どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい   作:けし

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いやーここから大変だZE☆
こんなふざけたことするくらいにはぶっ壊れそう。
モチベと参考になるので感想下さい(懇願)



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「…………」

 

 力を失い、ぐったりと横たわる破面(アランカル)。志波海燕の姿のままで、死んでいる。

 だけど俺は、その場から離れることはしなかった。

 俺が殺したのは()()()()()()()()、破面では無いから。

 

「っ!」

 

 不意に、破面の左腕が動いた。その左腕はもはや腕としての体裁を捨て、ただただ喰らう為だけの器官として存在していた。

 関節を捨てたから、自由に曲がって襲ってくる。

 気づけば、破面は立ち上がり、両腕で襲いかかってきていた。

 

「クソっ、しつこい…ぞ!」

『シツコイノハ仕方ナイ』

『喰ラワナケレバ満タサレナイカラネ』

 

 片言の言葉が、聞こえた。それも、2人分。

 なるほど…、そういう事か。

 

「志波海燕の皮被ってたのは、オマエらか」

『ソウダヨ』

『キミタチヲ動揺サセルニハ、コレガ一番ダト思ッタカラネ』

 

 心底意外そうな声音でそんな事を宣う。

 そしてその破面は、遂に皮を剥いだ。その出で立ちはカプセルに閉じ込められた実験体のような。

 涅マユリの実験室には、インテリアのように溶け込むんじゃないだろうか。

 

『朽木ルキアナラ上手クイッタカモシレナイケド』

『キミニハ通用シナカッタ』

「たしかに志波海燕という男は縁深い人物ではあるけどな。だけど、その縁は俺とは繋がってないんだ」

 

 穂積織が俺でなければ、あの男を前に動揺しないなんてあり得なかったのだろう。それともあるいは、この場に居なかったかもしれない。

 式の力を引き出し、様々な人間と関わりを持った。

 変わったきっかけは、言うまでもなく。

 

「『喰虚(グロトネリア)』だったか。さっきのがオマエの本気だったとは思ってないけど、オマエ程度なら殺せる」

『確カニ、我々ノ能力ハタダタダ喰ラウダケ』

『ダケド、藍染様ニ頂イタコノ(ちから)ハ、ソノ殺ス(ちから)ニモ引ケヲトラナイ』

「藍染にもらった力…だと?」

 

 その言葉に訝る。この破面に藍染が手を加えている。…いや、この破面にだけ、藍染は手を加えている。

 ここにいる以上、この破面は十刃(エスパーダ)なのだろう。ただ単純に強いはずの破面に、藍染が手ずから手を加えたのだ。

 このパターンは、前にもあったような気がする。

 全く同じではない。けど、破面として進化した存在に、手を加えるということ。

 ……巫条ビルの屋上で殺しあった、あの月夜。

 三日月だけが俯瞰していた、血に染まる夜。

 

「なにを…」

『僕タチハ、タダ喰ベルダケ』

『藍染様ハ、ソコニ価値ヲ見出シテクレタ』

 

 目の前の破面が紡ぐ言の葉を、耳の奥で噛み砕きながら。

 俺の思考は、ある夏の日に橙子が話したことに繋がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相変わらず、部屋が暗い。

 最低限の動線だけが浮かび上がるこの部屋は、どうにも陰気くさくて好きにはなれない。だけど、居心地が良いと思える空間だった。

 採光する窓は、橙子の背中にどんと陣取る大きな1つだけ。電気はついているけども、陰鬱さは抜けなかった。

 

「お前もここに入り浸るようになったか?織」

「どこにいようと勝手だろ。…まあ、入り浸ってるのは否定しないけど」

「構わないさ。話し相手がいるというのはそれだけでかなり違うらしいからな」

 

 何かの紙と睨めっこしていたかと思えば、それを机の中にバサッと放り込み、近くにあった段ボールからよく分からない何かを取り出した。

 

「それは?」

 

 なんでか知らないけど、橙子の手にあるソレが不思議に見えた。

 

「これか?これはヴィシャ盤と言ってな。ヴィシャ盤自体は大したものではないんだが、これが纏う神秘に惹かれちまったのさ。この前デカい仕事で金が入ってきた時に見ちまったもんだから、もう懐が素寒貧だよ」

「なんだそりゃ」

 

 ソレを眺める橙子の目は、魔術師としての目だ。つまりソレは、魔術的な品物なのだと。

 ふと、橙子がこんな事を言い出した。

 

「お前には暗示の魔術を教えていたか」

「そうだな。アレ、結構凄いな」

「だろうさ。特にお前たちは霊魂に近いからな。思念想念の影響を受けやすい。まあ、魔術師風に言えば『神秘に近い』のさ。お前たちはな」

「そんなもんなのか」

「尤も、その暗示魔術が高い効力を持つのはそれだけが理由じゃないんだがね」

 

 含むような言い方だが、俺はてんで興味がわかなかった。

 とは言え時間を無為に過ごすのも、何かアレな気がして。

 俺は、橙子の話を聞くことにしたのだった。

 

「魔術師には『起源』という概念がある。これはその者の方向性をある程度決定づけるものだ。これは万象が有する」

「俺たちにもか?」

「魂を持つものならば必ずだ。例えば喜助の起源は『知識』と『手段』だ。言うまでもなく、あいつは研究者だろ?」

「なるほどな」

 

 浦原ならば納得ともいえる。

 だとしたら、俺は。

 

「そうだな…。お前の起源も見てやろう。少し触るぞ?」

「ああ」

 

 そう言って橙子は、俺の魔術回路を走査する。体内の異物に異物が入り込む感覚は、どうにも名状しがたい不快感を催す。

 背後から触れられているためよく見えないが、橙子は笑っているような気がした。それがどういう笑みかは、俺には分からない。

 大窓に背を向けていた俺にとって、橙子の笑みは裂けた三日月のようなのかもしれない。見えないのだけれど。

 

「ほう…。なまじ繋がっているからか、なかなか面白い起源じゃないか」

「人の在り方を面白いだなんて言わないでくれ。俺だって難儀してるんだ」

 

 半ば心にもない言葉を口にした。

 人の一生は結果。過程よりも須らく重視される。よっぽどの有名人でもなければ、道程なんて知られるはずもない。

 そんな奴らすらも、各々が成したことが評価されるのだ。

 その結果とは、その人間の在り方とも言える。

 俺にしてみれば、俺自身は殺すという結果しか残せないのだから、笑うなんて出来ないのだ。

 虚無に浸る俺にとって、あらゆる在り方が眩しい。

 橙子が手を離した。人よりすこし冷えた手の感触が遠ざかり、いつもの感覚が目を覚ます。

 

「お前の起源は『虚無』だ、織」

「……『虚無』…か」

 

 感じ入るように呟く。

 つくづく思うことだが、運命というのはどうにも皮肉くさい。

 伽藍であることが、俺の在り方そのものだったのだ。笑うしかないだろう。

 後から得たのではなく、俺は生まれつき空っぽだった。俺は橙子に、そう宣言されたも同じだ。

 

「ふん、その様子だと自覚はしていたようだな」

「まあ、な」

「本来起源を自覚することはほとんどない。他者の起源を調べるなど、私でもなければすることはないだろうからな」

「そうなのか?」

 

 ただ疑問に思い、橙子に問い返した。

 ふん、と声を漏らし、橙子は口を開いた。

 

「当たり前だ。さっきも言ったが起源とはその者の在り方だ。在り方というのは無意識、あるいはそれよりも奥の魂にまで帰着する。お前たちでも、魂を見るなんてことはないだろ?」

 

 確かにその通りではある。だが、ならば斬魄刀はどうなる。

 魂を写しとり、それを力とする刀。それ自体が在り方ではないのか。

 

「ん?そういえば斬魄刀というものがあったな、お前らは。まあ確かに、それは起源の考えに近いかもしれない。だが、己の内ではなく、あくまで斬魄刀という存在として認識しているからには、それが各人の本質と感じることはあっても、決して己の在り方だとは思わない。生まれを同じとする限りなく近しい別存在。それが多分、(魔術師)からみた斬魄刀というものだ」

 

 そう持論を展開する橙子には悪いが、そんなものは俺に理解できるはずがない。

 講釈するなら浦原あたりにするといい。橙子のいう通り、あいつの在り方が『知識』なら、その情報はきっと刻み込もうとするだろう。あいつの在り方が『手段』なら、その情報を枝葉のように広げて可能性を模索し、己の手段の一つにするだろう。

『虚無』。今までも抱え続けてきたソレは、決して間違いじゃないし、むしろ当たり前だった。

 そしてそれが、俺の在り方なのだと。初めて他人に認められた。

 伽藍の洞に響く。それはまるで、鐘のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オマエに見出された価値が何なのかは知らないし、どうでもいいよ。珍しく式が殺気立ってるからな。…殺してやるよ」

『キミニハ出来ナイサ』

 

 自信ありげに聞こえてくる破面の声。くぐもっているけれど、はっきりした声。

 

『ソウイエバ、君ニ僕ラノ名前ヲ名乗ッテナカッタネ』

破面(アランカル)No,9(ヌベーノ)、アーロニーロ ・アルルエリ』

「…そうかよ」

 

 まだ卍解は切っていない。こうなると分かっていたから。

 暗闇の中、殺気が満ちる。張り詰めて、のし掛かる。

 まるで、あの日の夜のよう。

 せめて、月のような光だけでも。

 死の線の仄かな光。瞼の裏に焼き付いていく。閉じた世界の中での理はただ一つ。

 

『君ノ(チカラ)ハ、僕ラガ正シク使ッテアゲルカラ』

「…オマエには無理だよ。喰べるだけなら、オマエは真性の獣だ」

 

 これから起こるのは、互いにただの殺戮。

「虚無」と「喰らう」が入り交じる。

 伽藍の洞に、光が射す。雲間の太陽が如き優しさは、何処かへ捨て去っていた。

 

 

 





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