どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい   作:けし

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注)この作品、一応根幹はブリーチですが、空の境界要素がすこし多めに取り入れちゃいます。

今話とはあまり関係ないけど。


29

 

 開幕ベルは、敵の拳が地面を砕く音だった。

 その膂力は、死神が持ち得るものでは無く。だからこそ、コイツが本質的に虚である事を嫌でも認識させられた。別にこんな怪力が死神の中にいない訳ではないだろうが、少なくとも俺は見たことがなかった。

 

「チョロチョロ逃げんじゃねえ!雑魚がぁ!」

「はぁ。うるさいぞオマエ。もう少し静かに出来ないのか?」

 

 瞬歩のみで細かく動きながら避けていく。浦原たちが来るまでの間の時間稼ぎではあるが、ぶっちゃけ殺せないこともない。向こうが油断している間に、死を押し付けてやればいい。

 斬魄刀は挿したまま。俺は手をかざした。

 

「【破道の三十三・蒼火墜】」

「ぬおっ!?」

 

 破面は咄嗟に、その太い腕を重ねて即席の盾を構えた。間合いに滑り込むようにして現れたソレに、俺の放った鬼道はぶつかった。

 もくもくと上がる煙。浦原曰く『鋼皮(イエロ)』と呼ばれる、霊圧により強度を増す破面特有の力なら、三十番台の鬼道程度、訳ないらしい。硬化が進むと刃も通さなくなるらしいが、それは俺にとって、なんの障碍にもならなかった。

 死ぬ事に、強度は関係ない。線をなぞれば、それは死ぬ。

 俺の本来の得物はこの斬魄刀だが、基本的にはナイフくらいが丁度いい。それが手元にないのを、今は残念に思うばかりだ。不思議と、そう思った。

 

「ま、傷なんざ付かないよなぁ」

「ふぅ。今のはヒヤッとしちまった。雑魚は雑魚なりに頑張ったってとこかぁ?」

「うるさいな。俺はオマエになんて興味ないんだよ」

 

 俺はそう言って、斬魄刀を九度振るう。

 

「『九戀雲耀(くれんうんよう)』」

 

 瞬間、不可視の刃が敵を襲う。実体のない真空刃では、コイツの鋼皮を切り裂くのは無理だろうが、吹き飛ばすには十分な勢いだ。

 

「ぬおっ!?」

 

 敵はその勢いのまま木々に突っ込み、煙の中に消えた。

 大した時間稼ぎにもならないが、標的を変えるには十分。

 俺は切っ先を、もう1人の破面に向ける。ソイツは全くの無表情で、その殺気を受け止めた。

 

「別に戦闘狂って訳じゃないけどさ、どうにもオマエとは戦ってみたいんだよ」

「ほう。俺に向けた殺気はそういう意味か」

 

 その表情は、例えようのない能面。喜怒哀楽のあらゆる表情が無い、真白な仮面。無と言っても差し支えないだろう。

 俺は感情表現が得意では無い。というか、その波がほとんどない。いつか白哉に、『兄はもう少し感情を出したらどうだ』と言われたことがある。そっくりそのまま投げ返したが。

 この男の能面っぷりは、白哉以上だ。

 

「全力でないとは言え、ヤミーをこうも簡単にあしらうとはな。やはり貴様は危険だ」

 

 そう言って、一歩を踏み出した次の瞬間。

 

「ここで殺しておくべきか」

 

 絶対の刃が、背後から振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は藍染様から、黒崎一護の観察を命じられた。そして、それと同時に注意すべき事を言い渡された。

 

『ああ、ウルキオラ。もし、穂積織という男が現れたら、十分に気をつける事だ』

 

 単純で、俺にはその真意が問えなかったが、特に疑問を抱かずにその命を受け入れた。

 そして今、その意味をようやく理解した。

 いずれ藍染様の脅威になる。そういう意味では、黒崎一護よりも危険だと思った。故に排除する。感じた霊圧は並の死神程度だったから、俺は響転(ソニード)で接近し、手刀で首を落とそうとした。

 

「…っ」

「これには反応するのか」

 

 その手刀は、斬魄刀の腹で止められた。刃に手を添えて受け止めるところから、どうやら膂力では俺の方が上回っているようだが、スピードは大差ないだろう。

 未だ、互いに全力ではない。底が見えない。藍染様とはまた別の、なんとも言えない違和感。いや、これは…?

 僅かに意識が思考に逸れる。その刹那、視界の縁に蒼が見えた気がした。

 感じたことのない恐怖。そう形容するしかない感覚が、全身を巡った。

 恐怖という感情を知らないはずの俺が、それを抱いた。

 

「っ!?」

「あ。避けやがった。本能か?」

「…なんだ今のは」

「どういう意味だよ」

()()()()()()()()()

「…やっぱり、本能的なものなのか」

 

 互いに会話が噛み合わない。しかし、何処かで俺は確信していた。

 ───()()()()()()()()()

 その眼は、俺に内包された、俺にも分からないナニカを捉えている。

 

「俺の質問に答えろ。穂積織」

「答える義務はないぜ。破面(アランカル)

 

 乾いた風が、真緑の葉を運ぶ。数枚の葉が俺と奴の間に躍り出た。

 そしてそれらは、横合いからやって来た攻撃により、塵と化した。

 

「ふん。虚弾(バラ)か」

 

 俺と奴の方へ、無差別に放たれた弾丸。俺は拳でそれをはたき落とし、奴は鬼道を張ってそれを防いだ。

 にも関わらず、延々とそれは打たれ続ける。

 不意に、虚弾の嵐が止んだ。

 

「クソがぁ……。オイ死神…、テメェ今からブチ殺す!」

 

 純然な怒気を、煙のように立ち昇らせながら、ヤミーが立ちはだかった。

 

「筋肉ダルマか…。オマエに用はないぞ?確かにオマエ強いけどさ、()()()()()()興味ないんだ」

 

 それに、と穂積織は付け加える。

 

「もう俺の役目も終わりだからな」

 

 苛立ちを隠さずに、ヤミーが放った虚閃(セロ)が、穂積織を呑み込む。

 そう思われた刹那。

 虚閃よりも真っ赤な、まるで血のような色の盾が現れ、虚閃を弾いた。

 

「相変わらず便利だよな。オマエの斬魄刀。万能すぎてさ」

「買い被り過ぎっスよ。ただ、出来ることが多いだけっス」

「それを万能っていうんだよ」

 

 藍染様が最警戒する頭脳。あの方を上回る知能。

 浦原喜助が、その顔に余裕の笑みを浮かべて現れた。

 

 

 

 

 

 





今更の鬼道解説

破道の五十三『光輪華』
「雲散らす月輪 天上の陽炎 樹海に横切る光華の足跡 金色を斬り祓う光覇の孤月 聖の法典は七 精の霊槍は四 否定し数え下ろして零に至れ」
翳した掌から、大量の光の杭をガトリングのように放つ。
イメージとしてはd-gray.manの技【十字架の杭】。
詠唱は適当。参考書物はお察し。

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