Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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GWも終わりかー…早いもんだなぁ。
鬱病にならないように気をつけないとなー。(GWが終わるという現実に目を背けたい作者)

さてさて、そんなことよりも物語は始まります。


鬼神孫堅と方士于吉

185

 

 

孫呉の命運を決める戦いは始まった。

 

「行きなさい孫堅」

 

于吉がそう命令すると炎蓮は動いた。

 

「命令すんじゃねえ!!」

「来るぞっ…ぐぼらっ!?」

 

動いたと感じ取った瞬間に燕青が真横に殴り飛ばされていた。

 

「え、燕青!?」

 

炎蓮は既に藤丸立香たちの間合いに入っていた。そして南海覇王を振り上げる。

 

「いかん、荊軻はマスターを!!」

「分かっている!!」

 

荊軻は藤丸立香を抱えて燕青が殴り飛ばされた方向に跳ぶ。そして李書文は炎蓮の剣を受け止めた。

 

「うるらああああああああ!!」

「ぬうううううう!!」

 

受け止めた炎蓮の一撃は強く重い。

 

(これほどとは…!?)

 

炎蓮の強さは知っていた。戦った事は無いが鬼神の如く強さは想像していたが想像以上の力にズドンと想像を貫かれたのだ。

 

「うるらぁあああああああ!!」

「負けぬぞ孫堅!!」

 

炎蓮の南海覇王の剣捌きと李書文の槍捌きが何度も打ち合われる。

 

「痛てて…油断したつもりはないけど、油断した」

「燕青、大丈夫!?」

「平気か?」

 

跳んできた荊軻と抱えられた藤丸立香は燕青の容体を見る。

 

「ああ、平気だ。ギリギリ腕でガードしたからな。だけど…」

 

燕青の籠手に殴られた窪みが出来ていた。

 

「ったく、どんだけ馬鹿力だよ。俺より筋力があるんじゃねえか?」

「そんなに!?」

「それに速さも尋常では無かった。炎蓮が強いのは知っていたがアレは異常な強さだぞ」

 

燕青も荊軻も炎蓮の異常の強さに驚いていた。2人も彼女が強いのは知っていたが今の彼女の強さは想像以上であるのだ。

元々、規格外の強さはあった。だが今はそれ以上の力を持っている気がするのだ。

 

「本当に彼女本来の強さなのか。それともあいつが何かしたのか」

 

荊軻が横目で于吉を見る。

 

「ええ。私が何かしました」

 

コツコツと歩いてくる于吉。その手には呪符のような物を持っており、それを投げ飛ばしてくる。

投げ飛ばされた来た呪符を荊軻は全て匕首で切り裂く。

道士の放つ呪符関係は危険である。どんな効果があるか分かったものではないのだ。

 

「炎蓮さんに何をしたんだ」

「肉体改造をしただけです。彼女の潜在能力は元々この外史の中では一二を争うくらいですからね。そこに新たな力を植え付けたのです」

「植え付けた?」

 

于吉は炎蓮の異常な力について呪符を投げながら説明を始めた。逆に藤丸立香たちは呪符を切り裂き、撃ち落としながら説明を聞き始める。

 

「私が孫堅を攫った時は既に死にそうなくらい重症でした。だからこそアレを植え付けるのに丁度良かった」

「アレ?」

「鬼神ですよ」

「鬼神?」

 

鬼神と聞いて鬼の英霊である酒呑童子や茨木童子が頭を過る。

 

「鬼神とは恐ろしく荒々しい神という意味でありながら悪鬼とも言われている怪物です。そもそも中国では人が死んだあとは鬼、悪鬼、鬼神になると言われているんですよ。その鬼神を死にかけ孫堅に植え付けるのは伝承的に合いました」

 

死んだ人間が鬼、悪鬼、鬼神になるというのなら、死にかけた人間にその存在を植え込むのは十分に融合するのに合う考えだ。

死んだら鬼になるなら、死にかけた人間に鬼神が憑依すること自体おかしな話では無い。

 

「今の孫堅は荒々しい鬼神なんですよ」

「炎蓮さんが鬼神!?」

「ええ。だからこそあの異常な力なんです」

 

鬼神という言葉を聞いて思いつくのは恐ろしいまでの力というイメージだ。炎蓮には鬼神の力を植え付けられたという真実だけであの異常な力に納得してしまう。

 

「うらああああああ。どうした李書文。てめえの力はそんなもんか!!」

「言ってくれるのう孫堅よ!!」

 

槍で剣を弾いて、そのまま拳を叩き込むが炎蓮も拳を握って突いた。

 

「うらああああああ!!」

「奮破!!」

 

拳同士がぶつかっては余波の衝撃が周囲に響く。お互い本気の突きであり、相手を砕く一撃であったのだ。

 

「呵々、やるではないか孫堅!!」

「てめえもな李書文!!」

 

船の上を横走りしながら打ち合いに至る。拳の突き合いに、蹴りの交差。剣戟に槍の刺突。

炎蓮と李書文は己の全てを繰り出す。少しでも気を抜けば致命傷を負わされるのだから2人は全神経を戦いに集中させる。

 

「うるらぁあ!!」

 

南海覇王を力の限り振るうと斬撃が飛び出した。

 

「ぬう!?」

「うおらあああああああああああ!!」

 

たった一振りでは終わらない。炎蓮は連続で南海覇王を振って斬撃をいくつも繰り出す。

 

「まったく、セイバーなのかバーサーカーなのか…いや、バーサーカーだな」

 

彼女の攻めはバーサーカーさながらの勢いだ。

更に彼女の振るう南海覇王の速度が徐々に早くなっているのだ。それで斬撃を飛ばしてくるというのだから脅威である。

 

「おらおらおらうらあああああ!!」

「破あああああああ!!」

 

李書文は槍を振るって斬撃は出せないが炎蓮の斬撃を掻き消すくらいはできる。

このまま2人が戦い続けていればいずれ船は壊滅する勢いであった。

 

「凄いですよね。孫堅の潜在能力に加えて鬼神の力。相当強くなると予想していましたが彼女があそこまで化けるとは思いませんでしたよ。良い意味で予想外でした」

 

今の炎蓮は英霊とも対等に渡り合える強さを持っている。藤丸立香たちが戦ってきたワイバーンや魔猪などの怪物なら今の炎蓮なら簡単に倒せそうである。

 

「更に加えてアレの調整も間に合えば良かったのですがね…」

(アレ?)

「そして今回は私も出張りますしね」

 

ニコリと笑った于吉は呼吸するのが当たり前のように呪符を投げてきた。

 

「てぇい!!」

 

その呪符は荊軻が全て切り裂く。

 

「まだまだありますよ」

 

気が付いた時には足元に呪符が張られていた。

 

「いかん!?」

「マスター、姐さん!!」

 

燕青が藤丸立香と荊軻を引っ張って後退した瞬間に足元に張られていた呪符が爆発した。

 

「起爆符みてえなもんか」

「ふふふ。専門は策など考えて計略で絡める事なんですが…私も実は結構戦えるんですよ?」

 

バラリと様々な文字が書かれた呪符出す于吉。

 

「炎蓮さんを…孫堅さんを元に戻せ」

「元に戻すとは?」

「孫堅さんを解放しろって言ってるんだ」

 

無駄だと分かっていても口にしたかった。炎蓮を解放してほしい。

 

「しませんよ」

 

やはり無駄であった。于吉は「何を言っているんだこいつ?」みたいな声質で答えたのだ。

 

「それに元には戻せませんよ。彼女は鬼神になった。それは過ぎた時間を元に戻せと無茶を言っているようなものですよ……まあ、人外筋肉は別として」

 

もう鬼神となった炎蓮は人間には戻せない。

 

「もう孫堅を止めるには殺すしかありませんよ。もしくは太平要術の書を破くなり、燃やすなりしなさい。まあ、その太平要術の書は助けるはずの孫堅の身体の中にあるんですがね」

 

本当に于吉はいい性格をしている。元凶を壊すための太平要術の書を炎蓮の身体に植え込むなんて藤丸立香の善性を削り切りに来ている。

 

「荊軻の姐さんは李書文の方を手伝った方がいいんじゃねえか?」

「いや、炎蓮さんは李書文に任せる」

 

この言葉は李書文に聞こえていた。

 

「ああ、任せよマスター。こやつの相手は儂1人で片づける…むお!?」

「って、そう言いながら今ぶっ飛ばされてんじゃねーか!?」

 

炎蓮の拳を受け止めたが、そのまま壁を突き抜けて船内へと殴り飛ばされた李書文。それを見ていた燕青は冷静にツッコミを入れるのであった。

 

「荊軻、燕青。まずは于吉を倒す。今ここで倒せばいいだけなんだ」

 

全ての元凶である于吉。于吉さえ倒せばこれ以上の異変は起きない。

この考えも単純であるが一番の解決策である事に間違いは無い。

 

「マスターの言う通りだ。目の前の元凶をぶっ飛ばせば終わりなんだからよ」

「そうだな」

 

燕青と荊軻が構える。いつでも于吉に一撃を撃てるように準備は出来ている。

 

「私を倒す…ですか」

 

于吉は呪符を何枚も自分の周りに展開した。

 

「簡単に倒せると思ってます?」

 

更に呪符を展開させる。

 

「そもそも倒せる前提で話してません?」

 

まだまだ呪符を展開させた。

 

「私が操り人形の孫堅や兵馬妖よりも弱いなんて思わないでください」

 

ギラリと目を光らせ、指を藤丸立香に翳すと呪符が一斉に飛んできた。

 

「警戒して荊軻、燕青!!」

「了解した」

「おう!!」

 

多量の呪符が展開された。その呪符には様々な文字が書かれているのが見えた。

見えるだけでも爆、氷、雷、斬、撃、毒と様々である。

 

「叩き落とせるものは全て落として!!」

 

撃ち落とせないのならば避ける事も頭に入れておく。

 

「燕青はスキル『中国拳法(EX)』を!!」

「はいよぉ!!」

 

燕青のスキル『中国拳法(EX)』の発動によって燕青の動きが変化する。変化と言うより本気の動きになっただけだ。

水滸伝で登場する青燕拳。少林寺に学んだ廬俊義が燕青に伝え、燕青が纏めたもの。

 

「おらよっとぉ!!」

「荊軻はスキル『抑制(A)』。于吉に悟られず近づいて攻撃するんだ。その隙を見逃さないように動いて」

「承知したマスター」

 

藤丸立香は于吉を倒すための采配をする。

 

(ふむ、カルデアのマスターは戦いになると肝が据わりますね)

 

于吉は油断しない。英霊の力は勿論、魔術師としての腕が未熟な藤丸立香ですら本気で殺しにいく。

 

「爆死しなさい」

 

起爆符を燕青たちの周囲に展開させて爆発させる。

 

「感電死しなさい」

 

今度は『雷』と書かれた呪符を展開させて雷が放出される。

 

「まだまだありますよ」

 

次々と呪符を展開させて藤丸立香たちを攻めていく于吉。

 

「妖しい術使うじゃねえか」

 

燕青が展開された呪符の中から現れる。よく見ると藤丸立香は少しだけ傷ついていたが無事であった。

 

「守りましたか」

 

接近させまいと呪符を投げつけるが全て叩き落とされてしまう。

 

「呪符を恐れずに叩き落としますか。流石はあの燕青ですね」

 

燕青の拳が于吉の顔面に迫るが寸前で防がれた。于吉の顔の目の前に呪符が複数展開されたからである。

防がれたからといって燕青の攻撃は終わらない。防がれたら次の一手を出せばいい。

 

「せい!!」

 

燕青拳の複雑な歩法を行いながら拳を繰り出していった。

敏捷な動きで急回転して背後を取る。姿勢の高低を急激に変化させながら攻撃する。人体の急所や関節を狙っていく。

 

「簡単には取らせません!!」

 

于吉はいうと燕青の複雑で俊敏な動きに反応して紙一重で呪符で防いでいく。

 

「あんたやるじゃねえか!!」

「愛する者が武術の熟練者ですからね。ずっと見てきましたから武術家との戦いも多少は慣れてます」

 

慣れてはいても于吉は武術家では無い。加速していく燕青の動きにいずれ追いつくのが難しくなる。

 

「やっぱり接近戦は専門ではありませんので」

 

足元に起爆符を貼って爆発させた。

 

「床が無くなれば複雑な歩行はできませんよね」

「おっとぁ、危ねえ!?」

「あなたのマスターが一人ですよ」

 

護衛のいない藤丸立香に呪符を投げつける。

 

「チッ」

 

急いで後退して己の主を守りに行く。

 

「もう近づかせません。このまま距離を……カルデアのマスターが1人?」

 

先ほど自分で口にした言葉に疑問を抱く。今、視認できるのは藤丸立香と燕青だけ。

荊軻がいないのだ。

 

「まさか!?」

 

気が付いた時には荊軻が于吉の間合いに接近していた。

「アサシン…!!」

「ああ。私はアサシンクラスだよ。彼もね」

 

彼女のスキルである『気配遮断(B)』と『抑制(A)』の能力。攻撃寸前まで殺気の一切も出さない状態で于吉に接近したのだ。

 

「しぇああっ!!」

「間に合え…!!」

 

于吉は荊軻に起爆符を放つのではなく、自分に放って起爆させた。

 

「自分に…そういうことか」

 

自分に起爆させた事で無理矢理にでも荊軻から距離を取ったのだ。

 

「起爆符の威力は自在に変えれるので自分自身で致命傷を受けるなんて馬鹿な事はありませんよ」

「あと少しだったんだがな」

「ええ、あと少しでしたよ。あなたが攻撃態勢になった瞬間に漏れたほんの少しの殺気に反応できなかったら終わりでした」

 

スクリと立ち上がって煤を払う。

 

「私が常人だったら今ので殺られてましたよ。常人だったらね」

 

于吉は常人ではないから荊軻の刃から避けた。避けた事よりも紙一重で反応した方が于吉の常人でない事を表している。

 

「私の正体は外史の管理者ですよ。あなた方よりも高次元の存在だと言うことをお忘れなく」

 

忘れていけないのが于吉の正体について。

彼は一緒にしてほしくないだろうが貂蝉と卑弥呼と同じように次元の違う存在。恐らく英霊と渡り合える存在である可能性は高いのだ。

実際に紙一重で荊軻の攻撃を回避してみせたのが証拠の1つだ。それに直感であるがまだ何か力を隠していると思っている。

 

「英霊はやはり強いですね。なら私も力を見せましょう…『于吉』としての力を」

 

于吉が手印を組みあげながら何か呟くと天候が急に悪くなった。

雲行きが怪しくなり、晴れ渡っていた空が黒い雲で覆われた。

 

「何だ…?」

 

雨が降り始め、雷が鳴り始めた。激しい雷雨が起こったのだ。

 

「あなた方は『于吉』という道士の逸話を知ってますか?」

「なに?」

「于吉の逸話の中には激しい雷雨を発生させたなんてものがあるんですよ。雨を降らした…それは天候を操作する力と同義。私という高次元の存在はその力をより昇華させることができる」

 

雷雨の影響により長江の河は増水していく。よって河の流れに変化が起きるということだ。

黄祖水軍と孫呉水軍の船にも影響が出てしまう。天候が酷い時に船を出すのはどの時代もしない。

 

「私は天候を操る力もあるんですよ。墜ちろ雷!!」

「マズイ、みんなっ!?」

 

雷が藤丸立香たちに向けて落ちる。その威力は誰もが知っていた。遺伝子に組み込まれたように知っている。

于吉や藤丸立香たちが乗っている大きな船でさえ容易く壊滅させてしまう力だ。雷をが明されていない時代なら神の怒りとして広まり、恐れられていたほどである。

 

「雷を操るということは神の領分にすら入ったということです」

「……知ってるよ。神の領分であった『雷霆』を人類文明に引き寄せた偉人が仲間にいるからね」

「ニコラ・テスラですね」

 

藤丸立香たちは無傷ではないが無事である。

 

「よく無事でしたね」

「さっきも言った通り、雷の力を使う仲間がいるんでね。それに雷を使う人とも何度も戦った」

「ほお」

「雷の怖さが無くなったわけじゃないけど…人間は対処は出来るように知恵を付けたんだ」

 

雷は怖い。自分の身体に落ちれば即死である。

だからこそ人間は落雷には気を付けているのだ。

 

「どうやって防いだか気になりますね…なら何度も落とすだけです」

 

于吉が手をかざす動作を見た燕青と荊軻は藤丸立香を抱えて移動した。そして彼らが移動する前に居た場所に雷が落ちる。

 

「やっぱり于吉の手の動きと連動しているみたい!!」

「だな。操っているから当然か」

「逃がしません!!」

 

呪符を逃げた先に投げて起爆させたが、お構いなしと言わんばかりに燕青が突貫したのだ。

 

「まずはあなたから…って、またですか!?」

 

于吉が意識を燕青に向けた瞬間にすぐに意識の方向転換して荊軻に向ける。先ほどと同じようにスキルでいつの間にか彼女が于吉に近づいていたのだ。

素早く呪符を展開して刃を防ぐ。防いだ瞬間に彼女が後退して燕青が前に出てきて拳を振るう。

 

「あらよっとぉ!!」

「急に動きが早くなりましたね」

 

雷を落とされると分かっているのならば一ヶ所に固まるわけにはいかない。そして立ち止まってもいられない。

落雷に撃たれないように動き回るしかないのだ。

 

(確かに動き回られると狙いがつけにくいですね)

 

手をかざす。

 

「下手な鉄砲数撃ちゃ当たるって言いますしね」

 

落雷が船にいくつも落とされる。

 

「危ねえだろ!!」

「私は平気ですので」

「船が沈むだろ!!」

「沈んでも構いません」

 

于吉は燕青と会話しながら視線を荊軻から外さない。

燕青が前衛に出て意識を引き付けて、荊軻がそのうちに近づいて攻撃を決める作戦。少しでも荊軻から意識を外せば一瞬で接近されて暗殺される。

 

(そういえばカルデアのマスターは…?)

 

カルデア側の重要人物の1人である藤丸立香。この戦いで彼さえ殺せば英霊たちは勝手に消滅するのだから相手側にとって弱点だ。

 

(彼さえ殺せば終わり。まあ、英霊たちが必死に守るでしょうけど)

 

藤丸立香は落雷に当たらないように走り回りながら指示を出していた。戦いで自分が役に立たないのは嫌でも分かっている。

ならば自分が出来る事は死なない事である。死ななければ終わりでないのだから。

 

「燕青、そのまま攻め続けて。荊軻も于吉の隙を見逃さないで!!」

「そこですか」

 

于吉が藤丸立香を発見して呪符を投げつける。

 

「マスター!!」

「大丈夫だから攻め続けて!!」

 

極地用カルデア制服のスキル『予測回避』を発動していたため、呪符の軌道を予測して回避してみせた。

 

「……あれ、彼っていつの間に着替えたんでしょうか?」

 

気が付いたら藤丸立香が別の魔術礼装に着替えていた。いつ着替えたのか分からないくらい早着替えであったのだ。

 

「早着替えは得意!!」

 

ドヤ顔の藤丸立香。

 

「うちのマスターは本当に早着替えが得意なんだよな」

「そうだな」

 

ウンウンと頷きながら容赦なく殴りかかる燕青と荊軻。そして容赦の無い拳を呪符で受け止める于吉であった。

 

(…早着替えはさて置き、このまま戦い続ければ劣勢になりますね)

 

今の戦況だと于吉は英霊2騎を相手取っているが実は苦戦を強いられている。彼の本来の戦闘スタイルは前衛で戦う事ではない。後方で支援しながらの戦いをするタイプだ。

 

(案外、最初に孫堅を李書文によって私から遠ざけたのは正解でした。しなければ今頃、私は孫堅の後ろから上手く戦えたのに)

 

最初の段階で藤丸立香が于吉と炎蓮を離すような戦いにしたのは正解であった。もしも于吉と炎蓮を組み合わせて戦いになったのならば苦戦させられていたからだ。

 

(雷を全体的に落としますか…それなら。いや、それは出来ませんね。おや、彼の居る場所は…)

 

于吉は藤丸立香がいる場所を見て、ある事を思いつく。

 

「喰らいなさい!!」

 

于吉も複雑に動きながら呪符をまばらに投げつける。

 

「適当に投げてんじゃねえよ!!」

 

燕青は後ろに藤丸立香がいるのを確認して、自分が前で呪符を全て叩き落とす。

 

(タイミングよし)

「マスター!?」

「うわ!?」

 

藤丸立香の背後から斬撃が飛んできたのだ。

だが荊軻が藤丸立香を押し倒す事で飛んできた斬撃を回避してみせた。

 

「惜しい」

 

飛んできた斬撃は船内で戦っている炎蓮が出したものだ。于吉は炎蓮の位置を操り人形として特定している。

李書文と戦っている彼女にタイミングよく放たせたのだ。

 

「当たりはしませんでしたが動きは止まりました。それで十分です!!」

 

急いで回避しようと荊軻は藤丸立香を抱えて動き出そうとする。燕青もすぐに助けに行こうとするがいつの間にか床に張られてあった起爆符が爆発した。

 

「遅い!!」

 

手をかざして雷を倒れている荊軻と藤丸立香に落とした。

雷の威力は巨大船さえ破壊し、燃やす。

 

「…また無事ですか」

 

直撃したかと思えば藤丸立香は無事であった。

 

「む…アレは?」

 

よく見ると彼の周りには液体のようなものが覆われていた。雨が降っているおかげで見つけやすかったのだ。

液体が何かまでは分からないが于吉は覆われていたモノで雷を防いだのだと理解した。

 

「彼は魔術を使うなんて…素人レベルのはず」

「ああ、魔術なんて全然だよ。でも使わせてもらう事はできるんだ」

 

使わせてもらったものとは概念礼装。人や物といった物質、歴史や物語といった積み重ねられてきた事象、魔法や魂といった神秘とされるもの等、様々な物品から概念を摘出して能力として身につけられるようにしたものだ。

藤丸立香も魔術は出来なくても概念礼装を使うことは出来る。

その概念礼装の中で攻撃を防ぐモノはいくつかある。その1つとしてあるのが『月霊髄液』である。

魔術的に水銀を操作して敵の攻撃を防ぐ礼装だ。本物の魔術師ならば防御だけでなく、攻撃や探索にも使うことができるのだ。

更にノウム・カルデアには『月霊髄液』をより改良して生み出された従者を使用する英霊だっているほどである。

 

「これは今までもこれからもお世話になってる」

「なら、もう一度…!!」

「させるかよ!!」

 

起爆符から無事であった燕青は船の床板を大きめに剥がして于吉へと投げつけた。

巨大な板切れが飛来するが起爆符を投げつけて爆破する。

 

「今ので隙は十分だ」

「あなたは…!?」

 

警戒していた荊軻が于吉の間合いに入り込む。

今度は外さない間合い。匕首を構えて、荊軻は踏み出した。

 

「一殺!!」

 

完全に于吉の動きを捉えた荊軻は匕首を振るう。振るった先は于吉の首である。

 

「なに!?」

 

確かに于吉の首は捕らえたが手応えが無かった。まるで何も斬らずに空振りした感覚が荊軻を襲ったのだ。

于吉の首は無傷。しかし荊軻が匕首を振るった軌道線には于吉の首があったはず。

 

「今のは避けられなかったはずだ」

「フフフ、終わりです。ここで英霊1騎を仕留める!!」

 

この瞬間を狙うために于吉は最初にワザと起爆符で避けるなんて行動をしてみせた。今のように不可解な避け方を隠すために。

 

「こっちが一殺です!!」

「いや、殺られはしないさ」

 

起爆符を直接荊軻に貼り付けて爆散させようとしたが空を切った。荊軻が于吉の視界から消えたのだ。

 

「消えたっ!?」

 

今度は于吉が驚かされた番であった。

消えたと思っていたら燕青が急に視界に映った。拳を構えており、いつでも撃ち込める状態だ。

 

「よお」

「なっ、入れ替わったのか!?」

 

入れ替わった仕組みは藤丸立香が着ているカルデア戦闘服のスキルだ。またも早着替え。

スキル『オーダーチェンジ』。前衛と後衛を1騎ずつ選び、それらを交代させるというもの。

 

「またいつの間に着替えを…」

「燕青、決めてくれ!!」

「任せろマスター。これで終わりにするぜ!!」

 

拳を握る燕青。

 

(マズイ、避けられない。左慈から貸してもらった力もインターバルが残っているからまだ使えない!!)

 

護符で壁を作る暇も無く、避ける時間も無い。于吉は両腕を交差して防ぐしかなかった。

燕青はその両腕の上から渾身の拳を撃ち出した。

 

「あらよっと!!」

「ぐう!?」

 

于吉は両腕をへし折られ、殴り飛ばされた。

 

 

186

 

 

破壊音が船内に響く。更には耳を塞いでも鼓膜に響く咆哮が発せられていた。

ある2人が船内を駆け巡れば、その場は嵐が通ったかのように破壊されていく。

 

「覇あああああ!!」

「うおおおお!!

 

李書文と炎蓮の剣と槍の打ち合いは続いていた。

お互いに殺す気で武器を振るう。そうしなければどちらもすぐに殺されるからだ。

 

「うおらああ!!」

 

横一文字に南海覇王を振るうと斬撃が放たれた。

 

(ちっ…今、于吉から変な指示されたぜ)

「むん!!」

 

李書文は屈んで避ける。

炎蓮の斬撃はただ己の筋力だけで出しているわけではない。内に埋め込まれている太平要術の書から出ている妖力も糧としている。

 

「ったく自分でもこんな事が出来るなんて思いもしなかったぜ!!」

 

更に斬撃を繰り出す。その斬撃を李書文は上手く身体を捻って跳んで避けた。

 

「良い動きだな!!」

 

炎蓮は間合いを詰めて拳を突き出して李書文の顔面を狙うが避けられる。船内の壁なんて今の炎蓮にとって板切れ当然だ。

簡単に壁を殴り壊し、さらに余波で次々と船内の壁を壊していった。

 

「その膂力には恐れ入る」

 

槍を彼女の足に薙ぎ払う。次に胴体に突き刺す。その次は頭上から槍を振り下ろす。

 

「喰らうか!!」

 

その全てを炎蓮は防いだ。

 

「おらどうした!!」

「まだまだ!!」

 

李書文と炎蓮の殺し合いは続く。だが死合が始まれば、いずれ終わりが来る。終わらない殺し合いは無い。

決着は間違いなく近いのだ。

 

「うおらあああああああああああ!!」

「疾いっ!?」

 

避けられないと判断して南海覇王の一振りを上手く受け止めるが鬼神の膂力によってそのまま後方へと飛ばされた。

久しぶりに純粋な暴力だけで殴り飛ばされたのに李書文はこんな状況なのに何故か悪くない気分になっていた。ムクリと立ち上がって衣服の汚れをパッパッと叩く。

李書文は身体に異常が無いか確認にして戦えると判断。腕も脚も痺れるがまだ動く。

 

「先ほどより動きが疾い。それに膂力も上がっているな」

 

炎蓮は鬼神の力だけでなく体内に埋め込まれた太平要術の書からも力を流し込まれている。鬼神の力と太平要術の書の力が合わさって炎蓮に異常なまでの力を引き出しているのだ。

 

「このままだと儂より速さも膂力も上になるな。いや、もう儂より上かもしれん」

 

飛ばされて来た方向を集中して見る。全神経を研ぎ澄まし、いつでも反撃できるようにする李書文。

 

「………来る!!」

 

李書文がそう呟いた瞬間に炎蓮が一瞬で間合いまで跳び込んできた。

 

「うおおおおおお!!」

「むん!!」

 

南海覇王の一振りを瞬時に避けて槍を突き刺す。

 

「まだだ!!」

「むうっ!?」

 

炎蓮は李書文の神槍と言うべき突きを片手で掴み止めてみせたのだ。まさか掴み取ってくるとは思いもしなかったが彼女の力技につい凶悪な顔でニヤけてしまう。

 

「呵呵呵呵!!」

「なに笑ってんだよ?」

「お主の強さに舌が巻かれておるのよ。その強さに血肉踊るわ!!」

 

そう言いながら李書文は炎蓮の振るった南海覇王を片手でいなして手首を掴む。

お互いに相手の武器を掴んで攻撃を止まらせて見せた。

 

「はっ…力はオレの方が上じゃねえか?」

 

炎蓮は異常なまでの膂力で李書文の手から抜け出そうとしている。李書文の膂力だって負けていないがこのままでは先に武器が自由になるのは炎蓮だ。

ギリギリと李書文は炎蓮の腕を折るつもりで握り絞める。逆に炎蓮は李書文の槍を握り砕く程の力で握り止める。

 

「うらあああ!!」

「ぬうう…やはり厳しいな。これならどうだ!!」

「てめえっ!?」

 

今の均衡を崩すため南海覇王を蹴り飛ばした。そして自分の槍さえも手放す。これには炎蓮も一瞬だけ虚を突かれるがすぐに冷静になる。

 

「武器を無くさせたくらいで戦況は変わらねえぞ!!」

 

炎蓮は武器を無くさられたくらいでは焦りもしない。今の自分なら剣がなくても己の四肢だけでも敵を殲滅できるからだ。

拳を握って李書文を何度も何度も殴った。完全に壊すつもりで殴りつけた。その全てを両腕で防ぐが時間の問題である。そのまま防ぎ続ければ腕を破壊されて次は霊核を破壊されるのが予測できるからだ。

 

「次の手はねえのかよ。早くしねえと、てめえをぐちゃぐちゃに殺しちまうぞ!!」

 

一切の容赦なく殴り、蹴り、撃ち、潰していく。それでも李書文は耐え続ける。

耐え続けるのは待っているからだ。炎蓮が完全に李書文の間合いから逃げられなくなる所に入るまで。

 

(ぐ、もう少し…)

 

既に十分、間合いに入っているのだが今の彼女は超反応するくらいの反射神経を持っている。ならば完全に逃げられないくらい確実性が欲しいのだ。

殴られる度に李書文から血がボタボタと飛び散るが耐え続ける。下手すれば本当に霊核まで砕かれそうだ。

 

(もう少しだ)

 

そして、その時が到来した。

 

(ここだ!!)

 

ギラリと凶悪な目が炎蓮を捉えた。

 

「……武の極致を見せてやろう!!」

「見せられるもんなら見せてみろ李書文!!」

 

炎蓮はトドメの一撃を李書文に叩き込む構えになっている。鬼神と太平要術の書が合わさった力を拳に込めて突き出した。

 

「うるぅああああああ!!」

「圏境!!」

 

気を練り、周囲の状況を感知。周囲の状況という部分を炎蓮の動きにあてはめる。

反射神経を研ぎ澄まして炎蓮の必殺の拳を薄皮一枚のレベルで避けたのだ。炎蓮の必殺の拳は空を切った。

 

「この距離で避けやがっただと!?」

 

常人ならば避ける事のできない必殺の拳を避けた。炎蓮は今の一撃で李書文を殺したと思ってしまったが予想が外れたのだ。

彼女は予想が外れて良かったと思っている。この後の未来はもう分かった。

 

「覇亜亜亜亜亜亜!!」

 

李書文の凶拳は炎蓮を逃がしはしない。彼女が反応する前に動いた。

 

「絶招!!」

 

八極拳の奥義であり、対人における一つの究極。

 

「……てめえの勝ちだ。李書文」

「七孔噴血…噴ッ破ァ!!」

 

李書文の凶拳が炎蓮に打ち込まれ、体内に埋め込まれた太平要術の書さえ破壊した。

 




読んでくれてありがとうございました。
次回は恐らく一週間後予定のつもりです。

今回の戦闘シーンはどうでしたでしょうか。やっぱり戦闘シーンの描写は難しいですね。
戦闘シーンも幅を広がせるために様々なモノを取り入れてみました。
概念礼装やスキルを使ってみたり、恋姫キャラの『于吉』の逸話を宝具っぽくしてみたりとか、妖魔(鬼神)を融合させて孫堅を異常に強化させてみたりとか。

物語的には孫堅との戦いを多めに書いていたつもりが于吉の方が多くなってましたが、何とか1話でまとめました。いろいろ考えた結果がこんな感じの戦いになりました。

次回で呉の過去sideは終了です。残りは現在sideに移ります!!

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