どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい   作:けし

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レポート、課題、その他もろもろ…。
大学って忙しいのね…。

そんな中での45話。どしどし感想評価なんでもお寄せ下さいっ!


45

「がっ、は……っ!」

「なんだ、あっさり終わったな」

 

 卍解の本領を支配した俺は、目の前の破面を相手にその程度を測っていた。

 あれほどまでに肥大化した怪物の下半身はボロボロになり、自重を支えきれなくなっていた。

『喰らう』こと以外には、物理的に攻撃するしか手段がないこの破面は、俺にとっては()()でしかなかった。

 それに…。

 

(どうにも身体が『殺し』に動いちまう。俺の意思に関係なく、最適化してる…?俺の事を俺以外に知り得る奴は……。式…?)

 

 松本乱菊の斬魄刀もそうらしいが、俺の斬魄刀である式もなかなかの気分屋。うさぎというよりも猫。でも本人はうさぎだと頑なに主張する。いつの日か式がどこからか取り出したうさ耳に関する記憶は、俺にとって笑える話だ。

 そんな式にとって、もしかしたら『喰らう』という概念が忌避されるべきことだったのか。あるいは本能的にイヤだったのか。

 

「へっ…、まさかここまでズタボロにされるとは…な」

「オマエ…、終ぞその姿のままだったな」

 

 ズズ…ンという音が聞こえてきそうな巨体は、もはや生気を漂わせることを諦めたかのようだった。

 志波海燕の皮を被ったまま、コイツは俺と戦い続けた。それがコイツにとって利のある行為だったのかは、どうでもいい。

 

「何でだろうな…。剥ぎたくても剥げないというより、剥ぎたくなかった…って感じだな…」

「…何もかもを『喰らう』が故の、残滓の発露…か」

 

 今になって表に立つのは恐らく『志波海燕』なのだろう。斬魄刀と共に殺したかと思ったが。俺はこの男のことは、知識として識ってはいる。だが、俺は初めてこの男と会う。

 

「なあ()

「……なんだ」

「…変わったな、お前。前はもう少し感情豊かだったはずだが…」

「色々あったんだ。朽木は今でも、オマエを救えなかったのを後悔してるし、浮竹隊長たちも、オマエが居なくなったことを嘆いてたよ。……俺は…」

 

 何も思わなかった。少なくとも俺は、オマエに最も親しい者の1人だったはずなのに。

 虚ろで虚無で。それを実感した瞬間だった。

 

「言うんじゃねえ。……お前が言っても意味が無いことくらい分かってる」

「…そうか」

「………俺は、弱い。守りたかったものを守れなかった。お前も含めて…」

 

 命を漏らすように息を吐く。最期は近い。あと数歩踏み出せば終わりだというのは、視ずとも分かる。

 

「お前の力は聞いてるぜ、織。俺の親友()()()お前だから、頼みたいことが…ある」

 

 俺に重ねているのだろうか。その焦点はどこか別のところに結ばれて、幻像を投影している。

 

「俺を……、()()()()殺してくれ……」

「…………」

 

 その願いは、その男にとって何よりも貴いものだった。

 願いを抱き続けて歩いた道は、歩きたかった道から逸れて久しい。

 間違えたのではなく、間違えさせられたのだ。その男に罪はない。

 しかし、それを飲み込めるほど、その男(志波海燕)は美しくなかった。

 だから、歩き続けることに決めた。

 いつか、足を止めさせてくれる者が現れると信じて。

 

「…代わりで悪いが、いいぜ。殺してやるよ。初めてをくれてやる」

「…くく」

 

 視える世界は深青の死。万象綻ぶ直死の世界。

 全身に走る綻びにあって、ただそれだけを殺すものが視える。

 

「じゃあな。志波海燕。会えて嬉しかったぜ」

「おう、またな。穂積織」

 

 その日、俺は初めて人を殺した。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーー

 

「っ…!」

 

 思わず立ち止まり、来た道を振り返った。

 突如走った感覚は、馴染みなく、故にそうした。

 

(穂積副隊長…、海燕殿……)

 

 仲間であり、上司でもある男と。

 かつての師であり、いまでも尊敬を重ねる男と。

 …何があったのかなど、朽木ルキアに知るすべはない。

 何より、知ったところで。彼女に出来得ることなど、何もないのだから。

 

「海燕殿…、私は……強くなれたのでしょうか…」

 

 かつての宴で誓った思い。だが、それを誓った相手はもういない。

 朽木ルキアは未だその思いに胸を張れない。自信がない。思わず背中が丸まりそうになる。

 その思いが尾を引いたのだから、彼女はあの場で震えてしまった。志波海燕の姿を前にして、己が誓いに背を向けようとしてしまった。

 そして今、その事を自覚して奮起する。

 

「……っ」

 

 こみ上げそうになる涙を堪え、力を込めて前を向く。

 後ろを振り向くのは、然るべき時にのみ。

 そうでなければ、前を向く。

 軽快な草鞋の足音が、伽藍の空間に反響する。

 朽木ルキアは、止まらない。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「……さよならだ(アリー・ヴェデルチ)

 

 告げられた別離の挨拶は、誰に向けられたものなのか。

 矢弾は放たれ、目標を焼失させんと殺到する。

 狂気に満ちたトラウマを思い出させる科学者は、炎の中に埋まった。

 

「……やったか…?」

「バカ!阿散井!」

 

 それを言うんじゃない!フラグ立つじゃないか!?

 

「くくっ、面白いじゃないか…!!たかが副隊長クラスの死神と野良滅却師程度と思っていたが…。存外に愉快じゃないか!フハハハ!!」

 

 炎の中から聞こえてくる声は変わりなく。

 狂いに狂った知性と理性が織りなす、狂声。

 

「僕も、君たちを少々過小評価していたようだ。ああ、さっきも同じようなことを言った気がするが…。まあいい。…次は、僕の番だね?」

 

 ゾッとするような冷たさを感じ、共に歩法を駆使して後退した。

 

「おや?どうしたんだい?僕に直接的な戦闘能力はないんだがね。かつての僕ならまだしも、科学者たる僕が、君たちと剣を交えようなどと考えることはしないよ」

 

 その気になれば殺すことも可能であるだろうに、大仰な仕草でそう言う。

 破面であり、さらに十刃(エスパーダ)でもあるのなら、僕たちを余裕を持って殺せるはずだ。

 それをしないのは、偏に奴が『科学者』だから。あの涅マユリと同じくらいには、科学者であることに誇りを感じているから。

 僕たちは『戦う者』であり、奴は『識る者』。

 それでも、昨今の現世の科学者が、スポーツマンと融合したかのような体をもってるように、この科学者もまたそうなのだろうと思って。

 

「まあそう身構えるな。僕は戦わない代わりに、『実験』をするんだからね」

「…どういう意味だ」

「察しが悪いね君も。僕の実験には助手が必要でね。…流石にここまで言えば分かるかな?」

 

 まさか…!?と思った時には、すでに術中だった。

 いつの間にか近くまで迫っていた白い触手が、僕たちに絡み、喰らう。

 喰われた身としては気持ち悪い事この上ないが、喰べるというより分析する意が強かった気がする。

 ……事実、吐き出されたわけだから。

 

「っ、ゲホ、ガハッ!!」

「ゴホッ、っ、クソ…!」

 

 圧倒的な不快感を振り払って、仕切り直すようにしてザエルアポロと対峙する。

 その時、奴の手に何かがあることに気づいた。

 

「ふむ…、なかなかの霊圧強度だ…。考察のしがいがあるというものだよ」

 

 まるで、僕たちの人形のような。…いや、ようなではなく、僕たちの人形。

 なぜそんなものが。そんなことは考えるまでもなかった。

 なぜならそれは、僕たちそのものであるから。

 

「くく…!察しは悪いが頭はキレるみたいだね」

 

 キュッ、ポン!というような音を立てて。まるでマトリョーシカの人形みたいな形をしたそれは開いた。

 中からつまんで取り出したのは、ビーンズのようなよく分からないパーツ。

 

「『君たちそのもの』から取り出したものなんだ。中に入っているものは…、当然、決まっているだろ?」

「っ、まさか…!?」

 

 なまじ医学をかじっていたからなのか。あるいはそんな事関係なく、己のことである故に理解が及んだか。

 それは、()()

 

(まずい………!!!)

 

 霊圧を回し、内臓の強化を図る。

 静血装(ブルート・ヴェーネ)なる技術が滅却師には伝わっているそうだが、それの詳細は竜弦も知らなかった。曰く防御用の何かであることは聞いたことがあるらしい。

 どちらにしろ、霊圧を体内で廻すしかない。外界からの干渉を可能な限り拒むように。

 己が内に、別の世界を作るようにして拒む。

 だが。弄ぶようにプチリと潰されたそれが、()()()の内臓であるからには。拒むことなど出来るはずもなかった。

 

 





雑になってやしませんかね、俺氏。
(→自覚あるならなんとかしろよって話)

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