Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。
ぐだぐだ邪馬台国が終わったと思ったらまさかのクリスマスイベント復刻。
今年はハロウィン無しなのですね。ちょっと寂しいです。

もうすぐ11月で、今年も残り役2か月。新イベントもあとどれくらい配信されるんだろう。

さて、本編の方をどうぞ。
今回は3つに戦場にて戦いが繰り広げられます。そして決着へとつながります。


反撃開始

504

 

 

炎蓮と将軍妖(大剣)の剣戟が激しく行われていた。剣と剣が打ち合う度に火花が散る。

 

「チッ…土人形のくせしてオレの剣についてきやがる」

 

将軍妖は大きい体型でありながら素早く動いている。大剣を縦横無尽に振り回す。

 

「おらあ!!」

 

大剣を掻い潜り、一閃。しかし切断出来ない。ただ斬り傷が出来た程度。

将軍妖は兵士妖よりも堅く、更に鎧まで装着している。鬼神の力を秘めている炎蓮の一閃すら効かない程の硬度だ。

 

「堅てぇな」

 

ただ堅いだけではない。兵馬妖全体は大きな妖力で動いている。

将軍妖は兵士妖よりも注がれている妖力が桁違いなのである。注がれている妖力の量で兵馬妖は強化されるのだ。

 

「うらあああああああああ!!」

 

連続で斬りつけることを止めない。

斬り傷多数。切断までには及ばない。

 

「ったく、本当に堅てえな!!」

 

思いっきり蹴り飛ばして将軍妖を後退させる。

蹴った部分がへこんでいた。

 

「もう斬るより殴った蹴った方が早いか?」

 

剣を見ると刃こぼれを起こしていた。

こんな時に娘へ託した『南海覇王』があればと思ってしまう。

『南海覇王』は業物。幾人も斬ってきたが刃こぼれした事が無いほどなのだ。

感覚的に『南海覇王』ならば将軍妖(大剣)を切断できると思っている。

 

「ん?」

 

将軍妖(大剣)は大剣を大きく振りかぶっていた。

 

「そんな距離から斬るつもりか?」

 

間合いに入っていないのに大剣を大きく振りかぶっても当たることは絶対にない。しかし背中がゾワゾワするくらいヤバイと警鐘を鳴らしているのだ。

頭の中で警鐘を鳴らされている理由がすぐに分かる。大剣から黒い炎か靄のようなものが大きく滲み出していたからだ。

 

「……ありゃマズイな」

 

将軍妖(大剣)が勢いよく大剣を振るった瞬間に黒い炎だか靄が放出された。

黒い炎か靄のようなものの正体は妖力の塊だ。妖力弾もとい妖力斬。

 

「危ねえ!?」

 

一直線に飛来してくる妖力斬を横に跳んで回避。

 

「おいおい…あの土人形あんな芸当まで出来んのかよ。あんなのを連発されたら…」

 

大剣を振りかぶっている将軍妖(大剣)が視界に入る。

 

「連発出来るのかよ」

 

連続で大剣を振るった瞬間に妖力斬が放出された。

 

「魔術礼装機動『オシリスの塵』!!」

 

複数の妖力斬が炎蓮の目の前で弾かれた。

 

「助かったぜ立香」

「無事で良かったです炎蓮さん」

「にしてもやるじゃねえか。あんなのを防ぐ妖術を使えるとは」

「礼装のおかげですよ。でも連続で使えません」

 

連続で起動したくともインターバルがある。これでもインターバルを短く出来るように改良しているのだが、どうしても連続発動は出来ない。

 

「なあ立香」

「何ですか?」

「なんか剣を作り出す妖術とか使えないか?」

 

もう妖術は何でもありじゃないかと思ってる炎蓮。剣くらい造れるだろと期待した目で見てくる。

 

「まあ、出来ない事はない」

「出来んのかよ」

 

期待しといてちょっとだけ驚く。

 

「でも造るのは炎蓮さんだけど」

「オレがか?」

 

概念礼装をセットし、炎蓮の背中に手を置く。

 

「概念礼装『投影魔術』起動!!」

 

『投影魔術』の概念を炎蓮に送り込む。

 

「なんだこれ?」

「概念礼装『投影魔術』。説明すると長いんだけど…」

「短く話せ」

「炎蓮さんが造りたい剣を想像すれば剣が造れます」

「よく分かった」

 

概念礼装『投影魔術』。

自己のイメージからオリジナルの鏡像を魔力によって複製する魔術である。

この概念礼装をエミヤに使おうとすると何故か物凄く嫌な顔するのが不思議である。逆にアルトリア・ペンドラゴン(セイバー)は何故か嬉しそうな顔をする。何となく懐かしい気持ちになるらしい。

 

「なら南海覇王を造れるな」

「造れると思う。造る時は強くイメージ…想像して造るのがコツらしい」

「出来た」

「早ぁ!?」

 

炎蓮の手には南海覇王が握られていた。

造れると簡単に説明してしまったが簡単に造れるものではないはずだ。概念を付与したとはいえ、魔術のまの字も知らない炎蓮が成功させたのが凄すぎる。

 

(え…炎蓮さんって魔術師としての才能があったりするのかな?)

「ずっと使っていた剣だったんだ。どんな剣かなんて簡単に想像できらぁ」

 

出来上がった『南海覇王』を軽く振るう。

 

「まあまあな出来だな」

「でも本物とは違う。時間が経てば消えるから注意です」

「確かに本物と比べればなんか違う気がするな。でもよ、刃こぼれした剣なんかよりも全然良いじゃねえか」

 

オリジナルに比べれば劣ってしまうが目の前にいる将軍妖(大剣)を斬るには十分な剣である。

 

「概念礼装『コードキャスト』起動」

「お、なんか力がみなぎるな」

「一時的にだけど筋力と耐久を上げました」

「でかした。十分だ立香!!」

 

礼を言った瞬間に炎蓮は駆け出した。身体が軽くいつもよりも調子が良く感じる。

将軍妖(大剣)は迫ってくる炎蓮に向けて妖力斬を飛ばす。

 

「うぉらあああああああああああ!!」

 

飛来してくる妖力斬を斬って進む。

 

「土人形如きがオレを殺せると思うなぁああ!!」

 

間合いに入り、南海覇王(投影)を横一閃。将軍妖(大剣)の胴体を切断した。

切断したと同時に南海覇王(投影)も折れるのであった。折れた刃が地面に落ちたと同時に将軍妖(大剣)の胴体も地面に落ちた。

 

「ま、こんなもんだろ」

 

将軍妖(大剣)討伐完了。

 

 

505

 

 

騎兵妖は土の馬に乗って走り回る。ただ走り回っているだけではなく、秦良玉と傾を囲うように走り回っているのだ。

中心にいる2人が騎兵妖の作り出す円陣の中から出ようとした瞬間に狙うという魂胆である。

今までの兵馬妖(兵士妖)はただ進撃し、攻撃してくるだけであったが騎兵妖は戦法を組み込んでくる。

 

「兵馬妖の円陣から出れば狙われるという事ですか…それにどんどんと迫ってきてます」

 

2人が円陣から出ないのならば此方側から迫って轢けば良いという戦法だ。

 

「動いても待っていても餌食になるってわけか」

「餌食になるつもりはありませんけどね」

 

秦良玉はトネリコの槍を構え、傾は鞭を取り出す。

 

「動きは速い。速くて勢いが乗っているからちょっとやそっとの攻撃じゃ弾かれそうだな」

 

騎兵妖は物凄い速さで走り回っている。走っていると馬も車も人間がパイプ持って殴りかかっても止まる事はない。逆にひき殺されて終わりだ。

 

「どうするんだ。どっちかが犠牲になって止めるなんて言い出した場合、私は絶対にやらないからな」

「そんなこと言いませんよ…」

 

もしも言うとしたら最後の手段である。そしてやる場合は己自身だ。

秦良玉にはスキル『盗賊打破(B)』により『ガッツ』付与できる。最悪ギリギリ耐えられるのだ。

 

「あの兵馬妖を攻略するには馬の方をどうにかしないといけません。乗っている兵士の方はそれほど脅威ではありません」

 

騎兵の強みは機動力であり、更には突撃する際に生まれる衝撃力だ。その主力こそが乗っている物。騎兵妖の真の脅威は乗っている兵士でなく、乗られている馬の方である。

 

「馬の方を崩せば良いってことか。だが馬の方をどうするかだな。私の鞭で馬の脚を巻き付ける事は出来るが私の力では転ばせる事は出来ん。あの馬鹿でかい武人はどうした」

「馬鹿でかい武人って…私たちの陣営の呂布殿のことですか」

「そうだ。ああいう奴ほどこいつらの相手に適任だろうに」

 

呂布奉先ならば今頃、別の戦場で両肩に電々と雷々を乗せて暴れまわっている。

 

「土の馬ってのが厄介だ」

 

生身の馬ならば弓矢やら槍やらで突けば致命傷にはなる。しかし土の馬の場合は死ぬ事は無い。兵馬妖と同じ強みだ。

完全に破壊しなければ動き続けるのだ。

 

「スキル『白杆槍(B)』」

 

トネリコの槍に魔力を込めて強化する。

 

「なんだやっぱ突撃するのか?」

「いえ、隙を突きます」

「隙を突くって…その隙を作れんからどうするか考えているんだろ」

「傾殿。私たちは2だけで戦っているのではありません。この円陣の外に仲間がいますので」

 

秦良玉の視界にはマスターである藤丸立香が映る。

 

「魔術礼装起動」

 

魔術礼装『カルデア戦闘服』に着替えた藤丸立香は『ガンド』を撃つために構えた。

目を見開き、ターゲットである騎兵妖を見定める。

 

「…ガンドぉ!!」

 

指に込められた魔力弾が走り回っている騎兵妖に着弾。騎兵妖はガクンと機械が急停止したみたいに止まった。

 

「今です秦良玉、傾さん!!」

「はいマスター!!」

「お、おお!!」

 

動きが止まった騎兵妖に向かって走り出す2人。

 

「てやあああああ!!」

 

鞭を滅多打ち。

 

「堅いな!?」

 

堅いが騎兵妖の態勢を崩す事には成功。

 

「次は私に任せてください!!」

 

秦良玉は空高く跳び、一気に降下して突き砕いた。

騎兵妖を粉砕。

 

「援護ありがとうございましたマスター」

「素早く動くあの土の馬によく当てられたなお前」

「ガンドの腕は物凄く自身あるんで。スタン耐性の無い奴なら狙い撃ち出来ます」

 

『ガンド』で乗り切った戦闘は多々あったものだ。

 

「てか、戦場のど真ん中でどうやって着替えたんだ?」

「早着替えは得意なんで」

「いや、そもそも着替えをどこに仕舞っていたんだよ」

 

早着替えは得意であるが実はタネがあったりする。『支援礼装』というものがあり、様々な魔術礼装の機能を回数限定で起動する事が出来るのだ。

 

「次は…」

 

将軍妖(大剣)と騎馬兵を破壊。残りは巨大兵馬妖もとい将軍妖(巨大)だけだ。

視線をすぐに向けると槍を捨てた李書文が拳で将軍妖(巨大)を殴りつけていた。

 

「李書文はランサーでしょーが!?」

「ん? おお、もう拳で殴った方が早いと思ってな」

「それ分かる」

 

炎蓮が頷いた。彼女はもしかしたらバーサーカー適性があるかもしれない。藤丸立香も最初は「バスターで殴れば大丈夫」、「バーサーカーで殴ればよし」なんて考えていたが棚に上げておく。

良く見ると将軍妖(巨大)の身体に拳が叩き込まれた跡がいくつも見られる。だが完全に破壊はされていない。

将軍妖(巨大)はどの兵馬妖よりも堅いかもしれない。李書文の槍や拳ですら形を保っているのだから。

 

「堅いのなら一撃で決める」

 

藤丸立香は概念礼装を展開。そのうちの1つを手に取る。

 

「大地に流れるは魔力の軌跡…龍脈とは一つの巨大な生命の鼓動である」

 

概念礼装『龍脈』を起動。地面に手を置いた瞬間に青白く光りが李書文の足元まで伝わる。

一時的に大地に龍脈を流れさせたのだ。概念であるため、本物に比べれば小さいが英霊に宝具を発動させる魔力を与えるくらいはある。

 

「李書文。宝具を!!」

「呵々、良いだろう。六合大槍の妙技、とくと見るがよい!」

 

槍を持ち直し、構える。

 

「我が槍は是正に一撃必倒!!」

 

宝具『神槍无二打』の発動。

言葉の通り将軍妖(巨大)を一撃で貫いた。

 

「なかなかの硬度であったが次は拳で砕いてみせよう」

「それアサシンの李書文で見るから槍使って」

「…絶対に拳で砕く」

 

ちょっと拗ねたかもしれない李書文であった。

将軍妖(巨大)を完全破壊。

 

「早く城門に行かないと」

 

 

506

 

 

戦場に爆弾が投下されたような跡が出来上がっていた。爆心地には龍の仮面を被った暗影が何事もなく立っている。

周囲を静かに見渡して生存者が残っているか確認。ある一点を見た瞬間に首の動きが止まった。

 

「……しぶといな。悪運が良いのは袁紹だけで十分だろうに」

 

暗影の視線の先には火傷を負った愛紗が膝をついていた。

 

「はあ…はあ…ごほっ」

 

身体中に痛みが走り、口の中は血の味がする。痛みがあるのは生きている証拠だ。

四肢が無事なのも確認している。まだ生きているのなら戦えるということ。

 

「愛紗ーー!!」

 

同じく傷付いた翠が走ってくる。彼女は爆発によって吹き飛ばされていたので急いで戻ってきたのだ。

 

「大丈夫か!?」

「ああ、なんとかな。翠は平気か?」

「あんたより平気だよ。ここはあたしに任せて休んでろ」

「いや、私はまだ戦える。あの者を斬らねばならんからな」

 

2人の視線は暗影を捉える。

 

「そんな身体で私に勝つつもりか?」

「無論だ!!」

 

絶対に勝つという意志がヒシヒシと伝わってくるが暗影は仮面越しでも分かるくらいに面倒な顔をしている。

 

「相手の実力差も分からないとはな」

「黙れ」

 

愛紗から殺気が暗影へと飛ばされるが、当の本人は涼しい顔のまま。

 

「……確かに貴様は私より強い」

「ほう?」

「認めたくないが事実だ。だかな、そうだと分かっていても私は退くことは出来ん!!」

「……そういうところが貴様の馬鹿なところだ」

 

「何とかなる」や「諦めなければ」や「敵は強くとも退けない時がある」などという考えだ。

明確な理由もないのに「何とかして見せる」という意志が伝わってくるのを暗影は感じてため息を吐く。

 

「勝てない相手に立ち向かったところで勝てるなど思わない事だ」

「なんだと!?」

「そうだろう。格上の相手に格下がどうやって勝つというのだ」

 

暗影はため息を吐いているがイラつきは増すばかり。愛紗もまたイラついている。

 

「冷静になれ愛紗。気持ちは分かるけど冷静さを失ってたら意味無いぞ。これじゃ、あたしと戦ってきた時のあんたの面目丸つぶれだぞ」

「そ、そうだな」

 

翠と決闘していた時の自分を思い出す。

 

「翠、左右から行くぞ」

「挟撃か。でも挟撃ならさっきやったが効かなかったじゃんか」

「いや、翠にはやってもらいたいことがある。それは…」

「分かったぜ」

 

愛紗と翠が左右から暗影に向かう。

 

「また挟撃か。そんなのは効かん!!」

 

同時に振るうが暗影が回転して打ち払う。

 

「まだまだああああああああ!!」

 

吹き飛ばされても愛紗はすぐに向かって連続で青龍偃月刀を振るう。

身体中が痛いが気にしない。気合と殺気を込めて振るい続ける。

 

「また馬鹿の1つ覚えか」

 

全ての斬撃を対応する。

 

「うおおおおおおおおお!!」

 

押し通る勢いで攻撃を止めない愛紗。

 

「うおおおおおおおおおおお!!」

 

「もう仕留める。ここで貴様が死ねばきっと未来も変わろう」

 

斬撃を打ち返して、愛紗の首を狙う。

 

「死ね」

 

暗影は邪龍偃月刀を振るおうとした瞬間に愛紗の背後から大きな叫び声が聞こえた。

 

「愛紗、伏せろ!!」

 

すぐさま愛紗はしゃがみこんだ瞬間に暗影の顔に物凄い勢いで銀閃が飛来してきた。

いきなり視界に何か飛来してきたら誰もがギョッとして驚くはずである。そして回避することも難しい。

 

「くたばれっ!!」

 

愛紗と翠が即席で考えた策というのは死角からの攻撃だ。

まず愛紗が青龍偃月刀を縦横無尽に振るって視界を奪う。その間に翠は愛紗の背後に回って暗影の視界から隠れる。

暗影からしてみれば翠が消えたように見えるはずだ。そもそも暗影の意識を全て愛紗に向けるように気合と殺気を込めて青龍偃月刀を振るっていたのだから翠の事は意識から薄れていたはずである。

あとはタイミングを見計らって愛紗がしゃがんだ瞬間に槍を投げるだけ。

いきなり目の前に物が飛来してきたら人は対応するのが難しい。事前に分かっていれば対応出来るが死角からのものは余程、反射神経が発達していなければ回避は不可能だ。

 

「甘く見ていたのは貴様の方だったな!!」

 

槍(銀閃)が暗影に直撃したと2人は確実だと思っていた。

 

「……ふん」

 

暗影は上半身を捻り、飛来してきた槍を回避した瞬間に片手で槍を掴んで止めたのであった。

 

「なっーー」

「この程度の策で勝つつもりだったのか?」

「嘘だろ…止めた!?」

 

翠の投げた銀閃を片手で止めた暗影。

 

「死角からの槍投げ。そこらの武将なら貫けただろう。しかし私には効かん。だから言っただろうが…相手の実力も分からんのかと」

 

急いで愛紗は間合いから出ようとするが間に合わない。翠は助けに行こうとしても彼女の脚では間に合わない。

 

「陳腐な策だったな。今度こそ死ね」

「愛紗!?」

 

今度こそ愛紗の首が飛ぶと思ってしまった。しかし愛紗の悪運もなかなかのものだった。

 

「……消えた?」

 

邪龍偃月刀は空を斬っただけであった。首を斬った感触は無し。

ギョロリと目を動かして消えた愛紗を探す。

 

「間一髪だったな関羽殿」

「あ、貴方は…」

「爺さん!?」

 

李書文(殺)が愛紗を抱えていた。

愛紗を静かに降ろす。

 

「平気か?」

「あ、ああ。感謝する。確か藤丸殿から老書文と呼ばれていた…どうしてここに?」

「土人形を片付けた後、戦場に出てみるとお主らが見えたのでな。いやはや本当に間一髪だった」

 

もしも李書文(殺)が来なければ今頃、愛紗の首はそこらの地面に転がっていたかもしれない。

 

「爺さん。こんなところまで来てたのか…でも助かったよ」

「馬超も平気そうだな」

「まあな」

 

愛紗が無事で安心したがまだ戦いは終わっていない。すぐに視線を暗影に向ける。

 

「………まさかここで貴様が出るとはな」

「なんかあいつ爺さんの事を知っている風だけど…爺さんは知ってるのか?」

「いや、知らん」

 

李書文(殺)は暗影の事は知らない。

 

「カルデアの事は聞いている」

「むっ…」

 

暗影は『カルデア』と口にした。普通ならばこの外史世界の人間がカルデアを知っている事はあり得ない。

 

「お主の後ろに此方を知る者がいるようだな」

 

彼女は「カルデアの事を聞いている」と言った。「聞いている」だ。カルデアを知っている者が暗影に話したという事。

 

「一応、要注意人物たちと聞いている」

(一応?)

「貴様の相手をするならば此方も本気でいくしかないな」

 

暗影の雰囲気が変わる。急に周囲の温度が下がったようだと錯覚してしまう。

 

「ふむ……お主には聞きたい事が出来た」

 

静かに構える李書文(殺)。

 

「儂も助太刀する」

「助かる。あいつは強いぞ」

「呵々。強い者と手合わせ出来るなら本望だ」

「爺さん。そんな事言ってる場合かよ…あいつ妙な技も使ってくるから気を付けろよ」

「それは周囲の状況に関係するか?」

 

周囲は爆弾が爆発したような状態であった。

 

「そうだ」

「なら気をつけるとしよう」

 

喋り終わったと同時に李書文(殺)は駆け出した。その動きは速すぎる。

 

「疾っーー!!」

 

向かってくる李書文(殺)に対して暗影は銀閃を投げ返すが、暗影が受け止めたのと同じように受け止める。

 

「ほれ、馬超。お主の武器だ」

 

ヒョイっと軽く投げ渡す。

 

「助かった。てか、本当に爺さんはすげえな」

「儂より凄い奴なぞいくらでもおる…おっと」

 

気が付けば間合いに入っていた暗影が邪龍偃月刀を振るう。

 

「貴様には邪龍偃月刀の本当の力を見せてやろう」

「ほお。どれ程のものか見させてもらおうか」

 

邪龍偃月刀から嫌な気配を察知。一太刀も喰らってはいけないと警鐘が鳴る。

 

「ふん!!」

「むう!?」

 

邪龍偃月刀の一撃を回避。

 

「よく避けた。だがまだまだ!!」

 

縦横無尽に振るわれる邪龍偃月刀。

 

「は、早い…」

「く…」

 

愛紗と翠の目で捉える事が出来ない程の速度であった。目で追えない斬撃を李書文(殺)は回避し、反撃もしている。その攻防を見て「本当に何者だ爺さん」と思ってしまう。

李書文(殺)が凄い武術家だというの分かったが、それよりも2人は不甲斐なさを感じていた。

暗影は今まで本気で戦っていなかったのだ。2人の攻防を見てしまうと自分たちが遊ばれていたと理解させられてしまう。

 

「くそっ、これじゃ足手まといじゃないか」

 

「相手の実力も分からんのか」という言葉が頭に響く。暗影が強いと分かっていたがここまで開きがあると思わなかった。

本当に相手の実力が分からなかったのだ。

 

「あいつは強い。でも何か出来るはずだ」

「……そうだな。にしてもどうすれば」

 

李書文(殺)と一瞬だけ目が合った翠。

 

「愛紗」

「なんだ翠?」

「いつでも動けるようにしとけ」

 

斬、斬、斬と邪龍偃月刀が空を斬る。

 

「速いな」

「其方もな」

 

速い斬撃。一撃も喰らってはならない。

振るわれている邪龍偃月刀から嫌な気配が徐々に大きくなる。

 

(あの偃月刀…何か呪いでも付与しているのか?)

 

恐らくかすり傷でも受けたら何か呪いが発動する。

 

(邪龍偃月刀の本当の力を見せてやると言っていた…それは斬られた瞬間に発動するものだろう)

(こいつ…気付いているな)

 

直感で李書文(殺)が邪龍偃月刀の力に何かしら気付いていると分かった。

 

(どういう効果までは分からんはずだが…一撃も、かすり傷すら受けないように回避に徹しているな。ならば)

 

邪龍偃月刀の刃に炎の龍がまとわりつく。

 

「まずい。爺さん、それがここら一帯を吹き飛ばした技だ!!」

「龍神落とし・獄炎」

「…圏境」

 

邪龍偃月刀を地に突き落とし、周囲が燃え上がるように爆発した。

 

「気配が消えた?」

 

手ごたえは無い。殺した実感は無いのに李書文(殺)の気配が消えた。

 

「何処に消え…」

「軽く当てにいくぞ」

「なっ…ぐぁ!?」

 

背後に現れた李書文(殺)は背中からの体当たり『貼山靠』を打ち込んだ。

打ち飛ばされた先には翠と愛紗。

 

「決めろ。馬超、関羽」

「はああああああ!!」

「おおおおおおお!!」

 

飛んでくる暗影に愛紗と翠は武器を交差させるように振るった。

 

「ちぃっ」

 

暗影は身体を無理やり捻って2人の刃を避けようとする。

翠の銀閃は回避成功。愛紗の青龍偃月刀に直撃こそしなかったが仮面には当たり、パキンっと割れた。

 

 

507

 

 

益州の劉備と決着をつける。北郷一刀は勝利の為の策を考えた。

一か八かの賭けだがやらないという選択は無い。蘭陵王は北郷一刀の策に乗ってくれた。

 

「何だ? 何かする気か?」

「ああ。お前に勝つためのな」

「はっ、はははは。私に勝つだと?」

「ああ、そうだよ!!」

「なら、やってみるがいい天の御使い!!」

 

一瞬で駆けて宝剣を振るってくるが蘭陵王が受け止める。

 

「させませんと言っています」

「邪魔だ仮面男!!」

「貴方も仮面男じゃないですか!!」

 

どっちもどっちだ。

 

「貴様は本当に何も関係ない。関係無い者がしゃしゃり出てくるな!!」

「言いますね。ですが、確かに私は関係無いかもしれません」

「なら消えろ」

「消えません。私の役目は異変を解決する事。今起きている事こそ異変ですから!!」

 

また剣戟が始まる。

 

「益州の劉備よ」

「何だ」

「貴方は桃香殿に対して『覚悟』が足りないと言いましたね。そして北郷殿に答えに対して笑った」

「そうだが、それがどうした!!」

「私からも言いましょう。人の覚悟を、人の努力を貴方が勝手に決めるな!!」

 

蘭陵王の剣が早くなり、強くなった。

 

「私もかつては領主として民を治める身でした。だから桃香殿と北郷殿の努力はよく分かります。そして民から感謝されている姿を見て、彼らは良い領主だと知っています」

「蘭陵王」

「北郷殿の言う『頑張っている』ですが…確かにこれだけでは具体性はありません。しかしその中身を知っている者はとても感謝しているのです。具体性が無いからと言って笑う事ではない。そして桃香殿も努力しています」

「蘭陵王さん…」

「彼女の夢は確かに理想でしょう。私の目から見ても難しいと思います。しかしどのように実現させるかは人それぞれなのです」

 

桃香が平和のために頑張っている。その頑張りを益州の劉備や他の者から見れば「足りない」や「甘すぎる」、「ただの甘言だ」と思うかもしれない。確かにその通りかもしれない。しかし、彼女の努力を認めている者もいる。

その者こそが彼女が統治した民たちだ。平原、徐州、新野に住む民たちは桃香の努力によって笑顔になっていた。ならば彼女のやっている事は無駄ではないのだ。

 

「どうやって大陸を平和にするか…それは私も聞いてみたいですが明確な答えなんて無いのですよ。平和にするための答えは手探りで探すしかないのです。どの国もどの時代も平和を成すためにはずっと手探りで探していくしかないのです」

 

平和実現の方法の答えが分かっていれば今頃、大陸は平和だ。戦の無い平和な大陸になっている。

現代だって平和を実現するためにまだ手探りで方法を探している。「これだ!!」という答えが無いからこそ現代も苦労しているのだ。

『平和』実現への方法を見つけるのはとても難しい。その答えが分かれば、その者は天才中の天才だ。

 

「大陸の覇権を手に入れる。まず実現したのは始皇帝陛下です。曹操殿も貴方も同じ方法で叶えようとしている。それは否定しません」

「それしか無いだろう」

「ええ、私もそれしかないと思っていました。しかし、もしかしたら他にもあるかもしれない」

「他にだと?」

「先ほども言いましたが…平和への方法はずっと手探りで探しているのです。ならば他の方法もあるかもしれない。それも否定できないのです」

 

戦争に勝利し、土地や国を飲み込み、1つの国にする。それ以外にも平和への方法は探せばあるかもしれない。

見つけるのに何十年、何百年と掛かるかもしれないが探す価値はあるのだ。世界に人が生き続ける限り、平和への望みは消えないのだから。

 

「桃香殿がやろうとしている事は新たな平和への方法を見つける事…新たな偉業なのかもしれませんね」

「蘭陵王さん。私はそんな…」

「はは、申し訳ありません。桃香殿に余計な圧力を与えてしまいましたね」

 

自分で言っておいて苦笑いをしてしまう。しかし桃香の理想、『対話によって分かり合える』というのは平和への新たな方法かもしれない。

対話によってお互いに平和のために手を取り合う事が出来れば新しい方法だ。

 

「平和実現への新たな方法………」

 

口が閉まる益州の劉備。

 

「その方法を桃香殿は探しているのですよ」

「蘭陵王さん…」

「申し訳ありません。また勝手な事を言い過ぎました」

 

これ以上は本当に余計な事だ。桃香には桃香の考えがある。これ以上の事を言い過ぎれば勝手に桃香の事を決めつけてしまう事になる。

 

「桃香殿。ここから先は貴女に任せます。ここから貴女の口から言うべきです」

 

蘭陵王も北郷一刀も桃香のために益州の劉備に反論した。しかし総大将である桃香が何も言い返さないわけにはいかない。

彼女は劉備軍のトップなのだから。

 

「桃香。言い返すんだ。あんな奴に言われっぱなしで終わっちゃいけない」

「……うん」

 

桃香は意を決したように立ち上がる。

 

「劉備さん…」

「なんだ劉備」

「確かに貴方の言う通り、私は甘い考えをしているのかもしれません。益州を攻めるのにだって、決めるのにとても時間を掛けました」

 

新野に益州からの難民が流れて来て、受け入れが難しくなった時点でどうすれば良いか分かっていた。分かっていたのに彼女は動きが遅かった。

難民を救うために益州を攻めるなんてしたくなかった。難民を助ける為に益州を奪うのが、助ける為に戦をするのが嫌だった。

 

「こんな私じゃ平和を実現出来るなんて思われないかもしれません」

「ははっ、自分で言うことか」

「でも…」

「でも、何だ?」

「平和を実現したいというのは嘘じゃないんです!!」

 

城門の上で大きな叫びが響いた。北郷一刀が初めて聞いた大きい音量だ。

自分が甘いというのは分かっている。夢想家と言われても言い返せない。それは自分自身が嫌でも分かっているからだ。それでも彼女の内に秘める夢は嘘じゃない。

 

「大陸の平和は私の夢です。それは本当なんです!!」

 

大きな声で、大きく目を開いて益州の劉備を見る。

 

「は、ははははははは!!」

 

蘭陵王の剣を振り払って一旦、後退する益州の劉備。

 

「ははははは!! 今の言葉は薄っぺらいが、貴様からは本気の意志を感じたぞ!!」

 

どんなにボロクソに言われようとも自分の夢だけは本物。それだけは嘘とは言わせない。

 

「強い意志を感じた。しかし戦は無くならない。これからも戦い続けるしかない。それはどうする劉備!!」

「……嫌だけど、戦うしかないと思います」

「戦うしかない…結局、戦うしかないんじゃないか!!」

「でも話し合いが出来ないなんて事はないと思います。ご主人様が言ってくれた。対話する意味がある…それなら私は対話を続けます!!」

 

彼女だって現実が見れないほど馬鹿じゃない。嫌でも現実は分かっている。

戦争になれば戦うしかないのだ。勝てないから、戦が嫌だからと言って徐州から荊州まで逃亡したような方法はもう出来ない。

彼女だって『戦う』選択を選べない事は無い。選べなければ『黄巾の乱』や『反董卓連合』で戦う事は出来ないはずだ。でなければ義勇軍を立ち上げた事をしなかったはずだ。

 

「対話をする意味があるのなら私は止めません。それでどんな人に酷い事を言われようとも、私は止めません」

「桃香…」

「それでも戦うしかないのなら戦うしかない。でも私のやり方は変えません。私に着いて来てくれる仲間がいるから!!」

「言うじゃないか劉備。ならば、覚悟を見せてみろ!!」

 

益州の劉備は宝剣『靖王伝家』を天にかざす。

背後に光り輝く4枚の翼の魔法陣が展開された。最初に展開したときよりも大きく4枚の翼が広がった。

 

「宝剣の光よ。遍く世を照らせぇええ!!」

 

天から雷が降り注ぐ。

 

「桃香、今だ!!」

「うん!!」

 

桃香が『龍神の剣』を思いっきり天へと投げた。

 

「なに!?」

 

天高く投げられた『龍神の剣』に宝剣の雷が吸い込まれた。

 

「宝剣の光が!?」

「今だ蘭陵王!!」

「お任せを」

 

どんな達人だろうとも奥義を撃った後では隙が出来る。

 

「しまっ…!?」

「これで終わりです!!」

 

蘭陵王の剣が一閃した。

 




読んでくれてありがとうございました。
次回も2週間~1週間後に更新予定です。

ついに益州攻略編『もう1人の劉備』も佳境。
あと2話から3話くらいでまとめたいと思います。


504~505
概念礼装『投影魔術』を使った展開でした。概念を付与しているとはいえ、炎蓮が魔術を使えるかどうかは不明。
もしかしたら人によって「ん?」と違和感があるかもですね。
まあ、天下統一伝だと妖術っぽい技を使ってる恋姫キャラがたくさんいるから今さらか。

秦良玉と傾のコンビ。
2人の相性が良いかどうかは微妙。

李書文。
もう殴った方が早い…本当にそう言いそうな気がするのは何故だろう。

藤丸立香。
概念礼装やらガンドやらでサポートに徹する。
概念礼装によっては色々と解釈すれば上手く戦闘シーンに組み込めますね。
「支援礼装」はコミカライズの『英霊剣豪七番勝負』に出てたやつです。
原作の方でもいつか出ないかなあ。
(早着替え機能はオリジナルです)

兵馬妖の戦闘もこれからもっと増やさないとなあ。
種類よっては様々な戦法がありますから。


506
李書文(殺)もやっと活躍。
うう…我がカルデアにはいません。
モーションがカッコイイんですよ。貼山靠!!

圧倒的な強さの暗影。
これでもまだ彼女は技というか能力を隠し持ってます。
彼女の本気はいつ出されるのか。そして次回で彼女の素顔が…!!


507
蘭陵王も領主として民を治めていた。
桃香の優しい統治について思うところがあったかもしれませんが、民の笑顔を見れば彼女は何も間違っていない事は分かります。

平和への実現。本当に今も手探りだと思います。
日本も戦はしてないですけど犯罪は発生してますからね。それはどの国もそうです。

桃香は生まれる時代を間違えたのかもしれません。
彼女の考えは優しく、甘い。もしかしたら現代だったら…なんて。

桃香の答えは『対話を続ける』。甘い考えですけど人間ならば手を出すだけじゃなく、口を開く事が出来るのですから。そして彼女だって戦わないといけない事くらい分かっている。
でもこれが完全な答えじゃないんですよね。本当の答えはまた近いうちに。

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