Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。
がんばって妖精騎士杯を周回中!!
そしてこの物語も執筆中。なんとか書けたんで更新です。

魏と呉の戦編も佳境に入りました。
少しずつ不穏な事が滲み出てましたがついに今回で浮き出ます。
オリジナル展開です。


魏と呉の戦-望まぬ事実-

796

 

 

粋怜の部隊は夏侯惇の部隊を総崩れにした。

 

「粋怜様、敵が崩れました」

「ええ、このまま一気に敵を貫き。本陣まで突っ込むわよ。私に続けーーーーー!!」

 

粋怜の部下たちは気合を発して彼女に続く。

 

「春蘭さまどうしましょう…!?」

「く…なんなのだ。この敵の勢いは」

 

総崩れにさせられた夏侯惇はすぐさま部隊をまとめ直そうとするが追いつかない。

 

「春蘭さま…大変」

「どうした。全然大変そうじゃない顔をして」

「敵の伏兵」

「またか!?」

 

総崩れの状況に更に伏兵が現れれば「もう勘弁してくれ」状態だ。

 

「かかれ!!」

 

伏兵とは思春の部隊の事だ。彼女もまた顔に怒りを滲まさせていた。

粋怜や思春だけでなく、孫呉の面々が怒りを燃やしているのだ。灯しているのではなく、燃やしている。

 

「ぬぉ、どこに潜んでおったのだ!?」

「春姉ぇ、やばいっす。敵に囲まれるっすよ」

「分かっている。くそ…退くしかないか。よし、敵を食い止めつつ、本陣まで下がるぞ!!」

 

魏軍はこれを皮切りに崩れていく。

 

「りゃああああああ!!」

 

梨晏は魏の兵士たちは一太刀で斬っていく。

 

「ふん、これが天下の曹操軍なんだ。ぜーんぜん大したことないじゃん。大陸の覇者だかなんだかそういうのは私たちに勝ってから名乗ってよね」

 

梨晏は絶好調だ。今ならどんな敵でも倒せそうな気持ちである。

 

「凪、これ以上は無理やで!!」

「くぅ…王朗殿の部隊は!?」

「もうとっくに負けちゃってるの!!」

 

王朗隊と楽進隊も総崩れ状態。

楽進はどうにか押し返そうと思ったが李典は撤退を判断。無理に押し返そうとすればより被害が出るだけだ。

 

「アンタら。こんなところで何してるんや。さっさと退けって伝令を送ったやろ!!」

「え…華琳様がですか?」

「ウチが送ったんや。戦況をよう見てみい。このままやとアンタらの部隊は全滅や。ここは一旦、下がって本陣の守りを固めるんや」

 

応援に来ていた霞は現場判断をした。李典の思っているようにここで無理に留まっても意味は無い。

 

「凪…悔しい気持ちはわかるけど姐さんの言う通りや」

 

無理に留まって戦って全滅する方が曹操にとって望まぬ事だ。

強く強く唇を噛んで悔しさを誤魔化す楽進は撤退を口にした。

 

「…わかった。退却する」

「ああ、本陣を頼むで。殿はウチが引き受ける!!」

 

魏軍は崩れた。呉軍の勢いは衰えず、曹操のいる本陣へと雪崩れ込む。

 

「申し上げます。敵が本陣に迫っております!!」

「くっ…夏侯惇、夏侯淵は何をしているの!?」

 

想像以上の呉軍の勢いに荀彧は焦り始める。彼女だけでなく郭嘉や程昱も冷や汗を垂らしている。

すぐさま本陣を避けなければ主である曹操が危険なほどである。

 

「夏侯惇将軍の隊は…敗北いたしました。また夏侯淵隊は本陣に向かって退いております」

「夏侯惇将軍が破れたですって!?」

 

夏侯惇の強さは魏の誰もが知っている。いつも言い合っている荀彧でさえ彼女の実力は認めているのだ。

そんな魏の大剣が負けるとは信じられなかった。

 

「夏侯淵はどうして勝手に退いているの。命令違反じゃないのよ!!」

 

夏侯惇の敗北に夏侯淵の命令違反。荀彧は焦りと苛つきで冷静さを失いそうになるが留まる。

 

「…正面はどうなっている?」

 

曹操はまだ冷静である。

 

「王朗隊、楽進隊ともに被害甚大です。孫権の本隊はもう目前に迫っており、張遼様、典韋様がどうにか食い止めております」

「分かった。ご苦労」

 

伝令兵を下がらせる。

 

「敵本隊の指揮は孫権が執っているですって…何故、孫策が出てこない?」

 

魏と呉の戦は天下分け目の戦。呉の王である雪蓮が指揮を執っていない事に違和感を覚える。

 

「華琳様、左様なことをおっしゃっている場合ではございません」

「はい、急ぎ陣を立て直さなければ…とにかくここは本陣を下げましょう」

 

軍師たちの進言は聞こえているが雪蓮が戦に出ていないのが気になっている。指揮を執らないのであれば前線に出てくるはずだが、剣を持って戦ってすらいない。

何かがおかしいと曹操の頭に違和感が深く埋まっていく。

晴れない曇りをどうにかしようと考えた時に呉軍の雄叫びが聞こえてくる。

 

「者共、曹操様はお守りしろーー!!」

「曹操ぉーー!!」

「黄蓋か」

 

曹操の前に現れた呉の将は祭。彼女の顔はより怒りに満ちていた。

 

「曹操。我が殿への卑怯な振舞い。その首で償ってもらうぞ!!」

「卑怯…あの使者の事を言っているの。だったらお門違いにも程があるわね」

 

いきなりの侮辱。挑発などかと思うが魏の王として黙ってはいられない。

 

「まだとぼける気か。やはり貴様は名ほどにない姑息な宦官の孫よな!!」

「なっ!?」

 

挑発であろうとも荀彧は曹操の侮辱は我慢できない。

 

「見つけたわよ。この卑怯者!!」

「ちょ、あんたも。一体何なのよ。卑怯って誰に向かって言っているのよ!!」

 

次に現れるは粋怜。彼女もまた曹操の顔を見た瞬間により怒りを燃やした。そして荀彧もまた曹操の侮辱に対して怒りを燃やす。

そもそも曹操に対して侮辱の意味が分からない。曹操が様々な者から敵にされるとは分かるが「卑怯者」という単語だけは認めない。

 

「そこに偉そうに床几に腰かけているあんたよ。よくも我が殿に刺客など放ってくれたわね!!」

「えっ!?」

 

雪蓮に刺客を差し向ける。

この言葉に曹操は本当に「どういう事」という顔をした。その顔に粋怜はピクっと反応したがすぐに怒りを再燃させる。

 

「孫策に刺客…どういうこと。…文若っ!!」

「え、い、いえ。私は何もそのような事は決して…!?」

「奉考、仲徳!!」

「ぞ、存じません!!」

「私も…」

 

曹操だけでなく荀彧たち軍師陣も「刺客」について分かっていない。

 

「では、誰がそんな…」

「つまらん猿芝居はやめよ!!」

 

祭にとって刺客を放った事を惚けているようにしか見えず、より怒りが燃える。

いますぐにでも全員の首を刎ねたいほどであった。

 

「それで、孫策は無事なの?」

「くっ。よくもぬけぬけと。我が殿が刺客如きに遅れを取るわけがなかろう!!」

「そう…」

 

雪蓮の無事に曹操は安心した。しかし祭は曹操と口も交わしたくない程に怒っており、血管がブチ切れてもおかしくない程だ。

 

「お母上を墓参りをしているところを狙う。しかも許貢を使うなんて考えたものね」

「なっ!?」

 

まさかの名前が口にされた。曹操だけでなく荀彧たちも目を見開いた。

最悪な答えが出てくる。それは部下が誰にも報告せずに勝手な行動をしたという事だ。

 

「曹操、その汚き首には何の価値もあるまいが我が殿のもとへ持ち帰らせてもらうぞ!!」

「かかれーーー!!」

 

呉の両翼と共に呉の兵士たちが雪崩れ込む。危機的状況であるのに曹操は黙って思考の海に潜り込んでいた。

 

「な、何をなさっているんですか。華琳様お逃げください!!」

「お前たち。曹操様をお連れしろ!!」

 

軍師たちが何をすべきかは決まっている。曹操を絶対に死守する事である。

 

「刺客………」

「曹操様お早く!!」

「く、待てぃ!!」

 

祭の放った矢が曹操へと一直線。

 

「させるか!!」

 

祭の矢は別の方向から飛んできた矢と打ち消された。

 

「おお、夏侯淵将軍」

「ここは我らが引き受ける。曹操様をお逃がししろ!!」

 

魏軍はもう呉軍を押し返す士気が無い。何せ曹操の覇気が弱まっているのだから。

 

 

797

 

 

呉軍本陣。

 

「蓮華様、敵が後退し始めました」

「うむ。だが深追いをさせるな。ここで陣を整えるぞ」

 

呉軍の士気の高さは異様に高い。良い事ではあるのだが何か嫌な予感を感じている蓮華。

嫌な予感を感じているのは姉である雪蓮が刺客の襲撃で負傷してからだ。大号令の時は身震いするほど感動したがそれと同時に不安も生じた。

 

「このまま本陣を落とせそうな勢いだね」

「ええ。でも、どうもしっくりこないわ…これが噂に聞く、曹操の戦だと思えない」

「は、はい…今のところ、我が軍は一方的に優勢です」

 

曹操の、魏軍の強さは理解しているつもりであった。しかし今の戦況からだと肩透かしを食らったような感覚である。

義との戦は苛烈を極めると想像していたが既に本陣を落とせる勢いである。

 

「ふむ。どうやら正面の敵は新兵が多く混ざっており、動きも鈍いようじゃな」

「らしくありませんが魏軍は訓練や他にも色々と不足してたのでしょうか?」

「パオの立てた策が良かったんですよ。伏兵がビジバシ成功してますもんね」

 

実際に包の立てた作戦は見事に成功していた。それこそ上手く行きすぎているくらいにだ。

魏軍は将兵の質も高く、軍師も揃っている。それでも穴が簡単に空いているようで策がスルスルと入り込んでいるのだ。

順調すぎて違和感があるが包は「敵が弱いのに越したことはないです」と言う。確かにその通りであるが蓮華は腑に落ちない。

 

「我らは雪蓮様の訓辞もあり、普段以上に結束しておる。じゃがどうも曹操軍はそうでないというか、個々がバラバラになっているという印象じゃな」

 

「確かに軍としての統一感よりも強引な力任せのような感じはあるわね」

 

魏軍は特に策を張り巡らしている様子はない。正々堂々と正面から叩き潰しに来る気概は悪いとは思わないが曹操の戦い方としてはどこかお粗末にも見えるのだ。

それでも包の言う通り、敵が弱いであると言うのならばそれに越した事は無い。それよりも蓮華の気になるのは姉である雪蓮だ。

 

「亜莎、姉様の様子はどう。ちゃんと本陣でも休んでいらっしゃる?」

「は、はい。指揮は蓮華様にこのままお任せするとのことです」

「そう…」

「雪蓮様にしては物分かりが良いの」

 

雷火の言葉に心の中で頷いた。

心配している身としておかしいかもしれないが矢傷程度であれば雪蓮が大人しくしているはずがない。英雄である炎蓮のように負傷を物ともせずに戦の前線に出るはずだ。

 

(あれだけの大号令を発しているのに。普段なら、私の御諫めも聞かず、兵の先頭に立って戦っておられるはず…それに冥琳まで軍師を穏に任せてずっと本陣にいる)

「蓮華様!!」

 

梨晏が戻ってくる。

 

「あ、梨晏。お帰り」

「戦況はどうだ?」

「はい。敵は本陣まで退きました。でも祭さんと粋怜さんの部隊はもう本陣の目の前まで迫っているみたいです」

「よし、陣を整えた後、我らも押し出すぞ。三方より攻め立て、曹操の本陣を落とす」

 

戦況は勝っているのに心の不安が消えない。

 

 

798

 

 

曹操は部下たちに守られながら一旦、本陣より退いていた。しかしそれでも敵はまだすぐそこにいる。

まず彼女がすべきことは軍を撤退する事だ。この状況で巻き返しは無理だ。そもそも曹操が呉軍をもう倒そうとは思っていない。

今、彼女の頭の中は雪蓮に差し向けた刺客についてだった。

 

「刺客とはどういうことか。誰がそのようなことをしたのか徹底的に調べなさい!!」

「は、はい。それはもちろんですが…」

「華琳様、敵は三方より迫っております。本陣を早く、後方へ移さなければ」

「刺客について調べるのが先よ!!」

 

荀彧たちは曹操を、魏軍を守る為に一時でも早くの撤退を進言するが曹操にとっては刺客の謎を解明するのが先であった。

本来であれば順序が逆であるが曹操はそれすら分からない程に冷静さを欠いていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…か、華琳様、何故まだこんなところに!?」

「秋蘭…敵は?」

「もはや食い止められません。どうか全軍に退けの合図をお出しください」

 

夏侯淵がこの場に戻って来たという事は目前に敵が居るという事である。

 

「秋蘭さん!!」

「おお、栄華」

「全て判明しましたわ。なぜ敵がお姉様をその…あのように罵っていたのか」

「栄華、刺客について分かったの!?」

 

曹洪の言葉にいち早く反応する曹操。彼女の剣幕に曹洪は一瞬だけ怯えるも冷静に分かった事を話していく。

 

「は、はい。孫呉の陣の中では華琳様が孫策へ刺客を放った…実行したのは許貢であると語られてまして」

「私はそのような命令、出していない」

 

戦で雪蓮を倒すと決めていた曹操はそのようなふざけた命令を出すはずがない。

 

「裏は取れたのか?」

「はい。それで許貢を問い質したところ、我々が攻め込んだのとほぼ同時に孫策を襲ったと吐きました。ですわよね許貢」

「は…はい」

 

曹洪の後ろには兵士に取り押さえられた許貢がいた。彼の顔には「何でこんな事に…」というのが滲み出ていた。

 

「孫策に大事は無かったの?」

 

呉の両翼である祭は無事だと言っていたが実際は分からない。

 

「いえ…それが矢には数日で命を奪う猛毒を使うよう指示したとのことで…」

「え……?」

 

まさかの解答に曹操は心が虚空になった。そして後からフツフツと怒りが燃え上がる。

 

「孫策が前線に出てこない理由も恐らくは…」

「許貢の首を刎ねよ!!」

 

天下分け目の戦を穢した者に生きる価値なし。それほどの怒りが曹操を襲った。

まさかの言葉にその場にいた者たちは狼狽えた。特に許貢は信じられないといった顔をしている。

 

「華琳様、それはあまりにも…!?」

「何故ですか曹操様!?」

「知勇のすべてを賭ける英雄同士の戦を下衆に穢された曹操の怒りが分からぬか!!」

 

怒りの覇気と言うべきか、彼女の威圧感は凄まじかった。

今すぐにでも自らの手で許貢の首を刎ね飛ばしたい勢いである。

 

「重大な国事に関わることを命令も無しに独断で行ったのだ。死罪より妥当な刑は他にない!!」

「そ、そんな…私は曹操様の為に」

「私はそんな事を頼んでも願ってもいない!!」

 

己の得物である『絶』を強く握る曹操。これを見た許貢は冗談でなく、本当に自分は首を刎ねられると理解した。

許貢は全て曹操の為に雪蓮へと刺客を放ったわけではなく、本当は自分の為だ。しかし雪蓮を暗殺する事は曹操にとっても悪い話ではないと思っていた。何故なら呉という国を墜とすいう点で間違っていないのだから。

許貢は曹操にとって有益な事をしたはずなのだ。暗殺は褒められた事ではないかもしれないが、それでも首を刎ねられるのに納得がいかなくなってきた。

 

「ふ、ふざけるなっ!!」

「なに?」

「孫策を殺す事は呉という国を墜とすに繋がる。そのために暗殺するのに何が悪いというのだ!!」

「先ほど言ったはずだ。重大な国事に関わる事だ!!」

「国のためにした事だぞ。だというのに見返りが処刑だと…ふざけるな!!」

 

国の為でなく己の為だ。しかし魏という国の利益にはなった可能性はある。

 

「部下の努力の行動を気に入らないという理由だけで処刑だと…こんな暗君は見たことも聞いた事も無い!!」

 

元々、不満はあったが今の状況で爆発した。彼は曹操に対して不満不平を声を口走り、侮辱まで口にしたのだ。

曹操は冷えた目で許貢を見ており、周囲にいる部下たちも「何を言っているんだこいつ?」と冷ややかな目でいる。

 

「曹操様…否、曹操。貴様は漢を腐らせた官僚共や董卓以上に醜悪な王だな!!」

「黙れ許貢。やはりこの場で首を刎ねられたいか」

 

曹操の目は冷たく鋭く、声も冷たい。これほその怒りを発している姿は稀に見ないほどだ。

 

「もう曹操に仕えるのは辞めだ。こうなったら我が力でっ!?」

 

許貢の首は急に刎ねられた。ボトリと鈍い音をしながら地面に落ちる。

 

「え?」

 

突然の出来事でまたも曹操は虚を突かれた。彼女だけでなく、夏侯淵たちですら動きを止めた。

許貢の首を刎ねた者を見て誰かがポツリと名前を呟いた。

 

「王朗…殿?」

 

許貢の首を刎ねた犯人は王朗であった。彼は冷静に何事も無かったのような佇まいであった。

 

「何故ここに王朗が…」

 

本陣に戻ってくるには早すぎる王朗の到着。何故と思っているうちに呉軍の咆哮が聞こえてくる。

 

「すまん。正面の敵を止められんかっ…って、なんやこの状況!?」

「秋蘭さま。敵が本陣に雪崩れ込んで…何ですかこれ!?」

 

殿を務めていた霞と典韋は本陣に戻ってきたがまさかの状況に目を丸くした。しかし目を丸くしている暇はなく、敵がすぐそこに近づいているのだ。

 

「曹操。今度こそ逃さぬぞ!!」

「行けぇっ。曹操の薄汚い首を刎ねよ!!」

「っ、華琳様をお守りしろ!!」

 

当然と言うか呉の両翼が既に追いついてきた。しかし異様な光景に止まる。

 

「なに…これは…」

 

首がボトリ落ちている死体を見てすぐに理解した。祭たちも許貢の顔は覚えているからだ。

 

「ふん。自分の責任を許貢に擦り付けたか…そ奴も首を刎ねるつもりであったがな」

 

刺客を放った許貢の首を刎ね、自分は悪くはないという考えであれば祭は曹操をもう軽蔑し、淡々と斬るつもりだ。隣の粋怜も怒っているが冷静になろうと周囲を確認している。

気になっている点は首無しの許貢に立っている王朗だ。

 

「曹操様。許貢の言う通り、貴女は暗君であらせられる」

 

異様な空間になりつつある中で王朗は自分に関係無いという感じで喋り始める。

 

「なに?」

「ちょっと王朗なにを言ってるの!!」

 

王朗の発言に荀彧が噛みつく。

 

「許貢の紹介により曹操様に仕えさせていただきました。しかし噂で聞いていたお方ではなかった」

 

最初は大陸の中で天下に近い存在だと思っていた。しかし天下を獲ろうと周囲が見えなくなっており、部下の事を見えなくなっていた。

所詮、一般兵は替えのきく駒でしかないと思われているとなれば部下たちが不満に思うのは当たり前だ。

 

「天下しか見えず、一部の将兵しか重宝していない。なれば他の者たちが貴女を暗君と言わずなにか」

 

彼の言葉に対して許せない荀彧だが全て間違っているわけではないので言い返しにくかった。

確かにこの頃の曹操は周囲が見えておらず、彼女らしくない言動や行動が見えていた。実際に今回の戦方法も無駄な犠牲があったほどだ。

 

「これでは許貢の言葉も全て間違っているわけではないでしょう。飛燕殿の言葉はあながち嘘ではなかった」

「飛燕だと?」

 

その名前は曹操暗殺事件の黒幕の1人だ。何故いまになってその名前が出てくるのか不穏になる。

 

「本来の曹操様であれば飛燕殿の講じた策は気付いたはずです。しかし今の貴女は部下の事を見えていない…だから勝手な行動も気付けず、反乱の兆しすら見えないのだ」

 

急に口調が変わる。

 

「反乱だと?」

「さっきも言ったはずだ。お前は部下をないがしろにしている」

 

上に立つ者として将兵の心を掴むという最も大切なことを疎かにしている。

 

「そうであれば下の者は不満が膨れ上がり、反乱へと繋がるのだ。飛燕は不満不平のある者に声をかけていたぞ。それは私にもな」

 

まさかの内容に曹操はまたも虚を突かれる。暗殺事件の黒幕が気付かないうちに反乱の種を仕込んでいたのだから。

 

「反乱の兆しすら気付けぬ王なぞ暗君だ。そして周囲にいる臣下すらも気付けぬとはな!!」

 

夏侯淵たちも苦い顔をしていた。まさか気付かずうちにそのような事があったのは信じられない。

言い訳にもならないが急激な領地拡大に伴う多量の人材収集。膨れ上がった魏の内部を完全に掌握出来ていなかったのだ。

そのような状態で呉との戦は危険すぎたのである。

 

「そのような国に私はもう仕える気は無い。私は今度こそ天下に近い者へと仕えに行く」

 

この場で魏から抜けると宣言した王朗。

 

「あなたなんて事を言うのよ!!」

「王朗。ならば私の元から離れてどこに行く気だ」

 

曹操はチラっと祭の方を見る。

 

「呉に行くつもりは無い。既に死んでいる孫策に仕える気は無い」

「待て、既に死んでいるとはどういう事じゃ!!」

 

不穏な言葉が聞こえてきた。

雪蓮が既に死んでいるという事が意味が分からない。しかし粋怜は嫌な予感が当たった時の不安が心を支配する。

 

「なんだ…孫策の症状で分かっているかと思っていたが知らないのか。孫策が受けた矢には猛毒が塗られていたのだ。それこそ数日で命を奪うような毒をな。許貢もなかなかな毒を用意したものだ」

「毒じゃと!?」

 

体調が悪いのは目に見えた。しかし毒によって苦しめられていたなどと初耳だ。

医者による診断と治療を受けていたというのに毒という話は一切出ていない。医者が誤診したわけではない。すぐさま雪蓮は己が毒に侵されている事を隠していたのだと粋怜は確信した。

 

(そんな…雪蓮様…)

 

炎蓮を守れなかった過去を思い出してしまう。

 

「既に死んでいる王の国に行くつもりはない。そして劉備とかいう王が治める国に行くつもりもない」

 

三国の何処にも仕える気がない。ならば漢に仕えるというわけでもない。

 

「私は何処かの王に仕えるではなく、神に仕えるのだ!!」

「神だと…?」

 

何を言っているのか分からなくなった。神などという存在はいないというのに王朗は堂々と宣言している。

 

「王なぞ所詮は人。人に出来る事は限られる。しかし神は人を超える存在だ。大陸の覇権は元々、神のものだ!!」

「貴方は何を言ってる?」

 

ただの狂信者にしか見えない。

 

「神の元に行くには手土産が必要だ。だから…」

「王朗ぉおおおおおお!!」

 

王朗が何かを言いかける前に怒りの声が響いた。その声は聞こえるはずの無い人物のものだ。

何処から響いてきたかと思えば王朗の足元からだ。大きな殺気から離れる様に彼はその場から跳んだ。

 

「やっと起きたか」

「王朗…貴様よくも私の首をぉぉぉぉぉぉおお!!」

 

足元にいたのは許貢の首なし死体。そのまさかで、死体から声が発せられたのだ。

 

「うがああああああ!!」

 

首無し死体の許貢は膨れ上がり、鎧がはじけ飛ぶ。その姿は首無しの巨人。

何処から声が発せられているかと言えばヘソの部分が大きく開き、口となっていた。更に両乳部分が目となっている。

 

「なんだこの姿はあああああ!?」

「お前の与えられた力を解放するには条件があった。それは首を刎ねる事だった」

「こんな姿は望んでいない!!」

 

許貢は王朗に向けて拳を振り下ろすが避けられる。

 

「王朗が飛んだ!?」

 

大きな拳を王朗は背中に翼を生やして飛んで回避したのだ。

よく見ると彼の目は猛禽類のように鋭く、口元には嘴が生えていた。

 

「落ち着け許貢。その力は条件と引き換えに絶大な力を得られる」

 

首無しの巨人となった許貢。曹操や祭たちが見上げる程であり、振り下ろす拳や脚で簡単に人間を潰せる膂力。

 

「それに元の姿に戻りたかったら私と共に神の下に来い。手土産を持ってな」

「手土産だと?」

「今のお前なら曹操やそこにいる呉の両翼を簡単に潰せるぞ」

 

ギロリと曹操たちを睨みつける。

 

「お前は曹操の首を持ってこい。私は孫策と孫権の首を持っている」

「待て、孫策の首も私のだぞ!!」

「分かった分かった。孫策の首はお前の手柄で良い」

 

勝手な話し合いが交わされている。

 

「勝手な事を言うな!!」

 

怒声を上げたのは祭であった。

 

「呉の両翼…貴様らにも恨みがあるぞ。ここで曹操もろとも皆殺しにしてやる!!」

「ここは頼んだぞ許貢。私は呉の本陣に行き、孫策と孫権の首を取ってくる」

 

翼を大きく広げ、飛び立った。

 

「なっ、待て!?」

 

急いで雪蓮と蓮華を守りに行かねばと戻ろうとするが許貢の拳が道を塞ぐ。

 

「どけええええええ!!」

 

 

799

 

 

雪蓮の顔色はどんどん青くなる。大号令で彼女は命を燃やして今や風前の灯火。

もはや動けないはずであるが彼女は立ちあがった。

 

「雪蓮もう動くなっ」

「蓮華が危ない…」

「蓮華様が?」

 

南海覇王を握って天幕の外に出ようとするが冥琳は止めようとする。

 

「やめろ雪蓮。蓮華様の下には別の誰かを手配…」

「私が…行かないと。…妹を守るのは姉の役目なの」

 

何故いきなり蓮華の身に危険が迫るのか。情報では呉は魏を追い込んでいる。

本陣に祭と粋怜の部隊が進軍しているのだ。伏兵が呉の本陣に襲撃したわけでもない。雪蓮が言う蓮華の身の危険が分からない。

 

「雪蓮。何故、蓮華様の身が危険なんだ!?」

「分からない…けど分かるの。蓮華が危ないって…」

 

雪蓮の感知したものは第六感というものかもしれない。

 

「お願い冥琳。蓮華の元に行かせて…」

 

今の雪蓮は精神のみで体を動かしているようなものだ。そんな状態の彼女を冥琳は戦わせるわけにはいかない。

戦わせてはいけないのだが冥琳は雪蓮の頼みを断る事はできなかった。

2人は天幕の外へと出る。

 

「マズイっ。異変が起きたぞ道士殿!!」

「はい。すごく見えてますよ」

 

呉の天幕のはるか上空にて。

 

「まさかあんな妖魔を仕込むとは予想外じゃ」

「大丈夫。僕が何とかしますよ」

 

 




読んでくださってありがとうございました。
次回も未定…じゃなくて二週間以内を予定しております。


796~797
原作でもそうでしたがここの章では孫呉のほぼみんなが怒りに燃えてました。
曹操もまさかの事実で狼狽えてました。
貂蝉たちと出会った時ほどではないですけど、感情を酷く露わにしてましたからね。


798
もう1人の黒幕…実は王朗でした。
慎重に動いており、許貢の暗殺計画に便乗してました。
飛燕の魏国の反乱計画に扇動させられた一人です。
曹操暗殺計画が成功していたら魏の反乱も成功していたでしょうね。

許貢。逆ギレして首を刎ねられる。そして妖魔変化。
どのような力を手にしていたかは……もしかしたら読者様には分かってしまうかもしれませんね。次回で答え合わせです。

王朗の力はたぶん分からないと思います。此方も次回で答え合わせ。
取り合えず鳥の妖魔というか怪鳥。


799
雪蓮は第六感で蓮華の危機を知る。

道士と管輅。
次回でやっとこさガンガン活躍予定です。
今までちょうとしか登場できてませんでしたからね。やっとですよ。

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