どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい 作:けし
今話とはあまり関係ないけど。
開幕ベルは、敵の拳が地面を砕く音だった。
その膂力は、死神が持ち得るものでは無く。だからこそ、コイツが本質的に虚である事を嫌でも認識させられた。別にこんな怪力が死神の中にいない訳ではないだろうが、少なくとも俺は見たことがなかった。
「チョロチョロ逃げんじゃねえ!雑魚がぁ!」
「はぁ。うるさいぞオマエ。もう少し静かに出来ないのか?」
瞬歩のみで細かく動きながら避けていく。浦原たちが来るまでの間の時間稼ぎではあるが、ぶっちゃけ殺せないこともない。向こうが油断している間に、死を押し付けてやればいい。
斬魄刀は挿したまま。俺は手をかざした。
「【破道の三十三・蒼火墜】」
「ぬおっ!?」
破面は咄嗟に、その太い腕を重ねて即席の盾を構えた。間合いに滑り込むようにして現れたソレに、俺の放った鬼道はぶつかった。
もくもくと上がる煙。浦原曰く『
死ぬ事に、強度は関係ない。線をなぞれば、それは死ぬ。
俺の本来の得物はこの斬魄刀だが、基本的にはナイフくらいが丁度いい。それが手元にないのを、今は残念に思うばかりだ。不思議と、そう思った。
「ま、傷なんざ付かないよなぁ」
「ふぅ。今のはヒヤッとしちまった。雑魚は雑魚なりに頑張ったってとこかぁ?」
「うるさいな。俺はオマエになんて興味ないんだよ」
俺はそう言って、斬魄刀を九度振るう。
「『
瞬間、不可視の刃が敵を襲う。実体のない真空刃では、コイツの鋼皮を切り裂くのは無理だろうが、吹き飛ばすには十分な勢いだ。
「ぬおっ!?」
敵はその勢いのまま木々に突っ込み、煙の中に消えた。
大した時間稼ぎにもならないが、標的を変えるには十分。
俺は切っ先を、もう1人の破面に向ける。ソイツは全くの無表情で、その殺気を受け止めた。
「別に戦闘狂って訳じゃないけどさ、どうにもオマエとは戦ってみたいんだよ」
「ほう。俺に向けた殺気はそういう意味か」
その表情は、例えようのない能面。喜怒哀楽のあらゆる表情が無い、真白な仮面。無と言っても差し支えないだろう。
俺は感情表現が得意では無い。というか、その波がほとんどない。いつか白哉に、『兄はもう少し感情を出したらどうだ』と言われたことがある。そっくりそのまま投げ返したが。
この男の能面っぷりは、白哉以上だ。
「全力でないとは言え、ヤミーをこうも簡単にあしらうとはな。やはり貴様は危険だ」
そう言って、一歩を踏み出した次の瞬間。
「ここで殺しておくべきか」
絶対の刃が、背後から振り下ろされた。
俺は藍染様から、黒崎一護の観察を命じられた。そして、それと同時に注意すべき事を言い渡された。
『ああ、ウルキオラ。もし、穂積織という男が現れたら、十分に気をつける事だ』
単純で、俺にはその真意が問えなかったが、特に疑問を抱かずにその命を受け入れた。
そして今、その意味をようやく理解した。
いずれ藍染様の脅威になる。そういう意味では、黒崎一護よりも危険だと思った。故に排除する。感じた霊圧は並の死神程度だったから、俺は
「…っ」
「これには反応するのか」
その手刀は、斬魄刀の腹で止められた。刃に手を添えて受け止めるところから、どうやら膂力では俺の方が上回っているようだが、スピードは大差ないだろう。
未だ、互いに全力ではない。底が見えない。藍染様とはまた別の、なんとも言えない違和感。いや、これは…?
僅かに意識が思考に逸れる。その刹那、視界の縁に蒼が見えた気がした。
感じたことのない恐怖。そう形容するしかない感覚が、全身を巡った。
恐怖という感情を知らないはずの俺が、それを抱いた。
「っ!?」
「あ。避けやがった。本能か?」
「…なんだ今のは」
「どういう意味だよ」
「
「…やっぱり、本能的なものなのか」
互いに会話が噛み合わない。しかし、何処かで俺は確信していた。
───
その眼は、俺に内包された、俺にも分からないナニカを捉えている。
「俺の質問に答えろ。穂積織」
「答える義務はないぜ。
乾いた風が、真緑の葉を運ぶ。数枚の葉が俺と奴の間に躍り出た。
そしてそれらは、横合いからやって来た攻撃により、塵と化した。
「ふん。
俺と奴の方へ、無差別に放たれた弾丸。俺は拳でそれをはたき落とし、奴は鬼道を張ってそれを防いだ。
にも関わらず、延々とそれは打たれ続ける。
不意に、虚弾の嵐が止んだ。
「クソがぁ……。オイ死神…、テメェ今からブチ殺す!」
純然な怒気を、煙のように立ち昇らせながら、ヤミーが立ちはだかった。
「筋肉ダルマか…。オマエに用はないぞ?確かにオマエ強いけどさ、
それに、と穂積織は付け加える。
「もう俺の役目も終わりだからな」
苛立ちを隠さずに、ヤミーが放った
そう思われた刹那。
虚閃よりも真っ赤な、まるで血のような色の盾が現れ、虚閃を弾いた。
「相変わらず便利だよな。オマエの斬魄刀。万能すぎてさ」
「買い被り過ぎっスよ。ただ、出来ることが多いだけっス」
「それを万能っていうんだよ」
藍染様が最警戒する頭脳。あの方を上回る知能。
浦原喜助が、その顔に余裕の笑みを浮かべて現れた。
今更の鬼道解説
破道の五十三『光輪華』
「雲散らす月輪 天上の陽炎 樹海に横切る光華の足跡 金色を斬り祓う光覇の孤月 聖の法典は七 精の霊槍は四 否定し数え下ろして零に至れ」
翳した掌から、大量の光の杭をガトリングのように放つ。
イメージとしてはd-gray.manの技【十字架の杭】。
詠唱は適当。参考書物はお察し。