どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい 作:けし
突然のガチクロスオーバーにびっくりされた方が多いらしい。
ちなみに元々こうなる予定だった。後悔はしてない。
あと、破面の皆さんの話し方が分からん。
目を開けると、見慣れない闇。線という線は呑み込まれ、しばらくの間、自分が眼を開けていることにすら気が付かなかった。
これが、俺の精神世界。そう気づくまでに、今日はかなりの時間を要した。ここに来るたびに這いずり回る感覚が、背筋を強張らせる。
いつもと変わらない、ともすれば宇宙に見える混沌の中で、俺はいつもの奴に対面したはずだった。
『あらあら、そんなに警戒しなくてもいいのに』
「……誰だ、オマエ」
無い。見えない。薄くすらも無い。
その事に、俺は恐怖した。コイツは生きているのかと。
『失礼ね。私はちゃんと生きているわ。ただ、貴方達とは根幹が違うだけ』
死を突きつけられながらも、それを気にせず。女は呆れるように笑っていった。
そのふわりと舞う鮮やかな金色の襲には、幾つもの花があしらわれていた。たおやかな女性の顔は、見慣れた式の顔の面影を残していた。
だからか、ふと口をついて、こんな言葉が出てきた。
「式…、なのか?」
『そう、私は「式」。同じ名を持ちながら、貴方とも彼女とも違う存在よ』
『式』はあっさりと認め、そう言った。
長く伸びた髪は綺麗に下ろされていて、まるで絹のような見た目だ。普段の式とはまるで違う。俺はそう思った。
「どういう事だ。いまさら女らしくなって」
『いいえ、言ったはずよ。私は貴方とも、彼女とも違う。強いて言うなら、貴方達のルーツとでも言うべきかしら』
「
言ってることに理解が及ばず、思考と同時に口が無意識に疑問を呈す。そんな無作法にも、彼女は笑って言った。
『そうかも知れないわね。あら、もう時間みたいね。残念だけど、楽しかったわ。他愛の無い話に興じるのも、案外心踊るものね』
「…そうかよ」
心から笑っている彼女に、殺意など感じるはずもなく。いや、
『さて、楽しませてくれたお礼に、1つアドバイスしてあげるわ』
達観しながらも、それを感じさせない無邪気な笑顔。それを向けられて、思わず顔を逸らした。
『踏み込みなさい。私の下にたどり着くには、まだ足りないわ。…ふふっ、じゃあ、また会うのを楽しみにしているわ。願わくば、それが夢で終わらないことを…』
耳に入る言葉を反芻する間も無く、俺の意識は落ちていく。足りない。足りない。手を伸ばしても届かない。
アレが俺の
超えろ。越えろ。その境界は見えず、壊れず。されど形を持つが故に其は死を内包する。汝の眼が、殺すためにあるのであれば。
超えろ。越えろ。殺してでも、そこに足を踏み入れろ。そこは未開にして未踏。あらゆる起源にして結果たるもの。そこに立つならば。俺は───。
目を開けると、見慣れない白。暗青のカーテンは光を通さなかったが、もう一つ、カーテンがついていなかった窓から入る僅かな光に、部屋の色を知覚させられた。
碌にアドレスも入っていない固定電話に、小さな音を立てて稼働する冷蔵庫。俺は床に寝ても良かったが、予想に反してベッドがあったから、そこに横になっていた。
殺風景な部屋は、妙に現実を感じさせる。義骸に入っているからか、少し重たく感じる身体をよそに、冷蔵庫から適当に水の入ったペットボトルを取り出した。
パキッ、というプラスチックが千切れる音が、夢と現実を切り離した。喉を落ちる冷水が、微睡んだ身体を無理矢理叩き起こしていく。
ぎしり、と音を立てて、ベッドに座り込む。スプリングが沈み込み、その感覚が服越しに皮膚を叩いた。
「もうすぐしたら、アイツらが来るって言ってたっけか」
そもそも俺は先遣隊の一隊員だ。この役目は、いわば現世の警備と情報収集ということになる。
物思いに耽っていると、ふと電話が鳴り出す。この番号を知るのは、今のところ浦原と、蒼崎橙子の2人。液晶には非通知とカタカナで表示されたから、どっちかは分からない。
「…もしもし」
『ああ、起きてたんスね。良かった良かった。で、早速なんスが』
敵サンのお出ましっス、と。変わらない口調ながらも、僅かに重たい雰囲気を滲ませて言った。
霊圧知覚を走らせると、遠く離れた丘の上に2人。かなり強大な霊圧を秘めた敵のようだった。
「で、行けばいいのか?」
『ハイ。アタシらが行くまでの時間稼ぎっス。倒す必要はありません』
「そうか。ま、やれるだけやってみるさ」
俺はそう言って、電話の横に無造作に放られていたものを手に取った。下手くそなデザインの兎を頭からかぶったそれは、義魂丸と呼ばれるものだ。兎のほうはチャッピーと言うらしいが、全くもって興味が湧かなかった。
飲み込むにはすこし大きく見えるが、よく分からない技術のせいで、つっかえることなく滑るように飲み込めるらしい。
そうして義骸から解き放たれた俺は、窓から飛び出し、瞬歩でその場所へと急いだ。
強大な霊圧同士が戦っているのを感じた。どちらも僅かに似たような霊圧をしていた。
たどり着く頃には、その霊圧の揺らぎも、凪のように静まっていて。
また、見覚えのある橙が倒れていた。
その横に、ふわりと降り立つ。
「久しぶりだな、黒崎。つーか、なんてザマだよ」
「う、るせ…ぇ」
「へえ。言い返す気力くらいしか残ってないのか。随分と派手にやられたみたいだ」
そう言って、目の前に立ちはだかる男を見た。3メートルはあろうかという色黒で筋骨隆々の巨漢と、対照的に真白で、細身の男。頭部には、仮面と思しき名残が見える。
「で、オマエらは誰だ?
「おう。オレは
見た目通りに、粗暴な口ぶり。言うまでもなく、俺を含めて自分以外は、等しく雑魚扱いという風に。
そう思っていると、隣の細身の破面からの視線が、妙に鋭くなっている事に気付いた。値踏みするような、そんな視線だった。
「おい。さっきからジロジロ見るんじゃない。鬱陶しいぞ」
「ふん。お前がどう思おうと知ったことではない。それはそうと、貴様が穂積織で間違いないな」
「どうでも良いけど、俺のこと知ってるのか?ストーカーかよ」
「藍染様の御命令だ。穂積織という男についての情報は、委細漏らさずに伝えるようにとな」
「そういうのストーカーって言うと思うんだが」
「知らん。ヤミー、この男とは戦って構わん」
「へぇ!良いじゃねえか!んじゃあ、ちっとは楽しませてみろやァ!!」
知らぬ間に、戦いの幕が上がっていた。
ああ、殺す気もしない相手を殺すのは、ただ骨が折れる作業でしかないのに。余計な事は増やさないで欲しい。
それよりも、俺は。
細いヤツ。お前の方を、殺してやりたいんだよ。