どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい   作:けし

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エタッたわけでは無いのです。今後しばらく、かなり間が空きます。月単位になりかねませんので、一応ここに宣言しておきます。


14

 

 目の前で続けられていた戦闘は、案外呆気なく終わった。オレンジの髪の死神が勝った。斑目は、死んではいない。しかし、四番隊の詰所で、治療を受けるべき怪我は負っている。途中で綾瀬川はフラ〜と何処かへ行ったまま。つまり、ここに居るのは俺1人と言うことになる。

 

「はぁ」

「はあっ、はあっ。…っ、次は、テメェかよ…」

 

 月並みに言うと、諦めない意思。そんなものが込められた、強い目を見た。種類は違うと思うが、紛れもなくそれは、記録の中の海燕が湛えていたそれに、よく似ていた気がした。

 この死神、いや、正式には恐らく『死神代行』と言うべきだろうか。黒崎一護を名乗るこの男は、斬魄刀と言う名の出刃包丁の切っ先を、俺へと向けた。

 拙いが、そこそこ形になっている戦闘技術。あえて言うならば、時間が足りなかったと言うところだろう。

 俺は、斬魄刀では無く、やはりナイフを向けた。怪訝な目を向けたが、疲弊故か、疑問に抱くこともないようだった。

 

「なあ」

「……」

「オマエ、何のためにここに来たんだ?」

「…ルキアを、助けるため」

「なぜ」

「俺の大切な、仲間だから」

 

 ラグも無く答えた。少なくともこの男は、ルキアの事を仲間だと思っている。本心から。

 荒く動いていた肩は静止し、息も整っている。戦うつもりだが、既にこちらには、戦闘の意思がない。そもそも、殺す気が失せた時点で、コイツは殺さない。

 しかし、それを差っ引いても、聞いておきたい事があった。

 

「どうやって」

「は?」

「だから、方法だよ。既に朽木は極刑──つまるところの死刑が決まっている。死神の力の譲渡は、確かに重罪らしい。わざわざ双極まで持ち出して執行するんだとさ。そしてそれは、多分2〜3週間後という予定になってる。すぐに刑が執行されることは無いから、オマエらの存在も含めたイレギュラーが無ければ、この調子で進んでたはずだった」

「それが、どうしたってんだよ」

「分かるだろ?刑の執行が早まってるんだ。気持ち悪いくらいにな。俺たちは、中央四十六室を最高意思決定機関として置いている。ま、コイツらの命令に従って、俺たちは任務やら何やらを全部やってる訳だ」

 

 とどのつまり、時間がない。元々黒崎一護が懸念していたことではあるが、実際はそれに輪をかけて時間がない。

 何故かは知らないが、四十六室は執行する日をどんどん早めている。一刻も早く刑を執行したがっているようにも見えるその行動は、俺から見ればかなりおかしい。尤も、脳筋を含み、この護廷十三隊は四十六室の決定に従うしかないから、疑問は抱いても反抗出来ない。

 ───だからどうした。そんなもの、俺には何の枷にすらならない。

 

「それだけじゃない。まずもって、オマエに力が無い。隊士を蹴散らしたくらいで、障害物が無くなったなんて考えられるほど、馬鹿じゃないだろ。力を手にしない限り、オマエは何も出来ない。幽閉されてる朽木の下に、辿り着くことも叶わない」

「それでも、俺は行くぜ。何度も言わせんなよ。ルキアは俺の仲間なんだ」

 

 青白い霊圧が、黒崎一護の全身にまとわりつく。へぇ、かなりの霊圧だ。それこそ、俺や他の隊長たちとタメ張ることが出来るくらいには。

 それが斬魄刀に流れ込み、その密度が上昇して行く。黒崎は不意に、上段に構えた。

 

「月牙天衝!」

 

 放たれる爆発的な霊圧。斬撃を放ったようで、地面を抉りながら、猛スピードでやって来る。しかし、こういうものは。

 ──案外、殺し易い。

 

「直死───」

 

 脳が少しの熱を持った。同時に、視界に、ある概念が顕現する。

 俺はナイフを順手で握り、何の構えもなく、線をなぞって横に一閃した。

 ナイフの切っ先が、「死」を捉える。

 

「───!?」

 

 黒崎の目が驚愕の念に染まる。確かに、さぞ驚く事だろう。さっきの技、かなりの密度で霊圧が固められていた。高い攻撃力を持つのは、一目して明らかだ。

 しかし。形を持つ事とは、世界とより強固な繋がりを持つことに等しい。そしてそれは、確固とした存在基盤を築く。故にこそ、そこに死が生まれる。世界に存在すること。形を持つこと。──全ては死につながる。俺の眼は、終わりを手繰り寄せ、それを殺す。

 俺は俺以外にこの眼を知っているやつを知らない。俺が誰にも教えていないのだから、当然だろう。だが、もし知っているやつがいたら。『何故、俺はこの眼を持っているのか』と。そう、問いかけてみよう。

 

「何…だよ……。それ…」

「はぁ。ま、今の俺は、オマエを殺したりなんてしないさ。殺す気も失せたしな」

 

 それと同時に、瞬歩で距離を潰し、どてっ腹に蹴りを打ち込む。線の隙間を縫うように放ったから、死にはしない。

 

「ぐあぁっ!」

 

 黒崎は、身体をくの字に曲げて、背中から壁に突っ込んだ。割と厚めに作られている壁に大穴が開きそうな具合だ。俺は視界を閉じ、眼を開く(現実を見る)。ナイフを腰にしまって、未だぐったりしている斑目を肩に担ぐ。本人が倒れたせいで、自然と封印された斬魄刀を拾い上げた。

 

「が…っ、逃げ、るのか…?」

「なんだ、戦いたいのか?俺は一向に構わないぜ?ま、オマエじゃ俺には勝てねーけどな」

「ンなこと、やって、みなきゃ、分からないだろ」

「……、あまり調子に乗るなよ。本気で殺すぞ。俺に、殺人をさせてくれるな。自分の目的を履き違えるな。今オマエがやるべきことを、見誤るんじゃない。時間がないとか言ってたのはオマエだろ。得意げに鼻を伸ばすな。イライラするんだよ」

「───っ」

「イライラついでに、もう一つだ。オマエ、今のままじゃ死ぬぞ」

 

 放つのは、殺気では無く、それとよく似た怒気。同じ相手に2度も殺気を抱くなら、そいつは本心から是が非でも殺したい相手になるだろう。だから、オマエを殺したいだなんて、思わせないでほしい。

 死神代行・黒崎一護。どこぞのおはぎ好きによく似た、人間の小僧……か。

 俺は、去り際に忠告を残し、斑目を四番隊へと運ぶために去った。綾瀬川は霊圧知覚ができるはずだから、勝手しても問題ないはずだ。

 

「──勿体ないこと、したなぁ」

 

 出来れば、1回目で。初接触で。1度目の殺気で。

 ───殺してやりたかった。

 

 


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