どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい   作:けし

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1ヶ月も空いたのは単純にモチベが駄々下がりしたからデース土下座シマース。

正直卍解の名前に苦労した。能力は頂いたアイデアも参考にしつつ、妥当なラインに収めたつもりですが…。今回は名前のみの登場となります。

久々の原作主人公視点。


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「──『無月』」

 

 振り下ろされる右腕。鎧のような何かが覆った、最後の月牙を握る右の手。

 刀は無い。1つとなることが、導き出された結論だった。

 其は、『最後の月牙天衝』。

 力を全て失うことを代償にして放つ、俺の全てを込めた一撃。

 ちらつく前髪のスクリーンの奥に、月牙で両断されている藍染の姿。叫び声すらもかき消され、届かない。

 

「終わった…のか……?」

 

 離れたところに、倒れ伏す藍染の姿。

 完全な両断はなされなかった。だが、即死の域にまで割れたその身体が、再生されているのが目に留まった。

 コイツ…! 俺の全霊の一撃すらも耐えるってのか!!? くそっ、理不尽っつーか、…ああくそ!! 

 半ば自棄っぱちになっていた俺は、瞬歩でそこへ飛んだ。

 そして、完全に再生されたのを見届けた瞬間。

 

「っ!!!?」

 

 髪の色素が戻り、鎧が剥がれる。

 ──失われていく。喪われていく。文字通り消え去るように。聞こえぬ別離の挨拶すらも、既に遥か遠く。天に昇るのではなく、海に沈むように消え去った。

 死神の力が、消えていく──。

 

「…ぐ、…っ。…全く、驚いたよ。君が、私を超えた領域に立つことがあるなんて」

「くそ…っ」

「だが終わりだ。ここで君を殺して、仕上げを残すのみとなる」

 

 …これで、終わりじゃない…だと? 

 ここまで空座(からくら)町を滅茶苦茶にしておいて、まだ何かを残しているってのか。

 

「王鍵の創生。確かにそれも目的の1つだ。──だが、私が一番成し遂げたいことはそれじゃない」

「何だと…? それじゃテメェは何がしたかったんだ」

「──人殺し、と言ったところかな」

 

 ──ふざけんじゃねぇ。これほどまで多くの人を犠牲にしておいて、そのくせ人を殺したいだと? 

 動かない身体に、力が篭る。だが、それは身体を動かす力足り得なかった。

 もう、起き上がる力も抜けていった。()()()()()()()()()()の藍染が、ゆっくりと俺にとどめをさそうとしていた。

 

「っ!!」

「そいつは…!!?」

 

 そんな時に突然突き立てられた赤い光。胸の中央に、咎人の証の如くに。

 そして、霊圧を2つ感じ取った。

 

「やーっと発動したみたいっスね」

「へぇ。…アレがオマエの作ったっていう、封印か?」

 

 浦原さんに穂積さん。俺の知る限りでも最上級に強いかもしれない2人が、飄々とこの場に現れた。

 

「…こんなもの……っ!」

「それはさっきも言った通り、アナタを封印するために開発した新しい鬼道っス。──『九十六京火架封滅』。今のアナタじゃ、脱出は叶わない」

「……そう、か」

 

 そして、ふと藍染はその動きを止めた。

 

「──やっと、相見えたか。穂積織」

「やっぱり、ただじゃいかないか。──ああ、やっとオマエを殺せる」

 

 唐突な会話に、浦原さんも俺も怪訝な表情を浮かべた。

 そして、次に発せられた言葉に驚愕し。そこから始まる何かが壊れた殺し合いを、俺はただ見ていることしか出来なかったのを、今はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっと。やっとだ。

 同じではない。空っぽでもない。

『在る』ことが気に喰わないという、ただそれだけの理由で。

 ──やっと、殺せる。

 

「互いに待ち望んだ時が来た。王鍵の創生より先に、やっておきたいことがね」

「カッコつけるなよ。待ち望んだなんて誰が言った。俺はただ、オマエを殺したいと思い続けただけだ」

 

 浦原と黒崎一護の視線を横目に、封印架に閉じ込められかけている藍染と向き合う。

 

「俺はオマエのことが嫌いで、在ることが許せない。だから殺す」

「奇遇だね。私も、君のことが心底気に喰わないと思っていたんだ」

 

 俺は斬魄刀を抜いた。藍染は身体に少しだけ力が入った。

 もう殆どが封印に囚われた今、何が出来るというのか。

 その答えは、すでに口元までせせり上がっていた。

 

「「卍解」」

 

 封印架が爆砕した。霊圧の暴威が、封印架の強度を食い尽くしたのだ。

 

「…なんだこれ、髪が…」

 

 俺は何故か、姿も変わっていた。髪が異様に伸び、その長さは丈を超えようとするところまで伸びていた。

 単衣は少し前と同じような、白と黄色を基調とした花柄の、雅な代物。

 いっそ俺には勿体ないくらいだ。

 それに、死覇装の方にも変化があった。卍解の深度が深まったのか、単衣の内側も桜色や白の着物となっている。ことごとくが女性用に近い代物で、少々違和感を感じるが、無為なことだろう。

 

「ほう、それが君の卍解か」

「…、なんかイヤな感じだな」

「そうかい? 私としては、それなりに有用な能力ではあるがね」

 

 風にはためく黒いロングコートが、一番の変化だろうか。俺と同様に、斬魄刀自体に変化は無かった。ただ、身に纏う雰囲気が重苦しくなり、今の俺ですら僅かに圧迫感を感じてしまう。

 その目には何が映るのか、俺には見えない。

 

「君の方こそ、大きく変わっているね」

「オマエも同じようなものだろ。…まあ、見た目が変わりすぎてる自覚はあるがな」

 

 俺のことを知る者が今の俺を見ると、おそらく性別が分からなくなる。むしろ初見で女と判断されること請け合いだ。

 別にそこには劣等感(コンプレックス)があるわけじゃない。気にしちゃいけないんだろう。

 

「では、卍解の名を訊こうか」

「…まあ、いいか。当然、オマエも言うんだろ?」

 

 剣を握る手に、力が篭る。肩の力が抜ける。

 切っ先を向けて、その真名を口にした。

 

「卍解──『無垢(むく)(しき)』」

「卍解──『鏡花水月荒耶(あらや)(しき)』」

 

 風が強く吹いた。荒野には何も無いが、砂煙だけが間を埋める。

 崩玉の力は、不老不死程度しか残っていないという。願いを叶えはしなかったが、崩玉の持ち主としての崩玉の防衛本能が働き続ける。

 齎される力は超常ではない。だが、卍解の力は不明だ。『完全催眠』を超える力があるとは考えにくい。卍解だから強いとは限らない。それでも、直感が叫ぶ。

 ────これは危険だ。手加減も何もなく、ただ殺せ。

 破面(ウルキオラ)との戦いを経て、思ったことがある。それは俺が何度か口にしたことではあるけども、俺が得たこの戦いをする理由とも言える。

 俺はこの男が在ることが気に喰わない。ただただ殺しあえると思っていたのに。獲物を前にしても何も思わない。

 ああ、俺は本当に、コイツがいることが我慢できないだけなんだ。

 藍染惣右介と俺は、進む向きが反対の規格外だ。

 誰にも理解できない特別性を内包した存在。

 圧倒的な才能。五感全てを支配する能力。

 死を視る魔眼。曖昧を明確に変える能力。

 進化(退化)を続ける、進む向きの違う2本の線が描く螺旋。絡む事もなく、触れることすらも稀。

 決して矛盾を孕むわけではなく、しかし整合する訳でもないのに。

 いっそ、矛盾していればいいのに。何でもなく、そう思った。

 

「最後の戦いだ。華々しく飾ろうじゃないか」

「思ってもないことを言うなよ。戦いじゃないし、華々しいものでもない。分かってるんだろ? これはただの殺し合いだってさ。殺伐したものになりこそすれ、華々しくなんてなりはしない」

「その服装の君には、言われたくないがね」

「俺の意思じゃない。ほっとけ」

 

 この着物は見るまでもなく『式』のものだ。つまり、俺の──『唯式』の本来の力の根源は『式』にあるということ。

 だから俺も、俺の意志に関係なくこんな姿になる。

 

「さあ、始めようか」

「──その前に、だ」

 

 首だけを回し、黒崎一護と浦原喜助の方を見た。

 苦しそうな呻き声を吐き出しながら、四つん這いのまま。

 浦原喜助はそれが何なのかを理解しているのか、なんの手も出していなかった。

 そこにいられると、余波で死にかけるだろうから。自力でそこを退いてもらう。()()()なら、なんでも出来てしまいそうだ。こんな感覚、破面(ウルキオラ)と殺し合ってた時にはなかった。

 ふわりと、五体を大地に投げ出して苦しむ黒崎一護の前へ舞い降りた。

 眼で視ると、なにかが凄まじい勢いで遡って行っているのが視えた。その様は、逆流とでもいうべきか。

 

「まあいい。とにかく黒崎一護。オマエにはここから離れてもらわなくちゃいけないんだ。今オマエの中で起こってる何かを少しの間殺してやる。その間に逃げろ。浦原、オマエもだぞ」

「どういう、ことだ、よ……?」

「──何となくではありますが、それが良さそうだ。巻き込まれて死にたくはないっスからね」

「物分りが良くて助かるよ。じゃあ、さっさと行ってくれ」

 

 一方通行の流れを塞きとめるのは、本来はかなり無茶なことだ。いつかは氾濫することになるから。だが、少しの間だけだから大丈夫なはず。

 そう考えて、乱雑な線に刃を走らせた。一瞬で苦しさが晴れたことに驚いていたみたいだが、それをすぐに流し、浦原とともに離れたのを確認した。

 

「最終ラウンド──と言うべきか。決着はここで着く」

「ああ。互いに生き残るなんて甘ったれた幕引きはない。ここでどちらかが死ぬ。──殺される」

 

 風が荒ぶ。砂煙を運ぶが、視界は確保されていた。都合よく間に挟まれた位置に咲いていた離弁花の白い花弁が、煽られてはためいていた。

 死を視る魔眼が、世界に理を現す。そこに死はあるのだという自己主張が、視神経を通じて脳みそを叩く。

 ──砂煙が晴れて、あれよあれよと飛ばされて。残り一枚になった最後の花びらが、耐えきれずに空へと舞った。

 

「ハァッ!!」

「──っ!」

 

 無言の開幕ベル。鏡花水月の名を冠する刀の刃が、俺を殺しにかかってきた。

 ここに、全ての螺旋が集まり出した。

 最後の戦いは、血みどろの殺し合い。形容詞の一言も見当たらない、原始的で、合理的な戦いが、無人の荒野で幕を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





破面編の完結がやっと視えてきたぜ…!

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