どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい   作:けし

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卍解とか取られないけど初投稿です。

盗られようが盗られまいが、結局卍解が使えないことには変わりないという。でも穂積織の影響によるバタフライエフェクトはつおい()

誤字報告や感想、読ませてもらってます。感想返せませんが、いつもありがとうございます。


#3 Way of trust / The fear

 

「こりゃまた、ばったばったと」

 

 疲れたと言わんばかりの顔で、白い屍の上に立つ。指先についた返り血を屍の服で拭い、深く息を吐いた。

 雀部の言葉で、敵は卍解を奪う──『卍解奪掠』を可能としていることが分かった。ベッドの上の雀部は確かに、(しき)りに立てかけられた斬魄刀に目線を向けていたし、その横に置かれた銀色のプレートと刀身を交互に目をやり、失意に沈んでいるようだった。

 しかし涅が解析をするまでもなくその事実が判明した以上、こちらから卍解を使うことはないだろう。

 故に、この戦いに勝機はない。

 卍解を使わないというたった1つの縛りが、死神の終わりを告げた。始解までしか使えない状況でどうしろと、というのが大半の死神の本音だろう。

 

 ──で、だからどうした。

 

 相手より強い必要はない。死なせれば勝ちだ。

 

「そうは思わないか、滅却師?」

「我が同胞を、ああも殺し尽くすか」

 

 行木と斑目は、運が良かったらしい。真っ二つにされた先輩を前にして、逃げることが出来たのだから。

 そうして立つのは、目深にフードを被った冷徹な優男。右手の刀には、血の1つもなく、まるで血で汚れることを拒むかの如くに。

 

「どうせ雑兵だろうに。仲間想いで部下想いとは、いい上司みたいだな、オマエ」

 

 これがポーズなら笑ってやれたが、コイツは本気だ。末端まで同士だと思ってやがる。もしかして滅却師って結構意識高いのか? 

 行木と斑目を背後に、解放さえしていない斬魄刀を自然体に手にする。

 

静血装(ブルート・ヴェーネ)をこうも易々と……。やはり貴様は危険のようだな、穂積織」

「え、なに、俺のこと知ってるのかよ?」

 

 一方的に知られているとは、なんとなく嫌な感じだ。しかもかなりの危険物扱い。

 

「陛下は藍染惣右介という男を高く評価していた。その知性、思想、力、あらゆる面でだ」

「出歯亀してたのかよ、趣味よくねーぞ」

 

 俺にしてみれば侵入されたことより、観察されていたことの方が気持ち悪い。どこまで筒抜けになっていたのやら。

 

「だが、その藍染惣右介は死んだ。他ならぬ貴様の手によってだ」

「オマエら、マジでどこから見てたんだ? 現世での戦いだったと思うけど」

「故に、陛下は貴様も評価している」

 

 男は俺の言葉を完全に無視し、全く分からぬ陛下とやらを持ち上げながら、ただただ事実のみをつらつらと口にしていく。

 

「そしてそれ故に、貴様は危険であると。陛下は判断なされた」

「藍染惣右介のついで、みたいな言い方は癪だな。で、それがどうした? 言いたい事は決まってんだろ?」

 

 手にした剣から滲む霊圧が、その答えである。──が。

 

「言うまでもあるまい。しかし貴様は運が良い。今の私は早急に陛下のもとに馳せ参じねばならないのだ。貴様の相手は、我が同胞たちで十分だ」

「はっ、なるほどな」

 

 逆回しのように引っ込む殺気。毒気を抜かれ、斬魄刀の柄から手が離れる。致命的な隙に、しかしコイツは目を瞑っていた。

 周りが死ぬ気で戦う中、まるで浮世離れした呑気なやり取りに、背後の死神たちが茫然とする。

 

「なら行けばいい。オマエらの侵攻を止めるのは俺らである必要はないしな」

「その不遜、高くつくぞ。穂積織」

 

 驚きの空気を背中で感じながら、そう吐き捨てた冷面の滅却師を見送った。

 

「だそうだ。生きてて良かったな」

「い、いい、いや!? あれは止めなきゃなやつでは!? 呑気してる場合ですか副隊長!?」

「そりゃそうだけど、今はオマエ達を四番隊のとこまで送るのが先だ。下手な死人は出さないに越したことはないんだ」

 

 同隊の身内ならなおさら。主に書類が増えるのがいやだという意味で。人でなしなのは今さらだし。

 追わねばならないのは分かっているが、しかしさっきの話で向こうが俺を妙に警戒しているのが分かってしまった。この前のヒゲ面はそんな素振りを見せなかったのに。あの男がただ頭が弱かっただけなのか、その警戒感の共有がごく一部でしかなされていないのか。それは知らないが、この調子だと向こうの作戦勝ちというか、普通に負ける。次に繋がる何かを残すことなく、だ。

 

「これは直感だけど、向こうはこっちの戦力を結構把握してる気がする。厄介そうなやつは特に気をつけろ、みたいな。例えばさっきの話だと生前の藍染惣右介とか、今なら多分更木剣八とかがそうなんじゃないか?」

「更木……十一番隊の更木剣八隊長ですか……」

 

 ややあって思考回路が機能し始めた行木と斑目が、俺の言葉に対して何とか口を動かしていた。虚のソレ(捕食本能)とは違う、明確に殺そうという意思をその身一杯に受けるのは初めてだろうに、なかなかの強心臓だ。

 

「お、またまたお出ましだ。有象無象だけどなかなかどうして、捨て駒にするにはオーバースペックだ。オマエら、やれるか?」

「「が、頑張ります」」

 

 対虚の戦闘は兎も角、対人の殺し合いはそうそう経験しない。稽古とはまるで違う、この殺意の海を渡る手段は、自らに携えたその斬魄刀のみだ。それ以上を望むなら、力を手に入れるしかない。

 

「足止めだけでいい。コイツらの防御は斬魄刀の刃を通さないからな」

「で、でも副隊長は……」

「俺ならどうとでも出来るんだよ。そら、気張れよ」

 

 真っ当な弓から、青い霊子の矢。白服の滅却師が、()()()攻撃を仕掛けてくる。面制圧を狙ったであろう矢の弾幕を、行木らを庇うようにして切り払い、刀の間合いへと近づいていく。

 死は万象へ平等に、けれど存在には不平等に走る。卍解はおろか、始解すらもしていない今の状態では、生死の境界を手繰ることは出来ない。3人の滅却師を彼岸へ渡すためには、1対1を3回行う他ない。速さを売りにしていても、コイツらはその隙を突こうと考えるくらいには質の高い雑兵だ。

 だからこそ──だ。

 

「こ、のぉっ!!」

「ああぁあ!!」

 

 刀の間合いに入れば、矢を打つ体勢を作り出すことは容易ではない。本能的に構えた腕に霊子の回路が走るのを目にしながら、その盾ごと1人を渡す。

 間髪入れずに斑目の側に飛び、また1人。

 振り向きざまに死角から斬魄刀を投げ、点を突いて最後の1人。

 たったそれだけのことだが、2人は肩で息をするほどに消耗していた。

 よくやった、と褒めるべきだろう。足止めとはいえ、明らかな格上と鍔迫り合いをやるのは、それだけで神経をすり減らすものなのだ。──というのはまあ、俺自身の記録にそう遺されているだけのことだが。

 

「十分だな。オマエら、後はもう休んでろ」

「は、はいぃ……」

 

 情け無い声で、へろへろと声を漏らす行木と、そんな声もでない斑目。終わったという感じを出すが、まあそんなことはないわけで。この辺りの敵の数が少ないうちに、コイツらをさっさと四番隊舎に突っ込む。

 

「織さん!!」

「勇音か、早速で悪いがアイツらを任せた。この辺りのは散らしていくから」

 

 ドタドタと慌て気味にやって来た四番隊副隊長の虎徹勇音。なんだかんだで長く深い付き合いになったが、それゆえに『任せる』なんて言葉がふっと口をついて出てくる。……まあ、悪いことではない。

 

「わ、私も……、戦えますから!」

 

 身長差の都合で、勇音が見下ろす構図。いつものへなっとした顔とは違う、何かを決めた顔つきだった。

 戦えますという意思表示は、コイツには似合わないなと、そう思った。

 

「オマエは癒し手だろうに。それに多少強くなっても、流石に今回は相手が悪いだろ」

「でもっ、私も織さんの力に」

「あのな、背中の預かり方は1つじゃないんだぞ」

 

 焦りを感じているのだろうか。そんなもの、オマエが感じる必要はないのに。

 でもオマエは、多分待てないんだろう。俺がどう言う人間か、コイツの視点から見たソレは分からないけど、よほど危なっかしいだろう。そんなに大怪我を何度もした覚えはないのだけど。

 

「オマエにはオマエの今やるべき事があるはずだ。なら、まずはそこからだ。俺のことはその後でいい」

 

 俺は返事も聞かず、我儘に押し付けて走り去った。目の端に見えた泣きそうな、あるいは悔しそうな顔は、見なかったことにした。

 

「私は、貴方を助けたい、支えたいって。それが私のやるべき事なのに……っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「恐怖……か」

 

 朽木白哉は、敵の滅却師の言葉を正確に受け止めていた。

 卍解は使うことが許されず、しかし同時に負けることも許されない。

 万全の敵との戦いに、これほど不利な条件を突きつけられているというのに。

 

「ソウ、理由ノナイ恐怖コソ、真ノ恐怖ナンだ」

「そうか、これが貴様の言う『恐怖』か」

 

 カタカタと震える手を、湧き上がる恐怖を踏み潰して抑え込む。背後にいる恋次が、私が倒れても彼奴を倒してくれるはずだと、希望を見出しながら立ち続ける。

 ──甘えだ。それは恐怖に屈そうとしている私の、弱さゆえの。

 

「本能カラノ恐怖ニハ、命アル限リ抗エナい。羽虫ノ如ク群ガルソレヲ、誰モ振リ払ウコトナド出来ハシナい」

 

 本能が、恐れている。恐怖の無い戦いなどなく、そうした恐怖を捩じ伏せて来たというのに。私の中の誇りが、激情が。恐怖を振り払って身体を突き動かす。

 

「ぐ、が……」

「驚イタ。強靭ナ心ダよ。デモ、コレデオ終イダね」

 

 腹を貫かれ、全てが恐怖へと渦を巻いて流れていく。隊の皆も、最愛の家族も──。

 湯船の栓を抜いたように流れ出て、ふと最後に残ったものがあった。

 それを理解した瞬間、世界に色がついた気がした。血の気が引いた手に、赤みがさすほどに。

 

「ナニ?」

「──そうか、そうだったな」

 

 笑いが溢れるほど、軽くなった。それは恐らく、随分昔の記憶。

 

「貴様如きの幼稚な恐怖などで、私は止まらぬ」

 

 理解できない故の恐怖を、私は感じたことがあった。

 

『オマエには見せたことなかったっけか。()()()

 

 理解できない恐怖を知った今、()()()()()()()()()恐怖があることを思い出した。私はあの時、恐ろしくも美しいものを見たのだ。

 

「そう感じるように仕立て上げられた──、作られた恐怖など恐るるに足らぬ。真に恐怖すべきものを、私は既に知っているのだから」

 

 暗く輝く青と赤。照らされた羽虫が露と消える。──もう、負ける理由はなくなった。

 

「散れ、『千本桜』」

「ナゼだ──、恐怖ガ、通ジナい?」

 

 この滅却師は言った。『恐怖』は『死』に繋がっていると。ならばそれこそが。

 

「生命が死を恐れるという当然の事実を、貴様は力にした。そしてそれゆえに」

 

 動揺が動揺を呼び、霊子の収束が不安定となる。静血装なる盾の上からでも、千本桜が傷をつける。

 

「オオ、オォォ──」

「──終わりだ、滅却師」

 

 悍ましき声を上げる滅却師の、硬い盾を貫いた。地獄からの呼び声にもとれる断末魔は、ぱたりと途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 





朽木白哉
さながら恐怖を乗り越えた花○院。でも割とギリギリだった。重傷。

阿散井恋次
戦闘なし。でも戦わなきゃならないことには変わりなし。

虎徹勇音
割と重たい(願望)。

穂積織
鈍感というより、自他に頓着しないし興味が薄い。例外はある。

エス・ノト
台詞が大変だからと出番カット&エンドを喰らう。泣いていい。

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