

 電話の主は、近頃よく話していた虎徹勇音。

 身長高いのが少しムカつくけど、知ってる人間の中では多分、最も親しい部類に入るのだろう。

 妙に好意的で、聞こえてくる声は嬉しそうではあるけれど。俺には何の感慨も湧かなかった。

 

「…なんだよ」

『あ、あの…、31日はお暇ですか!?』

「っ…、大声出すなよ。…あー、多分大丈夫だろ」

『あ、ありがとうございます!それじゃ、また連絡しますから!』

 

 ブツリ、と電話が切れた。

 …テンションが高かったが、何の用なんだ。

 ふと、ニヤニヤと気持ち悪い笑い顔をしていた橙子を見て、何かイラッとしてしまった。

 

「おい、何みてるんだ橙子」

「いや〜、案外お前にもそういう奴がいるんだねぇ」

「何のことかは知らないけど、…友人みたいなものだよ」

 

 浦原と橙子のヘソクリ──橙子は兎も角浦原は現世のお金は最低限しか使わないのでかなり貯まっていた──から出費して得た携帯は、通話以外のことをしないので、暇を持て余している。

 橙子の金は、使い込むときには一気に使い込み、本気で困ったら仲の悪いらしい妹の口座から勝手に抜くらしい。災難なことだ。

 長い長い有給を、実家でなくこっちで過ごすことにしたのは気まぐれのようなもの。

 

「そういえば、お前いつまでこっちにいるんだ?」

「…年明けて2週間弱。やることもないけどな」

「大晦日まであと1週間ある…か」

 

 手持ち無沙汰な右腕。血の通わない右腕の裾を振って遊ぶ。

 

「私もやる事がないからな。…改造するか?()()

「義骸脱いでもくっついてるコレにはもう何もしなくていいよ。むしろこんな腕作れる方が驚きだ」

「私の渾身の一作だぞ?」

「ま、ただひとつ文句があるとするなら…」

「なに?不満があるのか?」

「…違和感。どうにかならないのかコレ?」

 

 驚くような目で俺を見る橙子。その不満は考えてなかったようだ。

 

「傷も塞いだし、違和感なんて感じない筈なんだがなぁ」

「実際にあるぞ」

「ふむ…。…お前は肉体の構造に一分の綻びもない。端的に言って完成度が高いんだ。その幻肢痛もどきは、単なる拒絶感だろう。放っておけば無くなる」

「拒絶感?拒絶反応の間違いだろ」

「私がそんな欠陥品を作るか。渾身の一作なのだから、そんな阿呆なミスなぞするものか。…だが、解消する方法はある」

「…それを早く教えろ」

 

 橙子は眼鏡をかけて()()()()ながら、こんなことを言った。

 

「……我慢して?」

 

 なんとなくそんな気がした言葉が、『伽藍の堂』という名の部屋に反響する。

 俺は何の気なしに溜め息をついて、この幻肢痛もどきを無視(我慢)することにした。

 

「……」

 

 疼く幻肢痛を左手で抑えて、ぼんやりと薄暗い外を眺める。

 厚い雲は、世界という鍋に被さった蓋と同じだ。湿気も熱気も寒気も、渦巻く人間の願望も。押さえ込むようにして蓋をされる。

 季節という概念は、人の心を叩くには感情と並んで適したツールだろう。

 

「なーに織、寒いのは嫌い?それとも冬が嫌い?」

「どっちも嫌いだ。でもまあ、なんでかな…。雪の降る夜だけは、嫌いじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

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「で、俺のところに来た訳か」

「は、はい……」

 

 浮竹から頼まれたので、その取材を受けてみれば、中身は穂積のことを聞くというものだった。

 この前の藍染に関わる戦いではウロチョロしたり、かと思えば破面(アランカル)を一蹴したり。さらには最後に感じた不思議な霊圧は奴のものだというのだから、俺には奴の事がよく分からん。

 正直、好ましくは思っていない。理由は簡単。

 

「あの野郎、何かにつけて俺に蹴りいれてくるわ、見下してくるわ、あんまりいい奴じゃねーぞ」

「そ、そうなんですね…。アハハ……」

 

 藍染の離反が決まった時も、現世で破面と戦った時もそう。『俺の殺意はお子様だ』なんて訳の分からない台詞を口にする。

 俺は奴に比べれば子供だし、実際の戦闘を見る限り、俺は穂積の本気を見た事がない気がする。どちらが強いかと比べることに意義を感じないが、もしかしたら穂積の奴の方が強いのかもしれなかった。

 …ちなみに同情すべきところとしては身長の小ささだ。俺より30cm近く大きいが、よく隣にいる虎徹勇音と比べられることを考えると少し同情してしまうこともある。不本意ながら。

 

「まあ、実際はサッパリした奴だ。敵は敵、味方は味方と割り切れるし、敵だから殺さないとかいう甘さもない。というか、どうにも殺したいと思った時しか殺さないみたいだがな」

「それはどういうことでしょうか?」

「破面を相手にしてる時とかは特にだが、殺意を抱けない相手を殺すつもりはないらしい。穂積が殺意を抱いた相手は、多分藍染辺りだろうけどな」

 

 奴の抱く殺意は、文字通り純粋で、憎悪や怒りのような混じり気のないもの。それはつまり、ただただ純粋な殺人願望であるということ。

 俺はゾッとする。それが指すことは、穂積には殺人衝動があるということなのだから。

 

「…で、他に聞きたいことは?」

「あ、穂積副隊長の戦い方というのは…」

「奴の武器はいくつかあるが、素直に賞賛すべきはその速度。二番隊の連中を遥かに上回る速度で動き回れるらしい。実際、俺も目で追うのがなんとか出来たってくらいだ」

 

 奴の本気を見た事がないから知らないが、噂では奴は、瞬歩とはまた別の歩法を習得しているらしい。

 

「使う武器はナイフと斬魄刀。基本ナイフで戦うみたいだがな」

「ナイフ……?」

「その辺りは本人に聞け。さて、そろそろ時間だ。記事の足しにもならねえだろうが、まあ頑張れ」

 

 礼を言って去っていく九番隊隊士を見送り、まだほんの少し残っている執務作業に取り掛かる。

 

「あら隊長。まだ残ってたんですか〜?」

「テメェ松本……、仕事はどうした…」

「や、やだなぁ隊長、休憩してただけじゃないですか〜」

「ふざけたこと言ってねえで、さっさとやれ松本!!」

 

 このバカ副隊長は。…だがまあ、少し思うところはある。

 カチカチと時計の針が進む。珍しく松本が真面目に仕事をしているのを見て、あとこっちの書類が終わったから、こんなことを言った。

 

「松本」

「はい?なんです隊長?」

「1週間、有給くれてやる」

「あれぇ?珍しいですね隊長〜?たまには部下を労ってやろうって気に」

「うるせぇ。とっととその辛気くせえ面を直してこい。我慢なんかされてたらこっちの気が滅入るんだよ」

「……分かりました。ありがとうございます隊長」

「礼はいい。今日はもうあがれ」

 

 沈み込む夕日と、光の反対側にできる濃い影。

 もうすぐ冬…だな。寒いのはまあ、嫌いじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

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「はぁ、織さんのことですか…?」

「えぇ、穂積副隊長のことを教えてもらえたら…と」

 

 卯ノ花隊長に用かと思えば、まさかの私への取材。そのお題は織さんについてだった。

 

「うーん、大体どこまで言っていいのか…」

「ま、まあ本人にもその辺りは伺いますから、思ったことを言ってくれれば…」

 

 あ、今自分でハードル上げたわ、何してんだ俺、と内心戦慄してしまった九番隊隊士の言った言葉に、私はなるべくプラスなイメージを考えようとした。…したのだけど………。

 

「め、面倒見がいいとか?」

「浮竹隊長が言いましたね」

「戦いが強いとかは?」

「日番谷隊長が言いました」

「…うぅ」

 

 今の織さんと一番付き合いが長いのは私だと思うけど、それでも思いついたプラスのイメージはすでに出尽くしたみたいだった。

 な、なんて言おうかな…?

 

「…虎徹副隊長と穂積副隊長の馴れ初めというのは?」

「な、馴れ初めって…!?ちょ、そんな付き合ってるみたいなのやめて下さい!」

「(分かりやすくて面白いなぁこの人)いや、結構仲がいいから一部では付き合ってるんじゃないか疑惑もあるんですよ?」

「そ、そんなことが…。織さんになんて言おう…。あ、いやでも四番隊の人たちにしてみれば喜ばれるべきかも…?」

 

 以前からかわれた経験もあるけど、それでも面と向かって言われれば恥ずかしいよぉ……。

 実は隊長格の中でもかなりとっつきやすい四番隊の副隊長として、それなりに有名であることは、本人はまだ知らない。

 

「織さんと初めて出会ったのは、大体50年ほど前だったと思います。織さんは100年ほど前から十三番隊にいたらしいんですが、50年ほど前に副隊長になったそうです」

「はぇ〜、自分は新参ですから知りませんでしたよ」

 

 ぼそり、ぼそりと、過去を零していく。

 

「織さんは、2年ほど目を覚まさなかった事があります。その時に、織さんはここ(四番隊)で眠り続けていました」

「そんなことが…」

「彼が副隊長になったのは、昏睡から目を覚ましてしばらくしてからでした。ちょうど私が副隊長になったのもその時期で、同期っていうものなんですかね。こういうの」

 

 反応はとても静かだった。たぶんこの人は、聞きに徹することが正しいと思ったのだ。

 

「初めて織さんに懐いたのは、多分恋慕なんかじゃなくて憧憬だったんです。強いし、他人とは違うあの在り方が、何か気になったんだと思います」

「……………」

「今の私はみんなが言ってる通り、織さんを恋い慕ってるんだと思います。斬魄刀の力も、戦う力も、言うの恥ずかしいですけど織さんの隣に立つために手にしたつもりです」

「あの、渋いお茶かなにかありませんか?申し訳ないですけど、なんか甘くなっちゃって…」

「え、あ、すぐに用意しますね…!」

 

 少し疲れたような顔でそう言う記者さん。私は立ち上がってお茶を入れに行ったのだけど、なんであんな顔になってたんだろうか?

 

「うぅ、寒…」

 

 給湯室までの廊下は窓が開けっぱなしだから、外の空気が容赦なく突き刺さる。

 そういえば、織さんは年末を現世で過ごすって言ってたっけ。

 

「初詣…。一緒に行けるかな…?」

 

 そうと決まれば、やることは決まった。

 浦原さんに頼み込んで用意してもらった携帯とやらで、織さんに連絡を取ろう。

 その日が雪降る日になってくれたなら、きっと最高に違いない。

 冬空の下が、私は大好きだから。

 

 

 

 

 

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「ふぇぇ、口の中が甘い…」

 

 なんで最後に惚気じみた覚悟を聞かされりゃならんのだろう。

 こちとら独り身まっしぐらだって言うのにな。

 あーあ、週末久々にアイツに会いにいくとするかな。

 

「いっそアイツに調べてもらうか…?」

 

 探すことに関して言えば、おそらく俺の知る限りアイツより上のやつなんてそうそういないんじゃないか?ずいぶん前金貸してやったんだけど、それを盾にして…なんて、そうやるのはなんか嫌だな。

 というか既に調べてたりしてな。

 

「ま、んな訳ねぇか!ははははっ!」

 

 鬱屈しそうな気分を笑って吹き飛ばし、その時入ってきた虎徹副隊長に向けられた怪訝な目をスルーした。

 …うん、苦ぇ。でもまあ、いい感じだな。

 

「…取材の方は…?」

「ああ、もう十分です。忙しいのに、わざわざありがとうございました」

「いえ、そんなことないですよ。こちらこそありがとうございました」

 

 互いに礼を言って、四番隊の隊舎を後にする。

 さて、今週は久々に、東流魂街に行ってみるか。

 どれだけ妹が距離縮めてるか気になるしな。これで縮まってなかったらED疑うぜマジで。

 

「さーて、色々纏めてから寝るかぁ。全く、編集業も楽じゃねえな」

 

 内心死神の仕事じゃねえよなコレとか思いつつ、残った仕事を消化すべく九番隊隊舎──もとい出版社に足を向けた。

 もうすぐ一年も終わりになるわけだが…。冬はまあ、夏よりはマシかもな。

 

 

 

 

 

 

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「やあ、久しぶり」

「おう。相変わらずそうで何よりだぜ」

「君こそ、変わってないな」

 

 昔から、というと一体いつからになるのか分からないけど、数字にして大体100年と少し。目の前の男とは長い付き合いになる。

 50年ほど前に彼が真央霊術院に入学したから少し疎遠になってはいたけど、暇があれば来てくれるかもしれない程度の友人関係ではある。

 死神の仕事がどのくらい忙しいのかなんて想像もつかないけど、疲れたような表情をしているように見えるから、かなり大変なんだろう。

 まあ、僕だって負けず劣らず働いてはいる。物を探すのが昔から得意だったものだから、今ではもの探しを生業にして飯を食べている。

 鮮花も近くのお店で働いてくれている。

 毎度のことながら、勿体無いくらい良くできた妹だ。

 

「それで?今日は遊びに来てくれたのかい?」

「まあな。それと聞きたいこともあってな」

「聞きたいことって?」

「お前、穂積織って人、知ってるか?」

 

 学人の口から出てきたのは、記憶に新しいある人物の名前だった。

 穂積織というのは、今の十三番隊副隊長で、先日の一連の騒動の締めくくりを成した人物。

 東流魂街に居を構える中流貴族の出身で、浦原さんも一目置くほどの実力者。

 ──とまあ、調べれば割とあっさり出てくることを挙げたけど、ここから先は浦原さんのお願いで守秘することになっている。

 なので残念ながら、上っ面の事だけしか教えてはあげられない。というか正直な話、こんな経歴は今時そうそうにはお目にかかれないしね。

 そんなことを考えながら、一言断って席を外した僕は、奥の棚から彼についてまとめた資料のうちの出してもいい部分だけを取り出した。

 それなりに評判は良いらしく、月一くらいのペースで依頼があるものだから、埃をかぶってる資料もあるのだけど、彼の資料は真新しいものだ。

 

「実は彼のことについてはある依頼で調べてある。まあ想像つくレベルでしかないけれどね」

「お前がか?珍しいもんだな」

「鮮花と違って僕は出来ないことがあるのさ。霊力なんてものも絞りカス程度しかない僕に比べて、実は鮮花は死神の才能があるんじゃないかって思うんだけど、どうかな?」

「お前、俺が下っ端だってわかってて聞いてるだろ」

 

 まさか。最近席官になれたって聞いたけどね。祝いの品はあるけれど、それは嬉々として自分から言ってきた時にとっておくとしよう。

 それから数時間ほど散歩したり遊んだり談笑したりして、久々に充実した時間を過ごせた僕らは、また会うことを約束してその場で別れた。

 

「…雪か」

 

 チラチラと目の前に舞ってきた白い雨を目で追いながら、季節の変化を知った。のんびりとした変化だけど、こういうのが僕の性に合っている。

 急ぎすぎても、得はないからね。まったりと過ごせればいい。

 だから、こうして感傷に浸れる冬の空は好きだ。

 雪の舞う中、家で待ってるだろう鮮花を思い出しながら、家路へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

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「冬ですねぇ」

「コタツはいいのう〜」

 

 襖に畳、少しお高めの液晶テレビ。コタツにみかん。

 冬の代名詞がこれでもかとひしめき合う6畳半ほどの小さな部屋。夜一サンは猫の姿のままで、コタツから起用に顔だけ出してテレビを見ながらグータラしていた。

 

「もう大晦日っスか」

「早いものじゃ。特に今年は藍染のせいで忙しかったからか殊更早く感じたわ」

「そうっスねぇ〜。あ、橙子サンと一心サンから蕎麦貰ったんスけど、夜一サン食べますか?」

「当然じゃ」

 

 はいはい、と言って態々寒気が居座る廊下に出て台所に向かう。今、鉄斎サンは特製ちゃんちゃんこを製作中で、ジン太と雨は二階でグッスリ。年越し前には起こすつもりっスけど。

 とりあえずお湯を沸かし始めたところで、蕎麦を茹でるのが早すぎるんじゃないかと思い、冷えたビールを2つ、冷蔵庫から引っ張り出して部屋へと戻った。

 夜一サンは気ままに人の姿に戻って、やっぱりコタツに身体を埋めている。

 夜一サン、爆笑してるなぁ。

 

「ハハハ、ハッ、流石じゃのう此奴ら…。お、ナイスじゃ喜助」

「相変わらず年末はそれ見るんスね。面白いっスけど」

「当たり前じゃ。年末はコレを見なければ終わらん。プッ、アハハハハッ!!」

 

 プシュと景気良くビールを開けてぐびぐびと流し込む。

 いや、この苦味。クセになるっスね〜。

 

「アハハ、まーたこの人タイキックっスか!?うわー、しっかり体重乗ってるじゃないっスか!?アハハハハ!」

「うむ、惚れ惚れするような蹴りじゃのう。是非とも生で見てみたいものじゃ」

 

 そんなこんなで23時を回り。ジン太と雨、鉄斎サンも集結した手狭な和室に、ちょっと前に出来上がったエビのかき揚げ付きの少し豪勢な年越し蕎麦を用意。

 ちなみに夜一サンと雨はシトシト派、アタシと鉄斎サンとジン太はサクサク派と、ウチは男女で完全に分かれているんスけど。かき揚げの食べ方。

 さて、もうすぐ鐘がなりますね。

 

「おや、外じゃ雪降ってるみたいっスよ?」

 

 ふと隣の部屋を覗いた時に、窓から見えたのはチラチラと降っている白い雪。道理で寒いわけだ。

 わいわいと団欒出来るし、研究資料の管理も楽なので、冬は好きっスよ?アタシは。

 

 

 

 

 

 

 

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「なんや、喜助のトコにでも押しかけたら良かったんちゃうか?」

 

 ハッチのおかげでどんだけ騒いでも分からんとは言え、大音量でテレビ。それと散らばったウノ。

 無人倉庫の地下であるここにあるのは、全員分のバイト代やらで買い揃えた暖房器具とコタツ。あとテレビ。みかんは箱買いして溜め込んどる。

 ちなみに俺はみかんの皮むいたらすぐに食べる派や。白いの取るの面倒やん。

 

「馬鹿言うな真子。この人数が入るわけないだろ」

「地下の部屋でも使えばええんちゃう?」

「雰囲気出ねぇだろうが。こういうのは雰囲気大事なんだよ」

「拳西こういうの好きやなぁ」

 

 数は揃えた訳やけど、ラブはジャンプ、リサはエロ本って…。年末に読むもんちゃうやろ。

 ちなみに拳西は蕎麦を打っとる。…なんでそこまでやるんや…?

 

「……このみかん、とても甘いデス」

「んー、やはりE○ILEはいい。優雅で激しいのが素晴らしい」

「ローズの言ってることの意味分かんないや。ねー拳西〜。蕎麦まだ〜?」

「うるせえ!食いたけりゃ手伝え白!」

 

 ハッチは黙々とみかん食うとるし、さっきまでウノしとったはずのローズと白は今は紅白歌合戦に首ったけ。ひよ里は…。

 

「ちょ、熱う!?油飛んできたやないか!」

「バッカお前、野菜の水気残し過ぎだ。拭き取れって言っただろうが」

 

 珍しく自分からやっとる…やと!?

 明日猛吹雪ちゃうか?でも手元の携帯の天気予報は曇りになっとる…。

 そういやひよ里のやつ、綺麗に真っ二つなったんがこの前完治したばかりなんやけど…。病み上がりちゃうんか?

 …まあええか。なんもかんもひと段落したことやし。

 今日のために買い込んだった秘蔵のお酒ちゃんを放出したるか!

 

「おい真子、なんか酒の匂いするんだが?」

「さっすがラブ。せや、日本酒やら焼酎やらビールやらジュースやら、今日明日のために買い込んだんやで?酒屋のおっちゃんと仲ようなったって良かったわ〜」

「なっ、テメェ真子!?抜け駆けすんじゃねえ!」

「分かっとるがな。さっさと飯作って来いや。先飲んどくから」

「抜け駆けすんじゃねえっていっただろうが!?」

 

 とんでもなく不満な声が、見た目廃工場の住居に響く。

 実は地下はかなりアットホームに改造されとったりするんやが。

 10人入っても余裕しゃくしゃくやで。喜助には頭上がらんわ。

 

「皆サン、落ち着いて下サイ」

「ハッチ!こいつら止めてくれ!」

「ハッチ、お前の好きな『剣○』の焼酎入っとるで?」

「拳西サン、ツマミはまだですカ?」

「テメェハッチこのやろう!!簡単に買収されやがった!?」

「拳西〜!これどないすればええのん!!?」

「ああ!?ちょっと待てひよ里!」

 

 喧しいやっちゃなあ。せやけど、こんな時間も悪うないわ。

 藍染のせいやけど、藍染のおかげ…ちゅうことか。

 

「…外出てくるわ」

「戻って来いよ真子?」

「わーっとるわ」

 

 そう言ってから地上に上がり、外に出る。

 …やっぱ寒いな。

 

「お…雪かいな…」

 

 吹けば飛ぶような粉雪。心まで白く染まるような。そんな感慨が湧く。

 でも、なんかもの悲しゅうなるから、冬は嫌いや。

 

 

 

 

 

 

 

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「織さんっ!」

「遅かったな」

「ご、ごめんなさい。隊の人たちから色々言われちゃって」

 

 何言われたんだ。

 耳のところが真っ赤なのは、寒さと他の何かがあるのだろうか。

 まあ、折角の年末だ。まったりした時間を過ごすのも、悪くはないのかもしれない。

 

「それにしても、もう夜の11時だぞ?家にいた方が良いんじゃないか?」

「何言ってるんですか。丁度お寺も近いことですし、生で除夜の鐘の音を聞きましょう!あとついでに叩きましょう!」

「108の煩悩を払うんだっけか?」

 

 煩悩なんてない。煩悩になり得るとしても、それは煩悩というには重すぎる罪だから。

 浦原がどこからか持ってきたイヤに上質な着物と、式からの贈り物の赤い革ジャンという出で立ち。

 勇音の格好は厚手の赤いマフラーと白い手袋、灰色のセーターの上にベージュのトレンチコートを着て、下はジーパンにブーツ…と、後に勇音に言われた。死神でも俗世には塗れるものなんだな。

 相変わらずの身長差に辟易としながらも、革ジャンのポケットに手を突っ込んだまま、電灯の光だけが照らす道を歩く。

 

「織さんは分かりませんけど、私はほら、煩悩だらけですからね」

「大体みんなそうなんだろうさ。純粋でいられるのもほんの僅かな間だけ。俺なんか、煩悩というにもおっかない罪だらけだぞ」

 

 数える必要なんてない。たった1つの殺人衝動。

 それが、たとえ己の内から零れたものでなかったとしても。

 それは、俺のやりたい事だ。

 

「織さん」

「ん…、なんだよ勇音」

 

 唐突な声は、真剣みを多分に含んでいた。

 

「私は、織さんの隣にいたい。力も何も無いかもしれないし、覚悟だって無いかもしれないですけど。守れるようになりたいんです」

 

 勇音は見下ろす形でソレをいうのが嫌だったのか、前を向いて目を合わせずにそう言った。

 

「…『守る』……か」

 

 人が最も強くなれるのはいつだろうか。

 怒った時。恐怖した時。憎んだ時。喜んだ時。自覚した時。

 ──殺したいと思った時。

 ──守りたいと思った時。

 

「…好きにしてくれ。誰かに頼むつもりもないし、誰も立てない。俺は後ろにしか進めない人種だ」

「それでも、です」

 

 ──困った奴だよ。ホントに。

 なんでだろうか。いつから俺は、コイツに勝てないって思うようになったんだろうな。

 

「あ、着きましたよ織さん」

 

 そんなことを考えてたら、少し人で賑わいかけている寺に着いた。

 真っ直ぐ境内に入り、手を合わせて何かを願う。

 伽藍に留まる願いなどないのに、空っぽのココロを合わせて何かに祈る。

 祈り終われば、境内ではこんな時間にぜんざいを配っているらしい。

 紙コップに入った甘い香りのぜんざいを受け取った俺たちは、近くの椅子に腰かけた。

 

「織さんは、何を願ったんです?」

「オマエこそ、何を祈ったんだよ」

「私ですか?」

「そ。まあどうせ、平和でありますようにとか、そんなとこだろ?」

「ふふ、まあそんなところです」

 

 ふと、鼻の先に冷たい何かが乗った。

 

「あ……」

 

 勇音が息を漏らす。

 ──雪だ。

 そして同時に、黒い鐘の音が鳴る。重く、長く。伽藍を叩いたような音がする。

 一年が過ぎて、一年が始まる。そんな冬の、雪下の夜。

 

「さて、じゃあ織さん。そろそろ戻りましょうか?」

「…そうだな」

 

 勇音が一足先に立ち上がって、目の前に回り込んだ。

 そして、少し屈んで、長い手を差し出す。

 

「織さん。明けましておめでとうございます。今年も宜しくおねがいしますね」

「…ああ、よろしく。勇音」

 

 果たして祈りは、誰に通じるのだろうか。

 空っぽの願いが届く先には、誰がいるのだろうか。

 鐘の音は福音のように辺りに降り注ぐ。

 勇音の手を取り、引っ張られるように立ち上がった俺たちは、特に急ぐこともなく、雪下の鐘の音の下に、その足跡を残していった。

 

 

 

 

 

 

 

 




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