どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい   作:けし

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勝手にヒロイン枠決定。あまりハーレムものとか趣味じゃないから、増えるとは思わないこと。

これにて過去編は終いです。さて、ついに。


9

 朽木との修行は、その後は特に何かイベントが起きるなんてなく進んだ。そもそも俺とコイツの接点は、海燕だけだ。

 それにしても、思った以上に海燕のやつ、しっかり教えてたんだな。『初の舞』と『次の舞』。海燕と共に編み出した、朽木の斬魄刀『袖白雪』の技。

 天地を凍らせるとは驚いた。狭い場所でならかなり有効な攻撃だ。とっさに逃げに入ったが、かなりの勢いで上まで凍って来るものだから、死の線の認識が間に合わなかった。降りてきたところで、縛道で捕まったんだけど。次の舞による雪崩のような質量攻撃は、まあ、真っ二つに断ち切ったわけだが。線が縦に大きく入ってたのは、まあ偶然だろう。

 そんな訳で、その日の修行は終わり、その後も定期的に、週に二回ほどのペースで、主に鬼道を主軸にした修行をしている。生憎、俺は縛道を主軸にして使うから、破道はあまり教えられないが。『袖白雪』の技は軒並み大技で、構えからの()()が長い。そこを補う為の鬼道だ。

 

「散在する獣の骨 尖塔・紅晶・鋼鉄の車輪 動けば風 止まれば空 槍打つ音色が虚城に満ちる 【破道の六十三『雷吼炮』】!」

「おお。【縛道の八十一『断空』】」

 

 高位破道もかなり使いこなせるようになったな。後はコレを詠唱破棄で使えれば問題はない。そも、戦闘で詠唱する余裕があるはずが無い。偶々なんか当てにはできない。

 

「また…。やはり鬼道の才が無いのでしょうか…」

「いやいや。何言ってんだ」

 

 朽木との修行。その間およそ1ヶ月ほどだが、かなり上達した。流石に、五番隊の雛森とか言う奴には及ばないみたいだが、それは技能面だ。威力の面で言えば、明らかにこちらに軍配があがる。

 そもそも、七十番台を詠唱破棄できるのに、なにを謙遜している。既に俺と同じくらいには出来ている。

 朽木の鬼道で特に秀でている点は、鬼道の多重起動だ。もともと二重詠唱を得意としていたらしいが、高位鬼道の詠唱破棄を修得した事で、詠唱に回していた集中力を、別の鬼道の発動に回せるようになった形だろう。

 

「そもそも『断空』は八十九番以下の鬼道を防ぐものだから。通らなくて当然だと思っていいぞ」

「はぁ」

「というか、縛道は最悪『断空』だけ修得すればいいと思ってるからな俺」

 

『断空』は込める霊圧を強めれば、物理的干渉も弾く特性を持つ。ただ、その辺りの調整を失敗すると、今度は逆に鬼道を弾けなくなる為、そのコントロールは感覚で覚えるしかないが。兎に角、かなり便利な鬼道なのは確かだ。

 あと、個人的には『鎖条鎖縛』も有るといい。習熟すると、鎖の部分を操れるようになる。それを鎖鎌の要領で飛ばしたり、ぶつけたりと、かなり使い勝手が良くなる。

 

「それじゃ、今日はここまでで良いか。しっかり治しとけよ」

「はい、ありがとうございます。穂積殿」

 

 時間超過に良いことはない。それは瀞霊廷にいたところで変わらない。事務作業は定時まで。残業代が出るはずもない。そしてそれは、おそらく現世でも変わらぬ理だろう。だから俺は、始める時間はルーズだが、終わる時間にはシビアだ。

 俺はいつものようにナイフを腰にしまい、残った事務整理に辟易としながらも、仕方なく、隊舎へ足を向けた。

 

「さて、さっさと片付けなきゃな」

 

 最近、足腰のリハビリ中に偶然会得した歩法を使って移動する。

 昔、死神がまだ組織として存在しなかった頃に、こんな事をしてる奴らがいたらしい。それは、武の達人とか、仙人とか、そういう人外の領域に足を踏み入れた者が使っていたと、歴史の本に書いてあった。それを、霊圧を使って、誰でも出来るようにしたものを、『瞬歩』という。

 俺が今使っているのは、それの源流。

 一部の者には、『縮地』と呼ばれる、神速の歩法だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日も待ってるんですか?初々しいですね〜」

「そっ、そんなんじゃないですって!」

「え〜。じゃあその手に持ってるのは何ですか〜?」

「これは…。その、喉乾かしてるだろう…って…」

「それもう完全に奥さんのソレですって副隊長」

「お、奥さん……!!?」

 

 な、何を言ってるんですか!?わ、私は彼と…そんな関係じゃ…。

 火照ってる顔をパタパタと仰いで、私は隊舎の正門前でボーッと突っ立っていた。夕日も沈みかけて、瀞霊廷の白が、ほんのり赤く染まる。もしかして、私の顔もあんな感じなのかな…と思うと、また赤くなりそうになった。

 

「はあ…」

 

 腕に巻いた『四』の腕章を動かして、良い感じのところに戻す。その動作をする自分を見て、ふと、思い出すものがあった。

 この『四』の腕章は、山田清之介元副隊長殿から頂いたものだ。実家のご都合で、退職を余儀なくされたあの方の代わりに白羽の矢が立ったのは、私。正直、私では荷が重い。だって、隊首会とかの時の他の副隊長の目が怖い。たしかに、頼りなさそうなのはわかるけど…。けど、そんな私と同じタイミングで副隊長についたはずなのに、その場の雰囲気をまるで気にしない人もいた。

 ──十三番隊副隊長、穂積織。

 もともと、2年間ほど昏睡に陥っていて、目覚めた二週間後くらいに突然副隊長に名を連ねていた。

 副隊長になる為にはいくつか方法があるけど、大体は隊長のソレと同じ。

 試験に合格する。

 隊長格3名以上からの推薦。

 十一番隊のみは例外らしいが、基本はこれだ。私は前者のパターン。座学はともかく、実戦はいっぱいいっぱい。解放して辛うじて勝てたくらいだ。

 一方で彼は、後者。八番隊の京楽春水隊長と、六番隊の朽木白哉隊長。そして、十三番隊の浮竹十四郎隊長。隊長の中でも特に強いとされる実力者だ。そんな人たちに推薦されるって…と、雲の上の感じだったけれども、話してみると案外良い人だったから、殊の外安心した。特にあの状況だったからか、思わず抱きつきかけたほどだが、すんでのところで踏みとどまれた。

 そしてその後、無事試験終了を告げられ、その場で合格を言い渡された。

 私と織さん(好きに呼んで良いと言われた)は、それぞれの隊長から、副隊長の証の腕章を受け取った。それは、ずっしりと重くて。清之介さんたちの思いが込められてるのが分かって、思わず肩が縮こまってしまった。

 そこで、チラッと織さんの方を見ると。

 まるで別人のような眼差しで、その腕章を、懐かしいものを見るような眼で見ていたのが、ひどく儚げで、印象的だった。

 

 





この方には黒桐役で。

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