どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい   作:けし

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千年血戦篇が始まったので初投稿です。

ドリスコールって誰やねん。


千年血戦篇
#1 Souvenir


 

 一際、静かな日だったと思う。

 比較的季節感覚の薄い尸魂界にも、いくらかの四季は訪れる。そんな中にも殊更に、針と軋む静けさだった。

 

「ヤな感じだな……」

 

 つい先日現世から帰ってきて。あの男との決着を付けてから何回目の現世渡航だっただろうか。

 そういえば一回目の時は朽木たちは完現術(フルブリング)なる力を持つ奴らとのよく分からない諍いに割って入ってたそうだが、そうしてる同僚らをよそに、俺は俺でまた奇な戦いに身を投じていた。

 お陰で左腕がトんだが、そこはそれ。冠位の人形師とからしい橙子が、特製の義手を作ってよこしてくれたので、まあよしとした。

 そんな過去を思い浮かべていると、背後から咳き込む音がして、思わず呆れた視線を向けた。

 

「いい加減休んだらどうです? 隊長の仕事〜だとか言うより、休むのが先だと思うけど」

「はは、これは私にしか出来ないからね。それにこれでも調子はいい方さ」

 

 こうも言われたら誰だって、はいはいそうですか、と呆れるほかないだろう。

 

「それはそうと、君の直感はよく当たるからな。もしかして、何か起こりそうか?」

 

 掘り返すように、うちの隊長──浮竹隊長がそんなことを言った。確かにその自覚はあるが、いつも確信はないのだ。ゆえの直感であり、式いわく、啓示とは全く違う曖昧な代物である。

 だが、これは。

 

「そうかもしれませんね。とりあえず外出てきますよ」

「ん? どこに行くんだ?」

 

 そう言われると俺は、手元の紙袋を掲げて見せた。

 

「頼まれものを届けに。紅茶と洋菓子ですけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 謎の人物の襲来。

 それは音もなく、匂いもなく、あるいは空気の揺れすらなかった。

 たったひとつ、霊圧の揺れを感じるのみ。

 

「ぐう、っ」

 

 それでも、男には矜持があった。前線に出ることは久しく無かったとはいえ、かつてかの『(えい)字斎』を『十字斎』にした、兵としての誇りが。

 

「こうも、容易く……!」

 

 驕りだったのか、弱くなったのか。しかし、ここで引くという道はなし。そう奮って、手にした斬魄刀を力を込めて握りしめた。

 

「おのれ……旅禍!」

「辛えなぁ、弱ぇなぁ、ダセェなぁ! その程度かよ、死神ってのは!」

 

 筋骨猛々しい大男。聖人のような白服に身を包んだ、極悪人の顔だった。

 槍のように伸びた、霊子で出来た武器が墓標のように地を穿つ。雀部が打ちのめされた力だ。

 

「何人殺したっけなぁ、もう3ケタは行ったんじゃねえか? そろそろ三途の川にも行列が出来ちまうなぁ」

 

 メリケンサックのようなものをつけた拳から、再び武器が作り出される。

 強者の余裕とも取れる、腹立たしいまでの力の差。

 

「総隊長が奮起なされているのだ……。私がやらずして、何とする!!」

 

 あの日に回帰しながらも前に進む自らの憧憬に、さらなる決意を固めた。

 

「卍解……!」

「くっ、来やがったか!」

 

 旅禍のその掌には、星を象った銀のメダル。

 構うものかと、活と霊圧を叩き込む。

 

「『黄煌厳霊離宮』!」

 

 雷が、まるで宮殿のような美しき社を空に描く。久しい感覚に震える身体を鞭打ち、その手綱を繰る。

 

「待ってたぜぇ、その卍解を!」

「何っ!?」

 

 だが、それを狙ったかのように旅禍の手にあるメダルが展開し、そこに自らの力が引き摺り込まれていく。

 

「これはっ!?」

「辛えだろ? 卍解を『奪われる』っつのはよぉ」

 

 動揺し、察した時には全てが遅かった。空の離宮は旅禍の手に渡り、自らには卍解を喪った愛刀のみが残された。

 

「き、貴様ぁっ!」

 

 自らより強者であるこの男を相手に、卍解なしでは到底戦えない。雀部はそれを理解した。分け身たる斬魄刀『厳霊丸』の真の力を奪われて、怒らぬはずもない。

 

「ふはははっ! 辛えなぁ! 辛えよなぁ! 奪われちまうんだもんな、私の愛しき人(マイ・フェアレディ)ってやつをよぉ!」

 

 ああ、この場合は男になっちまうのか? などと呑気に宣う旅禍を他所に、雀部は文字通りの絶体絶命。最古参の副隊長の、死に際であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? いねーのあの人」

「今は丁度、外周の門の警備におるはずじゃ」

「つか、なんでアンタと話してんの俺」

 

 割といいとこのお土産なんだけどな、と半ば現実逃避しながら、目的の人物がいないことに徒労感を滲ませた。

 そういや確かこの総隊長、紅茶嫌いっつーか、緑茶派だったよーな。時折茶会開いてるって話、聞いたことあるな……。

 まあそれはそれとして、それならその外周の門に向かうしかないか。そうして踵を返せば、背後に突き刺さる好戦的な視線。

 杖を両手でついていても、その威容は以前にも増して圧を伴っていた。

 

(何かしたっけな……、心当たりはなくも無いような気がしなくも無い)

 

 自らで限りなく可能性を下げながら、その視線をスルー。死神同士としての殺し合いで、俺に勝ち目はないし、そもそも殺そうとすら思えないのだから土俵にだって俺は立ってないのだ。

 そう心の中で言い張ってその場を去る。追いかけられることはなかった。

 

「さーて、どこにいるかな」

 

 普通に閉じていた霊圧知覚を開けば、その範囲は瀞霊廷くらいなら網羅出来る。外周の門って瀞霊門のことだろうし、じゃあ4つのうちのどれかになるわけだけど、にしても副隊長が赴くような仕事なのかコレ? 

 湧き出る疑問をぶつくさと唱えながら探ると、ふと、霊圧が揺れた。

 

「これは……」

 

 警備……にしてはかなりやる気だしてる気がするけれど、相手は何者だ? というか戦ってないか? 

 

「なんにせよ、行くか」

 

 何分距離もあるし、巻きでいこうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一番隊副隊長・雀部長次郎忠息は血みどろの重傷だった。

 もはや息をするだけの肉塊にも等しく、ただ地に伏せるのがせいぜいの有様だ。

 

「辛えなぁ、生きるのは。今、楽にしてやるよ」

 

 俺の糧になれ。そう呟かれた一言に、雀部は悔しさを滲ませる。

 

(ここまで……か、せめて総隊長には、この事実を伝えなくて、は)

「おーい雀部さん、アンタの土産届けに来たぞ」

 

 ギシ、と鋼が軋む音がした。相変わらずの淡々とした口ぶりが、今日この時に限ってはよく耳に馴染む。

 

「ほ、づみ……、なぜここに……」

「なぜって、そりゃ土産届けにだけど。行ってたじゃん、現世の洋物」

 

 場にそぐわない発言と行動に、悪人顔の旅禍も真顔になっていた。

 ややあって、穂積は周りを見回したのち、ため息を吐いた。

 

「で、なにこれ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「旅禍ぁ?」

 

 この人をボロ雑巾にできる旅禍とか、なんだそれ。霊圧は知らないけど、こいつはその程度の強さはあるのか。

 

「つか、旅禍にしては随分小綺麗っつーか、俺らを意識した服っつーか」

 

 白を基調にした、簡単ながら豪奢を感じるデザイン。なんか既視感を感じるのだが、それを思い出すよりも早く、目の前からヒントが飛んできた。

 霊子で構成された槍。それが、更なる既視感を誘う。

 

「もしかしてオマエら……」

 

 ソレが俺の中で重なり、1つの答えをはじき出す。メリケンサックに施された星の意匠。そこから伸びる槍が、その穂先を俺に向けて待機していた。

 

「死にな、死神」

 

 大きく振りかぶって投げる、というよりは大きなテイクバックから殴り放つという言葉がしっくりきた。槍の石突にあたる部分を投げる動作の中で殴るように放つのだから、言葉にするにも限界があるというものだ。ふと、石突を蹴って撃ち放つようなスタイルの槍が頭を過ぎるが、それはそれで人智を超越した代物だろう。

 

「逃げるぞ」

「すま、ない……」

 

 槍の一撃は軌道も読み易く、足の速い俺にしてみれば幼子の突進程度だ。たまに痛い時もあるのがミソ。

 ぐったりとした雀部を抱えれば、非力な俺では戦うなど到底無理な話。こんなだから、常々朽木や隊長目付役の2人から『もやし』とか言われるんだろうな。

 

「逃げられると思ってるのかぁ?」

「うるさい。『六杖光牢』」

 

 流石にうんざりしてきたので、詠唱破棄で縛道を起動して、巨躯を抑え込んだ。激痛が走るが、アレなら直ぐに破るだろう。それでも時間稼ぎには十分だ。

 

「揺れるぞ、我慢してくれ」

 

 縮地術で地を駆ける。瞬歩や響歩に比べて直線的にしか移動出来ず、融通の効かないところはあるが、速度は頭抜けて速い。地を縮めるその技法は、神仙の技にも等しいのだとか。速けりゃいいんだけど。

 だが奴さんもしつこいもので、ストーカーじみた執念で追跡をかけてくる。道中で不運にも出会(でくわ)した哀れな一般隊士に穴を開けていき、なぜかさらに霊圧が大きくなる。

 

「なんだありゃ。殺せば殺すだけ強くなるのか?」

「わか、らぬ……」

 

 この状態でもこの男は意識を保ち、かつ敵の観察を続けていた。滅私と奉公──その先はあの爺さんだろうけど──の精神は、全くもって目に痛い。

 

「流石に追いつかれはしなさそうだ。このまま四番隊舎行くぞ」

「待て、先に総隊長殿に、お伝えしなければ」

「死にかけが何言ってんだ。んなもんはちゃんと死を遠ざけてから言ってくれ。土産が無駄になったら困るんだよ」

 

 というかアンタの頼みなんだけどな。実は腕にその土産の紙袋を通したままであり、それがカタカタと揺れて音を立てている。それを見た雀部はふと口許を緩めて、そうだったなと細く呟いた。

 そうしているうちに辿り着いた四番隊の隊舎に、なぜか正門にいた勇音が目に入った。急患、と一言だけ告げて押し付けると、その急患の容態と正体に慌てふためく様が少し可笑しくて。ついでに腕の土産も置いとくよう言付けて、さっさと大きくなり続ける霊圧の直上に足を向けた。

 

「っと、」

 

 玩具を見つけた子供のような、似合わない笑顔だった。極悪だという自覚くらいはしていてもらいたい。

 

ファンゲン(鬼ごっこ)はお終いか? 足が速いみたいだが、さぞ人気者だったんだろうなぁ」

「ふぁ……? よく分かんないけど、遊戯がやりたいなら帰って親とやってもらえよ。随分と()()教育されてきたんじゃねーの?」

 

 そう言いながら、斬魄刀を抜いた。殺す気もなければ、そういう風にも見れない。伽藍の身体は、秩序(ルール)の中からやるべき事を勝手に探す。

 

「今の俺は何人殺したっけな、数えるのも辛えなぁ。頭が良くねぇもんでな」

「なんだよ、安っすいマーダーズ・ハイか?」

 

 目の前のソレは、愉快犯的大量殺人鬼。

 一時の快楽で人を殺す。それは『殺人』に意味を望む俺の、最も忌み嫌うことだ。

 軽く、刀を構える。嫌悪感が殺気を孕み、『眼』が、世界に一枚の布を被せた世界を捉える。

 

「何しに来たかは知らねぇけど、オマエはここで潰す」

「辛えなぁ、出来もしないことを口にするのは」

 

 同時に霊子の槍が現れ、それが一瞬で目の前に飛来した。

 

「──人が当たり前のように殺されて死ぬのなら、」

 

 空気を割いてくる槍の先に、伸ばした刀の鋒をことも無げに重ねていく。

『眼』が1つだけ、世界がズラしてしまえば。そこはもう、赤黒い線が渦巻く点の場所。

 

「物が壊されて死ぬのも、また当たり前だろ」

 

 だから、酷く脆いものが壊れるように、槍は消えてなくなった。

 

「な、ぁ……」

 

 自信があったのか何なのか、起きた現象にそいつが僅かな戸惑いを見せれば、俺みたいなやつにだってグサリとやられてしまう。

 強かろうが、不死だろうが、形を持ってある(生きている)のなら関係ない。

 英雄にもなれない殺人鬼は、殺人鬼にすらなれない殺人鬼に、至極あっさりと殺された。

 そうして終わった後にふと、捕まえれば良かった、などという感想がポツリと溢れていた。

 

 

 





穂積 織
護廷十三隊・十三番隊副隊長。(朽木ルキアは第三席)
肩のあたりで揃えられた黒髪と、中性的な容姿、何より好んで着ている赤い革ジャンが特徴的。
夜中にふらふら出歩くことが多いが、仕事は意外とこなしている。
斬魄刀は『唯式』。


キャラや書き方を忘れました、悪しからず。
創作意欲の減退期(適当)ですが、ぼちぼち書いていくかもしれません。これとかアレとか()。
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