どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい   作:けし

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もう少しで尸魂界編も終わります。


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 一護が双極をぶち壊してルキアを助け出した。斬魄刀100万本分の破壊力を持つはずなんだが、なにがどうなってんだが、訳がわからねえ。

 だが兎に角、今はルキアを連れて逃げることが大事だ。殺気石の牢屋に閉じ込められていたルキアには、当然ながら霊圧なんて残されていない。走ったところで、子供にだって捕まっちまう。

 

「はっ、はっ」

 

 そうして、かなり離れた所まで来た。

 この辺りまで来れば、もう追っ手も来ないだろう。俺は、そう思っていた。

 その時、目の前に誰かが現れた。

 褐色の肌に、ゴーグル。羽織を脱いではいるが、違える事はない。

 

「東仙隊長…!?なんでここに…」

「悪いな阿散井」

 

 そう言って、手元から長い布を取り出した。

 それは、瞬く間に俺たちを覆って、逃げ場を封じた。俺は焦燥に駆られるが、どうすることもできない。立ち尽くすしか無かった。

 真白な布が、俺たちを囲んで黒い影を作る。視界を塞がれた僅か数瞬。気づくとそこは、見覚えのある景色に変わっていた。

 

「ここは…、双極の丘…!?」

 

 逃げ出したはずの場所。くそっ、振り出しに戻ったってのか。

 そうしていると、後ろから聞き覚えのある声がした。

 

「やあ、阿散井副隊長」

「藍染、隊長…?」

 

 殺されたはずの藍染隊長が、変わらぬ微笑みを湛えて立っていた。市丸と共にいる事に違和感を覚える。しかし、それ以外変わっていないはずなのに。何故か、身の毛のよだつような不気味さを感じている。

 ルキアを支える手に、力がこもる。それを感じたルキアが、どこか不安そうに俺を見上げてきた。

 

「阿散井副隊長、朽木ルキアを置いて下がりたまえ」

「な…!?それはどういう…」

「やれやれ、聞こえなかったのか?」

 

 どうやら、言外の意味を含んでいるわけではないらしい。言葉のまま。ならば、藍染隊長は一体、何をするつもりでルキアに手を出すのか。

 そんなの、一つしかねえだろうが!

 

「咆えろ、『蛇尾丸』!」

 

 解号を唱え、斬魄刀を解放する。幅広で、いくつもの節を持つ蛇腹剣。それが、俺の斬魄刀『蛇尾丸』だ。

 それを振るい、藍染隊長へと飛ばす。この距離なら、まだ射程圏内だ。

 

「はぁぁぁ!」

「ふう、全く、不要な事はしたくないんだがね」

「なっ…!?」

 

 片手で軽く払われ、再び攻撃しようとした瞬間。

 

「が……っ…!!?」

「やはり、こんなものかな」

 

 手がブレたと、そう思った時には既に、俺の身体は切り刻まれていた。

 規格外。そんな言葉が俺の中によぎった。思考と身体は切り離され、俺の身体は機械的に蛇尾丸を振るい続けている。

 斬魄刀から伝わってくる衝撃が、蛇尾丸に多大なダメージを与えていることを物語っていた。

 そして間も無く。俺の斬魄刀『蛇尾丸』は、バラバラに砕かれた。

 

「くっ……」

「さよならだ。阿散井副隊長」

 

 死の寸前には、走馬灯が流れるという。時間が引き伸ばされ、まるで映画のフィルムのように移ろい、流れていく。

「戌吊」にて過ごした幼い頃。霊術院にて過ごした青年期。

 そして、今に至るまでの、何よりも濃密な時間。

 一瞬でありながら、全てが実寸の時間で流れていく。

 そうして、俺に刻まれた最後の記憶が再生し終わる。次の瞬間、俺の視界は、黒く閉ざされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 足を回す。瞬歩と違い、純粋な肉体技能である縮地は、その分負担が大きい。しかし、瞬歩を上回る速度を叩き出す。本家本元なのだから、劣るはずもない。

 清浄塔居林から、双極の丘。その道のりは長い。殺気石のせいで、瀞霊廷内では空中に足場を作るのが難しい。殺気石の力を殺しながら進むのは、どう考えても非合理的だから、こうして地を駆けて行くしかないわけで。

 ふと耳に、勇音の声が飛び込んできた。がらんどうの脳内に響く感覚には、少し覚えがあった。

 縛道の七十七・天挺空羅。

 任意の対象へ同時に情報を伝達する鬼道。俺にとってあまり使う機会は無いが、知識として知ってはいる。

 伝えられた事実は、藍染の離反。こういう結果は、おそらく奴の思い通りのものだろう。今この瞬間に形になったのだ。いくら俺でも、形のないものは殺せない。手の届かないものには、触れない。

 そうこうするうちに、丘の麓まであと少しとなった。瞬歩で飛ばしていても、まだ中頃にいただろう。

 途中、黒い箱が現れたのを見た。それもまた鬼道であることを理解したのは、数秒後。黒棺と呼ばれるそれは、武器に関するそれと同じで、とても人に使えるような威力じゃない。あまりの強力さ故に。

 ついに丘の麓。あとは坂を登っていくだけ。縮地のためだけに上がってしまったスタミナに物を言わせ、全速で駆け上がる。阿散井恋次六番隊副隊長と思しき霊圧を感じていたが、今はそれが非常に弱まっている。

 時間にして数秒。少し息を切らして登りきった時、藍染惣右介と目があった。

 

「随分早いご登場だ。なにを急いでいたのかな」

「うるさい。今殺してやるから、そこ動くな」

 

 そう言って、斬魄刀を抜く。同時に構えたのは、藍染惣右介ではなく、横にいた東仙要だった。肌が黒かったためか、名前と顔は鮮明に覚えていた。

 

「穂積、副隊長…」

 

 遠目に、阿散井の姿が見えた。よく見れば、藍染惣右介の陰に隠れて、見覚えのあるオレンジ色が目についた。

 一丁前に心配そうな顔をする阿散井はボロボロ。さらにその近くには、七の羽織を着た犬頭。

 ああ、あの笠の中はこうなっていたのかと。一人で勝手に納得して、刹那の思考を切り捨てる。経過時間は数瞬未満。風景は先ほどとなんら変わりなく。背後にある荒れ果てた木が、風に唄って掠れた音を出す。

 その間隙に、足を踏み入れる。縮地の技量を以って、俺は藍染の懐に入る。東仙の目には、いや、その感覚全てから、俺という存在は消えた。しかし藍染の目は、俺を捉えていた。

 

「さっきは一方的だったからね。君の技量は分からなかったが、こうしてみるとよく分かる」

 

 笑みを消さないままに、藍染は俺と刃を合わせる。その音を聴いた東仙は驚きが顔に貼り付き、何の反応も示さなかった市丸はやはり、少し目を見開くだけで。

 

「膂力は大したことはない。だが、その速さは今の私を明らかに超えている。素晴らしいものだ」

「そいつはうれしいな。だがまあ、易々と捉えられたわけなんだが」

「あまり言いたくはないが、偶々というやつだよ」

「ああ、なんつーか。───ホント、殺してやりたいよ。お前」

 

 唐突にそう思ってしまった。式に諭された通りではあるが、やはり俺はコイツが嫌いだ。だから、ふとした隙に、抑えていた殺気が溢れてしまう。

 ギリギリと鍔迫り合う斬魄刀。しかし、俺は膂力で勝てないと知っているし、藍染も全く余裕でしかない。これは文字通り、見た目だけの闘いなのだ。

 一歩。されどそれは、神域の距離にして。刀の間合いより遥か遠くに。俺は離れて一つ息を入れた。

 次に藍染を見たとき、奴は二人の人間に斬魄刀を突きつけられていた。

 

 

 

 




ずっと考えてること。
・藍染惣右介強化案(主に斬魄刀)
・虎徹勇音強化案
アイデアプリーズ!!活動報告の方に挙げてるのでお願いします!

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