Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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今回で趙雲たちや楽進たちとは一旦お別れです。
そしてまた新たな恋姫のキャラたちと出会います。


次の町へ

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村から出る時は大変であった。なんせ村人たちがずっと村に残ってくれなんて言うからだ。

だけどずっと残ってはいられない。大事な目的があるのだから。

その代わりと言っては何だが、俵藤太の『無尽俵』から出てきた食料を残してきた。あの量ならばあと1年は持つだろう。

村人たちからは惜しまれながら藤丸立香たちは旅に戻ったのであった。

 

「また元のメンバーに戻ったね」

「そうだな。だが仕方無い、趙雲たちも目的があって旅をしているのだからな」

 

趙雲こと星たちとは旅の目的ため別々に別れた。ちょっぴり寂しいものだがまた縁があれば再会できるだろう。

 

「目指すは一番の都、洛陽か。長い道のりになるかもしれんがペースを崩さずに行くぞ」

「はーい先生」

 

洛陽まで長い道のりだが、アメリカ横断の時を思い出せば乗り越えられるだろう。

 

「あと賊たちにも気をつけねばな。最近は黄色い布の盗賊が増えているらしいからな」

「黄巾党も活発になってきたということね。また襲ってきたら御仏に変わって成敗よ!!」

 

旅を続けていればこのご時世、黄巾党に接触する機会は大いにある。今までも襲ってきた黄巾党は全て潰してきた。

大規模な戦いではない。玄奘三蔵がいるので命を取らずに見逃している。彼女は悪い子は徹底してボコる主義なので、二度と悪さをしないように痛い目には合わせ、諭す。

 

「三蔵ちゃんがそんなこと言ったから黄巾党が来たよ」

「ぎゃてぇ…アタシのせいなの?」

「たまたまだと思うよ三蔵ちゃん」

「そうよね!!」

 

ヤレヤレと言いながら李書文が一番槍で突っ込んでいく。

 

 

22

 

 

「そこのお前たち何をしている!!」

 

急に大きな声だが女性らしい声が響いた。誰かと思って振り向くと2人の女性が居た。

男勝りな女性と妙齢の艶やかな女性だ。

 

「誰?」

「それはワシらの台詞じゃな。見ればそこに並べておるのは黄巾の一味のようだが?」

 

今まさにボコって諭してました。

 

「怪しい奴め。何が目的だ!!」

「え、どこが怪しいの?」

「どこも怪しくないよな」

「だよね荊軻」

「確かに怪しくは無いと思うぞ焔耶よ」

「うう、桔梗様まで…兎に角、お前ら誰だ!!」

「そっちこそ誰だ!!」

 

ここで豪胆にも言い返す。たまに藤丸立香は豪胆な性格になる。

 

「何だと!?」

「はっはっはっは、なかなか豪胆な男ではないか。良いだろう。ワシは厳顔だ」

「藤丸立香です」

 

名前を教えてくれたのなら自己紹介するのは当たり前。

 

「でこっちがーー」

 

仲間であるみんなも自己紹介。

 

「□□□□□□□□□□□□!!」

「うわあっ、何だこいつ!?」

「彼は呂布奉先。意思疎通ができないけど頼もしい奴だよ」

「意思疎通できなくて頼もしいものか!?」

「む、その徳利は」

「お、お主この徳利に気付いたか」

「こっちにも良いのがあるぞ。飲み比べるか?」

「良いな!!」

「こっちの白い着物を纏う東洋の美女が荊軻ね」

「おいおい言い過ぎだぞマスター。照れてしまうではないか」

「何もう仲良くなってるんですか桔梗様!?」

 

このように焔耶と呼ばれる女性にツッコまれながら仲間の自己紹介をするのであった。

でも何故か彼女だけが警戒を解いていない。何故だろうか。人がせっかく懇切丁寧に自己紹介をしたのに。

 

「何が不満なの?」

「いや、不満とかじゃなくて…てか、お前馴れ馴れしいぞ」

「そう?」

「気にするな焔耶よ」

「そうそう。うちの主はそんなんだからな」

「て、何もう酒盛りしようとしてるんですか!!」

「ちょっとだけだよ荊軻」

「そっちの主とやらは寛容だのう。焔耶もそれくらい寛容さをみせよ」

 

普通はこんなところで酒盛りはしないので焔耶の方が正しい。だが悲しいかな、多数決で負ければ正論が覆ってしまうもの。

更に俵藤太と燕青も加わってきた。手にはいつの間にかつまみ料理がある。

 

「え、ちょ、本当に酒盛りするんですか桔梗様!?」

 

ぐだぐだしてきたので閑話休題。

 

「焔耶ちゃん、桔梗。2人ともどうしたの。あなたたち、良かったら詳しく事情を聞かせてもらえないかしら?」

 

今度もまた妙齢で艶やかな女性が出てきた。

 

「私は黄忠よ。あなたは?」

「藤丸立香です。実はーー」

 

何故黄巾党たちを捕縛したか、何故酒盛りをしようとしたのか懇切丁寧に説明。

 

「黄巾党を捕縛した経緯も酒盛りしようとしていた経緯も分かったわ」

 

自分たちはただの旅人で、たまたま此所で黄巾党に襲われたから撃退したにすぎない。それにしても黄忠と言ったら三国志に出てくる蜀の有名な武将ではないか。彼女が本物か分からないが。

趙雲も女性で黄忠も女性ときた。有名な偉人たちが実は女性であったなんてもう慣れてしまったが、まさか蜀の五虎将軍のうち2人が女性の可能性があるとは。

 

(ねえ孔明先生)

(ノーコメントだ)

 

自分の中にいる英霊から何か感じ取ったのか諸葛孔明は微妙な顔をしている。

正直なところ、この世界は本当に自分たちの知る三国志とは違うのかもしれない。でもまだ確定はできない。

一番の解決方法はこの時代の諸葛孔明と呂布奉先に会うことだ。会って同一人物ならばここは藤丸立香の世界線の過去になる。だが違うとなると藤丸立香の世界線の過去とは別の並行世界だ。

 

(いや、しかし、ここまでくると此処の諸葛孔明はまさか…)

 

諸葛孔明はこの時代に生きる諸葛孔明を予想してしまい頭を押さえてしまう。違って欲しいが、その答え合わせはまだ先である。

 

「なるほど黄巾党を討伐していたと」

「なるほど、旅人でありながら見上げた心がけね。だったらあの黄巾の連中は私たちが引き取らせてもらっても良いかしら。しかるべき罪を償わせて郷里にでも返そうと思うのだけれど」

「では、お任せします」

 

こういうのは彼女たちの方が専門だろう。どうせこちらはボコって諭すだけなのだから。

そもそも玄奘三蔵の説教で改心してると思うから素直に罪を償うだろう。

 

「そういえば結局そっちは?」

「そういえば焔耶だけ自己紹介しておらんかったな。焔耶」

「魏延だ。疑って悪かったな」

「大丈夫。気にしてないよ」

「それよりお主ら、そこまで腕が立つなら少々手伝ってはもらえんだろうか?」

「もしかして黄巾党の討伐?」

「話が早いわね。貴方達さえ良ければ手伝ってもらえないかしら。もちろん、褒賞は十分に用意させてもらうわ」

 

チラリとみんなを見るとどっちでも構わないと言う顔だ。ならば引き受ける。

それに路銀もそろそろ必要になってくるだろう。

 

「ありがとう。助かるわ」

 

 

23

 

 

まさかの出会いに依りまた賊達と戦うはめになるとは思わなかった。だがそろそろ慣れないといけないかもしれない。

やはりこの三国時代では当たり前に戦に巻き込まれるという事だ。

でも、今回はあの村より全然マシだ。なんせ今回はちゃんと兵士達が組織された軍であるのだから。

藤丸立香達は客将扱いで一緒に敵の陣地に行軍する。

 

「ふむ、此所か。そうだな弓の部隊が多いのなら…」

 

早速、諸葛孔明が策を考える。こういう戦略を考えるのは得意中の得意だ。

何通りのも策を考えて黄忠に授ける。まるで策が湯水のように湧き出てくる様を見て黄忠はつい固まってしまう。

しかもどの策もこの戦いでは全て有利になるものばかり。策とはそういうものだが。

 

「あ、あなた…何処かの州で軍師をしていた経験があるの?」

「いや、私はずっとマス…藤丸と一緒に旅をしていた」

 

仕えるとなるとやはり一番はあの征服馬鹿だけだが。

 

「そうなの。有効な策をありがとう孔明さん」

「礼を言うならうちの主である藤丸に言ってくれ。彼奴が手伝うと言い出したんだからな」

「立香さんに?」

「ああ。彼奴は善人だからな。こういうのはほっとけないお人好しなんだ」

「分かったわ。会ったらお礼を言うわね」

 

黄忠が自分のマスターへ会いに行くのを確認して諸葛孔明は葉巻を吸う。

この時代というよりはこの世界だが、自分の中ではもう異世界レベルだと仮定している。何故なら趙雲と黄忠が女性という部分が引っかかるからだ。

もしかしたら本当にあの英雄2人も女性かもしれないが、自分の中にいる英霊から感じる反応は彼女たちは違うと言っているのだ。ただそう感じるだけだがもう確定している。

前にマスターが体験した『下総国』とも違う亜種並行世界だ。そもそも亜種並行世界と括っても良いかも分からない。

ここは一体何処なのか。

 

 

24

 

 

黄巾党との戦だが特に大きな痛手も無く決着がついた。

もちろん黄忠の率いる軍の勝利である。彼女達の率いる軍と諸葛孔明の策に李書文たち一騎当千の力が加われば正規の軍でもない盗賊の集団に負けるはずがない。

そしてやはり驚かれたのが李書文達の力だろう。なんせ本当に一騎当千の言葉を体現させているのだから。

彼等が黄巾党に突っ込んだ瞬間にはもう半壊させてるのだから驚かれるのは当たり前だ。特に一緒に突っ込んだ魏延は心底驚かれてしまった。

何か戦に参加する度に同じようなリアクションばかりだ。でもこれしか言うことがない。

どうでもいいが、戦闘特化以外の英霊たち。武則天たちは暇であったらしい。

 

「何かこの時代のパワーバランスが…」

「それはもう今更だろう。それに此方だってパワーバランスがおかしい戦いなら幾らでも体験しただろうが」

 

今までの特異点の中で確かにもう抗えない敗北の戦いは逢った。それをなんとか奇跡のように覆してきたものだが。

今回は此方側が有利ということなだけだろう。

 

「深く考えるな」

「そうする」

 

現在は黄忠のご厚意で彼女たちの町を拠点にさせてもらっている。また旅の準備ができれば出ていくつもりだが。

この町ではそれぞれが好きに行動しているようだ。荊軻は厳顔とよく会っては酒盛りをしているし、李書文は魏延によく勝負を挑まれてるらしい。

哪吒は町の子供たちと一緒に遊んだりしているし、他のメンバーも好きにしている。

でも何故か諸葛孔明は町の執政の雑務をやらされていた。

 

「何故、私がこんな事をせねばならんのだ!?」

「くっふっふー。そんな事を言うな軍師よ」

「武則天。お前も何故こんな仕事を手伝っている? ここはお前の国ではないぞ」

「気が向いたからじゃ。それにカルデアにいる時はこういう事をしないからのう。久しぶりに上に立つ者としてやってみたくなっただけじゃ」

 

武則天に関しては本当にただの気まぐれなのだろう。彼女は女帝だが、そこに至るまでの学問を、武芸を、女の技を、自分にとって不要な他の全てを捨てて磨いた。その中に執政の仕事をこなした事くらい幾らでもある。

そもそも国のトップに居たのだから執政したのは当たり前だ。だが、此所は彼女の国ではない。それだけは自分自身でも分かっているのだ。

 

「おい武則天。変な案を入れ込むな」

「なんじゃ、それくらい良いじゃろ」

「此所をどうするつもりだ」

「この町から黄巾党を出さないように。くっふっふー」

「一歩間違えれば恐怖政治になるだろうが」

「そうかの?」

「とぼけた顔をしやがって…」

 

諸葛孔明は本当に余計な事はするなと釘を刺す。本物の王だからこそ質が悪いものだ。

 

「ところでマスターはどこかのう。せっかくだから妾と共同統治の仕方を練習させようかと思ったのだが?」

「マスターなら黄忠の娘と遊んでいるんじゃないか?」

 

マスターなら確か黄忠とその娘の璃々と一緒に居たのを見た覚えがあったなと呟く。

 

 

25

 

 

黄忠が娘の璃々を探していると庭の方で声が聞こえた。

 

「もっとお話して、リツカお兄ちゃーん」

「良いとも」

 

どうやら娘はこの町に滞在するのを許可した藤丸立香と一緒に居るようだ。

そしてどうやら彼は娘に何か物語でも聞かせてあげている。その物語が面白いのか璃々は凄く前のめりで聞いている。「続きは、続きは」っと言う顔で藤丸立香の腕をゆすっているのも見ていて微笑ましいものだ。

でもあんな楽しそうな顔をする璃々は久しぶりだ。娘のあんな笑顔を見れたのなら彼等をこの町に滞在させたのは正解だろう。

 

「それで龍のまじょさんはどうなったのー?」

「そうだね。敵対関係だったけど…次に再会した時には絆を深めるほどの仲間になれたんだ」

「そうなんだ!!」

「うん。まあ、人間らしくなったと言えばいいかな。でも贋作事件での割と少女らしい願望は可愛かったね」

「がんさくじけん?」

「そこはまた違う物語なんだ」

「そっちも聞かせてー」

「良いとも」

 

彼は自分が今まで旅をしてきた内容を物語風にして聞かせている。流石にこんな小さい子にエグイ内容は聞かせるわけにはいかないので端折ってる部分はある。

第七特異点の話なんてどうすればいいんだか。話す機会があるか分からないが。

面白おかしくならばイベント時が良いかもしれない。でも説明が難しいものだ。特に『ぐだぐだ粒子』とか『チェイテピラミッド姫路城』とかはどうする。

 

「物語風っていうか冒険譚なら…ハロウィン2部かな。あれは一応、勇者を題材にしてたし」

 

でもやっぱり色々駄目かもしれない。

 

「あらあら、璃々。立香さんからお話を聞かせてもらってるのね」

「あ、お母さん。うん。リツカお兄ちゃんのお話とってもおもしろいの!!」

「ありがとう立香さん。璃々の話し相手になってくれて」

 

全く持って構わない。子供の相手は慣れている。

そもそもカルデアでは子供達をいくらでも相手している。そんな中、璃々の相手をするなんて簡単だ。

簡単というか、これが普通の子供かと思う。下総国で出会ったあの2人の子供たちと重なってしまう。

でも、しっかりした子供だと思う。

 

「もしかして、立香さんにも子供がいたりして?」

「居るね」

「え、本当に。じゃあもう婚姻を」

「結婚はしてない」

 

結婚はしていない。ただ子供のサーヴァントがいるのだ。正確には子供ではないだろうが、精神的なものであろう。

そして、おそらく彼が結婚という話になったら間違いなく大事件が起こるだろう。主にマスターラブ勢によって。

 

「あら、そうなの」

「結婚願望はある」

 

たぶん、今の言葉を聞いたらカルデアにいる何人かの英霊は席を立ったと思う。

特にあの3人に聞かれたら大惨事ではなかろうか。

 

「ねーねー。お話の続きは?」

「ああ、そういえば続きだったね」

「私も聞いてみたいわ」

「じゃあーー」

 

彼はまた話す。出会いと別れ、絶望と希望の旅の軌跡を。

その話は璃々が前のめりで聞きたくなるのも分かるというものだ。どこか信じられない所もあるが、嘘を言っている様には見えない。

おそらくこの話は彼が実際に体験した事を物語風にして語っているのだろう。それにしても栄華を極めていた国が圧倒的巨大な連合国軍に勝利した物語なんてつい聞き入ってしまう。

どうやって勝てたのか。絶望的な戦力差をどうやって埋めたのか。そして、藤丸立香は何故、そんな所にいたのか。

 

「ねえ立香さん…貴方は一体?」

「カルデアの者です」

「かるであ?」

 

聞いたことのない言葉だ。州でもない。

 

「…立香さんは何のために戦っているのですか?」

 

つい聞きたくなった。彼は何が目的で戦っているのだろうか。

今のご時世、世の中は徐々に混乱していくだろう。今はまだマシだ。

黄忠の予想ではいずれ大陸は荒れる。そしてきっと大陸の覇権争いが始まる。そんな気がするのだ。

この大陸の覇権を手に入れる者や平和を望む者など大望を持った傑物が現れる。そんな中で彼女は藤丸立香に出会った。

彼と一緒にいて分かったことがある。彼は人助けや並々ならぬ信念からの行動などに対しては損得勘定抜きで真摯に応える姿勢がある。目の前の問題を進んで解決するほど善人なのだ。

ならばこの今の世だって黙っていないはずだ。ならばどう思っているのか気になる。

 

「何のために戦っているか、か…それはやっぱ、生きるためだよ」

 

カルデアのマスターとして人理の修復及び守護という大きな使命がある。でも彼は当たり前の目的があるのだ。ごく普通の人間として生き続けるという普遍的な願いが。

そのためにどんな過酷な状況でも足掻いた存在が藤丸立香である。

 

「生きる為に?」

「うん、それは人間なら誰もが思う事だと思うよ。黄忠さんだってそうでしょ。それに璃々ちゃんにだって生きてもらいたいでしょ」

 

さも当然の如く答えた彼にちょっと虚を突かれる。

大陸の覇権を手に入れるとか、平和を手に入れるために国を創るとか、戦乱を治めるとか、大きい待望を持っているのかと思っていたが全然違った。

普通の、当たり前の答えが返ってきたのだ。彼は理想に溺れた愚か者でもないし、王として大きな器を持った人でもない。

普通の人であった。

 

「…そうね。璃々には幸せになってもらいたいし、私より長く生きて欲しいわ」

 

彼は普通であるが、何処か他の一般人とは違う何かを持っている気がする。それは才能とかではない。

その正体とは彼が今まで経験した旅で培ったモノだろう。今までの旅を考えてみれば当然だと思う。

彼は普通だが今に至るまでの旅路は普通ではなかった。ならば成長するのは当然である。そして、彼自身気付いていないかもしれないが『他人との縁に関する幸運』があると思う。

だけどそれだけなのだ。彼は王になりたいとか大陸を手に入れたいとか、そういうものはない。

 

(立香さんか…)

 

そんな不思議な人の周りには諸葛孔明や李書文達という天才や化け物達が集まっている。

彼らの力は目の当たりにしているので嫌というほど凄い人材だと理解している。その人材たちを纏めているのに私利私欲に使わない。

全員が彼に忠誠を誓っていたり、大切な友として接したり、好意を持たれたりしているのにも関わらずだ。

本当に変わった人だ。そしてとても良い人格者だ。でもそんな人間だからこそ彼等は仕えているのだろう。

 

「黄忠さんは?」

「私?」

「うん。黄忠さんはどうなのかなーって」

「私はそうねえ…将としてこの城を守り、民を守る。でもやっぱり、一番は璃々の為ね。母親として娘の幸せを願うわ」

 

黄忠は娘の頭を優しく撫でる。その顔は慈愛に満ちていた。そして自分自身、昔を思い出す。最初の原点は力無き人々を守るために武芸を極め、軍人に為ると決めたはずだった。

 

「うん。素敵な女性だね黄忠さんは」

「え、えっと…立香さんったら」

 

いきなり「素敵だ」と言われてつい照れてしまう。久しぶりに男性にそんな事を言われて心がドキリとしてしまったのだ。

部下からは素晴らしい将として人徳者として褒められ慣れているが、女性として褒められたのは本当に久しぶり。

大人の女性として平然を保たねばと思ってちょっと深呼吸。流石に自分はそんな安い女と思われたくないのだ。それはやっぱり大人の女性として。

 

「もう、からかわないで立香さんったら」

「本心だけどなぁ」

 

まっすぐな目を見て分かってしまう。確かに彼は本当にそう思ったからこそ本心で言ったのだろう。

調子が狂うというか、ペースを取られてしまうというか。自分の顔が赤くなっていないかとつい気になってしまう。

 

「え、えと…もう」

「あ、可愛い反応。ねー、璃々ちゃん」

「お母さん、可愛いー」

「こら、璃々まで」

 

流石にこのままではマズイので急いで話題を変える。

 

「そ、そういえばこんな予言があるのを知っているかしら?」

「予言?」

「ええ、『天の御遣い』というものよ」

 

『天の御遣い』。この乱世を鎮めるために天から遣わされた者が流星と共に舞い降りる。

嘘か本当か分りもしないが、今のご時世では多くの力なき民が縋ってしまう噂だ。

 

「へえ…」

 

三国志の物語で『天の御遣い』なんて言葉は聞いたことも無い。

流石に藤丸立香だって三国志の大まかなことくらいは知っているが、『天の御遣い』なんて大きな題材になりそうなものが三国志に出てくるなら絶対に知っているはずだ。

考えられるのは本当に歴史に残らなかった民草たちの拠り所の噂にすぎないか、この時代の特異点たる何かか。

面白い情報が手に入ったものだ。

 

「その噂って何処が発端?」

「ええっと…確か管輅っていう占い師が占ったと思うわ」

「ふーん、管輅ね」

 

今いちピンとこない。残念だが彼の頭ではその管輅の知識はない。

 

「どこに居るか分かる?」

「さあ、それは分からないわ。ごめんなさいね」

「そっか。なら仕方ないね」

 

『天の御遣い』。この存在は彼にとってまさかの縁になるのかもしれない。

 

 




読んでくれてありがとうございました。
次回もゆっくりとお待ちください。

新たな恋姫キャラは黄忠さんたちでした。
どんどん藤丸立香は恋姫のキャラたちと縁を紡いでいきます。


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