Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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邪教組織

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邪教と化している宗教組織『太平道』を壊滅させるために建業から孫家の軍が出撃した。

任された将は雪蓮に粋怜、祭。軍師には冥琳と穏が抜擢された。更に藤丸立香たちも加わる。

今、彼らは太平道が拠点として奪った町へと行軍している。その町は完全に太平道の拠点となって、張角復活のために外法の儀式が行われているのだ。

今なお無辜な民が犠牲になっている姿を想像すると拳が強く握ってしまう。どんな儀式をしているかなんて考えたくないが生贄なんて言葉を聞けば嫌な事しか思いつかない。

 

「斥候からの情報だと大賢良師は町を完全に支配している」

「その町の民を生贄にしているわけか。ぬう、許せん」

「確かにしていますが…斥候の話だと太平道へ無理矢理所属させているらしいです」

「無理矢理?」

「ああ。外法な方法で怪しげな儀式をしているのは間違いない。だが大賢良師は信者を増やす事も力を入れている」

 

太平道の信者になる者は生贄にならず、信者にならない者は生贄にさせられる。

これを聞くに大賢良師は信者を増やす事を力に入れているのだ。

 

「信者を増やすね…でも孫呉の人間がそんな奴らの信者になるなんて考えられないわ」

「粋怜殿の言う通りです。だからこそ信者にならない者らは外法の儀式の生贄になっているのでしょう」

 

誇りある呉の地の人間は太平道なんて怪しげな邪教には入らない。その誇りを狙ってか大賢良師はこの地を拠点として選んだ可能性もある。

大賢良師は張角を復活させる儀式を行っている。その過程で生贄と信者を増やす事に何が関係しているのか分からない。

だが最終的には張角の復活へと繋がるものになっているらしい。そもそもどういう儀式で復活させる算段なのかも気になる。

神代でもないのに人間が蘇るのはあり得ない。藤丸立香は世界の全てを知っているわけではないが、死んだ人間が蘇ったなんて聞いたことがない。

歴史的にも人間を蘇らそうとする方法は多くの人間が探し、試してきた。だが全て失敗に終わっている。

 

「復活か…」

 

死んだ人間は蘇らないというのは確かな事である。だがそれに近しい方法は確立されているのも事実だ。

藤丸立香の目に前には荊軻と李書文がいる。彼らは英霊であるが、過去の人間。英霊召喚は復活ではないが、今ここにいるのを見ると見方によっては蘇ったとみえる。

そしてここは外史という幻想が混じった異世界。藤丸立香の世界とは法則が違う部分があるかもしれないのだ。

 

「太平道がどんな外道だろうが無辜な民を犠牲にする奴らを許さない。ただ倒すのみよ」

「雪蓮様の言うとおりね」

 

どんな外法な儀式をしているかなんて気にしてはいけない。気にし過ぎて精神をやられては元も子もないのだ。

雪蓮たちはただ敵を倒し、無辜な民を救うのみである。

 

(………)

「どうしたマスター?」

「何かキナ臭いかなって」

 

何か気になる部分があるような気がしてならないのだ。今回の事はまるで毎回解決してきたような異変のような気がすると思っている藤丸立香。

どこにも根拠なんてない。これは彼の直感だ。

 

「もしかしてこれも于吉が裏で手を引いてたり…?」

「ふむ、可能性は無くはないな」

 

元々、彼らがこの孫呉の地に来たのは于吉を追ってきたからだ。詳しくは分からないが于吉の手によって孫呉は滅びの道へと辿っている。

ならばこの呉の地には、揚州には于吉が策を水面下で張り巡らしていてもおかしくはない。

 

「今回の太平道には于吉が関与している可能性を入れた上で考えた方がいいな」

「うん。みんな、いつ于吉が出て来てもいいように注意して」

 

この言葉に荊軻たちは頷く。

 

「ちょっと立香ってば内緒話?」

「うん。内緒話だよ雪蓮」

「それってそのスケベ服について?」

「いや、だからスケベ服って…違うよ俺らが追っている于吉っていう道士についてだよ」

 

雪蓮からは完全にカルデア戦闘服がスケベ服になっている。

どういう基準をもってこのカルデア戦闘服をスケベ服と認定しているのか分からないが、これも彼女の感性なのかもしれない。

しかもカルデア戦闘服の評価は粋怜たちも同じような評価であった。

 

「いや、意外ね。立香くんもそういう服を着るんだ」

「意外じゃのう」

「いやあん。似合ってますよ~」

「君にはそんな趣味が?」

 

孫呉の将たちのこのカルデア戦闘服の評価がおかしい。本気なのか冗談なのか分からなくなる。

 

(カッコイイと思うんだけどな…)

 

チャールズ・バベッジとか一緒にいるとより際立つのがカルデア戦闘服だ。

 

 

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太平道が占拠した町の付近まで行軍した孫策たち。いきなり攻撃はできない。

町の様子を確認したり、どう攻撃するかと策を考えなければならないのだ。相手は黄巾党ではなく、怪しげな集団組織の太平道。

黄巾党と戦った時よりかは違う。

 

「パパっと、チャチャっと倒しちゃえばいいのにー」

「そう言うな雪蓮。相手は前までの黄巾党ではないんだ」

 

前までの黄巾党は張角たちを崇拝していた烏合の衆だったが、太平道になった途端に大賢老師の指導によって統一された組織となっているのだ。

所詮は戦士ではなく、信者と言ってはならない。信者には信者の強さがあるのだ。

 

「信者の強みはまさに信じている事だ」

「信じてるって何よ荊軻?」

 

これは個人の考えなので正解というわけではない。

強すぎる信仰は時にいつも以上の力を発揮することがある。信仰こそが全てなので他の何よりも優先されるのだ。

その力は黄巾党と戦った者なら分かっているはずだ。張角たちを崇拝していた黄巾党は異常なまでの戦いぶりであったのだから。

太平道はそれがより狂気的になっているのだ。

太平道こそが正義、大賢良師の言葉こそが正しい。崇高な張角を蘇らせようとしている自分たちが正しくないわけがない。

この考えが暴走しているのだ。この暴走が自分の命すら惜しまないことになっている。

 

「黄巾の乱では張角を深く崇拝している奴ほど戦場では恐ろしかったな…」

「ええ、私も黄巾の乱でそういう奴と斬り合ったわ。そういう奴らは自分たちの命を二の次にしていた」

 

黄巾の乱で前線で戦っていた祭と粋怜は分かる。

 

「そういう奴らほど何をしてくるか分からないぞ」

「荊軻殿の言う通りだ。分かったな雪蓮」

「はいはーい」

 

ならば策は任せたと雪蓮は冥琳に任せる。

 

「では、どうするか考えようか。穏、立香」

「はぁい」

「はい」

 

冥琳に穏、立香が卓を囲んで作戦を考える。

 

「中の状況がもっと気になるな」

「斥候の追加で燕青と荊軻に中を探らせる?」

「そうだな彼らならより深いところに潜り込める。頼む」

 

燕青と荊軻が新たに斥候として出撃。

 

「町の入口は一ヶ所で他は壁で囲まれている」

「とういうことは太平道の人たちはこの門から一斉に出てくるわけですね~」

 

太平道が占拠している町は壁に囲まれている。籠城には最適な町の1つだろう。

 

「戦いが始まれば相手が門から出てくるか、籠城してくるか」

 

向こうから戦に出てくるならば門から一斉に出てくる。そうなることを考えると兵の配置は鶴翼の陣がいいかもしれないと出てくる。

鶴翼の陣ならば敵が一直線に突撃してくる時に左右の翼に当たる部分で包囲して攻撃を加わえていくべきだ。

 

「兵はその配置でいいだろう」

「籠城だった場合は荊軻と燕青で中から門を開けさせる事もできると思う」

「その時はお二人にお任せですね~」

 

3人は作戦を考えていく。藤丸立香も2人の力になれるように発言できることは発言していく。

本物の軍師には勝てないが彼だって多くの戦いに身を投じてきた。その知識が役に立つことだってある。

 

「残りは燕青と荊軻が戻ったら考えよう。町の様子も気になるからな」

「中ではきっと恐ろしい儀式をしているに違いありませんよ~」

 

その儀式というのが張角の復活だ。

 

「…ねえ、人を蘇らす儀式なんて確立されているの?」

「まさか。人を蘇らす儀式なんて存在しない」

 

冥琳はキッパリと蘇生儀式を否定する。

 

「秦の始皇帝様が不老不死の薬を探していたなんて文献はありますがね~」

 

不老不死の薬だって存在していない。

太平道が行っている儀式は確実なんてない。張角が復活するなんて事も確実は絶対に無い。何故なら張角は生きているのだから。

 

「……大賢良師を名乗る人は何を根拠に復活させているんだろう?」

「狂人の考えなんて分からん。分からない方がいい」

 

本当ならばすぐにでも突撃して民を救いたいが焦ってはならない。実行は燕青たちが戻ってきてからである。

 

 

119

 

 

時は来た。邪教となってしまった太平道を倒し、無辜な民を救う。

雪蓮は軍の先頭に立ち、太平道が占拠する町に向けて大きな声を響かせる。

 

「邪教『太平道』を指導する大賢良師よ。無辜な民を犠牲にする悪行は許されない。孫文台が娘、孫伯符が直々に成敗致す!!」

 

彼女の声は大きく響く。この声量ならば町にも届くはずだ。

 

「今すぐ貴様の首を取りに行くから待ってなさいよ!!」

 

孫呉の兵たちが咆哮を上げて動き出す。

 

「では手筈通り、燕青さんと荊軻さんが門を内側から開けるから突撃ですね~」

 

燕青たちの情報だと太平道は籠城することを決めたと分かった。

町の様子は太平道の信者で溢れかえっており張角を復活する儀式に集中している。よって籠城をしているのだ。

 

「おーおー。来たぜ荊軻の姐さん」

「なら始めるぞ」

 

隠密行動をしている2人は見つからない。すぐさま町の門を開かさせる。

開いた瞬間に雪蓮たちは町の中へと突撃した。

 

「捕まっている町の人たちの安全を確保することが優先よ。歯向かってきた太平道の信者は無力化しなさい!!」

 

孫呉の兵たちは太平道に捕まった町民たちを保護しながら応戦してくる信者たちを無力化していく。相手は太平道の信者で正規の兵士ではない。

信者を倒す事は黄巾党を倒すのと変わらない。だが明確に違うのは太平道の信者は命を惜しまずに剣を振るってくることだ。

 

「儀式の邪魔をさせるな!!」

「大賢良師様をお守りしろ!!」

「張角様を復活させるのだ!!」

 

太平道の信者は自らの命を犠牲にする覚悟で突っ込んでくる。これこそが精鋭で屈強な孫呉の兵士たちを動揺させる異様な覚悟だ。

 

「怯えるな孫呉の兵たちよ。我らはこんな邪教には屈しない!!」

 

粋怜と祭の2人の将が戦闘を切って戦う。孫呉の兵士たちも彼女たちに続き倒していく。太平道の信者の狂信的なまでの突撃は恐ろしいが、それさえ気を付けていれば対処できないこともない。

徐々に雪蓮たちは太平道を無力化していくのであった。

 

「立香も荊軻たちと民を保護していってくれ」

「分かった」

 

藤丸立香は捕まっていた民を保護していく。

 

「マスター」

「何かな燕青?」

「この先に大賢良師がいる。しかも太平妖術の書を持ってやがった」

「それって!?」

「ああ。やっぱ于吉が絡んでいたな。行こうぜマスター。信者共は雪蓮たちでどうにかなるだろ」

 

カルデア側の藤丸立香たちが解決すべき案件が浮上してきた。太平道はもしかしたら于吉が創設した組織かもしれない。

于吉はこの呉の地を歪めようとしている。ならこの太平道という邪教も彼が作り出した策になってしまう。

 

「厄介だな。だが太平道は張角を復活させると言っているが…それは嘘か?」

「天和たちが生きている。于吉なら知っていてもおかしくない。だがなら何故それを伏せている?」

「…伏せていた方が都合がいいからかな」

 

死んだという事にしておけばより崇拝する存在となる。于吉的には天和たちは死んでいたという方が都合が良いのだろう。

だからこそ今の太平道の信者は復活を求めるあまりに狂信的になっているのだ。

 

「それでも復活の儀式をしようとしているんだよね。本当に何を復活させようとしているんだ?」

「それは大賢良師の元に行けば分かるってもんだ」

 

町にいる民はもう保護が8割方終わっている。残りの保護は孫呉の兵士たちに任せれば大丈夫なくらいだ。

 

「残りはお任せします。俺らはこのまま向こうを調べてみます」

「分かりました孫策様に伝えておきます」

 

燕青たちに道案内をされて藤丸立香は走る。向かう先は大賢老師が復活の儀式をしている場所だ。

太平要術の書を持っているという点でキナ臭さが危険レベルのモノになったのだ。何か嫌な予感が激しく感じる。

太平要術の書は張譲を悪龍に変身させたくらいなのだから油断はできない。今度は大賢良師が巨大な魔猪になっても不思議ではない。

 

「おら、どきな!!」

 

前から出てくる太平道の信者を倒しながら進む。

進むにつれ、より多くの信者が足止めをしようとしてくるのは復活の儀式場が近い証拠だ。出来る限り信者は倒しておく。

倒しておけば、いずれ後ろからくる雪蓮たちが進行しやすくなるからだ。

 

「できれば雪蓮さんたちが来る前には片づけておきたいけど」

「それは敵の強さによるな」

 

張譲の時のように巨大な悪龍が相手になったら簡単には倒せない。それに今は洛陽にいた時よりもメンバーが少ないのだから戦力も減っている。

少ない戦力でも戦ったことがあると言っても油断はできないものだ。

 

「ふん!!」

 

突っ込んでくる信者を突き出す拳で逆に追い返す。しかも複数人を巻き添えにして。

 

「ここだな」

 

目の前に広がるのは何処からどう見ても怪しげな儀式場だ。

大きな五芒星を書かれた陣の各先端には大きな壺が設置されており、中心には太平妖術の書を持った道士風の男が立っている。

その男が間違いなく大賢良師だ。

 

「こんなところまでに賊が来てしまったか。儀式はまだ終わっていないと言うのに」

「あんたが大賢良師?」

「そうだ。私が張角様の…大賢良師の名を継いだ証拠だ」

 

元々、大賢良師の名前は張角が、天和が二つ名のように呼ばれていたものだ。それを勝手に名乗っている彼こそが太平道の指導者である。

 

「その書物はどこで手に入れたものだ?」

「この書か。これはあるお方が私にするべきことを示してくれた時にもらい受けた書物だ」

 

その、あるお方というのが于吉なのだろうと判断。

 

「示した?」

「ああ。あのお方は私に張角様たちを蘇らせる術を授けてくれた。私は必ずや張角様がたを蘇らせてみせるのだ!!」

「蘇らせるだと。死人は蘇りはしない」

(そもそも死んでねーけど)

 

死んでいない人間を蘇らすなんて事は絶対できない。もし蘇ったとしたら、その蘇った人物は別の誰かだ。

 

「可能なのだよ。あのお方が教えてくださった!!」

 

死んだ人間を蘇らすには黄泉の国から呼び戻せばよい。呼び戻すには多くの声が必要だ。

だからこそ太平道という教団を組織して、多くの信者を集めだした。張角たちは多くのファンがいたから多くの信者の声なら黄泉の国まで届くはず。

それは彼女たちが人気者になりたいという気持ちが黄巾党の時代から伝わっていたからこそ、大賢良師は多くの信者がいれば儀式の成功に上がると盲信したから集めたのだ。

天和たちのファンは数万を超える。それは黄巾の乱で分かっていることだ。残党でも集まれば多すぎるほどで、それが太平道という教団を創設した。

呼び戻すための信者。だからこそ大賢良師は信者を増やすことに力を入れていたのだ。

 

「だから信者を」

 

信者たちの多くの声で呼び戻すとしても簡単には黄泉の国からは出られない。そのために代わりが必要だ。張角たちの代わりに黄泉の国に行く魂のこと。それが彼らが行っている生贄だ。

生贄によって張角たちの代わりになる魂を黄泉の国に送っているのだ。簡単に言えば交換と言ってもいい。張角たちの魂を現世に戻す代わりに他の魂を黄泉の国へと送るというものだ。

 

「魂の交換…代わりだなんて」

 

黄泉の国から呼び戻した張角たちは魂だけの存在だ。肉体は存在しない。魂を入れる器が必要なのである。

元の肉体があれば魂を戻すことで復活できる。だが張角たちの肉体は無い。だから器を用意しなければならないのだ。

代わりになる器を用意することもできたが元の身体に魂を入れてこその完全なる復活。だが無い。ならば作るしかない。

 

「私の頭には張角様たちの姿が鮮明に記憶されている。だから同じ器を作り上げてみせる!!」

 

壺の中身が何がずっと気になっていた。その壺の中身は人間の各部位やら血液だ。

多くの人間を捕まえて切り刻み、壺の中に放り込んだのだ。人間を作るには同じ人間の部位を組み合わせるしかない。

ゼロから人間を作ることはできない。

 

「張角様たちに似ている者を多く捕まえた。彼女たちは張角様たちの代わりになれるのだから幸福に違いない」

 

張角たちの身体を作り上げるのには大賢良師の記憶と太平要術の書があれば可能。出来上がった器に魂を戻せば復活が完了する。

 

「この陣にも意味はあるぞ。五芒星を人の形として表している」

 

五芒星の一番上を頭とする。左右から手足としている。そして中心が心臓部分。

 

「私は張角様の復活のためなら自分も生贄になってみせる!!」

 

大賢良師の役割は心臓部分。

 

「私は張角様たちのためなら何でも捧げることができるのだ!!」

 

張角たちを蘇らせる儀式をベラベラと説明し終える。その内容を聞いて藤丸立香は両拳を強く握る。

 

「そんなのどこが復活の儀式なんだ!!」

 

大賢良師が語る復活の儀式はどこも確証なんて無い。聞いていても復活の儀式どころかただの虐殺にしか聞こえないのだ。

黄泉の国から魂を呼び戻す。魂の交換。肉体を作り上げる。

どれもこれもただの空想の考えだ。空想の考えと言っても良いかどうか分からない。

これは大賢良師が語るただの狂気的な行動にすぎない。

 

「こんなの止めろ!!」

 

もう遅い。もう多くの人間が大賢良師の狂気的なまでの妄想で殺された。

張角たちが、天和たちが蘇るなんてことは絶対に無い。それは彼女たちが生きているからだ。それが分かっているのは藤丸立香たちだけ。

 

「こんな事をしても彼女たちは蘇らない!!」

 

大賢良師は張角が死んだと思っているからこそこんな狂気的なまでの行動を起こした。もし、生きていると分かればこんな事は起きなかったのだ。

生きている事を知っている藤丸立香としては今のこの状況によって何とも言えない気分になる。

嫌な気分だ。締め付けられる気分だ。不安な気分だ。気持ち悪い気分だ。誰かに責められている気分だ。

負の感情が藤丸立香を襲う。それを振り払うかのように声を上げるしかない。

 

「マスター」

 

ポンと荊軻が手を肩に置いてくれる。負の感情に襲われているからなのか分からないが、肩から彼女の手の温かみが伝わってくる。

 

「冷静になれ。この状況が自分のせいだと思ってはいけない」

 

天和たちを助けた事は後悔していない。後悔はしていないのだ。彼女たちの命を助けた事はその時の最良だった。それだけだ。

もしかしたら今のように狂気的なまでに暴走する信者を止める術が事前に対処できたかもしれない。だがその時はその事前に対処までは出来なかった。それも、それだけだ。

藤丸立香は万能な人間ではない。出来ないも事も出来ない時もある。こんな事になるなんて、という予測も立てられない時もある。

 

「マスターよ荊軻の言う通りだ。この状況は儂らのせいだと思ってはいかんぞ。儂らのせいだとしても謝ったら元通りになるのか。代わりに死ねば元通りになるのか。そんなことは無い」

 

起きてしまった今の状況はもうどうしようもできない。ならば今すべき最良を考えるべきなのだ。

 

「ならどうするか分かるかマスター?」

「…この儀式を止める」

「ああ、そうだ」

 

息を一端整えてもう一度、大賢良師を見る。

彼の目は藤丸立香を見ていない。見ているのは張角の復活という妄想のみである。

 

「儀式は止められない!!」

 

太平要術の書を開き、剣を抜く。

 

「太平要術の書よ。私の命を最後に張角様を復活させよ!!」

 

彼は自分の剣で自分の身体を貫き、儀式を行った。そして復活させる。

得体の知れないモノを。




読んでくれてありがとうございました。
次回は一週間後予定です。

今回の話は大賢良師が根も葉もない儀式を実行して張角を蘇らせようとしたら別の何かが出てきたって感じです。
素人が儀式なんてやっても成功するはずありませんが…ごくまれに発動するパターンがあります。そのほとんどが『別の何か』だったりするパターンが多いですよね。

次回はその別の何かとの戦いです。

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