どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい   作:けし

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お待たせしました。
遂に斬魄刀の登場です。
え?もっとひねれって?りーむーですよ。


19

「面を上げろ、『侘助』」

 

 それは、解号。死神が個々で待ち合わせる、いわば解放の呪文。

 幕は切って落とされた。ナイフを握る手に力がこもる。自信がない訳じゃない。倒す技術はコイツらが上でも、殺す技術は俺の方が上だ。そもそも俺には、殺すことしかできないのだから。

 

「チッ、その目。マジで戦うつもりか?このご時世に内乱とか…」

 

 ますます面白い。想像以上の混乱ぶりだ。藍染の掌の上である事を思うと、素直に喜べないものではあるが。

 

「ハッ!」

「!」

 

 二度曲がった刀。その形状は、狩ることに適している様に感じられた。そして、その直感が間違ってなかった事を知るのは、それから少しの後だった。

 キンキンと、ナイフと刀が斬り結ぶ。間合いは向こうが有利ではあるが、至近距離ならば取り回しが容易いナイフが有利。

 故に、接近しながら、攻撃を払い、懐へ潜り込むのが適。

 あと三歩。手を伸ばしても届かない距離。俺は吉良の刀を大きく払って、一気に踏み込もうとした。

 

「!?……重…っ」

「元が軽いから、効果が現れるまでに少し時間がかかったね」

「効果…だと?」

 

 吉良はその細い目を俺に向ける。俺は、急に重くなったナイフを、かろうじて持っている様な、隙だらけの状態だった。

 その重さ、体感で15キロくらいか。子どもを1人抱えてる程の重みに近い。

 

「僕の『侘助』は、斬りつけた物の重さを倍にする。二度斬れば更に倍、三度斬ればそのまた倍」

「へ…ぇ、そういう、ことか……」

「そして、斬られた相手は重みに耐えかね必ず、地に這いつくばり、詫びるかの様に頭を差し出す」

 

 勘でなく、頭で理解した。なんとも暗鬱な能力だ。だが、それが現実有効である事は、今目の前で証明されている。

 

「故に、『侘助』」

 

 その理論で行けば、5回斬り結んだ俺のナイフは、2の5乗倍、即ち32倍の重さを持つことになる。

 膂力では吉良に勝るとも劣らない。むしろ俺の方が下なまではある。だから、この状態は非常に不利なわけで。

 能力を殺すにしても、能力自体の線が、ナイフの線と見分けがつかない状態だ。

 

『良い機会なんじゃないのか?』

 

 内側から響く声。機会だって?

 

『そのナイフ。お前たちを物的にも、心的にも結びつけるたった1つのものだぜ?』

 

 その一言で、俺は言わんとする事を理解した。

 機会とはすなわち、訣別。

 だけれども。ここで手放せば、俺は彼女の力を手にすることができる。それでも、俺にはまだ、躊躇いが残っているらしい。

 

「…………」

 

 沈黙。俺と吉良でなく、俺とコイツに。

 

『捨てなきゃ、今のお前に俺は使えない。どうするかはお前次第だ。俺は何も言わないぜ?』

 

 ふと、脳裏に、勇音の言葉が流れ込む。

 

 ───織さんは織さんですよ。

 

 俺も勇音も。互いのことは全く知らない。その付き合いだって、そんなに親しくもないし、知り合い程度のものでしかないはずだ。それでも、そう言ってくれる人がいる。穂積織を見てくれる人がいる。

 

「ハハ、なんだよ。やっぱり、優しいよな、()

「いきなり笑うなんて、どうしたんです?イカれましたか?」

「口を閉じろ猿。命令に従うだけの人形が。一丁前に敵ぶってるんじゃない」

 

 踏ん切りが──いや、元々そうあるべきだったんだ。だから、これは当然で、必然の帰結。

 

『ああ、待ちくたびれたぜ。優柔不断なやつだよ、全く』

 

 全くだ。情けなくて涙が出る。笑いがこみ上げる。

 俺は両手でナイフを構えた。そしてそれを───。

 

「最後だ。()()らしく、散ってきやがれ」

 

 全力で投擲した。ブゥンという鈍く風を切る音が鳴り、その刃はあっさりと、叩き落とされた。

 それでも記録は消えない。それが、本当に他人のものになっただけで。いつでも鑑賞可能なフィルムになっただけで。

 俺は月を見上げて、顔に手を当てて。

 

「ああ、感謝するぜ吉良。オマエが、わざわざ機会を与えたんだからな」

「何のことだ」

「いや、気にすることはない。ああ、───これから死ぬ人には、何も答える必要はないってことだよ」

 

 その瞬間、吉良は構えて、流れる様に突進する。

 だが、見える。俺は、()()()()()()、改めて、実に40年ぶりに、その解号を口にした。

 

「開境しろ───『唯式』」

 

 瞬間、あたりからうざったい視線が消え失せ、重たい圧がのし掛かる。同時に、ギギギ、と何かを削り刻む様な音が聞こえた。

 形状に変化はない。解放しても、封印時と同じ様な形状。

 一振り。それで、吉良の突進を弾いた。同時に感じた、ナイフとは違う、懐かしく、心地良い重み。それすらも実に40年ぶり。何もかもが、違って見える。月明かりに関係なく、死はあちこちに忙しなく現れる。いつも通りで、そして違っていて。心が軽い。

 

「…それが貴方の斬魄刀ですか」

「ああ。解放するのは、40年ぶりだけどな」

「へぇ。でも関係ないですよ。斬り合えば必ず、あなたは頭を垂れる」

「そいつは、どうかな───」

 

 ボウ。わずかに淡い光を纏う。月明かりに紛れて、吉良は気づかない。微細過ぎて、誰にも分からない変化。そしてそれこそが、俺の斬魄刀『唯式』の真骨頂。

 5合、7合、10合。いくら切り結んでも、変化は現れない。

 

「なぜだ!すでに君の斬魄刀は、振れるような重さじゃあ無いはずだ!」

「知るかよ。そんなもの、てめえの頭でハッキリさせてみろ」

 

 15合目。埒があかない。まだ俺は調子が掴めないから、本調子でない。しかし、今はあまり時間がない。

 

「悪いが、終わらせるぜ」

「!!そうはさせない」

「いいや。まかり通るさ。───【潰式四相(ついしきよんそう)現行(げんぎょう)】」

「!?これは──!」

 

 意識が前方へ閉じる。脳が熱を持ち、世界が崩れる。現れたのは、子供が引いたような乱雑な線たち。しかし、俺は意にも介さない。俺は、吉良の身体に走るソレを、ただ撫でるように斬っただけ。

 

「っ!?…身体に、力が、入ら、ない…っ!──何も、感じない!?」

「オマエの身体、一時的だけど殺させてもらった。安心しろよ、すぐ戻る。元々殺す気なんてなかったしな。あ、でも追っかけてくるなよ。…【縛道の六十一・六杖光牢】」

 

 光の板が、六枚で吉良をそこに縫い付ける。あらゆる感覚が閉じられた吉良は、絶叫を絞り出していた。それを見届けて、俺は再び日番谷隊長のところに戻った。

 その途中、初めから縛道で縫い付ければよかったという思いと、目的やらを聞きそびれたことを思い出すが、どっちしろアイツは知らないだろうと思い直し、俺はその路を急いだ。

 

 

 




吉良くんへの六杖光牢は、ある種の救済。
まあ、感覚全部不能になったから、立ってるかも落ちてるかもどこにいるかも分からないしね!

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