どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい   作:けし

57 / 67

1ヶ月近くの遅延、お許しを、何卒ォォ!(錯乱)
単純に筆が進みませんでした。
いや、やっぱり藍染様強いわ(小並感)



56

「凄まじい熱量だ。私でなければ焼け死んでいたな」

「それを受けて尚その余裕か…。やはり、恐ろしい男よ、藍染惣右介」

 

 実に惜しい。その力ゆえに歪んでしまったのじゃろう。だがもし仮に。その性格を歪ませる事なく力を振るえていたならば。

 きっとこれ以上ない存在になっていただろうに。

 益体も無い思考が走る。それは刹那より短い間のこと。

 

「君の予定外の進化に、ワンダーワイスは死んでしまった。君には手を焼くと思って用意した策だったんだが」

「文字通り焼いてくれようぞ、お主の全てをな」

「少し、傲ってはいないか? 山本元柳斎重國」

 

 緊張を緩ませない。緩ませることは許されない。彼奴はそれ程の相手よ。

 

「そもそも君が私に攻撃したところで、既に意味はない」

「…なに?」

 

 無造作に、服の前を開けた。

 

「それは…!」

「私は既に、崩玉を使役することに成功したのだから。主である私には常に、崩玉の防衛本能が働く。攻撃は全て治癒する」

「ならば、それすらも灼き捨てるまでよ」

 

 流刃若火の力を侮るでないぞ。此れは焱熱系最強の刃。森羅万象を灰燼に帰すものなり。

 

「ふむ…、君と一対一でやり合うのはもう少し先の予定だったが…。仕方ない。今ここで始末するしかない」

「やってみせろ、小童」

「その増長、目に余るぞ。──【破道の九十七・千年烙星】」

 

 唱えられた鬼道は、破格と称される九十番台の鬼道の中でも一線を画すもの。黒棺・五龍転滅と並び最強の破道にその名を連ねるもの。

 天空に現れる、無数の霊圧。一つ一つが桁違いの密度で、まるで流星群の如くに。

 詠唱破棄により威力を落としてあるものの、実物を初めて見るものならば分かるまい。

 事実、辛うじて意識のある死神たちからは、驚愕と恐怖の声が漏れておる。

 

「それを詠唱破棄で行使するとはの…、敵ながら天晴れと言わざるを得まい」

「賛辞は素直に受け取ろう。何分褒められることに慣れてなくてね。そのせいで、加減ができなくなるだろうが。…いいかな?」

「それで儂を殺せると思うてか。千年、この座に立ち続けた儂の力を甘く見るでないぞ。火力を上げるぞ、『流刃若火』よ!!」

 

 劫火が灯る。灼きつくし、その上を灼く。灰燼のさらに上の概念。

 ──焦滅。灼きつくされる時間すら与えずに消滅させる。

 先の破面(アランカル)で、始解におけるその感覚を掴んだ。

 まずは、ゆっくりと、ゆっくりと慣らしていこうぞ。

 

「壱段」

 

 偶々頭上へと落ちていた隕石の如き霊圧塊を、一振りの下に砕く。

 もともと高温である故、()()()しもうた。

 それにしても、『千年烙星』の範囲が広い。威力を落とした代わりに、精密性と範囲を広げたか。

 

「弐段」

 

 直径10メートル程度の小さな範囲に、たまさか在った霊圧塊を砕く。

 …まだか。

 

「参段」

 

 50メートルに範囲を広げ、再び攻撃。やはり砕ける。

 

肆段(よんだん)

 

 100メートル。破片が小さくなり、融解の跡が見える。

 

「伍段」

 

 500メートル。破片が見えなくなる。代わりに融解してドロリと融けた何かが見えた。

 

(ろく)段」

 

 700メートル。液体も僅かになる。見れば、僅かに周囲が融解し出していた。刃にのみ込めた焱熱が、漏れ出たと見る。

 慣らしは──これにて仕舞い。

 

「──終段」

 

 1キロ先。薙いだ刃が鞘に戻る音と同時に、塊が焦滅する僅かな音を残して消えた。

 そしてそれと同時に、墜落まで秒読みであった全ての攻撃を、ただの一撃で以って消しとばした。

 

「『流刃若火』は能力が単純であるが故に限界は遙か彼方。藍染惣右介、お主を今ここで、灼き捨ててくれよう」

「──驚いた。君の流刃若火が始解のままでこれ程までの力を隠していたとはね。仮に君の卍解がこの強化版だというのなら、成程確かに、ここでの解放は全てを滅ぼしかねないというわけか」

 

 彼奴の斬魄刀──『鏡花水月』がその刃を顕す。

 

「君には敬意を表して、残り僅かな時間を死神としての私で相手をしようじゃないか」

「何度も言いおろう。儂より強い者が現れんかった故に、今儂はここにおると。──その傲りを悔いて死ねい」

 

 瞬歩による駆動は互角。切り結べば斬魄刀すら融かしかねない儂の刀を、霊圧で上回るか何かしたのか、難なく受け止める。

 驚きなどない。あらゆる感情が、此奴の前には隙となるゆえに。

 大山の如く構える儂と、虫の如く飛び回る藍染。

 ──いや、この見方こそが儂の傲慢か。

 

「歴戦の猛者とは、まさしく君のことなのだろうな」

「お主ほどの力の持ち主は、儂の生涯でも数えるほどじゃて。喜ぶがいい」

 

 空気中の水分を既に蒸発させるほどの熱。刃に触れることでそれは成される。つまり、儂の熱は完全に刃にのみ宿った。だから、気にすることなく振るえる。

 剣圧を巧く制御しなければ、その熱を帯びた剣圧が飛び交ってしまうがの。

 

「っ、掠る事も致命傷か」

「ここがお主の死地になるだろうて。覚悟せい」

 

 背後に現れた藍染の刃を弾き、その胴体を塵にせんと横に薙ぐ。しかし半歩下がることでそれを躱され、体が流れたところを逆に狙われた。体が流れた方向に倒れてそれを避けた。

 下から刀を振り上げる。されど彼奴の斬魄刀が横合いから儂の斬魄刀を弾き、流れるような動作で脳天へと刀が振り下ろされる。

 霊圧の床上で身体を転がし、振り下しを辛うじて回避する。

 

「埒が明かんのう…」

「そうか。では終わらせようじゃないか。このような茶番は飽きてしまった。君との戦いは中々に楽しめたよ」

「では、此方も終わらせるとするかの…」

 

 焱熱を、より猛々しく収束させる。さらなる熱を、炎を。

 

「──万海を灼き払おうぞ」

 

 空気すら発火して、消えて無くなりそうな熱量を孕む。

 無焱の灼熱。不可視の猛火。焱熱系最強の名と、護廷十三隊総隊長の名を背負い、この刃を薙ぐ。

 

「──『倶利伽羅(クリカラ)』ァァァァッッ!!」

 

 そして世界が、白く染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……オマエら、本気でヤバいと思ったぞ」

 

 目の前で談義している涅マユリと破面を目にして飛び出した言葉はソレだった。妥当だと思うし、当然だと思う。

 マッドサイエンティストだからこそと言えるのかもしれないが。

 

「フン、君には言われたくないヨ。反膜(ネガシオン)を斬り裂いた事だけでも、君の言葉を借りるならば『ヤバい』というものだ」

「同感だよ。僕たちにとってはある種最も堅い守りであるのだがね。それをただ何をするでもなく斬り裂くなんて、彼の映像記録を見なければ信じられなかったよ」

「映像? オマエそんなのいつ撮ったんだ」

「偶然というものだヨ。双極の丘は技術開発局からも見えるからネ。偶々そちらに録霊蟲の目を向けていたのさ。お陰で研究意欲が湧いて仕方がない! 是非とも解剖させてくれたまえ!」

「お断りだ。それにこの力に関しては詳しい奴が他にいる。俺は主観的にしか言えないが、アイツなら客観的に説明できそうだ」

 

 浦原喜助ではなく、蒼崎橙子の顔を思い出し、かき消す。

 これは死神の域でなく、かといって魔術師の域かと言われれば首をかしげるもの。魔術師はこの眼について定義していて、その効果も識っているようだが。

 

「浦原喜助かネ?」

「いーや。死神でもないぞ」

「ほう? 興味があるネ」

「人種が違う。向こうは科学よりもオカルトに寄ってる」

 

 偽天の空の下、何らかの談義をしていたらしいこの2人は、どうにも俺のことを話のタネにしていたらしい。

 …ああ、いつか感じた悪寒はコイツらのせいか。

 ふと、黒崎一護と、卯ノ花烈の霊圧が無いことに気付いた。

 

「ん? あれは…」

「織さん!」

 

 少し遠くからやってきたのは、虎徹勇音だ。

 丁度いい。直接的な怪我こそないが、馬鹿みたいな熱量で灼け爛れたりしてるところを治してもらうとしよう。

 少しずつ治癒は進んでいるが、食欲旺盛な化け物の時よりその進みが遅い。恐らく、理の側へと少し近づいたからというのと、単純に霊圧が阿呆みたいに巨大だからか。

 

「勇音、この傷治せるか?」

「任せてください!!」

 

 随分と張り切ってるが、この傷は治れば御の字くらいの代物だ。

 

「うぅ、治りが遅い…」

「痛みが引けば問題無い。簡単に治るとは思ってなかったしな」

 

 治療中に聞いた話では、黒崎一護の仲間たちもほぼ完全に治療が終わったらしく、彼らは今こっちで安静にしているらしい。

 

「涅マユリ。オマエ、黒腔(ガルガンタ)開けるか?」

「問題ないヨ。だが、一方的に言われるのは癪でネ。何か対価を貰おうじゃないカ」

「──ああ、もういい。ホントはするつもりも無かったんだが。…自分でこじ開けるしかないのか」

 

 眼を凝らす。空間に敷き詰められた線のうち、空間を裂いて壁を超えることのできるものを探す。

 真名を知ってから、それが楽にできる。

 

「…ほう」

「…」

 

 好奇の視線が鬱陶しい。だが無視だ。

 腰のナイフを抜き、右手で逆手に構える。弄んで、順手に持ち替える。

 

「──!!」

「くくっ、素晴らしい! やはり素晴らしいヨ!!」

「まさか、技術もなにもなく、『斬り裂く』だけで開くなど…!!」

 

 ナイフを振るう。死の線を、ナイフの刃先がなぞる。

 それだけで、空間が裂かれる。底なしの闇がその顔を覗かせた。

 

「勇音、ついてくるか?」

「は、はいっ!」

 

 人1人ほどの隙間に飛び込み、霊圧の床の上をひたすらに走り続ける。

 真っ暗な空間に、乱雑な線だけが淡く光を灯す。夜空にも見紛う光景に、俺は心を動かさない。それが恐ろしいものだと知るがゆえに。まあ、勇音にはまず見えないのだけども。

 空間は半殺しにして開いたから、時間経過で閉じるだろう。

 このやり方では、行き先を固定できないことが欠点か。

 ──何とかなる。

 俺はまだ、俺自身の力の源を、『式』の力の源を知らなかったが故に。安易にそう考えていた。

 

「斬る──」

 

 いとも容易く斬り裂かれた空間。勇音と共にそこを飛び出す。

 降り立ったのは、見覚えのある街。人の気配はチラホラとしかないが、本物だろうか。

 それに妙に視界が広い。見渡せば、建物が全て真っ平らにならされていた。刀で斬ったというより、灼かれたような跡がある。

 その時、近くに覚えのある気配を感じた。

 

「っ、浦原か」

「穂積サン。貴方、どうやってココに来たんスか?」

「斬った。そしたら繋がった」

「…その様子だと、かなり()()したみたいっスね……」

「何で分かるんだよ」

「橙子サンが話してたんスよ。穂積サンの進化というか、自覚というか」

 

 …なんとなくムカつく話だが、どうしようもないし正論なので、苛つきを噛み殺した。

 ふと、巨大で異質な霊圧を2つ、感じ取った。

 それはたしかに異質だが、霊圧であることが分かる程度に捻れ曲がっただけだった。

 

「…黒崎一護…か?」

「…………。一心サン、ああ、黒崎サンのお父上に協力してもらって、藍染サンへの切り札を身につけてもらったんスよ」

「……倒せるとは、言わないんだな」

 

 僅かな沈黙に目を細めつつも、その後の言葉に耳を貸す。

 

「…完全なんて有り得ません。もしかしたら、藍染サンにもほんの少しの綻びがあるのかもしれません。ですが、それに期待してたら勝てないのは当然っス。大丈夫っスよ、既に手は打ってあります」

「ああ、あの封印か? 確か──」

「『九十六京火架封滅』っスよ。あらゆる可能性がありますが、この先は二択。藍染サンが倒されるか、衰えるか。そもそも何かの奇跡でも起きない限り、崩玉により不死となった藍染サンは倒せません」

「──くくっ。さあ、ソイツは分からねえぜ?」

 

 海燕()()()の覚醒。破面(ウルキオラ)の進化。

 ここまで厄介なことが積み重なっておいて、藍染惣右介が簡単にやられるとは考えにくい。

 

「浦原、行くぞ。──嫌な予感がする」

「…洒落になりませんねぇ。穂積サンの直感、当たるらしいですし」

「うるさい。さっさと行くぞ」

 

 ああ、吐き気がする。嫌な予感への悪寒でもあるのだろう。

 崩れた街の瓦礫の上から、ただ2人が荒野へ飛び出した。

 

 

 

 





【破道の九十七・千年烙星】
広範囲破壊鬼道。発動に莫大な霊圧を必要とするが、それに見合った効果を有する。
数百メートルの範囲に、超高密度の霊圧の塊が隕石のように降り注ぐ。物理的な実体を持つため、単純質量と大気摩擦による高熱で凄まじい被害をもたらす。
この霊圧の隕石を破壊することは隊長格でも着弾までにせいぜい2〜3個を壊せるかどうかというレベル。
藍染レベルの霊圧で発動すると、範囲がキロ単位で拡大され隕石の破壊力も跳ね上がるとみられる。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。