どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい   作:けし

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はっきり言って難産。大学の準備が忙しいってことだな!

新元号令和。Rですよね。




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「おい阿散井、穂積はどうした」

「穂積副隊長ですか?……この辺りには居ないみたいっすね」

「チッ、あいつどこで油売ってやがる」

 

 目の前に開いた黒腔(ガルガンタ)から、背後の漆黒とは対照的な白を纏った奴らが姿を現した。なるほど、これが『成体』ってやつか…。()()()とは文字通り桁が違うな。しっかりした理性と知性、佇まいからも、その戦闘力の高さが伺える。

 現状では数的に有利も不利も無い状況だが、だからこそ、今この場にいないあいつの力が欲しい。斑目たちならともかく、俺はギリギリの戦いをしようなんて思ってないからな。有利に戦うことが出来るのならそっちを選ぶ。当然のことだ。

 だが、無い物ねだりだというなら仕方がない。あとで事情を聞くとして、今はやるべきことをやるだけだ。

 

「はぁ。まあいい、全員気を引き締めてかかれ」

「「「「「了解!」」」」」

 

 朽木、阿散井、松本、斑目、綾瀬川が、揃って返事を返した。

 虚空に足音が響き、俺たちはそれぞれの敵と対峙した。どうやら俺の相手は、このスカした野郎らしい。だが、その落ち着き払った振る舞いは、決して虚構ではないはずだ。確実に、こいつは強い。他の奴も同様に油断が許されるような相手ではない。

 そう考えながら、背中からしゅるりと斬魄刀を抜く。穂積のヤツを除いて、恐らく死神では初めての破面との戦闘になる。斬魄刀を握る手が少し心許無く感じられた。

 

「私は破面(アランカル)No.11(ウンデシーモ)、シャウロンと申します」

「……十番隊隊長、日番谷冬獅郎だ」

 

 ピンと伸びた背筋そのままに、ゆっくりと歩み寄ってくる。小柄な俺と比較しても、結構大きいように思える。靴底が擦れる音が、真夜中の静寂を伝わって鼓膜を叩いた。

 見れば、阿散井も朽木も。皆すでに戦闘を始めていた。どうやら他の奴らは、ただ純然に俺たちを敵として認識しているらしい。剣戟の音が響き、戦闘の激しさを物語っている。

 俺も、初めから加減抜きで挑むつもりだ。

 

「霜天に坐せ、『氷輪丸』!!」

 

 解号を唱え、手に持つ刀から冷気が漏れ出す。

 その時不意に、奴が口を開いた。

 

「ふむ、穂積織…とやらは、いないのか?」

「なに…?」

 

 なぜその名が出てきたのかは、皆目見当もつかなかった。

 

「なに、聞くところによれば、その男は我ら破面(アランカル)の最高戦力、十刃(エスパーダ)と対等に渡り合えるとのこと。一目見たいと思うのは当然のことです」

「その十刃(エスパーダ)ってのが、お前らの中で最も強いのか?」

 

 十刃。それが何を意味するのかは、こいつの言からして明らかなものだった。

 

「その通りです。彼らはほとんどがヴァストローデ級から破面化した方ですので。しかし、我々がそうではないとは言え、侮ってもらっては困ります」

「侮るつもりなんざねぇ。…一つ聞かせろ」

「なんでしょう」

「穂積はお前らの中でどういう存在だ?」

 

 そう問いかけると、破面は少し考え込むそぶりを見せた。剣戟の音を背景に、奇妙な沈黙が耳を叩く。冷たい汗が、すーっと頬を流れる。

 

「興味の対象…でしょうか。少なくともグリムジョーは興味を抱いてます。戦うことが至上である我々にとって、強さとは絶対。故に、彼のような強者とは一戦交えてみたくなるのです。命の危険などは度外視して」

 

 つまり穂積は、その名前だけが破面の間で広がってることになる。虚圏(ウェコムンド)に行ったら、さぞかし人気者になれることだろう。俺は少し同情した。

 

「さて、無駄話もここまでにして。そろそろ始めましょう」

「そうだな…」

 

 一転して走る緊張。わずかな温度を持っていた汗が、一気に冷えたものへと転じた。通じたように、互いに同時に空を蹴る。

 キィンと、甲高い音が響いた。

 

「では、あなたの力を見せて貰いましょうか」

「勝手にしろ。こっちはただ、てめぇを叩っ斬るだけだ」

 

 その言葉に、破面は僅かに口角を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ」

 

 漏れる舌打ちは、苛立ちを表していた。未だ斬魄刀は抜いていない。式から渡されたナイフで応戦している。破面も、ただ霊圧をばら撒くだけで、もはや戦闘にすらなっていないように感じた。

 

「さっきから『堕ちろ、堕ちろ』って、オマエの頭にはそれしか入ってないのか?」

『……堕ちろ』

 

 さっきから、空中に立っている俺に対して、こいつは浮遊している。いや、飛行というべきか。どちらにしろ、空中ではこいつの方が上みたいだ。だからと言って、俺に対空攻撃の手段があるかと言われたら、それこそ真っ直ぐに飛ぶ分かりやすい鬼道しかないわけで。

 

『貴方、堕ちたくないの?…空を飛びたくないの?』

「あいにく、飛びたいとも堕ちたいとも思わないな。なにせ、結局堕ちるわけだからな」

 

 落ちれば落ちる。飛べば落ちる。当たり前の話だ。結果が同じだから、飛ぶことと落ちることは十把一絡げに出来るのだ。俺たちに限って言えばその限りではないが、少なくとも自分から落ちたいとは思わない。

 

『堕ちたくない…?なら、堕としてあげなくちゃ……』

 

 そう言って、奴は初めて刀を構えた。霊圧が噴き出て、足下まで伸びた髪の毛が舞う。横たわる空気が、慄いて震えた。

 

『堕ちろ…、《天堕巫女(ヴィスタリア)》』

「っ!?」

 

 嵐と見紛うばかりの圧力が突き刺さり、咄嗟に大きく飛びずさった。ここから先は、流石にナイフ一本ではキツイかもしれないな。しかし、まだ俺の琴線に触れていないのもあってか、抜く気にはなれなかった。『ヴィスタリア』とやらがどういう能力かは知らないが、それが何であれ、生きているのなら殺せる。

 ああ、死を贈りつけてやるさ。

 

『ふふ…、あなたには、堕ちて貰わなきゃ…、ふふ』

「ちっ、こりゃ橙子の言う通りか…。コイツ、空に()すぎたな」

 

 

 嵐が止んだ時、そこにいたのは案の定、姿が変わった破面の姿。髪の毛は引き続き下ろされたままに、頭にティアラのような仮面の名残が乗っかっていた。結果的に大して変わったようには見えないが。これが浦原のいう『刀剣解放』やら『帰刃(レスレクシオン)』とかいうやつのようだ。俺たち死神でいうところの卍解。残念ながら俺はまだその境地に至ってはないが。なるほどこんなものかと、ざっくばらんに理解した。

 

『ああ、貴方はまだ知らないだけ…。空を飛ぶ(堕ちる)ことを…。だから、知って貰いましょう?…《七人の天姫(セッテ・プリンセッサ)》』

 

 言うやいなや、俺と破面の間を塞ぐように浮遊する、これまた破面とよく似た格好をした亡霊が顕現する。無表情で、虚ろで。諦めも、絶望も、生気すらも感じられない。正しく霊としての在り方を体現したような手本に見える。まるで、何かに囚われたように。

 しかし、7人…ね。だとするなら、コイツらは先の自殺事件の被害者じゃないか?つまり、事の元凶はこの破面だったと。どうでもいい事実だな、全く。

 

「さっきも言っただろ。んなもの、知りたくもない。むしろ、俺の方が教えてやりたいくらいだ。特にオマエが俺の何かを奪ったわけでもないが、死んでもなお生きてるオマエに、事実を知って貰わなきゃな。ああ、飛べば落ちるなんて、そんな当たり前のことよりもっと当たり前のことをさ」

 

 相変わらず、俺の眼はよく視える。死人が生きているという、常人なら発狂ものの事実だ。落とす事しか、飛ぶ事しか頭にない亡霊をナイフで殺していく。斬って、刺して、貫いて。ビルの端へと駆け出していく。

 瞬間、破面が数メートル退いたため、舞台はそのまま空中戦へともつれ込む。

 

「オマエはこっちの世界で死んだ。死人なんだよ。生と死は背反し、互いに手を取り合わない。二元論の最奥だ。だから、オマエらがこっちに手を出すなんざ、本当はやっちゃいけない事なんだよ。だから、オマエはここで終わらせる。飛びたいなら、勝手にやってろ」

 

 そう言って、切っ先が破面の首に触れようとした瞬間。

 

「や、止めてっ!!」

「なっ……!?」

 

 突然の声に思わず振り向いた俺の土手っ腹に、破面の刃が食い込んだ。

 

 

 

 






あとちなみに四月一日って書いて「わたぬき」って読むの知ってた?
俺は知ってた(大嘘)

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