どうやら俺は、この眼を持って生きていかねばならないらしい   作:けし

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初戦闘。


8

 南流魂街78地区「戌吊」。ここは確か、朽木や阿散井の出身だったはずだ。「更木」程ではないが、かなり治安が悪い。そこから死神にのし上がるのは、かなり苦労したんだろうなあと、さして興味もないことを考えていた。

 俺はそんな所に、朽木との修行ということで足を運んでいた。折角なので、途中で甘味なんかを買って、ぶらぶら散策も。来週から正式に副隊長となる事になるので、よっぽどの事がないと、外を出歩けなくなるから。

 戌吊に近づくと、絡まれる回数も増える。流魂街の地区は、数字が大きいほど治安が悪いようになっている。自然と出来た区引きだが。

 しかし、コイツらは所詮、街のゴロツキ程度でしかなく、詠唱破棄の初級縛道で30分は縛れる。そしてそれだけあれば、歩いて逃げるのにも十分だ。

 そんなこんなで、みたらし団子を口に含みながら、指定された場所に辿り着いた。

 

「来てくれましたか、穂積殿」

「そりゃ、約束したからな。団子、食べるか?」

「(ごく…っ)いえ、今は結構です」

 

 つばを飲み込む音が聞こえた気がしたが、朽木に限ってそんな事は無いだろう。…無いだろう。

 さて、じゃあ始めるか。

 朽木は斬魄刀を抜き、解号を唱える。

 俺は、背中からナイフを抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 穂積殿、いや、もう来週から副隊長になられるから、穂積副隊長か。あの人は、海燕殿の無二の親友だった方だ。浮竹隊長も兄様も、穂積副隊長は強いという。

 私は、穂積副隊長が斬魄刀を抜いた所を、退院してから一回も見た事がない。何度か流魂街に現れた虚を倒す際に同行したが、全て、縛道で縛って、破道で倒していた。それだけで、とてつもない方である事を理解した。一瞬、死神かどうかさえも疑ってしまうほど、隔絶していた。

 私は、そんな穂積副隊長に、修行をつけてくれないかと提案した。心底嫌そうな顔をされたものの、浮竹隊長の言葉のせいもあってか、なんとか了承してくれた。私は、少し安心した。

 海燕殿をこの手で殺してから、既に2年近く経っている。にも関わらず、私の手から、赤が消えない。気味が悪くなって、水で何度擦り落としても、気づいた時には染まっている。離れてくれない。それが恐ろしくて、穂積副隊長が戻って来るその日まで、私は空虚な日々を過ごしていた。

 しかし、穂積副隊長が私に言った一言で、私の心は救われた。

 

『だから、その言葉は純粋な感謝だ』

『アイツに情けない姿、見せられないだろ?』

 

 そうか。私は、罪悪感など感じる必要は無かったのだ。この罪悪感は、ただの自己満足。私はただ、海燕殿の感謝を、受け入れるだけで良かったのだ──と。

 それ以来、私は穂積副隊長に、海燕殿に並ぶほどの敬意を持つようになった。死神としての実力も、その心構えも、全てが人と違うのだという、畏敬も含めて。

 だからこそ、今回の修行は全力だ。浮竹隊長にも、上位席官クラスと言われた私の力を、試す。

 

「舞え──『袖白雪』」

 

 私の斬魄刀、『袖白雪』は、氷雪系の斬魄刀。尸魂界(ソウル・ソサエティ)において最も美しい斬魄刀と言われているが、それは戦闘において、何の役にも立たない。私が使いこなせなければ、美しさなどに価値はない。

 対面の穂積副隊長は、背中から、ナイフを抜いた。どうやらそれで戦われるらしく、私は思わず眉を寄せた。しかし、そんな疑問はこの場に不要。それで充分だと言うことか。

 私は瞬歩で近づいて斬りかかった。見えているのか、私を視界に捉えてから、余裕で対処された。その後も何合か打ち合ったものの、その結果は変わらず。得物ではこちらに有利で、さらにかなり筋力が落ちているはずなのに、涼しい顔を崩さない。ならばと、私は距離を取り、手を前に突き出す。

 

「【破道の三十三『蒼火墜』】!」

 

 蒼炎が放たれる。『蒼火墜』は、三十番台でも特に高い威力を持っている。無防備で受ければ、いくらあの方でも、ただでは済まないはず。

 そうして、次の動きをじっくり観察していた次の瞬間。

 

「!?」

「よっ」

 

 いきなり背後に現れた穂積副隊長が、軽い声と共にナイフを振り下ろしていた。咄嗟に瞬歩で、その場を離れる。

 見えなかった。瞬きをした次の瞬間には、その姿はかき消えていたのだ。

 やはり、強い。

 そして私は、海燕殿と編み出した技を使うことを決めた。

 斬魄刀を、地面に対して垂直に構える。柄の頭についた純白の布が、円を描いて翻る。

 

「初の舞──『月白』!」

「!」

 

 穂積副隊長の周囲5メートルほどが、突然凍りついた。それに驚いたように、穂積副隊長は上へと逃れた。

 しかし。

 

「それで逃げたつもりですか!」

 

『月白』は、指定した領域を凍結した技だ。確かに地面は凍りついた。だが。領域とは、即ち天地だ。

 地面から上空へと、円柱状に凍りついていく。

 この規模は、あのナイフではどうしようもないはずだ。

 

「げっ。マジかよ。…【縛道の六十三『鎖条鎖縛』】」

「む」

 

 飛来する金の鎖。遠心力により、直進ではなく、大きく回って飛んでくる。あれは、慣れればある程度自由に操作できるらしい。私はギリギリまで引きつけて、それを横っ飛びに避けた。地面に突き刺さった鎖は、かなり深くまで刺さったようだ。そして、その鎖が(たわ)んだ。

 ふと見上げると、鎖を巻き取るかのように、こちらへ突っ込んでくる穂積副隊長の姿。再び距離を取るべく、後方に飛ぶ。近距離では明らかに不利。ならば、固定して、一番の攻撃を叩き込む!

 

「雷鳴の馬車 糸車の間隙 光もて此れを六つに別つ 【縛道の六十一『六杖光牢』】」

「うわ」

 

 気の抜けた声が聞こえてきた。しかし、容赦はしない。眼前の地面四箇所から霊圧を吸収。切っ先を穂積副隊長へ向けた『袖白雪』へと収束する。

 

「次の舞──『白漣』!」

 

 全てを凍てつかせる、雪崩にも似た霊圧の波が、放たれる。いっそ暴力的とも言えるそれは、まるで全てを飲み込まんとする津波。

 私は、勝ったと思った。

 だが。穂積副隊長は。

 一瞬、目の前を覆う白の中に、恐怖にも似た青を見た。

 

「甘いぜ、オマエ」

 

 ドォォォン!と。無理矢理に何かを壊したような、ひどい音が響いた。既に青は見えず、そこには無傷の穂積副隊長が立っていた。

 

「な……」

「ま、悪くなかったぜ。動きを止めて大技ってのは、確かに効果的だもんな」

 

 それにしてもだ。白漣を真正面から受けたはずなのに、なぜ無傷なのか。ただのナイフでどうやったのか。畏敬の念が強まり、それと共に、私の中に、この方に対する恐怖が芽生えたのを感じた。

 

 





難しいな。
鬼道の詠唱とか、どう表記したらいいんだろ。

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