どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい   作:けし

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本当はね。
この人が出てくる予定はなかったんだ(遠い目)


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勇音との会話という、予期しないイベントの後、何日かが過ぎた。特に前線に出る事のない俺は、書類処理もないわけだから、やはり暇を持て余すわけで。

朽木の処刑も、その期日が縮められる事があった。四十六室は何を考えているのか。まあ、頭が硬いヤツらだから、朽木が考えもしないことを考えているのだろう。大方、見せしめだとか、その程度なんだろうけど。

阿散井がやられただとか、更木十一番隊隊長がやられたとか、そういう事が飛び交っている。面白そうだ。

と、例によって隊舎のソファーで寝転がっていると、慌てたように地獄蝶が飛んできた。

 

「へえ……」

 

なるほどと。俺は笑った。この護廷十三隊で、最も腹黒なやつが、殺されたらしい。

藍染惣右介。護廷十三隊五番隊隊長。ぱっと見温厚そうなメガネ。妙に気にくわないやつだ。というか、ぶっちゃけ嫌いだ。胡散臭い。いつも笑ってやがる。

何より不思議なのは、どこにいるかが分からない点だ。声も匂いも姿も、俺の五感は、藍染がそこにいると確かに認識してるのに、それに本来あるべき「線」がない。たまに見かける程度だが、何回やっても同じだった。

一瞬、殺せないのかと思った。だけど、そんな事はあり得ない。例え最強の死神であっても、虚であっても、その両方であっても。遍く万物には綻びがある。故に、殺せない物はない。

恐らく、俺以外には気づけない。アイツは、別の場所にいる。直死の魔眼は、あらゆる万物の終わりを見る。空間に映るそれは、文字通り空間を殺す。それを知ったのは、昨日の話だったけど。そう言えばその時、くぐもった声みたいな、痛みをこらえるような声が聞こえたような気がした。あまりにも小さい声だから、空耳だと思ったが。

さて、件の藍染惣右介は、悠々と、別の場所を歩いていた。俺には見えない。だけど、そこにいる事はわかった。他の空間よりも、線の密度がはるかに濃い故に。人型に集った、線の塊。それが俺の目に映る、藍染惣右介だった。何故それが藍染惣右介だと分かったのか、確固とした理由なんて無い。だけど、そんなもの、今の俺には必要のないものだ。

存在のズレ。認識のズレ。ここまで来ると、これは意図的だ。アイツはわかってて、そう動いている。不穏な気配を感じる。…が、それもまた一興なのかも知れない。

身の回りに起こるイレギュラーは、面白い。この先何が起ころうと、それが俺を満たしてくれるのなら。

バンッと、勢いよく扉が開いた。

 

「聞いたか、穂積くん」

「藍染隊長が殺されたって話ですか?聞きましたよ」

 

開口一番、冷や汗を垂らして浮竹隊長はそう口にした。その一件に、周りはたいそう驚いている。外面は良かったらしい。浮竹隊長は人を信じやすいから、あまりアテにはならないけども。

 

「で、それがどうかしたんですか?」

「随分とドライだな…」

「まあ、俺、嫌いなんですよね。藍染隊長のこと」

 

そうなのか?と、意外そうな目で見てくる。人当たりのいい八方美人な性格だったからか、「藍染が嫌われる」という事が考えられないらしい。

 

「そういえば、藍染隊長って、どんなにして戦うんです?」

「ん?ああ、彼の斬魄刀の名は確か、『鏡花水月』。流水系の斬魄刀で、水の乱反射で敵を惑わせて、同士討ちをさせるらしい。対象の指定ができないから、味方まで巻き込むかもと言って、実演までして懇切丁寧に説明してくれたよ」

「ふーん……」

 

鏡花水月。その意は確か、「目に見えていながら、手に取る事ができないもの」。有り体に言えば、精巧な幻。斬魄刀の名前と、斬魄刀の能力は、必ずとは言えないまでも、少なからず関連がある。そう考えると、水で幻惑するという力は、決して強い違和感を覚えない。ただ、俺の直感が、そうでないと訴える。

元々、理論より感覚派な俺は、その直感の方を信じた。

則ち、藍染は黒。あまりにも精巧な幻が作れるのなら、それは現実と変わりない。全ては偽装だろう。

そしてその結果が、俺の目に映る2人の藍染惣右介なのだと。

いつからかは分からないが、護廷十三隊の全てが、あの男の掌の上という訳だ。

 

「ま、そのうちひょっこり出てくるかもしれないな」

「ハハ、そんなタチの悪いジョークはよしてくれ」

 

笑って流すが、案外現実味があるのだ。俺には、笑えない。

 

「で、五番隊はどうなるんです?」

「藍染隊長の訃報には、彼らが一番動揺している。特に副隊長の雛森君がね。だから、しばらくは静観だろう」

「…ま、妥当かな」

 

そう言うと、俺は立ち上がった。

 

「どこへ行くんだい?」

「散歩」

「この状況でか?」

「別にいいだろ。そう簡単にやられはしないさ」

 

浮竹隊長は、疲れたような顔でため息を吐いた。その顔には、諦めにも似た感情が流れていて。額に手を当てていた。

 

「まあ、君の放浪癖は今更だし、俺からは何も言わない。ただ…。無事に帰ってくるんだ」

「………、善処しますよ」

 

俺は、いつものように、南へ向かった。例え警戒態勢下だろうと、門が閉じられていようと関係なく、その習慣は変わらなかった。

 

 

 

 

 

日は傾き、あたりは暗くなっていた。時間も時間だから、とりあえず浮竹隊長の所に一旦戻ろうと、俺は瀞霊廷の近くまで来ていた。そこまで来れば、外を照らすのは、壁に掛けられた松明のみ。だけど、そんなことは気にせず、普通に歩いて、ちょっとした広場に出た。

 

「見てるんだろ。誰だか知らないけど」

 

周りを見渡しても、誰もいない。気配も何もない。直感にも引っかからない。だけど、いる。まるで、空気に溶け込むような。一体となったかの様な。

俺の斬魄刀を解放した場合、そういう、「空間に作用する能力」が断ち切られてしまう。だから、もしそうだった場合は、ぶっちゃけ関係ないけど、色々とめんどくさい。だからこうして、確認するわけだが。

ぐにゃぁと。空間が歪んだ。

 

「ほう。私に気づいていたのか」

 

現れたのは、優男。貴族然とした、長髪の男。一切の見覚えのない男。

 

「気づいてた訳じゃない。ただ、おかしいと思ってただけだよ。というか、なんで出て来たんだ?戯言と思って、無視すると思ってたんだけど」

「ヤツがお前の事を五月蝿く言うものだから、こうして顔を見にきただけだ。それにしても、…ふむ」

「なんだよ。気持ち悪い。言っとくが、俺は男だぜ?」

「そう言うものではない。中々、不可思議な力を持っているものだ」

「へえ。分かるのか?それとも、当てずっぽうか?」

「私はハッタリは言わん。嘘なぞ、つくだけ無駄だ」

「オマエ、面白いな。空気に溶け込んだり、()()()()()()()()()()()のも、オマエの能力か?」

「ほう。やはり、惜しいな。貴様ならば、なんの情もなく、ただただ虚を廃絶できるだろうに」

 

目の前の男は、顎に手を当てて、残念そうな目を向けて来た。

 

「で、オマエ誰だよ」

「名前を名乗る必要はない。…と言いたいところだが、お前とはまた会うだろう。その為には、名がいるな。…私は痣城双也。8代目剣八だ」

「!…8代目剣八か。確か、投獄されてたんだっけ?まあいいや、一応俺も名乗っとくが、要るか?」

「一応、受け取っておこう」

「俺は穂積織。十三番隊副隊長だ」

「ふ、貴様が副隊長とは。笑い話だな。今の護廷十三隊は、随分甘くなったらしい」

「そう言ってやんなよ。こうも平和だと、鈍っちまうのは仕方ない」

「関係ない。死神は機械的に、何も思う事なく、その役割を果たすべきなのだ。…それと、お前の能力(チカラ)、使うのは構わん。その時だけ、能力を止めよう。下手な小細工は、切って捨てられてしまう様だからな」

 

そう言った男は再び、解け、溶けるように消えた。無駄を嫌う性分のようだが、そんな無駄を、捨てきれてはいないようだった。

そして、その男の横に、変な顔の女がいた。一瞬だけこっち見て、笑っていた。甲高い笑い声が、幻のように響いて来て。顔をしかめることになった。

 

 

 

 






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