どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい   作:けし

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二次対策真っ只中。ストレス発散も兼ねて投稿。半分気を違えながら書いたので、おかしくなってるかも。許してください。


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 不気味なくらいに光る月。真暗な夜空に、まるで穴が空いたかのように存在する。それは、病的なまでに青い。

 昼間はかなり蒸し暑かった気がしたが、今はひんやりしていて、すこし寒いまであった。

 巫条ビルとは言われても、土地勘が無い俺にとっては迷路も同じ。だから、俺が歩いているのは、ただの気まぐれだった。

 時折なびく風が、気味が悪いくらいの寒気をもたらす。

 路地裏を1つ入れば、街灯の届かない闇が出迎える。現世の死神とやらは、こんな闇を纏っている者だと認識されているのだろうか。大鎌を持った者は見当たらないが、ここなら別に、忙しく走り回っていても違和感は無いだろう。

 ふと見上げた空にはやはり、真っ白で真っ青な月。

 だけど。

 

「ああ、そこにいたのか」

 

 うなじが、(シン)ときしむ。

 月にもたれかかるように浮かぶナニカ。俺はそれを視て、蒼い月の眩しさに目を細めた。それでも、それらが纏っていた色は鮮明に網膜に焼き付いた。

 一点の曇りの無い白。それは、純白ではなく、真白なのだ。

 ふわりと浮かぶ6つの影と、それを慈しむように手を伸ばす1つの白。距離と光が世界を塗り潰し、俺の眼には朧げにしか映らないが、それは多分──。

 ──ただ、俺にとって都合がいいという、それだけの話だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 空という天板に掲げられていた月は堕ち、取って代わるようにして鬱陶しく輝く太陽が昇る。

 この時期、太陽というやつは夏を必要以上に暑く誇張するから、それでまた気分が悪くなる。

 だから俺は、自己主張じみた陽光に対して耳を閉ざしながら、それが鬱陶しくなる前に浦原商店に駆け込んだ。

 

「おい。来たぞ」

「あらら、随分とお早いっスね」

「暑いのは嫌いだからな。どうせすぐには終わらないんだろ。ゆっくりさせてもらうぞ」

「ハイハイ。まあ、適当に寛いでて下さい。こっちの準備もあるんで」

「ああ」

 

 そう言って、俺は以前来た時の間取りを思い出しながら、居間へと足を運ぶ。こちらではほとんど見かけない和の雰囲気は、やはり気分を落ち着かせるものがあった。

 ガタッという音と共に、襖を開く。ちゃぶ台とテレビという、いかにもな部屋だが、何も無いというのが一番落ち着く俺にとっては、丁度いい部屋でもあった。

 ちゃぶ台の上の煎餅とみかんを口にしながら、握菱が出したお茶でそれを流し込んで過ごすこと30分。気が長くない俺が、そろそろ待ちくたびれてきたところに、浦原が立ち入ってきた。

 

「それじゃあ穂積サン、準備できたんで付いてきて下さい」

「分かった」

 

 それからその後を付いて行くと、畳の下にあった異常に長い梯子を降りる羽目になった。何処に行くのかも分からず少し悪態をついたが、相変わらず考えが読めず、俺の追求はのらりくらりと躱されてしまった。仕方なしにとりあえず梯子を降りきり、荒れた地面に足を下ろした。

 

「ここは…」

「アタシらは『勉強部屋』と呼んでます。無限とはいきませんが、それなりに広く作ってあるつもりっス」

「勉強って…。ああ、そういうことか」

 

 頭に詰め込むのではなく、()()()()()()()()勉強。ともすれば命懸けでもあるだろう。何処にでもありそうな青空だが、荒野と青空という組み合わせは俺に既視感を覚えさせた。

 

「オマエ、似たようなの作ってたよな?」

「思い出しました?確かにここは、双殛の丘の地下に作ったのとほとんど同じものっスよ。まあ、大した違いはないっス」

「まあ、そんな事はどうでもいいよ」

 

 俺は、浦原に向き直った。

 

「オマエは俺に、何をさせたいんだ?」

 

 単刀直入。まどろっこしいのは好きではない。計略というのは遠回しで、かつ気づかれない様にするのが当然ではあるけども、ことこの場においては何の意味もない。視たところ、ここには俺と浦原以外の何もない。俺はまだ義骸に入ったままだが、浦原はすでに霊体──戦闘態勢だ。傍らに携えた杖は、コイツの斬魄刀以外の何物でもない。

 なら既に。やる事は定まっているように見えた。

 

「穂積サン。先の破面との戦いでわかった事があります。破面の情報もそうですが何よりも思ったのが、アナタの戦闘能力の未知数さっス」

「俺の情報も集めてたのか?俺が裏切るとでも?」

「いえいえ。そんな事は考えてないっス。ただ、不確定要素は排しておきたかった。アタシの計画に、狂いは許されないものですから」

「それは、オマエのプライドとかじゃないみたいだな」

「相手は藍染惣右介っスよ?全てが噛み合って初めて、彼に対抗する手段となる。アタシの立てた計画は、そんな余裕なんてこれっぽっちもない、計略と呼ぶにも拙いような代物っス。彼と戦うのに、正面きっての戦闘は命がいくらあっても足りないんスよ。だから、アナタの話は寝耳に水ってやつでした」

 

 話というのは、言うまでもなく俺と藍染の戦闘のことだろう。戦闘と呼ぶにも一方的だった気がするけれども、側から見れば戦いとして成立していたらしい。

 藍染の強みは、鏡花水月だけではない。その霊圧や戦闘能力すら、並とは隔絶している。藍染惣右介とは、俺が知る限り最も万能と言える死神なのだ。

 唯一知能で上回る浦原は、それを自身の土俵に引っ張りださなければいけなかった。故に立てた、綱渡りのような計画。

 

「正面きって藍染サンと戦える人がいるのなら、計画にも余裕が出ます。だから、知っておきたいんですよ。アナタの力を」

「なら、どうするんだ?戦闘力でも測るのか?お得意のマジックアイテムで」

「それも考えたんスけどねえ。やっぱりきちんと理解するには、データ化ももちろんの事ですが、経験する事も大事だと思うんスよ。というわけで」

 

 浦原は一度言葉を区切った。仕込み杖が、斬魄刀の姿を顕す。つまりは、そういうことだ。

 

「穂積サン。少し手合わせしましょう」

「へえ…。珍しくギラついた目してるじゃん。…いいぜ、やろうか」

 

 俺は義骸を脱ぎ捨て、斬魄刀を抜き、だらりと構えた。構えに見えないだろうが、十分。構えなど不要。ただ、斬るだけ。

 

「起きろ『紅姫』」

「開境しろ『唯式』」

 

 口にした言霊が、力をもたらす。姿形に変化はない。場は整った。

 静かな殺気が、空間に反響する。起こるはずのない風が、土煙を巻き上げた。

 耳なりがしそうな沈黙が、その帳を下ろして待ち構えている。

 それを知ってか知らずか、いや、見えたなんて事はなかっただろう。しかし、俺たちは。示し合わせたように、その帳を斬り裂いて。互いが衝突した。

 

 

 

 

 




──どうしてこうなった。

なお、脱いだ義骸は鉄裁さんが回収した模様。

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