どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい   作:けし

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テストやらで忙しいのです。人生掛かってますからね笑


第1章 尸魂界編 『進退対極』"The opposite side"
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 十三番隊の縁側。浮竹隊長お気に入りの、日がよく当たる場所。

 朽木は昨日、現世に出た。初の駐在任務だからか、少しばかり緊張をしていたようだが、今のアイツならば、何の問題も無い。

 たとえ死神の力が使えなくなろうとも、鬼道だけで十分対処できる。破道を八十番台まで扱えるのだから、並の虚ならばイチコロだ。

 …さて、うるさいのが来そうだから、ここはお暇してしまおう。

 俺は縁側の柔らかい日の光を名残惜しむ。一歩外に出れば、この光は、暑さしかもたらさないものになってしまうが、うん。それも仕方ない事だろう。

 そしてその後、風に揺られた葉だけを残して、その場を離れた。

 

「隊長ー!薬の時間ですよー!」

「隊長!『俺が』持ってきた薬です!ぜひ飲んでください!」

「あんたねぇ!それは『私が』持ってきた薬でしょ!」

「ははは!まあどっちでも良いじゃないか!」

「「隊長は黙っててください!!」」

「あ……ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋根を飛び越え、瀞霊廷内を隈なく走り抜ける道に、足をつける。目を覚まして、自分を自覚して。それからおよそ50年は経っただろうか。その間、一回も始解をしていない。そのせいか、少々拗ねてしまって、何故か現世のアイスをねだってくる。が、そもそも精神世界に物質を持って行くのはかなり無理があるから、それについては我慢してもらってる次第だ。

 浦原喜助の『転心体』があれば良いのだが、三年前に現世に行った時は、その事を忘れてしまっていた。

 俺と浦原は、顔見知り程度の知り合いだ。もっとも、互いに踏み込んだ関係になろうとはしなかった。あの時の俺もアイツも、最終的には自分の心に境界を引いて、踏み込ませない人間だったから。

 そんな関係だったからか、101年前に四楓院夜一や、当時の大鬼道長の握菱鉄裁が、浦原喜助とともに現世に亡命した時も、いまと同じで、大した感慨は無かった。かなり驚きはしたけれども、周りと比べればかなり冷静だったはずだ。

 思えば、俺がズレているのは、元からだったのかも知れない。

 他人には分からない。それが自分にも分からない。そういう状況が、俺が「死」を認識したことで、変わり始めた。

 自覚があってこういう振る舞いをするのなら、それはなおさら重症なのかも知れない。けれど、俺がここにいるためには、以前の俺のあり方に、則るしかなかった。

 虚無。空。

 それは、俺という存在の代名詞であり、俺の中の空洞そのもの。俺という存在の根底を成す起源。

 ここにいながら、ここにいない。さながら、回遊魚のような。

 尤も、それを知ったところで、俺が変わる事はない。

 だから、今日もいつもの様に、瀞霊廷の外へ向かう。その先は、南流魂街78地区「戌吊」。つまるところ、いつもの修行場だ。

 南へつながる門は「朱洼門(しゅわいもん)」と言うが、そこは案外死神なら簡単に出ることが出来る。俺の場合、すっかり顔見知りになったのと、腕の腕章の存在が大きいのか。取り敢えず、そこの門番に手を上げて挨拶をする。見た目のデカさに似合わず、割と気がいいやつだから、笑顔で返してくる。比鉅入道(ひごにゅうどう)と言う名の死神だ。

 門を出れば、かなり大きい道が遠くまで続いている。目を凝らせば、その果ては僅かに丸みを帯びている。俺はその道を、瞬歩と縮地を織り交ぜて、飛び出した。

 

「おぉーい穂積さん。土産物の礼だぁ…って、あれぇ。居なくなっちまったよ。迅いなあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現世に来たのは…初めてか。

 それにしても、随分とごちゃごちゃしている。色もたくさんで、目が痛い。

 私は今、周りより少し高い柱の一つに立っている。雲のない月明かりのお陰で、暗くはあるがよく見渡せる。今のところ、虚の気配は無いが、油断は出来ない。斬魄刀に手をかける。いつでも抜けるように。

 ふと、少し離れた所に現れる気配があった。

 跳ぶ。途端、弾けるように身体が動く。瞬歩というのは、使えるとかなり便利なものだ。目的地まで早く着くことができる。

 降り立ったそこには、目測で5メートル程の虚がいた。

 誰の目にも留まらないから、光による影はあっても、それは認識出来ない。現世の法則に縛られない。ある意味の自由。しかし、秩序なき自由は、いずれ破綻する。故に、そこに秩序を与える。それこそが、私たち死神の意義。

 尤も、そんな堅苦しい束縛には、海燕殿も、穂積殿も、縛られはしないのだろう。隊長たちも含めて、彼らは自分で定めたルールに従う。一見、奔放に振舞っているようで、それは彼らの秩序の枠の中だ。

 私は、そういう風に在りたいと願った。他人から与えられるルールでなく、自身の心に従ったルールを立てたい。

 その為にも、まずは強くなる。穂積殿からは、「何か違う」と言われたが、それが私が思う最適解だった。

 しゅるりと、斬魄刀を抜く。

 

「はあぁぁぁ!」

 

 縦に真っ二つ。それは竹を割るように。剣術は、霊術院で習ったものから変わらない。非力な私は、剣だけで戦うには不向き。しかし、この程度の虚ならば、何も問題は無い。

 ピントがボケるように、虚の存在は希薄になり、消える。

 刀を鞘に納め、また高いところへ登った。再びの監視。空座町というこの町は、かなり土地に溜まっている霊力が大きい。重霊地と言うものか。

 昼間に見た、橙の髪の毛の男など、妙に霊力の高い人間が多い。潜在的に霊力が高い人間がちらほらと見受けられる。

 

「あの男…。かなり似ていた…」

 

 思い出すのは、先ほどの橙の頭髪。それに連鎖して、黒色が被る。

 50年経っても、あの記憶だけは朧げにはならない。

 

「海燕殿…」

 

 そう呟くと、今の私の根底にある記憶に、触れた気がした。

 

 

 


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