どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい 作:けし
エタッたわけでは無いのです。今後しばらく、かなり間が空きます。月単位になりかねませんので、一応ここに宣言しておきます。
目の前で続けられていた戦闘は、案外呆気なく終わった。オレンジの髪の死神が勝った。斑目は、死んではいない。しかし、四番隊の詰所で、治療を受けるべき怪我は負っている。途中で綾瀬川はフラ〜と何処かへ行ったまま。つまり、ここに居るのは俺1人と言うことになる。
「はぁ」
「はあっ、はあっ。…っ、次は、テメェかよ…」
月並みに言うと、諦めない意思。そんなものが込められた、強い目を見た。種類は違うと思うが、紛れもなくそれは、記録の中の海燕が湛えていたそれに、よく似ていた気がした。
この死神、いや、正式には恐らく『死神代行』と言うべきだろうか。黒崎一護を名乗るこの男は、斬魄刀と言う名の出刃包丁の切っ先を、俺へと向けた。
拙いが、そこそこ形になっている戦闘技術。あえて言うならば、時間が足りなかったと言うところだろう。
俺は、斬魄刀では無く、やはりナイフを向けた。怪訝な目を向けたが、疲弊故か、疑問に抱くこともないようだった。
「なあ」
「……」
「オマエ、何のためにここに来たんだ?」
「…ルキアを、助けるため」
「なぜ」
「俺の大切な、仲間だから」
ラグも無く答えた。少なくともこの男は、ルキアの事を仲間だと思っている。本心から。
荒く動いていた肩は静止し、息も整っている。戦うつもりだが、既にこちらには、戦闘の意思がない。そもそも、殺す気が失せた時点で、コイツは殺さない。
しかし、それを差っ引いても、聞いておきたい事があった。
「どうやって」
「は?」
「だから、方法だよ。既に朽木は極刑──つまるところの死刑が決まっている。死神の力の譲渡は、確かに重罪らしい。わざわざ双極まで持ち出して執行するんだとさ。そしてそれは、多分2〜3週間後という予定になってる。すぐに刑が執行されることは無いから、オマエらの存在も含めたイレギュラーが無ければ、この調子で進んでたはずだった」
「それが、どうしたってんだよ」
「分かるだろ?刑の執行が早まってるんだ。気持ち悪いくらいにな。俺たちは、中央四十六室を最高意思決定機関として置いている。ま、コイツらの命令に従って、俺たちは任務やら何やらを全部やってる訳だ」
とどのつまり、時間がない。元々黒崎一護が懸念していたことではあるが、実際はそれに輪をかけて時間がない。
何故かは知らないが、四十六室は執行する日をどんどん早めている。一刻も早く刑を執行したがっているようにも見えるその行動は、俺から見ればかなりおかしい。尤も、脳筋を含み、この護廷十三隊は四十六室の決定に従うしかないから、疑問は抱いても反抗出来ない。
───だからどうした。そんなもの、俺には何の枷にすらならない。
「それだけじゃない。まずもって、オマエに力が無い。隊士を蹴散らしたくらいで、障害物が無くなったなんて考えられるほど、馬鹿じゃないだろ。力を手にしない限り、オマエは何も出来ない。幽閉されてる朽木の下に、辿り着くことも叶わない」
「それでも、俺は行くぜ。何度も言わせんなよ。ルキアは俺の仲間なんだ」
青白い霊圧が、黒崎一護の全身にまとわりつく。へぇ、かなりの霊圧だ。それこそ、俺や他の隊長たちとタメ張ることが出来るくらいには。
それが斬魄刀に流れ込み、その密度が上昇して行く。黒崎は不意に、上段に構えた。
「月牙天衝!」
放たれる爆発的な霊圧。斬撃を放ったようで、地面を抉りながら、猛スピードでやって来る。しかし、こういうものは。
──案外、殺し易い。
「直死───」
脳が少しの熱を持った。同時に、視界に、ある概念が顕現する。
俺はナイフを順手で握り、何の構えもなく、線をなぞって横に一閃した。
ナイフの切っ先が、「死」を捉える。
「───!?」
黒崎の目が驚愕の念に染まる。確かに、さぞ驚く事だろう。さっきの技、かなりの密度で霊圧が固められていた。高い攻撃力を持つのは、一目して明らかだ。
しかし。形を持つ事とは、世界とより強固な繋がりを持つことに等しい。そしてそれは、確固とした存在基盤を築く。故にこそ、そこに死が生まれる。世界に存在すること。形を持つこと。──全ては死につながる。俺の眼は、終わりを手繰り寄せ、それを殺す。
俺は俺以外にこの眼を知っているやつを知らない。俺が誰にも教えていないのだから、当然だろう。だが、もし知っているやつがいたら。『何故、俺はこの眼を持っているのか』と。そう、問いかけてみよう。
「何…だよ……。それ…」
「はぁ。ま、今の俺は、オマエを殺したりなんてしないさ。殺す気も失せたしな」
それと同時に、瞬歩で距離を潰し、どてっ腹に蹴りを打ち込む。線の隙間を縫うように放ったから、死にはしない。
「ぐあぁっ!」
黒崎は、身体をくの字に曲げて、背中から壁に突っ込んだ。割と厚めに作られている壁に大穴が開きそうな具合だ。俺は視界を閉じ、
「が…っ、逃げ、るのか…?」
「なんだ、戦いたいのか?俺は一向に構わないぜ?ま、オマエじゃ俺には勝てねーけどな」
「ンなこと、やって、みなきゃ、分からないだろ」
「……、あまり調子に乗るなよ。本気で殺すぞ。俺に、殺人をさせてくれるな。自分の目的を履き違えるな。今オマエがやるべきことを、見誤るんじゃない。時間がないとか言ってたのはオマエだろ。得意げに鼻を伸ばすな。イライラするんだよ」
「───っ」
「イライラついでに、もう一つだ。オマエ、今のままじゃ死ぬぞ」
放つのは、殺気では無く、それとよく似た怒気。同じ相手に2度も殺気を抱くなら、そいつは本心から是が非でも殺したい相手になるだろう。だから、オマエを殺したいだなんて、思わせないでほしい。
死神代行・黒崎一護。どこぞのおはぎ好きによく似た、人間の小僧……か。
俺は、去り際に忠告を残し、斑目を四番隊へと運ぶために去った。綾瀬川は霊圧知覚ができるはずだから、勝手しても問題ないはずだ。
「──勿体ないこと、したなぁ」
出来れば、1回目で。初接触で。1度目の殺気で。
───殺してやりたかった。