どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい 作:けし
また、アーロニーロは穂積様にムッコロされたことで地獄篇へのルートが消滅しました。悪しからず。
「────っ!?」
「!っ、ガハっ、な、何だこいつは!?」
「喋るな阿散井!悔しいが…、正直勝ち目が薄い…」
「どうなってんだコイツは!?」
理解してしまうと、余計に痛いな…っ。流石に阿散井では理解が及ばないのか…。動くとダメージに成りかねないから動きたくないんだがな。
「よく聞け阿散井。『僕たちの命はあの男が握っている』」
「な!?…って、まさかあの人形か!?」
「そうだ。あの中に入ってたのは骨、筋肉、内臓といった中身全てだろう。僕たちが動くより、奴が潰す方が早い。…どうしたものか」
悦に浸ったようなザエルアポロの笑みがかんに障る。…とはいえ現実問題、取れる手立てがないのだから、何をしようにもどうしようもないわけだ。
放つだけなら僕の『銀嶺弧雀』でも出来るが、…当たらない。火力重視にしようとしても、僕のこの『
…ホント、どうすればいい…。
「…………」
「……くそ、どうすりゃいい……!」
目に見えて浮かぶ焦燥。伝播して、僕にも焦りが湧き上がる。異論反論が飛び交い、結論が見出せない。不用意に動けば、確実に
以前の僕だったら、動かないよりマシだと思ってやたらめったらに撃つのかもしれないが。今はそう思わない。彼我の実力差がはっきりしていて、そして協力した結果がこれだ。
…最早、何かが起こることを期待するしかない。
「おや?もう品切れなのかい?ククク、それは残念。もう少し遊んでいたかったんだが…。これ以上は時間の無駄というやつかな」
その時、頭上から声が降り注いだ。
『おやおや?随分と面白いことをしてるじゃないカ』
耳を叩き、背筋を震わせる。その声の持ち主は、モノトーンの顔と深い海のような色の頭飾りをつけていて。
「お前は…!」
「貴方は…!!?」
スッと乾いた大地に降り立つ男。狂気を纏い、狂気に浸り、狂喜に湧く。
以前より五割増しで目に悪いカラーリングは、どこを目指しているのだろうか。
「涅マユリ……!」
「涅隊長!」
「フン、手酷くやられたものだネ滅却師」
こちらを見るなりそう吐き捨てられた。大して興味もないだろうに。ぎょろりと光る目は不気味に、紡ぐ言葉は狂喜に揺れていた。頭のその飾りのせいで一回り大きく見える涅マユリは、その狂気のせいで見合わない圧を感じさせる。
そして同時に思う。敵わない、と。
戦闘ではなく、その思考に。
酷く利己的であるために、冷たく、鋭い思考回路。
ああ、そうだ。
こいつらは『科学者』なんだ。
そう気づくのに、時間はかからなかった。見れば見るほどよく似た2人だった。
「フム、さっきの
「………何故」
「何故だと?馬鹿かね君は?そんなもの決まっているヨ」
そうして浮かべた笑みは、まさしく『
1人の科学者として、全ては研究対象なのだと、僕は気付かされた。
「君を瓶詰めにした時に、瓶に名前を書くためだヨ」
「……………ハッ」
科学者──『識る者』同士の戦い。血も、涙も、そこに介在する余地はない。
「私には戦いを好むなんていう趣味はないからネ。手早く終わらせて、君の研究資料を見ることにするヨ。いまだに
「…僕が、そんな事を許すと思うのか?」
僅かな怒気が漏れ出る。
それだけだが、恐ろしい。鳥肌が引かない。
これが、
「フン、何故許可などがいるのかネ。私は君を対等な立場だとした覚えは無いヨ。私に比べれば、誰もは等しく凡才なのだヨ」
「……ククッ、思い上がるなよ死神風情が。この世界に僕が解き明かせないことなどないのだからね」
「何を言うかと思えば…、君はまさか『全知』などというものを掲げるつもりかネ?」
「おや、お前も科学者なら目指すだろう?」
「違うネ。『全知』などに興味はない。そんなもの目指した所で何になるというのかネ。科学者というのは己の欲を満たすもの。『全知』など通過点に過ぎない。だが、…もし君がそれを目指すというのならば、1つお題を与えてみようじゃないカ」
愉悦の笑みというのがピッタリの、大きく歪んだ笑顔。
与えられる側のザエルアポロは、当惑しているのだろうか。
「なんだと…?」
「君は穂積織という男を知っているかネ?あの藍染惣右介が警戒している死神だヨ。『
僕はその『
穂積織。黒崎から聞いたことがある。藍染惣右介と渡り合うことのできる人物だというが…。
僕は、知らぬ間にこの2人の研究材料になっていたその穂積織という死神に、心の中で黙祷を捧げた。
────────────────
ふと、勝手になにかに巻き込まれた気がした。途方も無い悪寒が走り、鳥肌が奮い立った。
「……気をつけなきゃならないか…?…ん?」
その時、誰かがやって来るのを感じた。その霊圧は明らかに虚のソレだ。
「アーロニーロ ・アルルエリ…。第一期『
夜一よりも黒みがかった、筋肉質な肌。さっきの破面より遥かに大きいが、…コイツは何も知らないのだろう。
きっと現世にいたら、黒人の僧侶のような存在なのかもしれない。
口ぶりからするに、コイツもまた
それに、こっちに近づいてくる霊圧は。
「白哉か」
「穂積織…。久しいな」
堅物口調は相変わらず。奇跡みたいなオールラウンダー。
「あそこの破面は、兄がやったのか」
「ああ。まあ、朽木には荷が重そうだったからな」
「…そうか。…この黒い破面はどうするつもりだ」
「好きにしろ。朽木を追いたければ行けばいいさ。コイツ程度なら、俺でも殺せる」
直感だが、この破面は大して強くはない。速さだけなら俺でも追いつけるだろうし、力が強いだけなら脅威じゃない。
それに、今は殺意が欠けている。これじゃあ、殺したって無駄だ。
もし今から俺が戦うことになったら、多分それは『狩り』に近いものになるだろう。
「ならば、久々に兄と共に戦いたいものだ。今の私と兄なら、かつてのような失敗は犯さないだろう」
「…なるほどな。珍しいな白哉。オマエが誰かと一緒に戦おうだなんて言い出すとは」
「兄だからこそだ。私の『千本桜』と兄の『唯式』の相性は悪くない」
「そうだったな、そういえば。だけど、正直俺の霊圧が足りない。だから俺が斬るぞ。オマエは千本桜で援護しろ」
「承知した。存分にやるといい」
「ああ…」
白哉と俺がどんな風に連携してたなんて、
だから、俺はそれを柔らかく拒み、援護に回らせた。そして同時に、力を込めて瞬歩で飛び出す。黒人破面は余裕そうな表情でそれを見て、あっさりと躱してみせた。
「ほう、なかなかのスピードです。ですが、所詮はその程度。私には及びません」
「そうかよ。だったら、ギア上げてもいいな?」
内に意識を落とし込む。体内に走る異物の感覚。
そして拡がる、死の世界。
「っ!?なんと…!」
「どうした?この程度、なんだろ?」
「…あまり私を舐めないでください」
「…へぇ」
3体。突如分身した。
見れば、気持ち悪いステップで動いているのが分かった。
だが、その程度。
「うるさい」
「なに!私の『
「喚くなよ。うるさいって言ってるだろ。たかだか3体に分身したところで、
互いにスピード重視の戦いをするためか、忙しなく動き回っている。だが、この破面はともかく俺は本気で動いてない。
高速の移動で、破面の背中は白哉に向けられた。
白哉が、斬魄刀を構えて。地面に向ける。
──この全ては、攻撃力で勝る朽木白哉に手向けるため。
「卍解──」
沈み込む斬魄刀。
そして顕れる、純白の刀身。
そこから生まれる、億にも勝る刃の乱流。光の差さないこの空間で、それだけが輝いて見えた。
『千』なんてものじゃない。これはやっぱり改名すべきだろ。
「『千本桜景巌』」
美しくも残酷な刃が、破面の身体を血みどろに侵していく。
「ぬおぉぉぉぉぁぁぁ!!」
途絶えることなく響く絶叫。
なんだ。まだ死んでないのか。
「……許さん…っ!」
「なら、どうするんだよ?」
「……鎮まれ」
刀を水平に構え、現世でいうところのヨガのような構え。
──こいつ本当は僧侶だったんじゃないのか?それも仏教徒。
「『
例のごとく、霊圧が吹きすさぶ。
霊圧は、所詮こんなものか。なら、注意すべきは能力か。
「…全く、見れば見るほど気持ち悪い」
「全くだ。早々にケリをつける」
初見で嫌悪感を吐き出す。
ああ。もう嫌になる。
「全部終わったら有給溶かさなきゃな」
「そうか。私は簡単に休めんがな」
「難儀なことだよ。──卍解」
「!…そうか、兄もついに」
おかげさまで。そう無言で告げて、卍解した斬魄刀──『唯識』を握りしめる。
「さあ、我が
「ああ、…殺し尽くしてやるよ」
「貴様の愛など不要だ。疾く失せるがいい」
──それでも、斬りがいがあるのはいいことだよな。