Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義 作:ヨツバ
年号が令和になっても執筆は変わらず頑張りますよ!!
183
孫呉水軍が長江を渡って江夏に向かっている最中に前方から黄祖軍の船が五隻向かってくるのを確認した。
すぐに警戒したが何か不自然に感じたのだ。最初は迎え撃つために来たかと思っていたが何かおかしいと判断。
「何かしらアレ?」
黄祖軍の船には人間ではなくて土人形のようなモノが陳列されているのが見えたからだ。
それだけでおかしいと判断できる。
「黄祖軍の船だけと…乗ってるのは黄祖軍じゃない?」
黄祖軍の船に乗っている土人形は雪蓮たちは分からない。しかし分かる者は孫呉軍の船にいる。
藤丸立香たちである。
(あれは…兵馬妖!?)
土人形とは兵馬妖であったのだ。
それから導き出されるのは簡単で、黄祖軍の船に乗っているのは于吉ということである。
すぐさま雪蓮たちに報告しようとしたが出来なかった。出来なかったわけがある。
「か、母様っ!?」
雪蓮たちの目には兵馬妖でなく炎蓮の姿が映ったからだ。黄祖軍の船の1隻に炎蓮が静かに立っている。
死んでいたと思っていた炎蓮が生きていたという事実に今の雪蓮たちに何を話しても聞こえていなかったからだ。
「よ、良かった…母様生きてた」
炎蓮が生きていたという事実が兵馬妖の事を頭の片隅に追いやってしまっていた。
「炎蓮様…」
粋怜と明命は涙目だ。守れなかった主が生きていたのならばこれほどうれしい事はなく、今すぐにでも不甲斐ない自分を罰してほしいと思ってしまうほどだ。
「炎蓮様…生きておったのですな」
祭も信じられなかったが炎蓮が生きていた事に嬉しく持っている。
「何で黄祖軍の船なんかに乗ってるんだ?」
燕青がごく当然の疑問を口にした。
「そんなもの炎蓮様が敵から奪ったに違いないわい。流石は炎蓮様じゃ!!」
「いやいや…」
そんな事は出来ないと燕青はツッコミを入れた。
炎蓮がとんでもなく強くて圧倒的でも頭に矢を撃たれた人が敵軍から1人で船5隻も奪うなんて出来るはずがない。
そのような事は英霊だって出来ない。出来る者がいるならば人間ではない。
「母様ー!!」
本来ならば警戒するべきである。炎蓮が無事だったという事実に対して疑問に思うべきだ。
「船をもっと近づけて!!」
警戒するべきだが雪蓮は船を無警戒に近づいてしまう。その行為を咎める者は誰もいない。
「母様ーーーって、ぶつかる!?」
無警戒に近づいた結果、孫呉の船と黄祖の船が衝突した。
「きゃあああああ!?」
「落ちないように掴まれーー!!」
まさか衝突するなんて思いもしなかった。
「何で突っ込んでくるのよ!?」
「何でじゃねえだろが!!」
ここで炎蓮はやっと口を開いた。
「どう見ても怪しいと思わねえのかよ!!」
「ええ!?」
炎蓮は雪蓮たちに叱責を始める。
「オレが無事で、こんな土人形を大勢も黄祖の船に乗せて長江を渡ってる時点でおかしいだろが!!」
言われるまでも無く、おかしいと思っていた。炎蓮は額に矢を受けて瀕死だと聞いていたが目の前にいる彼女はそうではない。兵馬妖を船に乗せて長江を渡ってるのも意味が分からない。
「こんな怪しいのに不用意に近付いてくるんじゃねえ!!」
「だって、母様なら黄祖軍から船を奪うなんてなんか出来そうだし!!」
「額に矢を受けた奴が敵から船を5隻も奪えるはずねえだろが!!」
普通に考えて正論である。
「じゃあ、何なのよ!!」
何故、炎蓮は無事で兵馬妖を乗せた船に乗っているのかという当然の質問をする。
「いいか、順に答えてやる。まずオレが無事なのは于吉とかいう道士に治療されたからだ!!」
治療されたと聞いて一瞬だけ安心したが、治療したのが于吉なら安心出来ない。雪蓮たちは于吉をまだ知らないから不安や疑問だと思っているのは藤丸立香や明命たちだけだ。
「于吉って立香たちが追っている奴よね。それに母様をかどわかした…」
「なら于吉はとんでもない御方を治療したもんじゃわい。炎蓮様を甘くみたなのう」
「甘く見てんのはてめえらだ!!」
一喝が祭たちを引き締めた。
「死んでもおかしくないオレを治療したということは、それだけの技術を持っているってことだ。そして奴は大陸を混乱に陥れる道士と聞いている。そんな奴が善意でオレを治療するだけなんてねえ!!」
確かに于吉が炎蓮を治療だけするために誘拐したとは考えられない。何か裏があるはずである。その裏というのが船に乗っている兵馬妖と考えられる。
「てめえらよく聞け!!」
「な、何よ母様!!」
「オレは于吉って野郎に操られてるんだよ!!」
いきなり訳の分からない事を言い出す。意味が分からないわけではなく、炎蓮が操られている事が信じられないのだ。そもそも彼女ならば気合で操られないように何とかしそうである。
「だから于吉を甘く見過ぎなんだよ。オレを操るような輩だぞ」
「あ、操られてるって…」
「でだ。操られているオレがこれから何をするかだが…」
操られている炎蓮が何をさせられるか。その答えが信じられないものであった。
「てめえらを殺す。そして建業を攻めて滅ぼすことをさせられる」
「ちょ、母様。それは冗談でも…」
「冗談じゃねえ!!」
「っ!?」
彼女の気迫に冗談でも何でも無いことが嫌でも分かってしまう。炎蓮はこれから自分の娘を殺す。自分の臣下を殺す。自分の治めた街を滅ぼす。
そんな事は炎蓮だってしたくもない。しかし操られている彼女は自分の意思で自分を抑える事ができないのだ。
「だからオレはてめえらに頼み事がある」
「た、頼み事って…」
「オレを殺せ!!」
「ば、馬鹿な事言わないでよ!?」
殺せと言われて自分の母親を、自分の主君を殺すなんて出来ない。
「何を言っておるのです炎蓮様!?」
「冗談でもそんな事を言わないでください炎蓮様!?」
祭と粋怜は猛抗議ばりの大声を出す。この気持ちは主君対して大きな忠誠を誓っている者ならば分かるはずだ。
それほどまでに炎蓮の言葉が臣下である祭たちにとって信じられず、衝撃的な言葉であったのだ。
「冗談じゃねえ。オレを討ち取れ!!」
「それは冗談以外の何にも聞こえないわよ!!」
炎蓮と雪蓮の言い合いは止まらない。炎蓮は自分が大切な人を殺してしまう前に殺してでも自分を止めて欲しいと思っている。
逆に雪蓮は生きて欲しいと思っていた大切な人が生きていたのだ。何が何でも助けたいと思っているのは当たり前。
炎蓮を助けたい。何か彼女を助ける手があるはずだ。絶対に手がある。
雪蓮は全て炎蓮を助ける方法を考える。それは臣下である祭たちだって同じ事を考えているのだ。
自分たちが思い描くハッピーエンドを手繰り寄せるために。
「いい加減にしろ!!」
しかし雪蓮たちの願うハッピーエンドは無く、炎蓮によって見たくも無い現実を見せられる。
「オレはもうどうしようもねえんだよ。オレはこのままだとてめえらを殺す。建業を攻め滅ぼしちまう……なら殺してでも止めるべきだろ!!」
「それが出来るわけが無いって言ってるのよ!!」
「出来る、出来ねえの問題じゃねえ。ヤルんだよ!!」
炎蓮は怒声を大きくしながらも雪蓮たちを叱る。
「雪蓮。今のてめえは何だ!!」
「わ、私は母様の娘よ。そして孫呉の次期当主よ!!」
「違う。てめえはもう孫呉の当主だ!!」
怒声によってビクリと身体が強張った。雪蓮はもう孫家の次期当主ではなく、当主である。彼女が孫呉を支えて未来に進ませなければならないのだ。
「雪蓮はもう孫家の当主だ。その当主の前に敵が現れたらどうする。てめえの家を滅ぼす奴が現れたらどうする。てめえの国を滅ぼそうとする奴が現れたらどうする!!」
当主として、王として目の前に敵が現れたらする事は決まっている。
「てめえの目の前に敵が現れたら倒すしかねえだろ!!」
敵が現れたら倒すしかない。そんな答えは当たり前だ。だが雪蓮たちにとって、その敵が問題なのだ。
「オレが敵だからと言って狼狽えるんじゃねえぞ。どんな敵だろうが斬り殺せ。オレはどうせ死んだようなもんだ。なら死人を返す場所があるだろうが!!」
「だ、だからって…」
「雪蓮。てめえは当主だ。当主として剣を振るえ!!」
当主ならば国を、家を、仲間を、民に危害を加える敵を許さない。そのような敵は当主として倒すべきなのだ。
「自分の役目を果たせ雪蓮!!」
炎蓮の言葉が当主としての雪蓮に突き刺さる。だが、それでも雪蓮は自分の母親を殺すなんてできない。それは臣下の祭たちも同じだ。
やはりどうにかして炎蓮を助けたいと思ってしまうのだ。だが、それが出来ないと炎蓮自身が口にしている。
「早くオレを殺しに来い。でないとてめえらが死ぬぞ。そもそもオレの手に掛からず死んじまうだろうが!!」
衝突した敵船から兵馬妖が孫呉水軍の船に乗り込んできた。
「なっ、こいつら動くのか!?」
「なんなんですか!?」
穏と思春が兵馬妖たちに警戒する。黄祖水軍の船に乗っていた土人形が動き出したのだ。初見なら誰だって驚く。
「そいつらは勝手に動く土で出来た兵士だ。勝手に動いて敵を殲滅する。そいつらは止められねえ。なら倒すしかないぞ!!」
兵馬妖が武器を持って孫呉兵たちに襲い掛かる。
「な、なんだこいつら!?」
「お、襲ってくる!?」
「うおおわ!?」
いきなりすぎて孫呉の兵士たちは兵馬妖たちに斬られてしまう。
「ちょ、母様止めて!!」
「止められねえって言ってるだろうが。止めるならオレを殺せって言ってるんだよ!!」
「く…、応戦せよ。その土人形を壊せ!!」
兵馬妖に対してはすぐに倒すように命令は出すことが出来る。しかし、炎蓮に対して剣を向けることができない。
急いで孫呉の兵士たちは兵馬妖に応戦する。
「うお、何だこいつら!?」
「斬っても動くぞ!?」
「しかも強いぞ!?」
兵馬妖の強さはそこらの人間の兵士よりも上だ。屈強な孫呉の兵士たちでさえも手こずる相手である。
痛みも恐怖も感じぬ兵士なんて普通に見れば恐ろしい。その強さに押されてしまう。
「祭、粋怜はあの土人形の応戦を!!」
「お、おう。分かったぞ策殿!!」
「は、はい。雪蓮様!!」
本当ならば炎蓮の説得に残りたかったが兵馬妖たちが襲ってくる状況ではどうしようもない。そもそも兵馬妖を無視をしていたら船を沈まされてしまうのだ。
「母様、何か手があるわよ!!」
雪蓮は炎蓮の説得を諦めない。
「冥琳、穏。何かないかしら!?」
「待て、今考えている」
「は、はい~!!」
冥琳と穏は頭を回転させる勢いで集中する。
「…複雑に考えるな。まずは単純に考えるんだ。炎蓮様は操られているだけだ。なら操っている奴がいる」
冥琳はブツブツと呟いて解決策を見つけ出す。
「操られているなら、操っている奴がいるはずだ!!」
単純な話である。炎蓮が操られているならば操る奴がいる。
「操る奴…道士。于吉か!!」
難しい話ではない。炎蓮を操っているのは于吉ということだけだ。
「于吉を捕まえれば!!」
解決する方法は簡単なものだ。しかし、解決するための過程は簡単では無い。
「于吉を探さないと!!」
「あ、私ならここですよ」
于吉の話になった瞬間にその件の于吉が炎蓮の横に現れていた。
彼は神出鬼没のような存在だ。洛陽で出会った時もいきなり出現したのだから。
「于吉!!」
雪蓮たちの視線が全て于吉に集中する。特に粋怜と明命は鋭い目で于吉を見ている。彼女たちは目の前で彼によって主君を奪われたのだから当然である。
今すぐにでも2人は于吉の首を斬りたいと思っているのだ。
「いやいや、鋭い殺気が私に集中してますね~。まあ、この程度そよ風です」
鋭く濃厚な殺気を于吉は物ともしない。
「于吉、何しに来た!!」
炎蓮も于吉に対して殺気を向けている。
「ほんの少しの希望とより深い絶望を与えに来ました」
于吉は太平要術の書を手元に出現させて雪蓮たちに見せつけるように掲げた。
「コレですよコレ。この太平要術の書を破くなり、燃やすなりすれば孫堅は自由になりますよ」
彼の言葉に雪蓮たち全員が目を見開く。炎蓮を助ける方法の答えが分かったのだ。ならば何が何でも太平要術の書を奪う事に全力を注がなければならない。
「目の色が変わりましたね。希望が見えたという目だ。しかし…!!」
于吉は太平要術の書を炎蓮の腹に突き刺した。
「ぐおおお!?」
「母様!?」
太平要術の書は不気味な光を発しながら炎蓮の身体の中へと取り込まれていった。
「フフフ。孫堅を解放すべき太平要術の書は、その孫堅の身体の中に入り込みました」
「何でそんな事を!?」
「そんなの貴女たちを絶望させるためです」
ニコリと良い笑顔で答えた。
「太平要術の書を破れば孫堅は解放されます。ですが開放するために孫堅の腹を掻っ捌いて太平要術の書を取り出さないといけませんねえ」
炎蓮を助ける方法が分かった。その時は確かに少しの希望が見えたのだ。しかし于吉はその少しな希望を絶望の沼に沈めたのである。
炎蓮を助けるために腹を掻っ捌いて太平要術の書を取り出すなんて、炎蓮を殺すのと同義である。少しの希望が見えたのにすぐに絶望へと叩き落とされた。
于吉は言葉通り孫呉の者たちに少しの希望を与えては深い絶望を与えたのだ。
「こいつ!?」
「ハハハハ、怒ってますね。この程度で怒るとは」
「何故、こんな事をする!!」
「目的達成のためです。その為に私はどんな殺人鬼にもなりますし、冷徹な策士にもなります」
見るだけで人を凍らせるような冷たい目で雪蓮たちを見る。見られた雪蓮たちは本当に凍らされたように錯覚してしまう。
「私は目的のためならどんなものでも利用しますよ。それが妖魔だろうが人間だろうがね」
この時初めて雪蓮は于吉という存在を心の底から不気味に感じた。
今まで出会ってきた人間の中には確かに冷徹な者やどうしようもない屑もいた。しかし于吉はその中でも別系統で不気味な存在だと感じてしまった。
「さあ、頑張って孫堅を助け出してみてください」
頑張って助けろなんて、この状況ならば嫌味にしか思えない。
「だから言っただろうが。オレを殺せってよお!!」
ここで炎蓮が叫んだ。今まで黙っていたのは于吉に妖術で口を塞がれていたのかもしれない
「もうオレを殺すしか止められねえんだ!!」
「い、いえ、まだ何か方法は…」
雪蓮はまだ何か解決策を考える。冥琳と穏だって他に解決策があるはずだと考える。しかし時間は待ってくれない。
既に兵馬妖の乗った他の黄祖水軍の船が孫呉水軍の船に近づいていく。兵馬妖と孫呉兵たちとの戦いは徐々に過激化しているのだ。
このまま時間が過ぎれば兵馬妖が完全に起動して孫呉水軍を壊滅に導いてしまう。今の孫呉水軍は上手く指揮されていない状況だ。すぐにでも雪蓮たちは兵士たちに指示を出して戦わなければならないのだ。
「チッ……この馬鹿娘に馬鹿臣下共が!!」
言う事を聞かない娘と臣下たちに悪態を付く炎蓮。だが雪蓮たちが悪いというわけではない。
人の情というものがあるのならば自分の母親を殺せるはずがない。主君を殺せと言われて普通はできるはずがない。
操られているのならば何が何でも助け出したいと思うのが当たり前である。彼女たちは殺せと言われて殺しにかかるほど心が欠けているわけでは無いし、冷徹にはなれない。それは相手が炎蓮だからである。
「なら、立香!!」
炎蓮は藤丸立香たちを見た。
「てめえらがオレを討て!!」
雪蓮たちが出来ないのならば藤丸立香たちに託すしかない。
「てめえらなら出来るだろ。立香は天の御遣いで役目は于吉を倒すこと…それは大陸の混乱を止めるのと同義だ。そしてオレはもう于吉の操り人形だ。もし、孫呉を滅ぼした次は他を攻めるだろう」
于吉は大陸を混乱させる存在という事になっている。炎蓮は于吉の操り人形ならば、于吉の手足と同義だ。
ならば于吉の策を止めるという意味で炎蓮を討ち取るのは天の御遣いの役目に入る事になる。
「雪蓮が出来ねえなら立香がやれ!!」
「炎蓮さん…」
「お前も役目を果たせ。天の御遣いの役目を果たせ!!」
天の御遣いではないが于吉の策を止めに来たのは事実である。その為に炎蓮を討つなんて立香だってしたくはない。
だが炎蓮を討たねば雪蓮たちは殺され、孫呉は滅ばされるのだ。これこそが孫呉を滅ぼした于吉の策である。
この策を止めるために藤丸立香は過去の呉に跳んだ。
「く………炎蓮さん」
藤丸立香の頭に炎蓮と過ごした記憶が流れた。親しい人を討ち取らねばならないなんて出来るはずが無い。
しかし、誰かがやらねば助からないと言うのならばやるしかない。状況が違えど藤丸立香はそのような選択を選んできた。
「………異聞帯とは違う。でも救うために戦わないといけない」
ポツリと呟いた藤丸立香に雪蓮が視線を移した。
これから藤丸立香がやろうとしていることを直感で分かってしまった。それだけはやめて欲しい、まだ考える時間が欲しいと藤丸立香に言いたくなった。
「炎蓮さん。そうだよね…誰かがやらないといけないよね。じゃないと孫呉は救われない」
「ああ。そうだ立香」
炎蓮が少しだけ笑った。その顔はやっと理解してくれた者が現れた時の顔。
「ま、待って立香。まさか…待って、止めて立香!!」
雪蓮は藤丸立香たちが何をするか分かっていた。しかし、止められなかった。
「荊軻、李書文、燕青。行くよ」
藤丸立香たちは炎蓮のいる船まで跳んだ。
「待って立香!?」
雪蓮たちが藤丸立香たちに向かって何か叫んでいるが、彼らは無視して炎蓮が乗っている船に跳んでいく。
何かを救うために何かを失う戦いはこれが初めてではない。これは藤丸立香たちが戦うのだ。
184
ストンと炎蓮と于吉が乗っている船に乗り込んだ藤丸立香たち。
乗り込む前に迎撃してくるかと警戒はしていたが迎撃は無かった。
「炎蓮さん」
「てめえらなら来ると信じてたぜ」
今乗っている船には兵馬妖はいない。いるのは炎蓮と于吉だけであった。
「お久しぶりですねカルデアの皆さん」
(カルデア?)
「于吉!!」
全ての元凶が目の前にいる。
「何故、迎撃しなかったと思います?」
「…分からない」
「私の作り上げた兵馬妖の大将を試運転するためです。試運転の練習台に貴方たちは適切ですからね」
「試運転だと?」
于吉の言う兵馬妖の大将とはここにいる者の中からだと炎蓮しかいない。作り上げたと言う言葉も気になってしまう。
「孫堅はこれから貴方たちと戦ってもらいます。最後に何か言う事があればどうぞ孫堅」
そう言って于吉は近くに置いてあった椅子に座った。
「チッ…優雅に座りやがって」
于吉の余裕さに苛立つ炎蓮。
「まあいいさ。てめえらが来てくれたおかげであいつの余裕そうな顔を崩せそうだ」
「額を撃たれた割には元気そうだな炎蓮よ」
「荊軻…癪だがあいつのおかげだ。その代わり操られるなんて無様な姿になっちまったがな」
「最悪な事になっちまったよなあ」
「そうだな燕青…。さて、ムカつく于吉から少し時間を貰ったんだ。ちょっとだけ話すか」
操られている炎蓮はいつ于吉の命令によって攻撃してくるか分からない。それでも藤丸立香たちは彼女の言葉を聞いてしまう。
「今思うと立香たちが孫呉に降って来たのはこの瞬間の為じゃねえかって思うんだ」
「この為って…」
「この為だよ。てめえらの役目を聞いても最初はピンとこなった。癪だが于吉に捕まった時に分かったんだ。オレが立香たちに止められる事によって孫呉が救われるってな」
藤丸立香たちが過去の呉に来たのは何度も言うが于吉の策によって滅ぼされた呉を救うため。
どのような策によって滅ぼされたか分からないが、どんな策でも打ち破って呉を救うと貂蝉に託されて過去に跳んできたのだ。
その打ち破る策というのが炎蓮を倒すなんて誰も思えない。だが現実は非情であったのだ。
「立香。お前たちには嫌な頼みをしちまったな」
「ああ、嫌だよ。でも誰かがやらないといけない。その誰かが俺たちなだけなんだ」
「そうだ。お前らがオレを止めてくれ」
「……分かったよ炎蓮さん」
藤丸立香の覚悟した目を見て炎蓮は満足した。
「ったく、そんな覚悟の目はどんな旅をしてきたらそうなるんだよ」
藤丸立香の目に宿した覚悟は炎蓮が今まで見た事が無い目であった。
今まで出会ってきた傑物たちにも強い光や暗い炎を宿した目をしていた。しかし藤丸立香の覚悟を宿した目はその誰よりも違った。
見た目はすぐにでも斬り殺せそうなほど弱そうなのに内に眠る闘志は尋常ではないように感じるのだ。
「自分でもどんな目をしているかなんて分からないけど…そうなってしまったのはきっと俺たちが取り戻す世界のために旅をしてきたからだよ」
「どんな旅をしてきたか聞いてみたいぜ」
スチャリと炎蓮は南海覇王を抜いた。それと同時に于吉も椅子から立ち上がった。
「お喋りは終わったようですね」
椅子から立ち上がった于吉は炎蓮の斜め後ろに来る。
「む、お主も戦うのか?」
「ええ、私も戦ってみようと思います。今なら貴方たちの戦力も分断されてますからね。倒せる時に倒しておきませんと」
今の藤丸立香たちはカルデア戦力として過去と現代に分かれている。過去にいる彼らは確かに現代に残っている側に比べれば戦力的に弱い方だ。
その隙を狙って于吉が戦いに参加するという事は今回の策は余程自信があるということだ。
「こうやって見るとマスターとサーヴァント同士の戦いの構図に見えません?」
「見えないと思う」
「えー、そうですかね?」
于吉の軽口に藤丸立香も軽く返す。
「ますたぁとさぁばんとって何だよ?」
「主人と従者みたいなものです。今の構図だと私が主人で孫堅…貴女が従者ってところですかね」
「てめえが主人だなんて反吐が出るぜ。ペッ!!」
反吐ではないが唾を吐いた炎蓮。
「では孫呉を滅ぼす策である兵馬妖大将の孫堅を見せてあげましょう」
「行くよみんな!!」
孫呉を滅ぼしてしまう策を打ち破るために藤丸立香たちの戦いは始まった。
読んでくれてありがとうございました。
次回はGW中に更新出来たら更新します。駄目だったらGW明け以降ですかね。
今回は于吉の策を破る戦いの前の話でした。
于吉の冷徹さを出せるように書いていった所存です。この物語の悪役の于吉の悪らしさもたっぷり出したいですからね。
次回は于吉と炎蓮との戦いです。どのような戦いになるかは次回をゆっくりとお待ちください。
次回はやっと立香たちの出番でもありますから!!