どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい   作:けし

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どうも。(生存報告)
最近はかなり大変でして。
戦闘シーンがないって?大体そんなもんだろ?(すっとぼけ)


20

 可能な限り急いで、四十六室へ戻る。そこには、やはり賢者の死体が転がっていた。何かある度に口うるさい奴等ではあるが、死んで何も言わなくなると、いっそ厳かにも見えるから不思議だ。

 普段あったはずのものが無いというのは、かなりの違和感をもたらす。腰のナイフは鞘だけを残して消えた。───俺が、殺した。

 ふと気付けば、空虚だった俺の(なか)が、いつにも増して、伽藍としていた。

 ああ、これが。これが、俺が今まで抱えていたモノの重さなんだ。

 そう、知ってしまった。

 後悔なんて無い。あれは俺の自由意志なのだから。何かを手に入れるのに、何かを捨てなければいけない。そう分かっていても。やはり、空っぽというのは、どこか御し難い虚しさがあった。

 

「…松本副隊長。日番谷隊長は?」

「隊長なら、雛森を追いかけていったわ」

「……そうか」

 

 雛森が現れたという。どこかで牢に放り込まれたらしいが、どうやら抜け出したようだ。そのくらいは造作もないことなのだろう。

 

「───!!」

「!…隊長……!?」

「…なんつーか、隊長がこんな沸点低くていいのかよ。やっぱ、まだ子供ってことか」

「アンタねぇ…」

「で、どうする?ここからそう離れていないみたいだし、追っかけるか?」

「今の私達が行っても、足手まといよ」

「…。仕方ない。オマエが行きたくないってなら、俺が行くか」

「アンタ、私の言ったこと聞いてたの?足手まといなのよ」

「オマエはな。俺なら問題ない。人の心配なんて、するもんじゃないぜ?」

 

 警戒体制下にしても圧倒的な霊圧の高まり。空には、煌々と輝く月。三日月のように弧を描いた姿は、どこか不気味で。

 だけど俺は、そんなものに興味は無い。更なる高まりを見せる霊圧の方へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 背中の斬魄刀に手をかける。

 三の文字が刻まれた隊長羽織。夜風に煽られ、はためいている。不気味なくらい気味が悪い。今の俺にとって、市丸ギンという男はそういう存在だ。常に細く閉じられた眼は、俺が未熟な事と相まって、考えを全く読み取れない。人は、考えが理解できなければ、そこに不気味さや恐怖を覚える。だから、現に俺は奴を嫌っている。

 藍染が殺されたあの時。こいつは確実に雛森を殺そうとしやがった。あの時から、俺はこいつを警戒し続けていた。

 霊圧で威嚇する。相変わらず飄々としてやがるが、内心では打算のオンパレード。狐のようにずる賢いことを考えてるはずだ。

 吉良は穂積が追った。あいつも、藍染に対する雛森のように、市丸の事を尊敬していたからな。

 

「そんな怖い顔せんでください。みーんな寝静まっとるんやから、静かにせえへんと」

「テメェの目的は何だ、市丸」

「…はて、なんの事でっしゃろ」

「とぼけんじゃねえ。旅禍が現れてから、テメェの行動は怪しかったんだよ」

 

 能面に、裂けたような笑みが浮かんだ。それは丁度、先ほど見た三日月のよう。

 

「あら、ボク、そないに怪しかったん?」

「白々しいぞ市丸。さっさと吐け」

「…もう終わったんですか?───藍染隊長」

「!」

 

 これは…!?雛森の霊圧が、小さく!?…まさか!

 

「やあ、久しぶりだね。日番谷隊長」

「藍染……」

 

 殺されたはずの男が、スッと現れた。その身体に傷の一切はなく、まるで、すべてが嘘だったかのように、何事もなく、藍染は立っていた。

 だが待て。雛森を誘導した市丸の目的は、もしかしなくても雛森と藍染を引き合わせる事じゃないのか?市丸は初めから目の前にいた。なら、今霊圧が小さくなっている雛森は、誰にやられた…?

 

「お前、雛森はどうした」

「雛森君かい?彼女なら向こうだ。ああ、君ならすぐに見つけてしまうね。───切り刻んでおけば良かったかな」

「藍染───!」

 

 まさか、これが奴の本性。寒空よりもはるかに荒涼とした、乾いた笑み。

 ゾッとした。

 いやに冷たい、気持ち悪い汗が吹き出し、粘っこい唾が口の中に張り付く。

 

「藍染、市丸。てめぇら、いつからグルだった」

「勿論、初めからだ。僕は今までに、彼以外を副隊長だと思った事はない」

「それじゃあ、今までてめぇは雛森も、俺も、他の死神も…。騙してやがったのか!」

「ああ、騙すつもりなんてなかったさ。ただ、君たちが誰一人として理解しようとしなかっただけさ。───僕の本当の姿をね」

「理解してない…。何でだ…。雛森は…、あいつはお前に憧れてた。だから霊術院に入り、そこでもてめぇの役に立ちたいと…。それこそ死に物狂いで努力して、やっとの思いで副隊長になったんだ…」

「ああ。知っているさ」

「!」

 

 さも、どうでも良さそうに。その声に一切の感情はなく。不気味なくらい、平坦だった。

 

「自分に憧れを抱く人間ほど、御し易い物はない。だから僕が、彼女を僕の部下にと推したんだ」

「な…」

「ふっ、良い機会だ。一つ憶えておくと良い、日番谷くん」

 

 いつものように、穏やかそうな顔で。藍染は言った。

 

「憧れは、理解から最も遠い感情だよ」

「──────!!」

 

 その瞬間、俺の中で、何かがキレた。

 パキィィンと、辺りに氷が張った。俺は、恐ろしいまでに冷えている。霊圧を、怒りゆえの爆発を以って開放する。ここは清浄塔居林だ。だけど、そんなもの、四十六室がいないのなら、禁止事項もクソも無い。

 今の俺には、何の躊躇いも無かった。

 

「卍解───」

 

 辺りが氷に覆われる。俺は、今までに抱いたことのないほどの殺意を纏う。

 

「『大紅蓮氷輪丸』!!」

 

 そして纏いしは氷の龍。俺の霊圧と、空気中の水分によって形作られる。そこかしこにある水は、すべて俺の支配下だ。

 故に、流水系の斬魄刀である藍染の『鏡花水月』とは、相性がいい。

 

「藍染…、俺はてめぇを殺す…」

 

 藍染は、全く動じない。眼鏡の奥のその瞳には、何も映らない。

 そして、すべてを見下すように、藍染は言った。

 

「あまり強い言葉を使うなよ。──弱く見えるぞ」

 

 冷静さは捨てた。その言葉は、俺を更なる激情へと誘った。

 全力で駆ける。その心臓に、刃を突き立てんが為に。

 やはり藍染は、その薄ら笑いを、消す事はなかった。

 

 

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