どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい   作:けし

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合格発表が近づくにつれ胃が痛くなるけしです。
相変わらずダラダラした展開に嫌気がさすかも知れませんが、それはもう私の文章力のせいです。是非もなし。
今回の話は穂積様をもう少し式っぽく戦わせるためには必要だからね。


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 それは、浦原との修行がいち段落ついて、俺が蒼崎橙子の下へ足を運んでいた時だった。

 俺はなぜか目の前にあった三日前くらいの新聞を広げてコーヒーを飲んでいた。橙子は、この部屋の唯一の採光手段である大窓を背に、ひたすら机に向かってニヤニヤと過ごしていたのだが。

 不意に、橙子がこんなことを口にした。

 

「織、お前魔術に興味ないか?」

「…………は?」

 

 その時橙子は眼鏡をかけていなかったから、粗雑な口調の問いではあったが、問題はそこではない。

 

「聞こえなかったのか?魔術、ちょっとやってみないか?」

「…あのな橙子。俺は魔術のまの字も知らないんだが。それにオカルトじみたことなら間に合ってるよ」

 

 実際この世界のオカルトに近いのは死神だろう。この部屋にある本──おそらく魔術関連も混じっている──を見ていると、死神の鬼道の方が理論がすっ飛んでいてそれっぽく見えるはずだ。

 

「強制はしないがね。でも、お前だって持てる手段は増やしておいていいはずだ。なに、回路さえ開ければあとはどうとでもなる」

「回路…?」

 

 曰く、魔術とは魔術回路を開くことで初めて行使する条件が整うのだという。いわゆる生命力というのは無色透明で何もできないエネルギーの形であるが、魔術回路に通すことで魔力となって、制御が出来るようになるらしい。魔力を電気に例えるなら、その魔術回路は発電機あるいは電線。生成し、それを巡らせるパイプライン。

 基本的に生者には大概備わっているが、才能が無いと開いても意味がないのだという。

 

「おい。一応断っておくが、死神って死んでるからな。いや、斬られたら血出すし、何故か死ぬけどさ」

「おいおい、『何故』とはなんだ。お前には死が視えるんだろ。ならそれは、『生きているから当たり前』なんじゃないのか?」

「くそ、嫌な揚げ足を取りやがって。つーかそれより、まず俺にその魔術回路とやらはあるのか?」

「あるさ。恐らくな。確信はないが、なにせ『直死の魔眼』を開眼したんだ。私の前で死神の常識はあてにしない方がいい。なによりお前自身、分かっているだろう?──自分が普通ではないとな」

「……チッ」

 

 図星とでも言うべきか。言い返せる言葉が無かった。しかし、仮に俺に魔術の適性があったとしても。結局鬼道の方が使えることに変わりはない。そう考えると、修得する意味はあるとは思えない。

 

「ああ、別にそんな小難しいことを教えようなんて思わない。本来魔術とは、年単位で体得していくものだからな。それに、自ら戦いに出ようとする魔術師などいない。だから、今から私がお前に教える魔術は1つだ。時間があれば、あといくつか試してみたかったんだがね。手っ取り早く強くなるとか、そういうのに向いてる飛びきりのやつさ」

 

 そう言って橙子は、たいそう趣味の悪い笑みをうかべて笑った。

 橙子のやることにしては珍しく──といっても知り合って数日の間柄でしかないが──、面白そうなことになりそうな気がした。ともすれば、卍解よりも面白そうな、そんな何かがある。直感がそう言った気がした。コーヒーの水面は、虚無を映すように真暗なままだった。

 

 

 

 

 

「ご苦労だった、ウルキオラ」

「失礼します」

 

 そう言って、目の前の白色痩躯の男を下がらせる。先ほど私は、彼の目で見た現世を見た。穂積織との戦闘も含めたその映像は、私の心を潤すに足るもので、かつ私の関心を引くことでもあった。

 ウルキオラ・シファー。先ほど下がった破面の名だが、彼は破面の中でも破格の力を持っている。その驚異的な再生能力や戦闘能力は、彼を4番の座に留め置くに惜しいほどだ。

 しかし、私は彼をそこに置いた。そもそも、私にとって十刃(エスパーダ)の序列など意味はない。私の力を以ってすれば、彼らとの戦いは児戯に等しい。虚圏(ウェコムンド)の王を名乗っていた老爺の力など、それを上回る圧倒的な霊圧で押し潰せば良い。他は、少なからず私に忠誠を誓っている身だ。ウルキオラも例外ではない。例外ではないが、私は彼に特別興味があった。その理由は分からないが、恐らくは。

 ───虚無と呼ばれる伽藍堂こそが、その正体かもしれない。

 崩玉も、王鍵の創生も。それらは元来の私の目的ではあるが、急ぐわけでもない。遠回りは好みではないが、彼のことに関してはその限りではない。本来の私に他者への関心など無い。穂積織という男は、それほどのものだ。

『反膜』を破壊されたあの瞬間。垣間見た彼の眼は、死に触れて蒼く澄んでいた。根源を見透かし、万物に死を。彼は私が逃避するものを引き連れていた。

 

「ああ、1ついいかな」

「なんでしょう」

 

 扉を開き、半歩踏み出してかけていた足を止めて、ウルキオラは私を正面に捉えた。何も流さない瞳が、私を映し捉えた。

 底の見えない、深い闇。何も無いが故の、無垢なる深淵。

 

「君から見て、穂積織という男はどう映ったかな?」

「…………奴は」

 

 少しの間とともに、ウルキオラは言の葉を紡いだ。

 

「奴は、何かを見ていました。それは私でも、ヤミーでも、ましてや仲間でも無い。未来を、現実を、過去を。その全てを見ていません。しかし、それは逃避しているわけではなかった。あの男は、ただ知っているというだけです。我々がどれほど戦いを繰り返そうと、その結果誰が生き残ったとしても。その先にただ一つの真実がある事を」

「ほう……」

 

 その答えは抽象化が過ぎたものではあったが、私はその言葉を聞くと同時に笑みを浮かべた。彼を表現するのに、具体的な言葉は無い。私も未だに奴が何なのか分からない故に。

 しかし仮に、奴が真に『死神』と言える存在なのならば。ふと、そう思った。

 鏡花水月の世界(歪めた現実)も。反膜も。概念である前者と、そう定義されているはずの後者は、どちらも死とはかけ離れたもの。それを殺した奴からしてみれば、死から眼を背けることは出来ないということだろうか。いやはや、興味は尽きないね。

 さあ、穂積織。舞台は整った。私の掌で踊ってくれたまえ。それともあるいは───。

 

 

 





しっかし、割と頑張って書いてるよなあ。軽いプロット作ったとはいえ、途中でめんどくさくなるのに。これも偏に、読んでくださる皆様と、ブリーチ、空の境界という作品の魅力のおかげです。

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