どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい 作:けし
夏のある日。いつものように地面を焦がす太陽が、青空に空いた穴のように存在感を主張する頃合。うざったらしく、俺にとってなかなか慣れない感覚だ。尸魂界にも季節の概念があるが、ここまで極端に暑かったり、あるいは寒かったりすることはそうそうない。尤も、俺は瀞霊廷からそこまで離れて動かないのだが。尸魂界の端の方は、もっと荒涼としているだろう。
こんな中、つい昨日、日番谷冬獅郎率いる日番谷先遣隊が現世にやってきた。色々と手続きが立て込んだらしく、思ったより遅れているようだが、敵が攻めてきてないなら問題はないだろう。俺たちは今のところ後手に回らざるを得ないからな。破面側には、おそらくこちらの情報は筒抜けだ。スパイがいるとか、監視されてるとか、そういう類のものではなく、ただ藍染惣右介がいるというそれだけで、向こうにこちらの動きは予測されてるはずだ。
で、その藍染惣右介に対する対策やら対応やら、今後の動きを話し合うために一旦どこかに集まることになったのだが。
「……なんで黒崎の家なんだ?たどり着けたからいいけど、普通に迷いかけたぞ」
「穂積さん、アンタは常識人だった!コイツら、なんで窓から天井から押し入れから出てくんだよ!?」
「いや、俺に言われてもな…。まあ、コイツらならやらかすとは思ったが。悪いな黒崎、飲み物くらいしか渡せるものが無え」
俺は何となく買ったペットボトルのお茶を黒崎へ放った。放物線を描いて綺麗に手元に収まったが、黒崎は俺のことをどう思っているのだろうか?一応俺も
ちなみに当の黒崎は、手に収まった飲み物、もといお詫びの品になぜか感激しているみたいだが。なんでだろう、なんか申し訳ないな。
「サンキュー。で、なんで俺の家なんだよ。浦原さんのとこでもいいだろ」
「まあそう言うなよ一護。浦原さんのところは後で行くし、まだ一角さんたちも知らないからよ。俺とルキアが馴染み深いのはここだったんだよ」
「つーかテメェ、俺ん家来たことないだろ!?」
「堅いことは気にするな一護。兎に角今は、日番谷隊長の話を聞け馬鹿者」
朽木はそう言ってゲシゲシと足の裏で黒崎の頭を踏んだ。コイツらにとっていつもの光景なのだろう。流れるようなコンビネーションだった。黒崎は蹴られた頭をさすりながら、なんやかんやで話を聞いていた。結局、ここから先の中心になるのはコイツなのだと、俺は改めて思った。
その後、色々と日番谷隊長らからの説明を受けた後、先遣隊の面子だけが部屋に残った。
「一応確認だが、穂積。『限定霊印』は打ってるよな」
「『限定霊印』?……ああ、花の形したやつか?」
「お前のとこの隊花だぞ……。まあいい、打ってるなら問題はない。で、俺たちはこれからどうするかだが…」
「オマエら全員学生生活するんだろ?全員制服着てるし」
そう、なぜかコイツらは皆揃って学生に扮していた。体格はほとんど出来上がってくる高校生だから、少々の違和感は無視するとして、キャラが濃すぎる。特に斑目と阿散井は、授業中じっとしてられるのか。問題起こしそうで不安になる。ふと、なぜ俺がこんな心配をする必要があるのかと思い至り、結局その思考は那由多の彼方へ投げ捨てた。
「そうだ。まあ、文句は言えないな。そういうお前はどうするんだ?」
「俺か?俺は日がな一日、暇を持て余してるよ。オマエらが学校行ってる間、出てきた虚は俺がやることになるな。これじゃ」
「そうか、ならいい。阿散井、俺らの住む所はどうなるんだ?」
「浦原さんに聞いてみますけど…、穂積さんは?」
「俺は家があるからな。心配するな」
「家って……、どうやって…」
「知り合いの紹介だ」
あの部屋を貰えたのは僥倖だった。蒼崎橙子との出会いも含めて、俺は運がいいのかもしれない。
とは言え、虚案件とも魔術案件とも取れない何かに巻き込まれることは、蒼崎橙子といれば必至だろう。あいつは嬉々として俺を巻き込むし、あるいは厄介事から転がり込んでくるから。それは、まだ俺には殺せない。曖昧なものには形は無く、故に生死の概念そのものが無いから。確定してたのなら、あるいは殺せるかもしれないのに。
「まあとにかく、破面どもが来るまでに時間はあるだろ?それまで各自でやってけばいい。ここで決めようとすることでも無いだろ」
「…現世についてはお前が幾らか詳しそうだな。なら、昼はお前に任せた。最悪破面が出てきたら時間稼ぎしておけ」
「あ、そう。まあいいけど。別に殺してもいいんだろう?」
「できるならな」
日番谷はそう言って俺を睨んだ。仕方ない。少なくとも俺は、破面側の
虚には位階が存在する。低い順に
ということは、近々やって来る奴らは破面としては中堅クラスか、最悪ヴァストローデ級に近い奴がいるかいないかになる。浦原に卍解の修行をつけてもらってはいるが、なにせ俺の斬魄刀は気まぐれな猫みたいな奴だからな。───いや、むしろ兎か?物騒な凶器を手に跳ぶように斬りかかってくるあたりが。じーっとしていればお嬢様に見えたりするんだが。
「日番谷隊長」
「なんだ」
「連絡用のアイテムとかないのか?戦闘中はともかく、昼間や何もない時のやり取りは、そういうの無いと不便じゃ無いか?まさか、鬼道を使えとは言わないだろう?」
「いらん。やる事は決まってる。昼間の虚はお前が引き受けるんだろう?なら、俺たちは破面が真っ昼間に出てきた時に動く。一々連絡取るの、お前だって面倒だろ。それに、お前に限って言えば、俺は自由に動かした方がいいと思っている。霊圧感知ができないわけじゃあるまいし、お前の自由にしろ。不測の事態にでも出くわさなければ、お前ならなんとか出来るはずだ」
「へぇ。随分と高く買いますね、日番谷隊長」
「別に。ただ、お前も知ってるはずだ綾瀬川。あの時、藍染と戦えたのはコイツだけだってこと。悔しいが、俺たちは既に奴の術中にある。それに左右されない穂積や黒崎は、
「なるほど」
「……………、分かったよ。俺はオマエが命令すれば動く。隊長はあくまでもお前だからな。だが、原則としてオマエは俺に不干渉って事だな」
「そういうことだ」
コイツらはそう思っているようなので俺は敢えて言わないが、俺も鏡花水月の術中にある。ただ、ソレよりも奥の、ただ一つの真実が視えるというそれだけだ。死という、単純にして唯一の真実。
しかしまあ、それだけで俺が戦えているのも事実なわけで。俺はそれ以上何も言わず、突然にどかっと腰を下ろした沈黙を振り払うために、幾らかの情報を持ち出した。
「破面といえばだが、ついこの前、そいつらが現世に出てきた」
「な…、お前、交戦したのか!?」
「まあ、な。互いに様子見だが。浦原のとこは行ってから話すぞ。浦原がなにか情報を得たかもしれないからな。じゃあ阿散井、コイツら案内してやってくれ」
「は、はあ。穂積副隊長は…?」
「買い物してから行くさ。時間はあるからな」
額に汗を滲ませながら、飲み物を買おうと思い立った俺は、そう言って先遣隊の集団から離れた。汗を拭いながらふと見上げた頭上の太陽は、本来瞬くべき星の光を掻き消して輝く。それは、何者も寄せ付けない魔性。しかし、あの日の月は。墜落を魅せる魔性だ。
俺は、月にもたれかかるような白い百合に、静かな殺意を滲ませた。死神と魔術師の境界。誰にも分からぬ曖昧さ。ならば俺はそこに、線を引こう。それこそが、俺の斬魄刀の力だから。