どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい   作:けし

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あと2,3話程で過去編が終わる予定です。
今しばらくお待ち下さい。


7

 朽木と修行の約束を交わしてから1週間が経った。隊の雰囲気も、俺が知っているかつてのものに戻りつつある。

 そんな中俺は、偶に遊びに来る京楽隊長を伊勢副隊長に引き渡したり、退院後の検診に四番隊に行って、そこで話しかけて来る三席の人と適当に会話して過ごしたりと、そこそこ怠惰で、そこそこ快適な生活を送っていた。まあ、筋トレくらいはして、腕力や脚力なんかを回復させたりするくらいの事はしていたが。明らかに、側から見ればサボりと言われても仕方ないだろう。

 ところで、最近思ったが、書類仕事が多い。

 はて、一体何故?

 

「浮竹隊長。ここハンコ」

「ああ。…よいしょ。これでいいか?」

「んー、まあいいか」

 

 ハンコさえ押されてりゃどうとでもなる。押し方とか決められてないからな。不文律とか暗黙の了解とか、仮にそういうのがあったとしても、ソレは知らぬ存ぜぬで押し通せる。書いてないからな。

 で、俺は思っていた疑問を、浮竹隊長に話してみた。

 

「なんで俺に書類仕事が回って来るんです?隊長は兎も角、現在の副隊長は確か、小椿と虎徹妹なんじゃないんですか?」

「ん?ああ、その件か」

 

 コホンと態とらしい咳払いで、重大発表をするような雰囲気を整えてきた。急に隊長の威厳を出して来るな。使い所間違えてるぞ。

 

「実はな、穂積。お前を、十三番隊の副隊長に推薦しようと思ってるんだ」

 

 ………重大発表だった。

 

「副隊長…ですか」

「ああ。いつまでも空席にするわけにもいかない。それに何より、空席であることがダメなんだ。海燕君のことを思い出してしまうからね」

 

 一理ある。あの2人はあくまでも代行であって、正式なソレではない。実際、腕章は付けていない。しかしまあ、白羽の矢が俺に立つのか。そこは朽木とか、あの2人のどちらかだと思ったんだが。

 

「既に隊の皆は賛成しているし、この件は京楽と朽木隊長にも話して、賛同を得ているんだが…」

「えぇ…。それもう事後承諾みたいなモンじゃないですか…」

 

 思わず両手を地面に落とした。現世で言う所のorzだ。あるいはOTLでも可。個人的には後者が好み。

 まあそんな事は置いといて。そこには1つ重大な問題がある。

 

「というか、1つ、問題が有るんですけど」

「ん?なんだ?」

「今の俺、始解の能力がほとんど使えないんですが」

「…………………………ほう」

 

 たっぷり停止したな。偶に見るこの人の呆けた顔は、なかなか面白い。

 でも、これは事実だ。俺は昨日、久々に斬魄刀を解放した。別に目立つような能力も何もないから、自室でやったのだが、その時に気づいた。

 俺の斬魄刀には大まかに言って2つの能力がある。その内の1つが使えなかった。そもそも、大まかに2つと言っても、一方は残滓みたいなモンだ。だから、始解の能力の大半は使えない事にしている。

 というか、最悪の場合、この「眼」で切ればどうにかなるから、別に危惧してもいない。それに、何となくではあるが原因も察している。

 

「しかし、君は鬼道が得意だったはずだが…」

「縛道オンリーですが。破道は詠唱破棄で五十番台がいいトコですかね」

「なら問題ない。うん。やってくれるか?」

 

 問題だらけです浮竹隊長。両方とも伊勢副隊長レベルで使えるならまだしも、俺の場合は縛道オンリー。なんなら、鎖条鎖縛でドSプレイ出来るまではある。そんな事はしないけど。破道は詠唱ありでも七十番台。記録曰く、格好よかったり、オシャレだった破道は習得してたみたいだが。

 まあ、結論は。俺に副隊長は向いてないという事を言いたかったんだが。

 

「いや、だから…」

「やってくれるか?」

「俺の話聞いてました?病気で耳イカれました?」

「やってくれるよな?」

 

 なんだコレ?ガキ以下の茶番じゃないか?いやそれよりも気になるのは。

 

(なんか段々圧が強くなってないか?まるで別人レベルで…)

 

 そう、さっきまで「隊長の威厳」だった威圧感が、最早物理的な圧力を持ちかけている。正直な話、洒落にならない。というか、この人、こんなヤバい人だったのか?

 そんな浮竹隊長にわずかに戦慄しながらも、そろそろ鬱陶しくなって来たので、最終手段を使う事にした。

 俺は、浮竹隊長と正座する形で向かい合っていた。その体勢のまま、顔だけ上を向ける。背中に挿したナイフを抜いて、そのまま横一文字に切り払った。

 その途端、加速していた重力は霧散し、元の世界が戻ってきた。

 

「そんなにプレッシャーかけないで下さい。正直、ウザいです」

「ほう。アレをかわすのか。すごいな」

「いやいや。何ですかアレ。病人が出していいレベルの圧じゃないですよ」

 

 あまりに強い圧だから、「殺せた」。物理的な圧力を持ったという事は、すなわち、この世界に形を成したということ。故に、そこに死の線が生まれる。

 俺はこの「眼」の事を隠すために、上を向いて悟られないようにした。

 とは言え、やってることは明らかに異常だから、誤魔化せたかどうかは分からないけれども。

 

「まあ、このまま空席だと、いろいろ都合が悪いのは確かですし。本っ当に気乗りしないんですが…、仕方ない。受けます」

「そうか!いやぁ、良かった!」

「あんだけプレッシャー放っておいて何言ってやがるんですか。あ、でも隊長の看病なんてご免ですからね」

 

 ケロッとそう話す浮竹隊長に、心底嫌そうな顔をして見せてから、承諾の意を示した。

 

「そういえば、朽木との修行はどうするんだ?」

「はい?いっそ白哉に押し付けたいくらいには面倒だなと」

「彼女にも色々悩みがあるんだ。そう嫌そうな顔をするな」

「誰のせいだと思ってやがる」

 

 思わず素が出てしまった。いや今更訂正なんてしないけれども。

 というか、この人の狸?狐?ばりの変わり様、ちょっと凄すぎないか?

 

 

 

 

 

 


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