どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい   作:けし

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手持ち無沙汰という言葉が、今の俺を表すのにはぴったりの言葉だろう。アイツらが空中と建物の屋上で戦ってるためにほとんど被害が及ばない地上で、そいつらの戦いを見上げていた。

 

「帰ったほうがマシかもな…」

 

右手で弄んでいるナイフは、頭上の月の光を浴びて純白の光を返す。鏡のようではあるが、その実は革ジャンの色よりも濃い血に染まった刃。すでにこのナイフで殺された存在は血を流さなかったけど、殺したことには変わりない。人を殺す方法としては、もっとも原初のもの。至近距離で、間近で、殺す瞬間を目の当たりにしながら。だけどそれは俺にとっては生命の重さを感じられるということでもあり。故に、俺はこの手で殺すことを望む。

命の重さが紙のように軽い。死神はそういう世界に生きる。自分も相手も、次の瞬間には死んでいる。そんなことだってある。

だから俺は、それを感じたい。

 

「ぐあっ!」

 

何かが砕けるような音と一緒に、聞き慣れた声が聞こえた。そのまま猛スピードで地面に墜落した。…痛かったな、あの時の墜落は。

 

「……っ、くそ…」

「時間切れ、か。まあ向こうが妙にやる気になってたみたいだし、仕方ないんじゃないか?」

「…やっぱテメェ、あとでシメる…」

「そんなこと言ってる場合じゃないだろうに。ほら、アンタのとこの副隊長、終わったみたいだぞ」

「隊長!?」

 

全く、2連戦になるのか?煽っておきながらなんだが、正直興味が無い。さっさと終わらせてしまおう。

命の重さを虚に求めるのは、間違ってるだろう。生きているとは言え、一度死んでるのだから。それに何より。コイツら自身が命を何とも思っていない。自覚がないのなら、俺にとってそれは殺害対象では無い。その感覚さえも虚ろに消えたが故の“虚”なのだろうかと、ふと思った。

まあ、そんなことはどうでもいい。ボロボロになりながらも日番谷に勝ったこの破面の相手をしなくちゃならないからな。

 

「驚いた。まさか本当に勝つなんてな」

「ふぅ……。ええ、彼は強かった。ただ、私の方が強かったのでしょう」

「ふーん、ま、そういうことにしておく。悪いがやる気が無くてな。さっさと終わらせるぞ」

「結構。貴方の力を見せてもらいます。十刃の方々が興味を抱くほどの力を」

 

弄んでいたナイフを逆手に握り、全身を脱力させる。帰刃したコイツらの姿はゴツゴツしていて、なるほど確かに虚だと思えた。だから余計に殺す気になれない。日番谷たちは倒すと言っているが、それは殺すことと同じだ。つまるところ、今の俺は戦う気がさらさら無い。

縛って殴って、虚圏に送り返すくらいが丁度いいんじゃないか?

 

「聞くところによると、貴方は接近戦を好むようですが、私の『五鋏蟲(ティヘレタ)』は遠距離でも戦えます」

「へぇ。だからどうした。距離をとって戦うのか?いいぜ。別に俺は、近づいて戦うしか能が無いわけじゃないからな」

 

右手にナイフを持ったまま、左手を破面に向けた。

 

「【破道の三十三・蒼火墜】」

 

蒼炎が放たれる。三十番台としては破格の威力を持つお手軽攻撃だ。大して霊力を持たない俺でも余裕で使えるから、意外と重宝する。

だが、距離が離れていたために見てから余裕で躱された。

 

「【縛道の六十三・鎖条鎖縛】」

 

打ち出されたように飛び出す鎖。弧を描いて破面を捕らえようとする。かなりの集中を要するがこの鎖は自在に操れる。逃げた先々へと追尾し、意地でも捕らえんとせんばかりに動き回っていた。

 

「逃げてたんじゃ捕まるぜ?」

「ならば鎖ごと断ち切りましょう」

 

長く白い爪から繰り出される斬撃。一撃で壊れる事はないが、同じ箇所に何度も当てられれば流石に持たないみたいだった。そしてそのまま、俺に向けていくつもの攻撃を放ってくる。威力よりも速度重視だが、距離があったために避けるには十分だった。ただ、避ける方向を予測してか、いやらしいタイミングに攻撃が置かれていて厄介に感じた。

 

「…ふぅ。意外とやるじゃないか」

「光栄です。しかし、まだ貴方のやる気を引き出せないみたいですね」

「初めからないものは引き出せない。当たり前だろ」

 

何度も言うが、俺にはオマエと戦うつもりはない。戦意がないというより、倒す──正確には殺す──気が起きないのだ。仕方なしなのだ。早く終わらせたいのなら殺せばいい。しかし殺す気が起きないから殺せない。面倒で、下らない意地と言われるかもしれない。相手は破面だ、何を躊躇う事があろうか。

───違う。俺にとってこれは、死神と破面という構図ではないから。命を奪い、奪われる。そういう戦いと認識しているからこそ、俺は殺す気が無ければ動かない。ただ殺すだけなら猿でも獣でもできる。そこに、明確な何かを持って相対することが、俺が殺すための条件だ。そうして、長いこと殺人衝動を制してきた。枷が外れるのは、多分藍染なんかと立ち合ったとき。逆にそうで無ければ、俺はコイツらを殺せない。まあ、殺さなければ何をしてもいいとも言うのだが。それでも、相対した敵が俺の琴線に触れたのなら。俺はソレを殺してしまうのだろうか。

 

「【縛道の六十一・六杖光牢】」

 

ちょっと力が強い程度の破面なら、十分な捕縛力。腕を振るって斬撃を飛ばすのなら、腕ごと動けなくするといいわけだ。

 

「っ…!」

「さ、終わりだ。仲間はやられたみたいだが、今のところ俺はオマエを殺す気は無い。だからもう帰れ」

「これで私を、捕らえたつもりですか…」

「死にたがりを殺すほど暇じゃない。それでも俺と戦いたいなら諦めろ」

「…………」

 

張り詰めていた何かが切れたのか。破面は項垂れるようにして意識を失った。

 

「穂積、なんで殺さなかった」

「…言っただろう。俺は殺す気がしなかったってだけだ。オマエらの『殺す』と、俺の『殺す』は意味が違う。こればっかりはオマエの命令を受け付けないからな」

 

俺はそう言い放った。殺気は込めずに、断固とした意志を以って。だから日番谷は、それ以上何も言わなかったのだろう。『殺す』ことに関してだけは、俺は頑固だと知っているから。

その後なんかかくかくしかじかで、破面どもは回収されていった。収穫は決して少なくない。護廷十三隊では、情報の擦り合わせが行われることだろう。相手を知るのは大切だ。

それでも、俺のやることは変わらない。

 

「もう少しで、殺せそうだな。藍染惣右介」

 

気になる輩はいる。空っぽを抱え込んだ能面みたいな破面とか。

だけど、それも含めて、俺に出来るのは殺すことだけ。どこまで行っても俺は俺で、人で。そして───。

 

「どう頑張っても、俺は殺人鬼なんだろうな」

 

血に塗れた軌跡。血のような革ジャン。血に染まる刃。血を求める虚無。いつだって、伽藍洞を満たせるのはそれだけだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日もまた、西へ陽が落ちていく。当たり前のように落ちていく。織さんは現世で何をしてるんだろうか。白塗りの瀞霊廷が、紅く染まっていく。決して血のような色では無かったけれど、織さんを思い出しているとそう見えてしまう。

藍染隊長と戦っていた時の姿を思い出すと、織さんもそういう人間なんだと分かってしまう。

それでも、好きになったのなら仕方ないのかなあ。

 

「勇音。今日はここまでです。急拵えですが、いくらか力にはなるでしょう」

「はい、ありがとうございます」

「ではまた明日」

 

最近、私は卯ノ花隊長に頼み込み、剣を教えてもらっている。丁寧に教えてくれると思っていたけれど、何故か肉体言語だった。剣の腕もさることながら、最近は回道の腕も上がってきている。

隊首会議で分かったことを教えてくれたが、織さんは普通に破面(アランカル)と戦闘しているらしい。しかも限定状態で。

卯ノ花隊長曰く、喧嘩殺法じみている洗練された殺人剣。型を知りながら型に囚われず。彼の斬魄刀の使い方はそれだったという。それに、あそこまで強いのなら、卍解にだって至っていてもおかしくはない。

彼の斬魄刀『唯式』には、涅隊長も興味を惹く謎がある。あの反膜(ネガシオン)を斬り裂いたり塞いだりする鬼道系と推測されるが、やはり謎。涅隊長が狂気じみた目で「是非とも解剖したいものだヨ」と言っていたらしい。聞かなかったことにした。

 

「痛っ……」

 

散々に打ち据えられた腕を、回道で癒していく。じんじんと熱を持っていた痛みは、ゆっくりと引いていく。

見れば、もう陽は沈んでいた。いつのまにか現れた一番星や二番星が、チカチカと瞬いていた。現世は夜も明るいと聞いたことがある。だけど、瀞霊廷だって明るい。

その後私は夕食を済ませ、部屋で刃禅を組む。卍解を会得する前に、斬魄刀と会話するのだ。始解の時と同じ手順で。

眠るように、すーっと瞼が閉じられる。

 

 

 

 

 

 

 




→剣の腕もさることながら、(ボコボコにやられ過ぎて)最近は回道の腕も上がってきている。

都合により日番谷隊長敗北。
大丈夫、強化フラグだ。日番谷派の皆さんはご安心めされよ()



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