Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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前回のあとがきで今月中に更新すると書きましたがその日中でした。
今回から本編であり、オリジナルになります。

現在と過去2つの話になります。



黄巾党の残党

112

 

 

現在にて。

俵藤太は猿に劣らないくらいに木を登って辺り周辺を見渡す。今、俵藤太は貂蝉たちから離れて呂布奉先と2人で散策をしているのだ。藤丸立香たちが過去に飛んだことにより、何か改変が起きているかもしれないと考えて町から出たのだ。

 

「ううむ。何か…お?」

 

何かを発見。

目を細めて、その何かを見る。

 

「呂布よこのまま真っ直ぐ走るぞ!!」

 

彼の顔が真剣になる。

この顔はすぐにでも駆けつけないといけないと分かるものであった。

そしてその先にて。

程普は身体に力が入らないと感じるが無理矢理でも足を動かすしかない。彼女はまだ知らないが土くれ人形の正体である妖馬兵は永遠と追ってくる。

人間ではない妖馬兵はスタミナを知らない。敗走兵を追撃するには妖馬兵ほど適している存在はいないのだ。

 

(みんなも限界に近いわね…)

 

程普は仲間の兵士たちを見てすぐ分かる。彼らも戦いに敗走と加えて追ってくる兵馬妖の相手をしていれば限界なんて当たり前。

 

「徳謀様~…あの土くれ人形が~」

「もう追いついたか!!」

 

後方を見ると兵馬妖が複数追いかけて来ている。土人形だから表情が無いなんて当たり前だが、それがより不気味さを際立たせているのだ。

 

「私が出る」

「ダメです徳謀様!?」

「止めないで伯言。私が先頭をきって戦わないといけないのよ」

「でももう何十体も倒して限界じゃないですかあ。それにその片足だけじゃもう限界ですよ!!」

 

陸遜は片足が義足の程普を見る。

 

「昔の傷よ」

 

程普は1人で何十体も兵馬妖を倒している。彼女が先頭をきって戦っているからこそ呉の兵士たちも我に続けと兵馬妖と戦っているのだ。

だがもう限界に近い。いくら自分が強いとあっても永遠に戦えることはできない。それは勇敢で屈強な呉の兵士だってそうだ。

 

「でもこんな所で死ぬわけにはいかないのよ。せめて伯言だけでも」

「嫌です。私だけ逃げるわけにはいきません!!」

「ダメよ。アナタなら仲謀様の力になれる。アナタが生き残るべきよ」

 

程普はそう言って追いかけて来た妖馬兵に斬りかかる。兵士たちも程普だけ戦わせまいと続く。

残った兵士は陸遜を逃がすように前へ前へと進む。

 

「伯言様。今のうちに!!」

「嫌です。徳謀様も一緒に!!」

「逃げなさい伯言!!」

 

後ろから聞こえる陸遜の声を無視して妖馬兵を止める。

相手は生命の無い人形兵。どこを斬っても意味はない。こういう相手をどう対処するかは戦う中でもう分かっている。

 

「相手の四肢を狙うのよ。頭や心臓を狙っても意味は無いわ!!」

「「「おおおおおおお!!」」」

 

呉の兵士たちも限界を超えて妖馬兵に斬りかかる。

 

「必ず複数で相手取りなさい!!」

 

必ず2人以上で妖馬兵にはあたる。だが程普は1人で妖馬兵と戦う。

 

「はああああああ!!」

 

兵馬妖の戦い方としてはまず腕を狙う。武器を持っている腕さえ切り落とせば妖馬兵の力は激減する。そして次に足を切り落とせば機動力が無くなる。

最後に胴体を破壊すれば妖馬兵は倒せるのだ。だが倒し方が分かっても簡単ではない。

 

「ったくもう。孫堅様なら一太刀で胴体を真っ二つにできそうなのにね」

 

孫堅という名前を出して彼女は歯を食いしばるが、それは孫堅を恨んでいるからではない。自分自身の不甲斐なさに対してのものだ。

彼女は孫堅に対して謝りたい、代わりに自分が死ねばよかった等ばかり考えているのだ。だが程普が死ぬことは孫堅自身は望まない。

 

「伯言…私はまだ死ぬ気は無いわよ」

 

まだ死ねない。彼女は孫堅からの言葉を忘れない。

 

「でも死ぬならただでは死なないわ。できるだけ多くの敵を倒す!!」

 

その言葉を発して兵馬妖を破壊する。

 

「次!!」

 

次の兵馬妖を相手にしようかと思った時、陸遜が先に撤退した方から雄たけびが聞こえた。

 

「な、何!?」

 

謎の雄たけび。こんな状況ならば敵の新手かと思うのは当然であった。

 

「あ、ああ…そんな」

 

陸遜の目の前には赤い鎧を纏った巨体の漢。こんな奴は見た事が無い。

彼はまるで道を塞ぐように現れたのだ。現れたというよりかは降ってきた。

 

「陸遜様をお守りしろ!!」

 

兵士たちは陸遜の前に出て剣や槍を構える。

今の状況に陸遜はどうにかしなければと頭を回転させる。後方には妖馬兵で前方には謎の巨漢。正直に言って大ピンチである。

 

「ど、どうにか策を…」

「□□□□□□□□!!」

「ひう!?」

「お、御守りするのだ!!」

 

呉の兵士たちは槍を突き出して赤い鎧の巨漢に立ち向かうが、その赤い鎧の巨漢は彼らを無視してそのまま彼らの後方へと走り出した。

 

「え?」

 

敵ではなかったのかと一瞬だけ呆けるが陸遜の後方には程普が殿にいる。自分ではなく程普を狙った者だとしたらマズイ。あのような巨漢までもが狙ったとしたら限界に近い程普は殺される。

 

「た、助けないと!!」

「ダメです。このまま戻ったら陸遜様まで危険ですよ!?」

「でも!?」

「陸遜様が助かることが程普様の最も思う願いです!!」

 

そんなことは程普と話したのだから分かっている。だがそれでも人の気持ちとは合理性よりも感情で動いてしまうのだ。

陸遜の頭には物凄い葛藤が生じてしまう。自分が逃げないといけないのは分かっているが彼女を助けに行きたい。だか程普を助けに行けばどうなるか予想が付かない。軍師として冷静にならねばならないが彼女は葛藤してしまって中々冷静になれない。

「…うう」

 

もしかしたら彼女たちはここで果てていたかもしれない。だがそうにはならない。そうならないイレギュラー的な理由が彼女の目の前には現れたのだから。

 

「おい。大丈夫か!!」

「あ、あなたは?」

 

陸遜の前に現れた漢。この漢が現れたからこそ彼女たち運命が変わった。

 

「□□□□□□!!」

「こ、こいつは何?」

 

程普の後方から突っ走ってきた赤い鎧の巨漢。最初は陸遜を殺して次は自分を狙いにきたのかと思って怒りに燃えたがそうではなかった。

もし、そうならば巨漢の男は今の段階で程普に襲いかかっている。しかし巨漢の男は程普ではなくて兵馬妖を攻撃しているのだ。

「敵じゃない?」

 

後方を注意しながら見ると呉の兵士たちは無事そうだ。敵だったら後方の兵士たちも無事ではないはず。それなのに無事ならば赤い鎧の巨漢は敵でははい可能性が高い。そもそも兵馬妖を倒している時点で少なくとも今は敵ではない。

まだ分からない点はいくつかあるが今はチャンスだ。

もしも赤い鎧の巨漢に続けば残りの兵馬妖は倒せる可能性は高い。赤い鎧の巨漢は雄叫びをあげながら兵馬妖を蹂躙するかの如く破壊している。その姿を見ると黄巾党を一太刀で何人も斬り倒した孫堅を思い出してしまう。

 

「程普様。どうしますか!?」

「このまま…」

「徳謀様~!!」

「伯玄どうしてここに!?」

 

生き残らせるために逃がした陸遜が戻ってきたのだ。状況がいきなり変わりすぎて混乱しそうだ。

 

「逃げなさいと言ったでしょう!!」

「状況が変わったんです!!」

「おお、無事のようだな」

「誰!?」

陸遜の後ろから漢が駆け寄ってきた。その人物は知らない。呉の兵士ではない。

 

「この方は俵さんと言っています」

「状況は分かっている。あの土くれ人形に追われておるのだろう。ならば手を貸そう。何せあの土くれ人形は吾らにとっても敵だからな」

 

この言葉で彼らが敵では無いことが確定。

 

「あそこで暴れているのも敵ではないぞ。仲間だ」

「□□□□!!」

 

赤い鎧の巨漢は兵馬妖をたった1人で殲滅させている。その強さは圧巻させられるものだ。

 

「凄いわね彼」

「ああ。あやつは今いる吾らの中で一番の強さを持つからな。一騎当千の言葉を体現する漢だ。あんな真似は吾でも難しいかもな」

「□□□□!!」

 

程普たちを追撃したきた兵馬妖は呂布奉先が全滅させた。やっと心の底からというか腰が抜けて地面に座ってしまう呉の兵士たち。

今までずっと永遠と追ってくる妖馬兵に追われていたら今の彼らの姿は当たり前だ。後ろに迫る死から逃れたら誰だって心から安心する。

 

「大丈夫かお主たち?」

「助かったわ。それであなた達は?」

「はいはい~。助かったのは良いのですが…あの。俵さんはどなた様たちですか?」

 

まさかの援軍に助かったのは良いが目の前の2人は知らない男である。しかも程普が今まで見てきた戦士の中でも上位10人に入る程の強さを持っていた。

彼女と同じく兵馬妖をたった1人で相手出来る戦士が2人。特に赤い鎧の巨漢は異常なほどの強さだ。

 

「まず、名を明かそう。吾は俵藤太だ。こっちが呂布奉先」

「□□□!!」

「訳有ってこいつは言葉が話せないが一応は意思疎通はできる…たぶん。恐らく大丈夫!!」

 

俵藤太はそう言うがそれって本当に大丈夫なのかと思う程普達。

彼の言葉には不安そうな感じも含まれているからだ。呂布奉先を見て、俵藤太を見る。

呂布奉先を見ても彼の顔は厳つく、雄たけびを上げてるだけで意思が疎通できそうにないと感じてしまう。

 

「本当に意思疎通できるんですか~?」

「出来るぞ…たぶん!!」

「そのたぶんってのが不安です」

 

陸遜の言葉は誰もが首を縦に振る。

 

「で、お主たちは?」

「…私は程普よ」

「私は陸遜です~」

 

簡単な自己紹介を済まして状況を確認する俵藤太。

まず間違いなく彼女たちは呉の関係者の可能性が高い。兵馬妖は今の段階では于吉が黄祖に渡しているのだからその黄祖が追っている者たちは呉の関係者だ。

彼女たちはどう見ても敗戦者たちだ。この時代ならば何もおかしいわけではない。

 

「もしかしなくてもお主らは孫呉の者たちか?」

「…もしかしなくても孫家の者よ」

 

一瞬だけ警戒の色を出されたが彼女たちの素性を明かしてくれた。

俵藤太の予想は正解した。彼女たちは黄祖軍に負けた孫家の軍団だ。町の噂では孫家が滅んだと言っていたが目の前を見て分かるように完全には滅んではいない。

過去改変によって多少は変化したのか。それとも元々なのか。それは分からない。

 

「程普殿。あの土くれの人形を知っているか?」

「知らないわ。ここに来るまで何度か戦ったけど…初めて見る奴らね」

「何ですかあれは。あんなもの見た事も聞いた事もありませんよ!!」

 

陸遜が「あり得ない」と言いながら行き場の無い不満を垂らす。軍師からしてみればあのような土人形の戦い方は分かるものではない。

だが倒し方までは理解できている。それでも黄祖は土人形を最大限に活かしているのだ。

 

「そうか。アレの正体までは知らぬか」

「俵殿は知っているの?」

「ああ」

 

知っているという言葉で2人の視線が俵藤太を射抜く。

 

「あれは何?」

「あの土くれ人形は兵馬妖というそうだ。道士が操る土人形の兵士だ」

「何でそんなモノを黄祖が…いや、あいつか!!」

 

程普と陸遜が何か気付いた顔をする。そして彼女が言った「あいつ」という言葉。

 

「そう言えば黄祖の傍には道士のような奴が控えていた。あの道士が…!!」

 

程普に怒りの色が見える。彼女が言う道士とは恐らく于吉ではないかと俵藤太は思う。

ここらで道士と聞くと于吉くらいしか思いつかない。しかも程普は、恐らく于吉であろう人物に対して相当な怒りを表している。

 

(何か于吉がしたのは確かだな)

 

于吉は程普に、孫呉に恨まれるような事をしでかした。それが孫呉を滅ばせる切っ掛けとなることだ。

 

「あいつが。くっ、私のせいで孫堅様が…」

「…それは徳謀様のせいじゃありません」

(孫堅様?)

 

流石に何かあったのか知りたいが、今はそんなことを聞ける雰囲気ではなさそうだ。俵藤太はそこまで空気を読めない漢ではない。

その事はきっと話しにくい事だろうが于吉に関することはいずれは聞かねばならない。

 

「あー…その何だ。何かあったみたいだが、これからどうするんだお前たち?」

「…それは」

「この先に町がある。取り合えずそこまで行くか。その町には拙者の仲間たちもいるしな」

「…そうね」

 

程普たちも元々その町を目指していた。俵藤太の提案でなくとも向かうつもりだ。

 

「だけど流石に休憩しないと無理ですよ~」

「そうね流石にみんな限界だわ。飲まず食わずでここまで来たからね」

「何だ飯を食っていないのか。それはいかん、いかんぞ。飯を食わねば心も身体も満たされんからな!!」

「でも、もう兵糧は無いですよ~」

 

ここに来るまで兵糧は尽きた。そもそも妖馬兵に追われていたのでまともな食事すらできなかった。

妖馬兵を退けて安心感が出たのか忘れていた空腹感と疲れが同時に呉の兵士たちを襲ったのだ。これでは流石に町までは届かない。

 

「うむ。ならばここは吾の出番だな!!」

 

いきなりドンっと米俵を出す。

 

「え、それどこから出したんですか!?」

「町に行く前に腹ごしらえだ!!」

 

俵藤太の『無尽俵』。これはどの時代、どの国の人たちでも必ず驚かれる。

彼の『無尽俵』は程普たちに驚きを与え、空腹を満たすのであった。

 

「□□□(燃料をどんどん持ってこい)」

 

 

113

 

 

現在にて。

 

「よし。治療の方もこれで大丈夫だ」

 

華佗が額に付いた汗を拭う。

 

「つ、疲れた~」

「お姉ちゃんもう動けない」

「た、確かに疲れた…」

 

華佗の治療の簡単な手伝いとはいえ、その手伝いの量は膨大であったのだ。

張三姉妹はもう立てないくらい疲れている。

 

「もう、だらしないわねん。アタシなんかまだまだ華佗ちゃんの為なら火の中でも水の中でも手伝いにいけちゃうわよん!!」

 

何故かガッチリムッチリと筋肉を魅せ付けるポーズをする貂蝉。

それを見て張三姉妹は「うへぇ…」という顔をしているのであった。

 

「華佗ちゃん。この女性の容体はもう大丈夫かしら?」

「ああ、俺の全てで治療を尽くした。後はもう彼女は絶対安静だ。でも油断はできないけどな」

(この人…やっぱり)

 

貂蝉はベッドで寝ている女性を見て思う。この女性は別の外史で見た事がある。

その時は彼女が死にかけていたのではなくて別の誰かが死にかけていたのだが。なんとも変わった巡り合わせである。

 

「それにしてもこの人はよく生きていたわねえ」

「そのことだが…彼女の額の傷を見ると矢は脳まで至っていた。だが脳は無事だったんだ」

「脳が無事だったの?」

 

矢が頭蓋骨を貫いていたら脳に達する。だが華佗の診断によると脳には傷がついていないのだ。

それはおかしいと貂蝉は首を傾ける。

 

「でだ、よく診断してみると誰かによって治療された跡があったんだ」

「あら、そうなの」

「ああ。だが治療って言っても脳の傷すら治すなんて…俺より腕が良いぞ」

 

脳の傷を治療するほどの医者。それは余程腕が良い医者だ。

華佗に並ぶ程の医者。もしくは彼以上の医者となると華佗自身が気になるのは決まっている。

 

「華佗ちゃん以上の腕だなんて驚きね」

「ああ。一度会って話したいものだ。だが気になるのは俺以上の腕かもしれないのに何故か治療が不完全なんだ」

「不完全?」

「ああ。脳の治療を施したのに他が雑だ。いや、他の傷も治療されているんだが完全には治していないというのが不自然なんだ」

 

華佗以上ならばより治っていてもおかしくはないという考えだ。

 

「それは川で溺れていたからとかで傷が増えたとかじゃないの?」

「いや違う。元々あった傷なら分かる。確かに治療された跡があるんだ。それよりも前の傷もあるのに治療されていない部分もある」

 

確かに彼女は誰かに治療された跡があると華佗は見ている。だが何故か必要最低限しか治療されていないのだ。そこが華佗の気になる部分だ。

 

「必要最低限?」

「そこがおかしいんだ。脳を治療する程の腕ならば他の傷も治していてもおかしくないのに」

 

完全には治療していない。

 

「治療が途中だったのか。それともその腕の良い医者に何かあったのか。…考えたくないがそもそも治療行為ではなかったのか」

「治療行為ではなかった?」

「まあ、彼女が助かっただけでも良しとしよう」

 

気になることは多い。だが今はベッドに寝ている女性が助かったというのが重要だ。

 

「天和たちはもう休憩していいぞ。ここから先は俺だけでも十分だ」

「「「は~い」」」

 

ここでガチャリと誰かが入ってくる。

 

「あ、治療の方は終わったの?」

「終わったわよん三蔵ちゃん。どうしたの?」

「実は天和ちゃんたちに聞きたい事があるの」

「えー…私たちに?」

 

疲れた顔の天和たちの視線が三蔵玄奘を見る。

 

「それ後で良い?」

「甘い物食べながらでいい?」

「それなら!!」

 

急に元気な顔になる地和。

 

「それなら行ってくると良い。さっきも言ったけどもう俺だけで大丈夫だからな。貂蝉も手伝ってくれてありがとうな」

「ああん、華佗ちゃんに褒められてイイワ」

 

華佗はそのまま女性を看ているとのこと。もし目覚めたら看病ができる人がその場にいなくなるわけにはいかない。

よって華佗は貂蝉たちは見送るのであった。

 

「じゃ、遅くなるなよ」

 

貂蝉たちは何処か甘味処に入店して点心を頼む。

 

「私は杏仁豆腐~」

「胡麻団子3つ」

 

地和たちは遠慮なく甘い点心を頼む。勿論、三蔵玄奘も頼む。

 

「甘くて美味しい~」

 

ムグムグと食べる姿を貂蝉は微笑ましく見る。よくよく状況を確認すると張三姉妹と玄奘三蔵の隣に筋肉ムキムキの半裸の漢がいるのは異様な光景である。

たまにというか他の客や店員はその光景をつい見てしまうのは当然だ。そもそも店員も杏仁豆腐を机に置くたびに玄奘三蔵たちと貂蝉を交互に見ている始末だ。

 

「さて、三蔵ちゃん。天和ちゃんたちに話って何かしら?」

「ああ、そうだったわね」

 

胡麻団子を食べながら玄奘三蔵は天和たちにあることを聞く。

 

「天和ちゃんって黄巾党の時に大賢良師って呼ばれてた?」

「ああー…呼ばれてたよ~」

 

大賢良師は張角の呼び名の1つだ。これは彼女たちが呼ばせていたわけではなく、黄巾党の者たちが勝手に呼び始めたのだ。

悪い意味で呼ばれていたわけではないから彼女たちも気にせずにいた。だが地和としてはもっと可愛い呼び名にしてほしかったと言う。

 

「それがどうしたの三蔵さん?」

「人和は知ってるかな。もしかして2代目大賢良師とか決めた?」

「え、それ知らないけど…姉さんたち勝手に決めた?」

 

天和も地和も首を横に振る。

 

「急にどうしたの三蔵さん?」

「実はこの町で話を聞いてたら2代目の大賢良師が現れたとかなんとかって聞いたの」

「えー何それ知らないよ!?」

 

張三姉妹は杏仁豆腐を食べながらまさかの情報に驚く。

2代目の大賢良師なんて聞いた事もないし任命させた覚えもない。このことから分かるのはまた黄巾党の勝手な行動だ。

 

「はあ…前もそうだけど。私たちの事が好きで応援してくれるのは嬉しいけど勝手に暴走するのは嫌ね」

 

人和は頭痛がしたのか頭を抑える。

 

「黄巾党の残党の誰かが二代目大賢良師を名乗ってまた再起でも図ろうって魂胆かしらねえ」

 

貂蝉もため息を吐く。

黄巾党はまだまだ終わっていないということだ。これでも大陸中を騒がせたほどの勢力だったのだから当たり前かもしれない。

 

「で、その2代目の大賢良師はどうなったのよ?」

「何でも揚州の建業を治める孫堅って人が鎮めたらしいわ」

「孫堅ねえ」

「しかも目的は天和ちゃんたちを蘇らせようとしてたんだって」

 

天和たちを蘇らす。その言葉に対して地和は首を傾ける。

 

「アタシたち生きてるけど」

「それは裏向きでしょ地和姉さん。表向きじゃ私たちは死んだことになってるのよ」

「そういえばそうだった」

「忘れないでよ」

 

生きているけど死んだ事になっている。これは藤丸立香たちの策によって大陸中に広まっている。

 

「そのよく分からない事をしようとしている黄巾党の残党を鎮めたのが孫堅と言うわけねぇ」

「そうなのよ貂蝉さん。でも簡単には鎮められなかったそうよ。結構苛烈な戦になったとか。孫堅の部下である両翼の将である1人の足を負傷させたとかあったみたい」

 

残党の兵たちは完全に牙を抜かれたわけではない。

どの時代もどの国も残党兵たちが何かしら再起を計ろうと行動を移すのだ。

 

「で、さらに不穏な話があるのよね」

「それは何かしら?」

「蘇らせようとしたけど出てきたのは化け物とかね」

 

玄奘三蔵の言葉に貂蝉はパチクリと目を瞬きをしてしまう。

 

「化け物?」

 

114

 

 

過去の呉。揚州の建業にて

 

「これより軍議を始める!!」

 

炎蓮の雄々しく響く声が部屋に広がる。

この軍議には孫呉の将たちの他に藤丸立香たちも参加していた。

彼らはもう孫呉の一員ということで軍議に参加することを許されているのだ。

 

「今回の軍議の内容だが…冥琳」

「はっ」

 

黄巾党は張角の死によって勢力は消えた。しかし黄巾党全てが全滅したわけではない。

まだ黄巾党の残党は散り散りになって各州に存在しているのだ。

 

「黄巾党の残党が我が治める孫呉の地に集まりつつある」

「げー、まだ黄巾党がいんの?」

「全く…終わらないものだな」

 

雪蓮と祭はもうウンザリという顔をしている。

黄巾の乱は漢王朝の腐敗によって始まった。抑圧された不満や怒りが爆発した結果の1つである。

祭としては戦いにくい戦であったのだ。相手が悪党や賊なら構わない。だが、黄巾党に入る前は罪も無い生きる事に必死な農民だと思えば戦いにくい。

 

「はい。質問です!!」

「許可する。何だ立香!!」

「さっき呉に黄巾党の残党が集まりつつあるって言いましたけど、各州からですか?」

 

黄巾党の残党は各州に散り散りになっている。それが孫呉の地に集まっているのだ。

 

「そうだ。それは新たな指導者が現れたからだ立香」

「新たな指導者?」

「そいつは張角が呼ばれていた大賢良師という名を名乗って黄巾党の残党を集めているようなんだ」

 

要は張角の後継者を名乗る存在だ。

 

「まあ、て…張角たちの人気は凄かったからなぁ。つーかアレはもう崇拝の域だったしな」

「それだ燕青」

「あん?」

 

黄巾党にとって張角たちはまさに崇拝する程の存在だった。黄巾党の中には狂気的なまでに崇拝する輩もいただろう。

そういう狂気的なまでに崇拝していた人物が張角たちの意志を勝手に解釈して継ぐ。それが大賢良師を名乗る者の正体だ。

 

「そういう奴は宗教団体を創る輩なのでしょうね」

「邪教か」

「それも正解だ」

 

荊軻と粋怜が何気なく思った事が正解だと冥琳は言う。

大賢良師が散り散りになった黄巾党の残党を集めて宗教を創設したのだ。元々、張角たちを崇拝していたのだから宗教になるのも時間の問題だった。

その宗教の名は『太平道』。目的は何でも張角たちの復活である。

 

「復活!?」

「ああ、どうやらそいつらは張角たちを蘇らせようと怪しげな儀式などをしているらしい」

「蘇らせるって…死んだ人間は蘇らないわよ」

 

死んだ人間は蘇らない。誰もが大切な人が死んだら生き返って欲しいと思うだろうが、死んだ人間は蘇らないのは自然の摂理である。

そんな自然の摂理を捻じ曲げて太平道という宗教は張角たちを蘇らせる。

 

「怪しげな儀式って何をやってるのよ?」

「……」

「どうしたの冥琳?」

 

冥琳の顔が歪む。

 

「生贄だ」

「なっ!?」

 

生贄だけではない。人体実験や道術やら外法とも言える方法ばかりしている。

そんなことをしても死んだ人間は蘇らない。だが崇拝する狂気的な人間はその当たり前なことを気づきもしないのだ。

 

「その生贄って…!!」

「ああ。人間たちだ」

 

狂人の身勝手な願いのために罪なき人々が死んでいる。そんな事は炎蓮だけでなく、雪蓮たちだって許さない。

 

「非道な方法で我が民が殺されている。そんなことは絶対に許せねえ!!」

 

炎蓮の怒りが滲み出ている。その怒りはここにはいない大賢老師に向けられる。

守るべき民が関係なく殺されている。これは領地を治め、民を守る者にとって許されない行為である。

 

「やることは1つだ。そんな糞みてえな奴らをぶっ殺す!!」

 

黄巾の乱が終わってやっと落ち着いたかと思えば、まだ黄巾党の波は残っていた。

残党たちが集まり、新たな黄巾党が復活しつつある。それが宗教組織の太平道だ。

規模は小さいが前の黄巾党よりも質が悪くなっていることは確かである。その代わり狂気は濃い。

 

「すぐに太平道を落とす準備に取り掛かる!!」

「「「はっ!!」」」

 

 

115

 

 

宗教組織の太平道を倒すのに藤丸立香たちも参加する事が決まった。

孫呉の一員になったからにはもちろん藤丸立香たちも戦力として数えられている。元々、炎蓮から戦いには参戦させると言っていたのだから、それは分かっていたことだ。

これが孫呉での地で初めての本格的な戦である。

 

「黄巾党のその後の後始末ってところかぁ?」

 

今回の戦いを燕青が呟く。確かにこの戦いは黄巾党のその後の後始末にあたるかもしれない。

黄巾の乱が終わったからといっても黄巾党の全てが全滅したわけではない。生き残っている黄巾党がいて、何かを仕出かす。それが太平道の創設になったわけだ。

1つの戦いが終わったからと言って次がもうないなんて事はない。勝てば終わるというのはそうそうないのだ。

戦争をして勝てば栄華を、負ければ衰退を、というがその負けた方には更に復讐というものや自らが後継者を名乗る者が付与される。その付与が新たな戦いを呼び覚ますのだ。

 

「…それって俺らのせいなのかな?」

「どういう事だマスター?」

「だって、俺らが天和たちを死んだ事にしたから黄巾党の後継者を生み出してしまったのかなって…」

 

黄巾党は天和たちをとても崇拝していた。ならば彼女たちが死んだら今回の事が予想ができたかもしれない。それを阻止できたのではないだろうかと藤丸立香は思ってしまったのだ。

もっと上手く何か出来たのではないかと思ってしまう。今まで自分の出来ることをやってその時の最善を尽くしてきた。だが、やはりもっと上手くできたのではないかと後々思ってしまうことはいくらでもあった。

 

「マスターよぉ」

 

燕青が藤丸立香の頭をガシガシとかき回す。

 

「んなこと言ったらどの歴史の戦いでもそうだろぉ?」

 

多くの国同士の戦争や地域的な紛争、各宗教的な戦い、対立組織同士の抗争等々。歴史の多くの戦いの中で今回のような後始末が出てきたはずだ。

それが歴史に残らずに裏に埋もれた戦いであってもだ。その後始末はどんなに優秀な人だろうとも、裏世界の悪人だろうとも、正義のために戦った者だろうとも出してしまう可能性は高い。

 

「確かに出してしまったら…まあ、五月蠅い奴らは五月蠅いが、だったらお前だったら何とかできたのかって言うなオレは」

「燕青の言う通りだぞマスター。戦争なんてそんなものだ。いちいち考えてたら身が持たんぞ」

 

いちいち考えていたら身が持たない。それはそうだ。

上手く今回のような事を起こさなかった人たちもいるだろう。だが起こしてしまったなら誰が悪いのかと言われたら何か違うはずだ。

悪いなんて事を言い出した者がいたら、今度は戦争自体を起こせないでみせろと言う輩が現れる。そんな事は不可能だ。

世界から狂気が消える日は来ない。人間同士がいがみ合うのが無くならないのだから。

それに黄巾の乱を鎮めたのは藤丸立香たちだけではない。各州の諸侯や官軍たち全員で鎮めたのだ。

責任があるなんて言い出したら全員になる。全員が張角たちを仕留めようとしたのだから。

 

「出来ることは外法を行う太平道を倒す。それだけだぞ我がマスター」

「…分かった。そうだね」

 

余計な考えをしてしまったが起きてしまった事はもうしょうがない。

孫呉の壊滅を防ぐために過去に遡った藤丸立香たちが、そう思うのは何か矛盾を感じるところがあるが一旦置いておく。

 

「う~ん……」

「どうしたマスター。まだ何かあるのか?」

「いや、大賢良師は天和たちを蘇らせようとしてるんだよね」

「そういう情報だったな」

 

太平道を創設した大賢良師は張角を、天和たちを蘇らせるために活動している。それに関して疑問を思うのが藤丸立香たちだ。

 

「だって天和たちは生きてるよね」

「ああ、私らが生かしたからな」

「じゃあ大賢良師は死んでいない天和を蘇らせようって…どういうこと?」

 

天和たちが生きていることを知らないのだから仕方無い。だが、それでも大賢良師は誰を蘇らすつもりのか。

 

 

116

 

 

邪教となりつつある宗教組織の太平道を壊滅させるために孫呉の将たちが集まって建業を出発する。

そのちょっと前の話。

 

「んじゃあ行くぞ!!」

「待ってくだされ炎蓮様!!」

「何だ婆?」

 

炎蓮が『南海覇王』という宝剣を握りしめて門へと行くのを止める雷火。

 

「何だ…ではないですぞ!!」

 

炎蓮よりも大きな声で怒鳴る雷火。その怒声は城中に響き渡るくらい大きい。

 

「まだ傷は完全に癒えてはいないのですぞ!!」

「んなもん癒えた!!」

「そんなわけないではありませぬか!?」

 

実は炎蓮は先の黄巾の乱にて負傷していたのだ。そんなのを知らない人ならば今の炎蓮を見ても分からないだろう。

負傷人で孫呉のトップを戦場に行かす臣下はいない。

 

「ちょっ、何で武装してんのよ母様!?」

「また五月蠅いのが来たな」

「五月蠅いって何よ!?」

 

今度は娘の雪蓮まで来て母親である炎蓮を止める。だが五月蠅いのが来ても2人も来て耳を塞いで知らんぷりの炎蓮。

確かに万全ではないが本人としては戦えるまで回復している。無辜な民が邪教の食い物にされてて城でじっとはしてられないのだ。

 

「母様は城で養生してて。邪教集団なんて私たちが壊滅させてくるから!!」

「あんだと…お前に出来るのか?」

「出来る出来ないじゃないわ。やるのよ」

 

雪蓮の目には覚悟を持った目。いずれは孫家の当主を譲る娘。

まだまだヒヨッコで党首の座を継がせるのも先かといつも思っていたが、その日も近いかもしれない。

 

「良い目をするようになったな雪蓮」

「何よいきなり」

 

いきなり褒められて少し嬉しい。いがみ合っていても親子で、目標とする人から褒められれば嬉しいに決まっている。

 

「だがオレは出陣するぞ!!」

「んな事させるわけないでしょーがっ!!」

「いい加減に話を聞いてくだされ!!」

 

また繰り返し言い合いは続く。そんなに怒鳴っていたら流石に聞こえてくるから気にはなる。

近くを通った藤丸立香と李書文が顔を出す。

 

「どーしたの?」

「何やら言い合いが外まで聞こえてくるが…」

「あ、立香…って何その恰好?」

 

藤丸立香の恰好はカルデア戦闘服の姿である。

カルデアの技術部が激化する戦闘に耐えられるように作りだした魔術礼装だ。邪教集団とはいえ、敵の本拠地に突撃するのだ。

この外史で今まで後方から指示していたが、今回は前衛に出るかもしれないからカルデア戦闘服を装着したのである。

 

「ほほう…やはり鍛えてるな」

 

炎蓮がジロジロと立香を見る。

カルデア戦闘服は体の線がハッキリ出るボディスーツのようなデザインだ。ならば本人の鍛錬の結果が人様にすぐ分かる。

この藤丸立香の肉体は横にいる李書文の鍛錬を指導したおかげである。

 

「師匠の指導の賜物です」

「ふっ…」

「ふむ。軍師を名乗るが頭だけではなく体の方もちゃんと鍛えてるのじゃな」

「ええ、確かに鍛えてるわね……あと何かスケベっぽい」

「すけべっぽい!?」

 

雪蓮の言葉にすぐさまツッコミをする。だが彼女の言葉は分からなくもない。

藤丸立香もこのカルデア戦闘服を見て着た時の感想は似たようなものであったのだから。

まず最初に戦闘服を見て思った事がカルデアの技術スタッフに「日本のアニメ好きだろ!!」である。次に着て体の線がしっかりと出たのでエロイ気がする、である。

実際にこのカルデア戦闘服を着て一部の女性サーヴァントからそういう目で見られた事がある。一部男性サーヴァントもだ。

 

「何だ立香。その艶姿で誘ってるのか?」

「艶姿!?誘ってる!?」

 

カルデア戦闘服は艶姿ではない。

 

「おおともよ。そんな姿で血の気の多い奴や性欲の強い奴らの前に出て見ろ。すぐに抱かれるぞ。もしオレがそんな気分だったら抱くな。はっはっはっは」

「何言ってるんですか!?」

 

カルデア戦闘服を着て、こんな事を言われるとは思いもしなかった。

 

「む、むう…」

 

こういうのに少し慣れていないのか雷火がちょっと顔が赤い。そもそも男性の体をマジマシと見る機会がないので、この反応は当然であった。

 

「少しその…風紀的に」

「え?」

 

雷火にそう言われて藤丸立香は「何を言ってるんだ?」と思いながら炎蓮と雪蓮を見る。

 

「「ん?」」

 

孫呉の将たちを見れば露出の多い服を着ている。それについて雷火は何も思わないのだろうか。

雷火の考える風紀とは一体何か分からない。

 

「ねえ立香。そのスケベ服って」

「スケベ服ってなにさ。これはれっきとした戦闘服…戦装束です」

「へえ…天の国の戦装束ってそんなのなんだ。天の国の人はみんなソレを着るのね」

「いや、戦装束はこれだけじゃないから」

 

実は今まで来ていた服である魔術礼装・カルデアも考えようによっては戦装束のようなものだ。

彼の着る服のほとんどが魔術礼装であり、戦闘面で戦ったり、サポートするのだ。しかも水着まである。

 

「他にもあるんだ」

「うん」

「今度見せてよ」

「いいよ…で、何があったの?」

 

話が脱線していたが本来の話はカルデア戦闘服についてではない。炎蓮の出撃を止めるための話である。

 

「何やら揉めてる様だがどうしたのだ?」

「そうだった。立香も李書文も言ってよ!!」

「何を?」

「母様ったら怪我してるのに出撃しようとしてるのよ!!」

 

怪我をしているのに出撃する。それは普通に考えてマズイだろう。

 

「怪我してるなら養生するべきだよ炎蓮さん」

「ほら、立香だってそう言ってるじゃない!!」

 

怪我人は寝てろ。そういう目で見る雪蓮。

 

「ほら。李書文も一声!!」

「…負傷者は戦の邪魔になるな」

「ほらみろ!!」

「オレがお荷物扱いか。言ったな李書文め…ならオレが本当にお荷物になるか確かめてみるか?」

 

ギラリと目が光る。それを見た李書文もピクリと反応。

 

「ほお、面白い」

 

血の気の多い2人が一触即発。

 

「だから止めんかぁぁ!!」

 

ここで雷火の怒声。

 

「炎蓮様は何度言ったら分かるのですか。養生していてください。そして李書文はすぐに炎蓮様の挑発に乗るでないわ。この戦闘狂めが!!」

「むう」

「お主は相手が戦う覚悟があればどこでも戦う獣じゃろうて。それは残念ながら炎蓮さまもな!!」

「雷火先生ったら師匠のこと分かってるね」

 

李書文。強き戦士がいれば手合わせがしたくなるものらしい。

炎蓮は李書文にとって戦いたくなる戦士のようだ。藤丸立香としては彼女の戦った姿は見た事がない。

だが戦った姿は見てなくとも彼女からは歴戦の戦士の風格が感じられる。彼女もこの外史では恋に次ぐ異常なまでの力の持ち主だと分かるのだ。

聞いた話によると炎蓮は黄巾の乱で黄巾党を一太刀で複数人も切り殺したとの事。そんな事が出来るのこの外史でも恋くらいの者。

 

(…炎蓮さんもきっと凄く強いんだろうね。そりゃあ師匠も戦いたくなるか)

 

李書文の事をよく分かっているからこそマスターである彼は戦いたい気持ちの師匠が分かる。

 

「あれもダメこれもダメ…じゃあどうすればいいんだよ婆」

「だから大人しくしてくだされ!!」

「寝るってんなら…よし、立香よ部屋に来い。オレの相手しろ。この滾りを鎮めるのを戦いで止められないなら男しかおらん」

「だから何で!?」

「そんな恰好してるからだ」

「おかしくない!?」

 

絶対におかしいが時代が違ければ考えも違う。現代の藤丸立香と外史の炎蓮とは考え方が全く違うのだ。

どちらもきっと考え方について語ると「え?」となること間違いなし。ならば性に対しても考え方違う。

そもそもここでは炎蓮がトップの人間なのだから選び放題なのは間違いない。

 

「ちょっと母さま!!」

「雪蓮さん、ちょっとこの人止めて!!」

「ヤったら具合を教えて。参考にするわ」

「おい」

 

本気なのか冗談なのか分からない。

 

「でもやっぱり母様に先にこされるのはなー」

「ならさっさとお前らがヤって孫を見せろ。この場でヤっても構わんぞ」

「止めんか!!」

 

また怒鳴る雷火。彼女はそのうち頭に血が上りすぎて倒れるのではないかと心配になってしまうレベルだ。

 

「まったく親子揃ってこんな所で下世話な事を…!!」

「下世話とは何だ。これも立派な孫呉の未来についての話だぞ」

「戦の前に話す話ではないと言っておるのです!!」

 

天の血を孫呉に入れる。これは雷火も納得してはいる。

 

「ったく、これくらい構わないだろうが。つーか、婆の方はどうなんだ?」

「…何がですか?」

「婆は立香とはシてねえのか?」

「な、ななな何を言っておられるのですか!?」

「だってオレらん中で一番、立香と接触が多いだろう」

 

藤丸立香と雷火との接触率は確かに高い。この地では彼との接触が多いのは軍師として指導している穏や冥琳だ。

その中で内政も教えている雷火も多い。内政なんて藤丸立香には専門外なのだが教え込まれている。専門外で今まで関わってこなかったものをやることになったのなら自然と専門の人に教えてもらうことになる。

ならば雷火と会うことも自然と多くなるのは当たり前だ。今のところまだ雑用レベルしか雷火の手伝いをできていない。

 

「そうなのか?」

「そういえばそうだね」

 

李書文がマスターに何となく確認する。それを肯定するマスター。

 

「何もしてないのか?」

「しておりませぬわ!!」

「婆、もう年を考えろ。いつまで独り身のつもりだ」

「炎蓮様に心配されるような事ではありませねわ!!」

「そもそもなあ。祭や粋怜だっていつまで…」

 

ここには居ない祭と粋怜はクシャミをしたそうな。

 

「悪い男ではないだろ」

「まあ、そうですが…そもそも炎蓮様は無駄に立香を評価しているというか、気に入っておりますな」

「なんとなく気に入っている」

「なんとなくって…」

「最初はな。だが接する内に彼の良さが分かったからな。それはお前たちもそうだろう?」

 

彼女の言葉に「まあ、確かに」と肯定する雪蓮と雷火。藤丸立香の人と絆を深めるというのは凄い所の1つだ。

なんせ彼は誰とでも絆を深めている。数多く個性の持ち主である英霊と絆を深めたのが彼の凄さの結果である。

善人や悪人に学者、音楽家、王、武将、悪魔、女神と個性は多すぎる。様々な個性の持ち主から絆を深め、信頼されるというのは凄いことなのだ。

彼は平凡なんて言われているが、実は何かしら持っていると何騎かの英霊は語っている。

 

「それにこいつは何かオレにとって力になってくれる気がするのだ。しかもそれは孫呉にとって重要な時にな」

「その根拠は何よ母様?」

「勘だ!!」

「勘て……」

 

炎蓮も雪蓮も自分の直感を信じている。一瞬呆れてしまったが彼女の直感は皆が無条件で信じる時があるのだ。

 

「で、何かないのか?」

「しつこいですぞ」

「ないのか立香?」

「ないです…………この前、雷火先生を膝に乗せた以外は」

「な、立香っ!?」

「ほお」

「何それ何それ!!」

 

気になるっという顔でニヤリと迫る2人。そして慌てる雷火。

 

「膝に乗せたと言うがそれはどういう…」

「そんな事はどうでもいいから炎蓮様は早く部屋で養生してくだされ!!」

「立香はよくうちの重鎮中の重鎮を…」

「雪蓮様もさっさと立香と李書文を連れて出発するのじゃ!!」

 

これは太平道を討伐へ出撃前のちょっとした出来事であった。




読んでくれてありがとうございました。
次回は来月。二週間後くらいの更新予定です。

現在と過去の2つの話でした。
現在では俵藤太が程普たちと合流し、三蔵ちゃんたちは不穏な事件を知る。
過去では三蔵ちゃんたちが知った不穏な事件を起こした黄巾党の残党との戦いです。

実は魏ルートにて曹操は張角の意志を勝手に継ぐ存在が現れることを危惧していたシーンがありました。結果的には天和たちと取引して防ぎました。これはそのような存在が現れてしまったという物語です。
しかも于吉の介入もあり、より不穏な感じになっています。
どうなっていくかは次回になります。


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