どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい 作:けし
こんな形になったのは少し申し訳ないですけど。でも、周囲が壊せないと思っているものを壊すのなら、絶好の機会かなと。
「動くなよ、藍染」
そう言って四楓院夜一は、全てを砕く刃の如き手刀を、藍染惣右介の首筋に突きつけた。
同様に、二番隊隊長の砕蜂もまた、解放した自身の斬魄刀を突きつけていた。
それから数秒遅れて。荒廃した丘に、各隊の隊長らが集まってきた。
息を整えた刹那の出来事。しかし、それが何であるのかは分かった。
天挺空羅で真実を知った奴らが、こうしてその落とし前をつけに現れた。ただそれだけ。俺にとっては、そんなことはどうでも良い。ただ、コイツらの面子の問題でしかないのだから。
刀を握る手に力が入る。臙脂色の柄の内側から、僅かな殺意が迸っていた。
「全員のご登場か。こうして見ると、壮観だね」
「藍染惣右介。お主が何をしたかは、全て聞いた」
「ほう。それで、私をどうするつもりかな」
ここまできても、藍染はその余裕を崩さない。小綺麗なそのすまし顔を、その魂ごと殺してやりたい。そう、自分でも驚くほどの殺意が、沸々と奥底から湧き上がっていた。
市丸も、東仙も。同じように拘束されているはずなのに、微動だにせず、感情一つとて、揺らいでいない。
「私としては、もう少し彼を観察したかったんだが…」
「口を閉じろ、藍染惣右介!」
全く、意に介さない。それはまるで、藍染惣右介という男が主役のミュージカルのような。世界は、自分こそが中心であるという、そんな自負。それを纏って、藍染はニヤリと、その口角を上げた。
「───時間だ」
「──っ!離れろ砕蜂!!」
途端、がらりと変わった雰囲気に触発されたのか、四楓院夜一が離れるよう言い放った。それと同時に、砕蜂もまた、その警告を脊髄反射で受け取る。二人はほとんど間隙もなく、藍染から離れた。
「これは───」
神々しさを秘めた光の柱が、空からピンポイントで降ってくる。
魔眼を開いてみれば、空に一際大きな線が、まるで裂傷のように走っていた。降りてきた光にも、何本もの線が走っていた。
「ははっ」
思わず笑いが溢れた。恐らく藍染は、あの中こそが安全だと、経験と実験から知っている。そう思っている。であるならば、おあつらえ向きだ。
恐らく、奴を殺すまではいけないだろう。しかし、藍染の間の抜けた顔が見られるはずだ。
「逃げる気かァ!」
「止めい」
勇ましく藍染に向けて刃を向けようとした男を、信頼と威厳を持った声が縫い止めた。その目は、全てが無駄であると知っている顔だった。
「あれは『
「その通りだ」
その「反膜」とやらは、どうやら音は届くらしい。藍染惣右介は、全てを見下ろすような目で、傲慢さを含む口ぶりで言った。
「この光の外から、君たちは私に触れることは叶わない。身を以て知っているはずだ」
「馬鹿野郎。オマエは何にも分かっちゃいない」
斬魄刀を掲げて、その蒼眼は、神のような御柱を睨めつける。されど、その言はしっかりと、藍染惣右介へと向けられていた。
全知にして無知。矛盾した螺旋は、遺伝子の鎖のように続く。現実を、過去を、未来を、その全てを知っていれば、全知と呼ばれるだろう。だが、終末を知らなければ、全ては無知に終わる。
「万物には綻びがある。人間は言うに及ばず、大気にも、意志にも、虚にも。時間にだってだ」
誰に言うでもなく、しかし俺は、この『眼』で死を見つめたまま、ここにいる皆に言い聞かせるように。俺はただ、俺にとって
「だから───」
縮地で飛び出し、刃を構えて。袈裟を狙って。死の蒼は、さらに克明に輝く。
「───生きているのなら、神様だって殺してみせる───」
白銀の刃は、かくてその牙を剥く───。
「な──」
「これは驚いた…」
俺と京楽は、目の前で起きた現象に、目を見開くしかなかった。
「
しかし。穂積の斬魄刀は、その壁を超えて、理すらも斬り裂いた。いや。彼の言葉を借りるならば。それを
彼と過ごしていると、ふと、どこか遠くを見ているように感じられる。穂積が時折口にする、「死」という言葉。俺にとってそれは、長い時間の中で幾多もすれ違ってきた、最も避けたいもの。だけど、彼の言葉に乗る感情は、それを忌み、焦がれているような、そんな矛盾。
しかし、自身の矛盾にはその刃を突き立てず、先ほどの彼の言葉になぞらえると、存在の綻びに刃を突き立てる。それで、全ては終わる。
いつからか、彼の立つ場所は、俺たちとはまた別の場所になっていた。それは必然なのだと、そう思うしかなかった。
常識が壊された衝撃から、不意に現実へ戻った。見上げると、『反膜』は、再び藍染へ降ろされようとしていた。さながら、蜘蛛の糸のようだ。劣勢のはずの藍染は、やはり余裕を崩さない。だが、次に起こった光景は、藍染すらも目を剥いた。
「これは…!」
「『反膜』が…降りてこない…?」
光が、何かに遮られて、その場で停止した。時が止まったかのように、微動だにしない。
「何が…」
「俺の斬魄刀は──」
藍染が上を見上げて、訳がわからないような表情を晒す。それに被せるように、穂積が言葉を紡いだ。
「俺の斬魄刀の名は、『唯式』。能力はまあ、あまり言いたくないんだが、どうせバレるのも時間の問題だろうしな」
めんどくさそうな、いつもの顔でそう言った。やはりこの場において、彼だけが、見ているものが違った。
「能力は、振るった刃の軌道と少しの範囲に、見えない壁を創る力だよ。まあ、攻撃には役に立たない、つまらない力さ」
その行動が、言動が。被り物のように薄っぺらい。
吐き捨てた穂積の表情からは、何も分からない。不思議なくらいに不気味で、異質で。情けないことに、思わず目を逸らしてしまった。
向き合うべきだと、分かっているのに。