どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい 作:けし
隊の皆の二日酔いも、漸く回復の兆しを見せてきた。なだらかな勾配を登るようにゆっくりと。そしてそれは、昨日の朽木と同様にこの隊が抱えている、暗く、重い過去からの脱却でもある。
副隊長の席は未だ空席のまま。いつのまにか、副隊長の仕事になっていた浮竹隊長の看病は、物好きの2人が率先して…というよりも、我先にと競い合ってやっていた。
そんな中、当の俺は、ほんの少し酔っているらしい身体を動かして、
「元気そうじゃないか…」
強い風が吹いた。溢れた言葉への返答だろうか。
眼前に立つのは、黒い墓石。それには、「志波家代々之墓」と、随分丁寧に刻まれている。当然、ここには宗教など無いから、法名塔のようなものは無い。
しかし、志波家というのは古くからの一族で、数えるのも面倒な程の人が納められているから、墓の少し離れたところに、納められた人の名前が刻まれた石があった。まだ、「志波海燕」とは書いてなかったが。
それにこの墓自体は、志波家の敷地内ではあるが、その中でも一般開放しているところにある。というか、ここが自分らの土地だって忘れてるかも知れない。だから、こうして入って来ても文句は言われない。と言っても、場所が場所だからか、一般の人は誰も踏み入れないが。
ここに来る前に適当に見繕った花を、近くの花瓶に挿して、持ってきた線香を焚く。
立ち上る紫煙は、重い空気の中を羽のように登る。
あんな風に縛られなければ、俺は今頃何をしていただろうか。
言葉の1つも出てこない。下世話な話も、笑い話も思い出も、抱えていたのは前の俺だから。今の俺は、抱えていた全てを失くしている。だから、抱えているフリをしていて。それが、ひどく惨めに見えてきた。
腰に挿した斬魄刀を下ろして、どさっと地べたに座り込む。この辺りは案外きちんと掃除されているから、汚れるだとかは、別段気にしなかった。
十三番隊の自室から、適当な湯呑みを3つ選んで持ってきた。それを墓前に2つ、手に1つ持って、酒を並々と注ぐ。これはそこまで強くないから、今の俺でもいけるはずだ。
ぐい、と湯呑みを傾け、忘れるように流し込んだ。強くないはずの酒で、胃の底が熱くなった。けれど今は、それが心地よかった。
「海燕、俺は一体、どうしたらいいんだろうな…。都さんと2人仲良く逝っちまってさ。ホントにな…」
酒を飲んだからか、ろくに考えもせずに、思ったことがつらつらと出てきた。だが、自制は効かない。俺は、何かが乖離した感覚を覚えた。
「この『眼』も、この思考も、何もかもが皆とズレててさ。俺だけ取り残されたんじゃないかって、ふと思った」
それは、根底に残ったかつての自分。現在に塗りつぶされんとする過去の、最後の吐露。
今、俺は「2人」いる。
「誰か、助けてくれって、今にも叫びたい。でも、手を差し伸べてくれる奴は、果たしているのか?考えるのが…、怖くてさ」
俯瞰した俺の視点だと、
オレは
オレは、1つ大きな息を吐いていた。それはまるで、何かを追い出すかのように、深かった。
「海燕…。お前は俺に、その手を…。差し伸べてくれるか──?」
墓ではなく、いつの間にかすり替わっていた曇天を見上げて、そう言った。
そしてその時、俺の視界は元の世界に戻った。
俺は何も考えることなく立ち上がり、手に持っていた、酒を飲み干した自分の湯呑みをそのまま、2つの湯呑みの隣に置いて、その場から踵を返した。
アニキが死んでから、もう2年近くになる。
朽木とか言うちっさい死神が、だらんと力を失ったアニキを背負って訪ねてきたとき、俺は頭が真っ白になっちまった。
そんなオレに、その死神は抱えていたアニキを優しく手渡してきた。
てっきり酔いつぶれているものだと思って受け取ったら、予想以上にズッシリしていて、冷たかった。なのに、何かが欠落してるかみてぇに、なんとなく軽く感じた。
オレは思わず、目の前の死神の目を見た。だけど、俯いていて、顔は見えなかった。抱えていたアニキを見て、また目の前を見た。死覇装の黒が、周りの闇と絡まっていた。そのせいか、オレは、いつの間にかアイツが居なくなってた事には気づかなかった。
『おい、アニキ。一体何が…。──アニキ?』
よく見れば、いつも血色の良かったはずの肌は、色を失っていた。息をしていない。ピクリとも動かない。
まさか──と、思わず疑ってしまった。いや、そもそも疑うべきだったんだ。例え酔っ払っちまって、介抱されてたのだとしても、アニキは死神だから、瀞霊廷内の屋敷に寝かされるはずだ。
なのに、ここに来た。
ならば、自ずと理由は導かれた。知りたくもなかった。
頭で理解した。だけど当然、心は理解しようとしねえ。心の支配下にある感情が、涙を流した。
「──よっと。ありがとよ、ボニーちゃん」
その日から2年近く経った、西流魂街の外れ。オレたちの家とはかなり離れた所。志波家自体は、この土地を所有している自覚がねえから、半ば空き地と化していやがる。けれど、そこの一角だけは。不自然なくらい綺麗に掃除されている。
オレは愛猪のボニーちゃんを降りて、ここで待つように言った。今日は月一の、──アニキの墓参りの日だった。
アニキの好物のおはぎを手に、姉貴の様子なんかを報告しようと、いつものように向かっていた。
あの日以来、オレは根っからの死神嫌いとして有名だ。目にするのさえ嫌で、見つける度に突っかかったりしていた。
そんなオレにとって、滅多に人が立ち寄らないこの場所は、唯一心が安らぐ場所だ。
───なのに。
「なんで死神ごときがこんなトコに居やがんだよ!」
「……誰だよ、オマエ」
こんな時に限って、一番嫌いな
うーん、主人公の能力やら斬魄刀は決まってるのに…。過去編があと数話残ってるんだよなあ。
とっくりじゃなくて湯呑みなのは、この前のパーリーのせいでそれしか無かったから。