どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい 作:けし
気づいたらランキングやら評価やらが上がっててブルっております。
怖い()
あと、誤字報告ありがとうございます。
「付いていく」は、調べたところこの文字でいいらしいです。勉強になりました。いつもありがとうございます。
ドゴォォン。
たった一発の、大きな花火。その打ち上げ音が、耳を叩いた。
俺は今、十三番隊隊舎の執務室で、書類整理をしていた。門とも離れているし、なにより、そんな花火を打ち上げるような装置も無い。
聞こえた気がした。それだけだった。
首をひねるが、当然何もないわけだから、俺はまた目の前の書類に目を通す。浮竹隊長が体調を崩し気味なので、かなりたまっている。さっさと処理しないと、比喩抜きで潰されてしまいそうだった。
そういう訳で、黙々と。部屋には、ペラ、ペラと紙をめくる音だけが残っていた。
その数瞬後。再び轟音が鳴った。思わず俺は外を見た。
それは、文字通りなにかがぶつかった音。かなり大きな規模の何かが、巨大なエネルギーを持って激突したものだった。
外に出て探せば、西の方が光っていた。屋根に登ると、確かに。何かがあるのが視認できた。
瀞霊廷の空には、一見何もない。開けっぴろげの大空が広がっている。しかし実のところ、そこには一つ、不可視の膜がある。遮魂膜と呼ばれるそれは、外敵の侵入を防ぐ役割を持つ。もちろん、所詮は「膜」だから、そんなに頑丈な訳ではないが、それでも少なからず、瀞霊廷に安寧をもたらしてきたものでもある。
それが今、俺の目の前で、破られようとしていた。
轟音はしばらく続き、そしてその後。弾けるような音とともに、飛来した弾丸は四散した。
あら。膜の方が強かったみたいだな。
「ちょ、あれ見ました!?穂積副隊長!」
「見てる見てる」
「今まで遮魂膜があんななったの見たことないですって!」
「ちょっと落ち着けよ。虎徹、お前案外ああいうの好きなのか?」
隣で煩く喚く虎徹清音をなんとか鎮め、どうせこの後やって来るだろう地獄蝶の連絡を待つ事になる。
「【花鶴射法・継の口上】!」
俺の目の前で、岩鷲が巻物を広げる。人が入れるくらいの大砲の弾に詰め込まれ、ヘンテコな鬼道で打ち上げられてる最中なんだが、この弾、透明なんだよ。そのおかげで吹っ飛んでく景色が目に刺さるんだよ。
岩鷲がなんか唱えてるが、こっちも心の準備ってやつがあるんだ。
ってオイ、チャド!分かってるから静かにしろって!井上はくっついて来るな!ちょっ、助けてくれ石田!
「なんだ黒崎、随分慌ててるじゃないか」
「そういうお前が一番ブルってんじゃねーか!?そこでクールぶるなよ!?」
頼りになる石田の像は儚くも崩れ去った。上っ面は冷静だが、実際は冷や汗がダラダラと流れてるのが遠目でもわかるぞコイツ。いかにも滅却師って格好で来てるのに、その様子だと色々と台無しじゃねーか?
「ぬお!?」
「どうした!?」
「ああくそ!遮魂膜だ!」
「「「遮魂膜?」」」
んだそりゃ?瀞霊廷にはそんな膜があるのか?膜なら突っ込めるだろ?
「こいつぁ霊体の侵入を遮断するんだよ!今の状態じゃあぶち壊すのはかなり無理がある!」
「じゃあどうするってんだ!?」
「その為に口上唱えてたんじゃねえか!手前らちっとは静かにできねえのか!スピードが乗らねえから突っ込めなかったじゃねえか!」
「岩鷲、一護。2人とも落ち着け」
「そうだよ黒崎くん!落ち着いて!」
いや、なんでお前らに言われてんだ?むしろお前らも嬉々として騒いでた側だろ?
ピシ!
ん?ピシ?
「オイ岩鷲。…もしかして」
「……そのもしかしてかもしれねえ」
何…だと…。まさか割れたりしねえだろうな!?そうなったらお終いだぞ!
「岩鷲!」
「無理だ!この装置には修復機能はない!」
ピシピシ!………あ。ちょ。
「チャド。井上。石田」
「どうした一護」
「どうしたの?」
「な…なんだ黒崎」
石田…酔ったか…。いやそういうのじゃなくてだな!
「絶対に、ルキアを助け出すぞ!」
空気を無理やり引き締めようと思って。改めて、俺たちのやるべき事をはっきりさせる。
「ああ」
「もちろんだよ!」
「分かってる、さ…」
そしてその瞬間、俺たちは四散した。俺たちが乗ってきたカプセル──もとい大砲の弾は完全にぶっ壊れ、目の前は真っ白になった。
……石田、大丈夫か…?
「おー、見事に粉々だな」
「花火みたいですね〜」
「虎徹、呑気過ぎないか?」
少なく見積もってもあれは旅禍の類なのは間違いない。何が目的かは知らないが、招集はかかるだろう。隊長に。
まあ、それまで待ってればいいのか。
そう思って、近くのソファーに寝っ転がる。なかなかスプリングが効いていて寝心地が良いのは、つい最近気づいたことだった。
果たしてこの騒動。俺の伽藍を埋めてくれるのだろうか。
「穂積くん!済まないが隊首会に行ってくる!留守を頼むよ!」
「あ、隊長!私も行きます!」
「へいへい」
病気の身体に鞭打ってるのだろうか。どうでもいいけど、慌ててそう言った浮竹隊長に、俺は横になったまま手だけを振って、返事をする。失礼かもしれないが、俺にとってはこの程度で十分だった。
虎徹清音は相変わらず、地の果てまでもついていきそうな具合だが、鬱陶しいのがいなくなるなら、喜んで押し付けよう。罪悪感などは、初めからない。あるいは、この眼を持つ者として、それすらも殺してやろう。
一度、目を閉じる。身体に、刃物を突き立てる感覚だ。
そして、その虚言の痛覚と共に、視界が切り替わる。
そうして、目の前に広がる世界。それは、万物の終焉を記す世界。
俺は、俯瞰する事で、辛うじて折り合いをつけている。紅い線がそこら中に走っていて、なんとも言えない気持ち悪さが込み上げる。
頭の中で、剣をねじ込む感覚。あるいは、過熱する感覚が、はっきりと分かる。そしてそれと共に、さらに多くの線が走る。その線は、モノだけでなく、空中にまで顕れる。空の線は、一体何を殺せるのか。
多分俺は、以前にも、似たような好奇心を持った記憶がある。
「く……」
視界から紅が消え去る。脳髄を焦がしていた熱は、初めから無かったように消え去り、現実がそこに座り込む。気付けば、あちらこちらで騒ぎの声が聞こえた。旅禍が散らばった事で、そこらの隊士がパニックになったらしい。
ふと、窓の縁に、黒い蝶が止まった。
俺は、何かが始まる気がして。いつもなら、すげなくあしらう上の命令に、従うことにした。