どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい 作:けし
少し間が空いたけど、許してください。
テストやらでモチベがダダ下がりしているもので。
地獄蝶を介して伝えられた命令は単純。そして予想通りでもあった。
『旅禍を見つけ次第、捕縛あるいは打倒せよ』
それもそうだ。旅禍に対して情など不要。彼らは災いをもたらすものだから。しかし、俺にとっては少し違う。
災いは、非日常。そしてそれは、平穏に打たれる終止符。マイナスのイメージが付いて回る。しかしそれは、転ずれば新たな何かが始まるのだ。
俺は、腰のナイフを引き抜いて、手の中で弄んだ。
斬魄刀を腰に挿す。そのまま、隊舎の外へとでた。
蜂の巣を突いたような大騒ぎが、鼓膜を叩く。鬱陶しいとさえ思えるそれをBGMに、呑気に瀞霊廷内を歩き回る。暫くは書類から解放されるだろうという腹積もりだ。こういう面でも、旅禍の来襲はいい文明だ。
ふと、思い至る。旅禍の目的とやらに。このタイミングでやって来たという事は、目的は朽木の救出なのではないか。少なくとも、旅禍と白哉は、面識があってもいい筈だ。ならば、朽木から力を受け取った男がいる。
興味が湧いた。ただ、それだけ。殺そうとは、まだ思っていない。むしろ、朽木のためを思うなら生かすべきなのだろう。自身の霊圧を、死神として存在しうる限界以上に明け渡したのだ。
しかし、それでも。俺にとって万象は、究極的には殺せるか殺せないかでしかない。そして、少なくとも今まで、殺せない存在と出会った事はない。万物に、終わりだけは共通しているから。
「面白ければ、良いんだけどな」
スッと、腰にナイフを戻した。視界にはいつもの色が浮かぶ。そこには終わりが映らない。みんなは、今という時間にしがみ付いて、生きているのだ。
「あ」
「あぁ?なんだ穂積じゃねえか」
そうしているうちに会ったのは、暇そうに歩き回る坊主頭とおかっぱ頭。
「テメェ今失礼な事考えたろ」
「何言ってんだ」
「…チッ。いけ好かねえやつだぜ。相変わらず」
「つーか、お前ら何してるわけ?」
暇だから。こうして歩いていて、旅禍に出会えば儲けもの。そのくらいだろう。──特に、十一番隊の人間は。
『戦闘専門部隊』とは、こいつらの事だ。
護廷十三隊は十三の隊に分かれているわけだが、それぞれが担う役割というのがある。
例えば、一番隊は全隊統括。
例えば、二番隊は隠密機動の統括を兼任する。
例えば、四番隊は回復・後方支援。
そんな感じで、十一番隊は、先陣を切る役を負う。
まあ、それと言うのも、コイツらの隊長が『剣八』とか言う名を代々名乗っているからだ。今更な話ではあるが。だから必然的に、目の前のハゲを筆頭に、荒くれ者が揃うわけだ。
今代の剣八は、過去に類を見ないほどの力を持つとされる。始解も、卍解も持たずに、その領域に立つのだから、戦闘専門部隊の脳筋ぶりが伺える。隊花に鋸草を掲げるのは、彼らのアイデンティティーだ。
「ん?」
なんやかんやで、3人で動くことになっていた。思考の海に潜っていたからか、経緯が記憶にない。そんな事を気にするようなやつでは無いだろうが、個人的に気持ち悪い。モヤモヤする。
「どうした弓親。何か見えるのか?」
「ああ。一角。どうやら向こうからお出ましだ」
「…へえ。そいつは──」
ツイてるぜ。そう口にした。悪運だけは高い。それが、髪を失った代償か。そんなどうでもいい冗談を、斑目の喧嘩売ってくるような視線と共に流し、綾瀬川の言う方向に目を向ける。
「へぇ。随分と面白そうだな」
思わずニヤリと、口角が上がった。無意識に、背中のナイフに手が伸びる。虚との戦いは飽きていた。作業のようなそれは、望むような殺しではない。突き詰めても作業と同じ。人相手にするのは、一味も二味も違う筈だ。
自身が外道でないとは、決して否定しない。そこまで聖人君子じゃないし、そう偽るつもりも無い。
殺気。思わず、「殺したい」と。そんな欲望が滲んだ。
「オイ」
そしてそれは、もう一つの殺気によって、潰された。
正確には、その殺気のせいで、興が削がれた。もう、眼前に立つ旅禍は、「殺す」対象から外された。
だけど。
「ちっ。そろそろウンザリだ。アンタらも邪魔すんのかよ」
「手ぇ出すなよ弓親。穂積もだ。──コイツは俺の獲物だ」
「分かってるよ一角」
俺の返答は無言を以って代えられた。沈黙は是なり。意識したわけでは無いが、相互理解は成立していた。
俺の無言は、驚きに端を発していた。
髪の色こそ違い。声も違い。斬魄刀も違う。だけど。
そいつは、まるで。
(海燕……)
生き写しのような。そんな面影を持つ、橙の髪の死神。出刃包丁と、悪そうな目つきが印象的な、ガキだった。
またかよクソッ!足止めくらいすぎると、処刑の時間に間に合わねえ!
「悪いが時間はかけられねえ。ソッコーで終わらせる!」
「やれるもんならやってみろ!」
どうやらこのハゲは
つーか、斬魄刀と鞘で二刀流の真似事かよ!しかも強えーし!
「へぇ。旅禍の割にはやるじゃねえか。テメェ、名前は?」
「人に名乗るなら、まず自分からだろ」
「ふん。俺は斑目一角。あとコイツはハゲじゃねえ。剃ってんだよ!」
「さりげに心読んでんじゃねえ!ったく。…黒崎一護だ」
「一護…か。覚えたぜ」
「さっさと、忘れろ!」
再び拮抗する。斬月とコイツの斬魄刀が切り結び、火花を散らす。
「いいぜぇ…お前!楽しくなってきたじゃねえか!」
「くっそ、時間がねえのに!」
「慌てんなよ。急ぐと事を仕損じるぜ?それに、こっからが本番だろ!」
そう言うと一角は、刀の頭と、鞘の尾を打ち合わせた。そして、霊圧が上昇したのを感じた。
「伸びろ、『鬼灯丸』!!」
クソッタレ!やっぱここからかよ!ああもう!
仕方ねえ。こうなりゃ──。
「行くぜ。こっからは、手加減なしだ」
「余裕こいてんじゃねえぞ!」
今度は互いに本気で、そこらが抉れるほどの霊圧の渦の中。
俺たちは、再び激突した。