どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい   作:けし

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50話記念の話も今日中に投稿します。
今回はついに虎徹勇音さんの卍解を出しちゃいます。
ほんとはもう少し引っ張るつもりでしたが、だらだらになりそうだったので。
何かアイデアあったら是非。

ロリちゃんのキャラブレブレだし、技を無意味に増やしすぎた疑惑が…。


51

「毒せ!『百刺毒娼(エスコロペンドラ)』!!」

 

 あっという間に上昇した霊圧。巻き上がる煙と砂塵。吹き上がる霊圧と怒気。

 こんな風に敵と戦うこと自体が久しぶりで。少し震えてしまう。

 だけど、逃げられない。

 逃げるわけにはいかない。

 現れた姿は、ムカデとクモみたいなイメージのもの。別にそれらが苦手というわけではない。それに、生理的な嫌悪感が全くと言っていいほど感じられない。

 白色がもたらす無機的なイメージが、それを成しているのだろうか。

 

「さっさと殺して、あの男も殺してやるわ!」

「させません!」

 

 同時に斬魄刀を破面に向けて振るった。すると、発していた雲がまるで刃のように飛んでいく。

 

「ぐう、っ!」

 

 物理的な重さは、斬魄刀に勝るとも劣らない。時間とともに進行する能力だから、振るった雲はただの刃でしかないけれど。

 それでも、わずかに重くする事くらいはできる。

 

「大人しくっ、してろ!!」

「うわあっ!?」

 

 そんな重さをまるで無視して、重量級の攻撃が襲いかかってくる。纏わり付いた雲の重さが、その攻撃力を増してしまう。

 それでも、重さのせいでわずかに遅くなった初動のおかげでなんとか躱せるもの。

 そして、その腕が砕いた床を見て戦慄する。

 

「これは…!?」

「私の帰刃『百刺毒娼(エスコロペンドラ)』は、あらゆるものを溶かし尽くすのよ。なんだって、ね!」

「くぅ、っ!」

 

 目の前を掠めて通り過ぎる腕は、その余波だけで私を吹き飛ばした。

 転がるように退がり、立ち上がりざまに鬼道を放つ。

 

「【破道の三十三・蒼火墜】!」

「ぐっ…!」

 

 合間を縫って放つ鬼道は、その分厚い装甲に阻まれる。

 だが、腕は1つだけじゃない。他の3()()の腕が、私を溶かし殺そうと襲う。

 へたに斬魄刀で受ければ、刀身がどうなるか分からない。躱すしかなかった。溶けはしないだろうし折れもしないだろうけど、それにしたってそこまで近づかれれば毒に当たりかねない。

 

「奔れ!」

 

 張り上げた声とともに、雲の刃が無数に形成され、滑るように相手を切り裂く。だが、その程度の痛痒をものともせずに毒腕が振るわれる。

 破片による怪我は回道で治せる。だが、毒はそう簡単にはいかない。

 なんでも溶かすのならば、解毒なんて出来ないのかもしれない。解毒する前に殺されるのかもしれない。悲しいかな、『凍雲』には直接凍らせる能力はない。

 

「ちっ、厄介ね」

「それはどうも」

 

 雲の刃はあの装甲を砕けない。かわりに、あの腕は私には当たらない。

 だけど、相手は触れなくてもいいって、気づくのが遅かった。

 

「『毒娼毒腕(ヴェネーノ・エル・ブレーゾ)』!」

「なっ、【縛道の八十一・断空】!」

 

 僅かな毒がついた物理攻撃が、毒を撒き散らす攻撃に変わる。ちょっとした揺れでばら撒かれた毒の雨は、彼女の言に違わず、あちらこちらを溶かしていく。

 

「流石に鬼道は溶かせないけどね。でも、私の腕はまだ3つあるわよ」

「っ、うああっ!?」

 

 辛うじて毒を防ぎ、受けたのは物理のみ。それでも、並外れた膂力から放たれるその攻撃は、やはり完全に防ぎきれるものではないらしい。

 余波でも人を殺し得る衝撃が身体中に叩きつけられる。

 煽られて、身体が流れる。

 その隙を逃すような敵ではない。

 

「『娼水秘毒(パーテ・デル・アクア)』」

 

 文字通り何もできない体勢で、ムカデの様な足から溢れる毒の水。

 その光景はまるで、プールに入る前に浴びるシャワーのようだ。

 僅かに意識が飛んだ刹那に、少しだけそれがかかった。

 

「っ、マズい…!」

 

 服が少し溶けた。何か特別に頑丈って訳でもないけれど、服の袖がなんの抵抗もなくあっさり消えてしまった光景に、目を剥いた。

 撒き散らされた毒の雨。傘すら溶かす暴威。雨というより天災。

 肌を突き刺すような痛みは、霧化した毒のせいだろう。

 この場はまだ凍雲の発した雲海が広がっている。そのせいで、霧になった毒がどこまで広がっているのかがさっぱり分からない。

 気づけば、彼女が振り回していた腕の攻撃が止まっていた。

 毒で溶かし殺すというのか。

 いや、それは待ちの姿勢ではなく溜めの姿勢。つまり──

 

「『百毒針(シエン・ラ・グーカ)』!!」

「なっ!?うそぉ!?」

 

 必殺の技を放つとき。そしてそれは確かに、私にとって致命的に相性が悪いもの。

 各腕はムカデのような節足動物じみた腕になっているが、そこについている足が全てミサイルのごとく飛んできたのだ。

 凍雲の加重効果はすぐには発現しない。

 

「【縛道の八十一・断空】!!」

 

 咄嗟に口をついて出た言霊は、頑丈な壁となってくれる。だけど脇からすり抜けるように飛んできた毒針を防ぐなんてことは出来なかった。

 

「あぁ、ぁぁぁあぁぁぁ!!?」

「いい声じゃない!もっと叫んで!ねぇ!?」

 

 横腹に擦り、腕に擦り、腿を貫通した針。

 まるで全身に熱いドロドロの鉛を被ったように熱い、痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいイタイイタイイタイイタイイタイイタイタイタイイイイィィィィッ!!?

 

 何も考えることなく、せめて傷だけは塞ごうと無意識で体が動き出す。

 感覚のない体と、靄のかかる意識。

 口から血を吐き出す。

 これ以上は、何も考えられない。

 あまりの痛みに逆に戻ってきた意識と、駆け巡る痛みを必死こいて耐え抜く。

 そして自然と、刀を水平に構えた。

 

「もう、…なりふり、構っては、…いられないみたい…、ですね」

 

 痛みを堪えて、霊圧を研ぐ。

 それは氷のように。それは剣のように。

 不意に襲ってきたのは、敵の弾幕だった。

 

「喰らえ!虚弾(バラ)!!」

「っ、【破道の四十五・赭火鳳仙(しゃっかほうせん)】!」

 

 視界いっぱいに張られた弾幕に対し、こっちも弾幕を張って対応。ほぼ同じ数、威力。結果から言って、全て撃ち落とした。

 咄嗟に同じようなことができたのは奇跡だが、それを振り返るような余裕はない。

 

「ちっ、しぶといじゃない」

「こっちの、台詞です…、よ。もう、かなり…重くなってる、っはずなんですが」

「ふん、こんなものなんだってないわ。結局私は動かなくてもあんたを殺せるのよ」

 

 その通りかもしれない。だけど。それでも。私はここで負けることはできない。

 

「忘れて、…ないですか?その雲、…あなたを凍ら、…せるんですよ?」

「そうなる前に殺せばいいのよ。『娼毒虚閃(セロ・プロシティータ)』!」

 

虚閃(セロ)』の破壊力は知っている。なのに、目の前で収束しているエネルギー塊には、なぜか悪寒しか感じない。

 4つの腕をX字に翳し、その中心に収束する緑の霊圧。

 何故か目を離せない。動かなきゃいけないのに。

 そして、刹那の瞬間。

 それは放たれる。

 驚くことに、それは地面を()()()()()()、恐ろしい速度でこっちへ飛んでくる。

 硬直していた身体に鞭を打ち、無理矢理飛んで回避する。しかし、腕に掠ってしまった。

 

「っ、あぁぁああぁっ!!?」

 

 それだけで、のたうち回り叫ぶ激痛が奔る。身体中の痛みという痛みがより強く脳に訴えかけ、更なるキャパオーバーを果たす。最早痛いことが何なのか分からなくなる。

 幸い欠損は起きなかったから、先ほどと似たような痛みを歯を食いしばって堪え、そこを形だけ治療する。

 傷は塞がっても、痛みは全く引かない。

 

「…ふぅぅ………」

 

 再び霊圧を研ぎ澄ます。収斂する刃のごとく。

 手元にはいまだ雲を吐き出し続ける斬魄刀。密閉空間でないから、雲は外に漏れだすけれど、空間に満たされてはいる。

 だから、またそっと。そっと紡ぐ。

 

「──()()

 

 そして、雲はうねりだす。

 まるでかの浮世絵のごとく。

 雲なのに、重い。蓋をされたような閉塞感。呑まれるような圧迫感。まるで、海のような。そんなおかしな性質。私はそれを叩きつける。

 

「っ、うわっ、なによコレ!!?」

「沈んで、ください。きっと、楽になりますよ」

 

 雲の海。見たことはないけれど、きっとこんな光景なんだろうか。

 

「──『凍雲十景裏淵(いてぐもじっけいりえん)』」

 

 荒れる海。これは正史の海ではない。外にあり裏にある異形。

 私の何処にこんなものがあったのだろうと、今でも不思議に思う。

 でも、これが私だと、私は受け入れた。

 

「こ、の!んなもの…!」

「もう、お終い、です。──『第二景・凍雲海浪裏(いてぐものうみなみうら)』」

 

 そして、海は彼女を呑み込む。

 激しくうねる雲海。重みを持つが故に、今この場は紛れも無い海と化す。

 激浪。大時化。まるで津波。生きているのならば、否、そこにいるならば、もう抗う術はない。

 

「う、うわあぁぁぁ!!?」

「さようなら、破面。もう、会うことはないでしょう」

 

 もう二度と、浮かぶことはないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「この霊圧…、勇音か…?」

 

 海のように拡がり、時化のようにうねる霊圧。かつての勇音からでは、とても考えられないような。そんな力が、さっきまでいた場所を覆い尽くしていた。

 それに対して今の俺に、果たして勝ちの目はあるだろうか。ないとも言えないが、あるとも言い切れない。

 今の俺の卍解は、数に関係なく一息に殺すことができる。

 …が、海を殺すことは、きっとできないだろう。根拠はない。ただの勘だ。

 

「まあ、そんなことはどうでもいい。さっきから上がやたらとうるさいが、そこか…?」

 

 偽天。青空が広がるのに、まるで抑え込まれたような。だから、それは蓋なんだと気付いた。

 形あるものなら、なんだって殺せる。だから、この偽天の上にまで行こうと決めるまで、そう時間はかからなかった。

 

「直死──」

 

 蒼い線が、空を覆う。思わず目を凝らして、それと分かる線をなぞる。腰からナイフを引き抜いて。

 手応えは、いつもの通り。切り裂く感覚もなく、ただ、殺した事だけが掌の上に残った。

 

「っ、誰だ?この霊圧は…?」

 

 知っているような知らないような。まるで呑み込まれたような霊圧。

 少し視線をやるだけで、何かがいるのが分かった。

 

「…虚……?」

 

 人型の虚なんてものは珍しくもなんともないが、黒い死覇装と黒い斬魄刀を持って暴れる虚は、見たことがなかった。

 そしてそれが、見覚えのある破面の腕を引きちぎった瞬間。

 

「おい」

 

 俺は何も考えずに、真っ白な破面に蹴りをぶち込んだ。

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 

「っ!貴様…穂積織か」

「当たり前だ。オマエのその格好…。なんだ、隠してたのか?」

「フン、隠す意味などない。必要なかっただけだ」

「あ、そう。……で、()()はなんだよ」

 

 目を向けた先には、立ち上がろうとする白面白体の虚。所々赤いラインが入ってはいるが、そんなもの気にする事でもない。

 目につくのは、頭から伸びる大きな角と、腰まで伸びる橙の髪。どこかで見たことのあるものだった。

 

「黒崎一護……?」

「知らん。だがアレには言葉が通じないようだ」

「へぇ。獣ってわけか。獣狩りはさっきもやってきたと思ったが、今度は理性も放棄した本物か」

「どうするつもりだ?」

 

 そう言われて、はてどうすべきか。思案する。

 殺すのは簡単だ。厄介だが。

 しかし、少し離れたところにいる滅却師と女。これは確か、黒崎一護の仲間だったはず。

 もしアレが黒崎一護の成れの果てなら、殺すのは悪手なのかもしれない。

 殺すことしか能のない殺人鬼に、救うことを求めるのか。

 

「ああ、全く。もう殺す気なんて失せた。アレは簡単に殺すわけにはいかないみたいだし」

「なら、何をするというんだ」

「コイツ、虚の癖に斬魄刀なんて使ってる。当たり前みたいに。身体の一部みたいにな。だったら多分、コイツの中では虚と死神の力は不可分なんだろう。どうにかして、コイツを突き動かす何かを抑え込まなくちゃな」

「だが、そんなことは不可能だ」

 

 分かってる。だからそのための方法を探す。

 そう考えた時、視界の端に赤い光が射した。

 

「ちっ」

「『黒虚閃(セロ・オスキュラス)』」

 

 黒い虚閃(セロ)が、赤黒いソレを飲み込んで搔き消した。生じた爆風に、身体が持っていかれそうになる。

 

「さて、どうしようかね」

「………」

「なんだよ」

「剥いでみるのはどうだ」

「……仮面を剥ぐのか?それでどうなる?」

「わからんが、止まる可能性はある」

「…くく、いつの間にかオマエ、止めようとしてるじゃないか」

「…フン」

 

 さて、獣を諌めるのもまた、俺たちの役目…か。

 なら、刀を抜くこともない。

 

「『雷霆の槍(ランサ・デル・レランパーゴ)』」

「前はオマエに任せた。俺は惰弱な死神だからな。後ろで援護だ」

「どの口が言っている。せいぜい足を引っ張るな」

 

 手に持つ槍は、全てを切り裂く雷霆。破面はそれを手に、前へと駆け出した。

 己も知らぬ間に、僅かばかりの高揚を抱えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




卍解『凍雲十景裏淵(いてぐもじっけいりえん)
虎徹勇音の斬魄刀『凍雲(いてぐも)』の卍解。
発動と同時に斬魄刀は消失する。分類は氷雪・鬼道系。
始解状態で放出した雲が存在する範囲に、雲を媒体とする特定の効果を有する空間を作り、その効果に相手を巻き込む。
第一景〜第十景まで存在するが、数字の大きさと強力さは関係ない。
発動条件は雲が空間内に十分に存在していること。
通常攻撃は雲の刃とかかなりの質量を持つ雲で攻撃する。
さらに斬魄刀本体曰く隠された能力があるとか無いとか…。

技『第二景・凍雲海浪裏(いてぐものうみなみうら)
雲海の波で相手を飲み込み沈ませる。海だが雲であるために浮力は働かず、重さでひたすら沈める。空間の底まで行くと重すぎてぶっちゃけ這い上がるのは無理。しかも凍結は進行するために這い上がろうもがきながら凍死することになる。霊圧の差が大きすぎると雲を吹き飛ばされて無効化されるが、これはどの景にも該当する欠点である。





ちなみに元ネタは勇音さんの中の人の型月的解釈。

と言いつつもベースとなるアイデアは百人目さんのソレ。感謝感激雨あられです。
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