Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。
今回から反董卓連合に入ります。
恐らく反董卓連合では様々な視点の話になっていく予定です。その様々な視点に藤丸立香たちが入り込んでいく形になりますね。

さて、今回は藤丸立香たちの出番はありません。恋姫sideばかりですね。
てか書いといて原作の流れとあまり変わらないかもです。


反董卓連合 -始動-

242

 

 

遠征から戻ってきた盧植と皇甫嵩は今の朝廷の状況に慄いていた。

 

「月ちゃん…」

「天子様の御前ですよ。お控えください」

「は…」

 

今の皇帝は霊帝ではなく、劉協が新しく皇帝になり献帝を名乗っている。その事に関しては驚かない。

いずれは劉協である彼女が新たな皇帝になるのではないかと予想はしていた。

 

「良い。面を上げよ」

「慮子幹殿、皇甫義真殿、遠征よりお帰りになったのですね。叛乱の鎮圧、ご苦労でした」

 

盧植と皇甫嵩が驚いているのは遠征に行っている間に董卓の身に何が起きたかだ。今の彼女は盧植たちが知っている雰囲気ではない。まるで目的のためなら冷酷に処理していく人間に見間違えしまう程に見えたのだ。

 

「それはともかく…禁城のこのありさまはどういう事。私たちが遠征をしている間に、一体何があったの!?」

「御覧の通りです。逆賊何進を退けた今、汚職の証拠が残っているうちに動かなければ朝廷に膿が残ったままになってしまいますから」

「だからといって、この玉座の間に漂う血の臭い…一体どれほどの官を粛清したの」

「何進、何太合、十常侍…いずれも天に唾した者の宿命かと」

「拙速に過ぎるわ」

「死に体の朝廷を生き返らせる唯一の策です」

 

皇甫嵩は知らなかったが盧植は董卓がいずれ何進や十常侍に反旗を翻すのは知っていた。しかしその後はどうするかまでは予想の範疇を超えていた。

 

今の朝廷は誰もが認めるほど腐っていた。その原因が十常侍などの魑魅魍魎の官僚たちである。

いずれは十常侍たちをどうにかせねばいけないと盧植も考えていたが董卓の実行した方法が急すぎる。

 

「……血を流しすぎたら人は死んでしまうのよ」

「既に在野の高潔な者に招聘し、役人として迎えるように進めています」

「子幹、義真。今後は朕に力を貸してくれぬか?」

 

献帝は今の董卓のやり方を認めている。

 

「子幹殿」

「…この流血の粛清をやめ、正しい朝廷を開いてくださるなら、いくらでも」

 

盧植は今の董卓のやり方は認められない。世の中には必要ある冷酷さはある。しかし今の董卓の方法は盧植にとって肯定できない。

 

「義真殿はいかがですか?」

「皇甫家は…代々、漢王家に仕えてきた家柄です」

 

皇甫嵩も今の朝廷に思うところはある。しかし彼女が仕えるべき主は最初から決まっているのだ。

 

「…そうですか。では慮子幹。残念ですが朝廷への二心ありとしてあなたに死罪を与えます」

「…っ!!」

 

まさかの言葉であった。これには皇甫嵩も認められない。

 

「月さん!!」

「とはいえ、これまでの朝廷に大きな働きがあるのも確か。罪一等を減じて洛陽からの追放としましょう。義真殿にはその手配を命じます。よしなに」

 

「わ、私が……!?」

「義真殿」

「……はい」

 

董卓の静かな圧に皇甫嵩は頷くしかなかった。

今の董卓は皇甫嵩や盧植よりも立場が圧倒的に上にいる。ここで逆らっても何もできずに死ぬだけだ。

 

(月ちゃん…)

 

 

243

 

 

大陸全土に大事件とも言える情報が広く知れ渡った。

 

「風鈴先生、大丈夫かな?」

「予定ではもうすぐ着くはずなんだけどな」

 

桃香と公孫賛は自分の師を待っていた。

それとある意味関りがあるとも言える大事件とは洛陽で皇帝が霊帝から献帝に代わり、これまで何進がいたような地位に董卓が収まったというものだ。

それだけでも驚愕の急報であるが更に盧植が洛陽から追放されて幽州に流されるという通達が来たのである。

 

「なんで盧植さんが追放なんてことになったんだ?」

「正直、私も書状を見た時は目を疑ったよ。けど義真殿の印象は本物だったし…」

 

自分の師である盧植が洛陽から追放という情報は桃香と公孫賛は信じられなかった。

 

「ここ最近の朝廷はなんだかとんでもない事になっているみたいだしな」

「朝廷はどこを歩いても血の臭いがするとか、挨拶に行った州牧だか太守だかが追い返されたなんて噂も聞くしな」

「情報を集めてはいるのですが、とにかく錯綜していて、真実の精査が困難を極めています」

 

霊帝から献帝へと帝が変わったという情報へと朱里はすぐに情報を集めた。しかし彼女が言った通り様々な情報が流れてしまい本来の情報は分からない状況だ。

今のところ確かなのは十常侍を含む高級官吏の多くが粛清されたことだ。そしてその指揮をしたのが董卓ということである。

 

「あとは霊帝に代わり、献帝が即位されたことですね」

「その献帝が帝位を簒奪するために董卓をそそのかしたなんて噂もあるぞ」

「話だけ良いのなら董卓は匈奴の先手だとか、既に真の董卓は亡く、モノノケがすり替わっているのだ、なんて噂もありました」

「わけがわからんな」

 

都もそれだけ混乱しているということだ。これだけ情報が変に流されているの訳が分からなくなる。

皇甫嵩の話によると外史の董卓はとても誠実で優しい子と聞いている。北郷一刀としては『董卓』が誠実で優しいという言葉に違和感しか覚えない。

その違和感は彼が現代で得た知識の影響だ。現代で残されている歴史やゲーム等の偏見により董卓は悪人というイメージが強い。しかし皇甫嵩の話だと全然違うのだ。

こればかりは直接訪ねれば何か分かるかもしれないが安全だとは言い切れない。今の状況で洛陽まで直接尋ねるというのは難しく、危険であるからだ。。

 

「十常侍ってすごく賄賂をとる悪い人だったんだよね。他にも洛陽のお役人は自分の利益しか考えてないって…」

「ああ。それも黄巾の乱の切っ掛けになってるくらいだ」

「董卓さんの、その…粛清したのってそういう人たちなんじゃないのかな?」

 

桃香も皇甫嵩の話から伝わった人物像から董卓がやっている事が信じられないのだ。

董卓は良い人だという認識が勝っている。だからこそ彼女は董卓に何か理由があるのではないかと考えてしまい弁護するように言ってしまった。

 

「そうしたくなる気持ちは分かるけど…あまりにも急すぎるし皇帝を変えるまでやったら、そりゃ混乱もするよ」

「それに風鈴先生は賄賂を送ったり受け取ったりする人じゃない。追放される理由がないじゃないか」

 

公孫賛と北郷一刀の言葉に桃香は頷くしかできなかった。

 

「そうだよね」

「まあ、そこは本人に聞けばいいことだけどな。幸いなんて言っちゃいけないけど、一番情報を持っている人が来てくれるんだ。いい方法に考えよう」

 

公孫賛の言うと通りで件の盧植が幽州に来るのだ。詳しい情報は洛陽にいた人物に聞けばいいだけである。

最も洛陽にいた人物が案外近くにいるのだが今の段階では桃香も北郷一刀も気付かないのであった。

 

「あ、見えてきましたよ。あの隊列では?」

「おっと、おしゃべりはここまでだな。丁重にお迎えしよう」

 

公孫賛の言った通り丁重にお迎えし、早速でも彼女たちは洛陽での情報を盧植から聞くのであった。

 

「なら、董卓さんの噂はみんな本当なんですか…」

 

桃香たちとの再会を喜ぶ暇もないまま、公孫賛の部屋に通された盧植は悲しそうに首を縦に振ってみせた。

 

「ええ。少なくとも都に粛清の嵐が吹き荒れているのは事実よ。十常侍は壊滅。何進将軍の行方も知れないわ」

 

盧植。真名は風鈴と言う。

彼女は元、漢の将軍であり、以前は桃香や公孫賛の師であったのだ。

 

「そんな…」

 

粛清されたのは桃香が予想した通り悪評のある者ばかりである。だが苛烈すぎる対応ばかりで都の人たちは董卓の顔色を窺って委縮しているような状況だ。

説明を聞けば聞くほど董卓は悪人と言える者たちにしか粛清はしていないが裁き方が苛烈過ぎるのだ。一般市民であってももしかしたら何かの拍子で自分たちも裁かれてしまうのではないかと日々恐怖しているのである。

 

「先生がいたのにどうして…」

「私と楼杏さんは地方の反乱の平定に出ていたのよ。その間に何があったのか分からないけど…洛陽に戻って月ちゃんの真意を質そうとしたらこうなってしまって」

 

本当は董卓たちが何進と十常侍たちを粛清しようと画策していたのは知っていた。そもそも実行する前に打ち明けてくれていたのだ。しかし地方の反乱から帰ってきた時に見た董卓の変わりように驚いた。

まさに別人とも言えるくらいの雰囲気であったのだ。盧植が改めて見た董卓はまさに氷のような印象である。

 

「皇甫嵩さんは?」

「楼杏さんは朝廷に残ったわ。新参の私と違って古い家柄だしね。おかげでこうして色々と取り計らってもらえたのだけれど…彼女にも辛い目を見させてしまったわ」

 

元同僚を追放する手続きをした皇甫嵩の気持ちは計り知れない。盧植の悲しい顔を見て何も言う事が出来なくなる。

 

「こうなるかもしれないっていうのは分かっていたのに…月ちゃんたちの代わりに私が都に残っていれば…」

「でも盧植さん…」

「あなたたちも風鈴で構わないわよ。白蓮ちゃんや桃香ちゃんを支えてくれている子たちでしょう。ずっと会いたいと思っていたの。まさか初めての挨拶がこんな形になるとは思わなかったけれどね」

「風鈴さんの追放が幽州だったのはどうしてなんでしょう。桃香たちが教え子なのは董卓もよく知っているはずですよね」

 

董卓がなぜ風鈴を幽州に追放させたという部分が気になる。北郷一刀その部分が気になったのだ。

風鈴が董卓にとって洛陽から追放するほどの邪魔者だと思うのならば元教え子がいるような場所には追放させないはずだ。何かの拍子に力を付けさせるのは誰だって考えない。

 

「そうね。月ちゃんたちが何も言わなかったのは月ちゃんなりの最後の恩情なのか…」

「……我々を試しているか、ですか?」

 

それはばかり分からない。しかし、しばらくマークされている可能性もあるということである。

 

「ともかく、風鈴先生の預かりは正式に幽州って事になっているんだ。平原の相の桃香が私の所に報告や相談に来るのは当たり前なんだから、先生にも気軽に合いに来てくれていいからな」

「うん。ありがとう白蓮ちゃん」

「先生もご不便をおかけすると思いますけど…出来るだけ、快適にすごせるようにしますから。あんまり畏まらずに要望があれば何でも言ってください」

「いいえ、こうして迎えてくれるだけで十分よ。今更だけど、二人とも本当に立派になったわね」

 

場の空気を改めるように努めて元気にふるまう公孫賛に風鈴もようやく穏やかな笑みを見せたのであった。

 

「お世話になるわね白蓮ちゃん」

 

この時、風鈴は董卓の事を知っている人物たちが平原にいるとは想像も出来なかった。

 

 

244

 

 

風鈴の話により董卓が確かに大粛清を洛陽で実行しているのは確かであった。その中で一般人さえも粛清しているかどうかはまではまだ分からない。

想像していた人物像からでは信じられないが自分の恩師である風鈴が嘘を言うはずが無い。誠実で優しい子であると言われている董卓が大粛清を実行させたのは真実であったのだ。

 

「…桃香」

「桃香さま…」

「あ、ごめんね。なに?」

「いや、ぼうっとしてたから、風鈴さんの事を考えているのかと思ってさ」

 

風鈴と分かれた後、桃香は北郷一刀たちの声が耳に届いていないようだった。それほどでに今回の事件を大衝撃であったのである。

 

「うん。先生の事も考えてたけど、そうじゃなくて…」

「董卓の事か」

 

桃香の考えていたことが分かっていた北郷一刀はすぐに答えを呟いた。

 

「うん。今までの手紙の感じや青州の事も気遣ってくれる人からしたら信じられないなって」

 

その気持ちは北郷一刀も分かる。彼も手紙を読んで「これが本当に董卓?」と思ってしまうほどだからだ。

気遣いも細やかで良い人のイメージしか湧いてこなかった。だからこそ最初は『董卓』というイメージに違和感を覚えるほどであったのだ。

 

「会った事はないけど、朝廷にもこういう考えの人もいるんだって…何となく、ご主人様や愛紗ちゃんたちみたいな…仲間みたいな気がしてたから。身分は凄く上の人だから失礼なんだけどね」

 

だからこそ急性で非情な手段に訴えるなんて考えにくかったのだ。

 

「ですが…これからまた大きな動きがあると思います」

「動き?」

「風鈴さんの話から私たちが集めた情報が全て本当だと仮定すれば…今回の粛清、あまりにも動きが急すぎます。早すぎる動きは歪みを生みますし、それが積もり積もれば、思い切り引かれた弓のように…」

「大きな反発が来るって事だな」

「反発くらいで済めばいいのですが」

 

朱里の言いたい事は分かる。彼女はこのままだと今回の大事件よりも大きな大事件へと繋がるのではないかと予想してしまうのであった。

その予想はまさに当たっており、実は既に大陸中に袁紹からのある檄文が送られていたのだ。

内容は董卓の暴政に都の民は嘆き、恨みの声が天高くまで届いていると噂されているというものや今も官の大粛清は続き、禁裏も血で満ちているというもの。

それを嘆いた袁紹は世を正すために董卓を倒す事を決意したのだ。そのために力を持った諸侯に書類を送っているのである。

その檄文は多くの諸侯の手に渡っていた。

無論、曹操の所にも届けられていた。

 

「なるほどね。更に今、麗羽が手に入れていない情報である董仲頴が相国に任じられたと分かればそれはもう荒れるでしょうね」

「あれは事あるごとに三公を輩出した名家だと豪語してますから。それ以上の地位である相国を董卓に名乗られては面目も丸つぶれでしょう。董卓が相国になったという情報を聞いた時の袁紹の顔をみたいものです」

「あれの荒れようが滑稽なのは良いとして…我らはこの董卓討伐軍興すべしという檄文に対して、どう振舞うべきかしら?」

 

袁紹を「あれ」呼ばわり。曹操と袁紹には実はちょっとした関係性がある。それは幼馴染みというやつである。

檄文の内容が真実でなく、実は董卓が権力の中枢を握った事が気に入らない腹いせではないかと予想している始末である。

袁紹と董卓の間に何かあったようだが、その事を知る由も無い。

 

「参加すべきではありません。冀州の袁本初は感情に振り回されるだけの小物。我々に声をかけたのも、華琳さまの兵を利用したいが為でしかありません」

「…でしょうね」

 

幼馴染みゆえなのか曹操は袁紹の考えを嫌というほど読めてしまう。

 

「そも董仲穎の策は、荒療治ですが効果的でもあります。いま手を出してわざわざ薬を取り除くのは健全になりかけた朝廷を再び病体へ戻す愚行と言えるでしょう。遷都など流石に良識のある官が止めるでしょうし、それを刃を持って強行するならば…その時こそ討つべき時かと」

 

董卓が起こした大粛清は視る者から見れば効果的だと評価をする。決しても褒められた行為では無いかもしれないが腐った国を直す場合に一度解体してから建て直した方が速い場合もあるのだ。

董卓が起こした大粛清はそういう意味で解釈すれば荒療治であり、効果的と思えるのだ。

 

「ふむ。他に意見は?」

「参加すべきかと」

 

ここで陳珪が意見を出す。

 

「確かに袁本初殿は小物ですが、こと奸智と政治力に関してはなかなかのもの。集めた諸侯の前で欠席した華琳さまを悪し様に言うのは間違いないでしょう」

「ああ、間違いないわね」

 

これも曹操は袁紹がどのように自分をどのように悪し様に言うか分かってしまう。

 

「何よりこの戦い、大陸各地の諸侯や勇者が一堂に会する戦となるはずです。今の弱体化した官軍では恐らく袁紹たちに勝てません。愚行なのも確かですが…我々で止められないのもまた事実。ならばせめてそれを利用して、吾ら曹操軍の立場と力を示すとして使うのが最良かと」

「…ふむ」

 

檄文より「董卓を討つべし」と書かれており、恐らく多くの諸侯が参加することになる。その中にはこれから活躍する諸侯もいるはずだ。そんな猛者たちに曹操軍の力を見せつけるのも悪くはない。

曹操が目指しているのは大陸の天下だ。今回の戦いで恐らく自分の戦うべき相手も見つかる可能性だってある。

 

「そのために袁紹に利用されようっていうの燈!!」

「それはお互い様でしょ。要は最後に払った額よりこちらの取り分が多ければ良いのだし。策の見せ所よ軍師殿」

「豫洲を華琳さまに差し出してここに立っている貴女のように?」

「ええ、そうよ」

「……むぅ」

 

はっきりと言う陳珪に皮肉も言えなくなる。

 

「ふふっ。桂花、貴女の負けよ。稟も異論はないようね」

「はっ」

「では、我らは今回の討伐連合に参加する。栄華、遠征の準備は一切の滞りなく行って頂戴。いいわね?」

「ええ、承知いたしましたわ」

 

曹操軍は袁紹に利用されると分かりながらも董卓討伐に参加することを決定した。

曹操たちのように董卓討伐の参加は他にもいる。既に袁術、陶謙、公孫瓚、西涼の馬騰と有名どころの名が並んでいるのだ。

これだけの英傑が揃う機会はもう無い。ならばここで大きな手柄を立てれば多くの諸侯の中で名を挙げる事は出来るのだ。

その為、中には本当に世を憂いて董卓を討とうして参加する者たちはいない。例えば孫策の陣営がそうだ。

今の孫策たちは袁術によって鎖を繋がれたような立場である。黄祖との戦いの傷は深い。普通に考えて袁術からの独立に、天下を目指すなんて夢のまた夢。

それでも孫策達は諦めない。袁術から必ず独立し、本気で天下を目指しているのだ。袁術からの無茶な命令にも今は耐え忍ぶ。

 

「袁術め…十万の兵のうち五万を出せとは」

 

冥琳は頭が痛くなりそうだった。袁術の無茶な命令はいつものことであるが今回はより一層無茶なものだ。

今の孫呉で董卓討伐のために五万の兵を出すのは厳しく、せいぜいが三万がいいところだ。しかし孫策は了承した。

理由は簡単で孫呉の面子のためである。董卓討伐のためではない。孫家の健在を大陸中に知らしめるためである。

黄祖との戦いによって大きな傷を受けた孫家をさらに袁術が絶妙なタイミングで傘下に加えられてしまった。その事を聞けば誰もが孫家は飼いならされてしまったと思う。だからこそ今回の董卓討伐で武威を万民の目に見せつけられれば今の孫家のイメージは払拭することが出来るのだ。

 

「やるしかないわ。ここで袁術の専横ばかり見せたら、孫家は袁術の配下だと…揚州の覇者は袁術と認めてしまうわ」

「そうね雪蓮」

「ごめんなさいね無茶言って。でも今は勝負の時、民には本当に申し訳ないけれど…家族にも民百姓にも私自身が頭を下げて何としても五万の兵と兵糧を集めてみせる」

「ああ、雪蓮!!」

 

彼女の意思は臣下にも部下たちにも伝わる。冥琳も祭も粋怜たちも孫呉の武威を見せつける為に動きだす。

 

「これから忙しくなるわね」

「ああ。それに早速新たに加わった彼女たちにも頑張ってもらうことになるな」

「亞莎と包のことね。彼女たちはどちらも孫家の力になってくれるわ。それほど才能があるからね」

 

新たな仲間である亞莎と包と呼ばれた者たち。彼女たちこそが藤丸立香たちが抜けた後に入った新たな戦力である。

 

「亜莎は緊張しやすいが、いざとなれば力を発揮する。彼女には期待してしまうよ」

 

亜莎の人見知りさと緊張しやすい性格は直すべきところだが簡単には人の性格は直せない。そればかりはどうしようもないものだ。

それでも孫呉の新世代として彼女は努力している。彼女は真面目で努力家であるため周囲からの受けも良い。

 

「じゃあ包は?」

「彼女にも期待しているさ。失言は多いが上昇志向はある。私にも食って掛かるほどだからな」

 

冥琳は包を思い出すと軽く笑ってしまう。包と呼ばれる者は新人軍師とは思えないほどに図太い神経で古参メンバーの中にもグイグイ食い込んでいくほどの者だ。

冥琳はそれはそれで面白いと思っているのだ。全く正反対の若手軍師が入ってきたのは今の孫呉に新たな刺激を与えてくれるというものである。

 

「面倒を見ている雷火殿は毎日苦労しているようだぞ」

「へー雷火がねえ…どーりで最近は雷火の怒鳴り声が聞こえてくるわけだわ」

「ああ。事あるごとに立香の方がマシだと言っているくらいだ」

 

藤丸立香も包も右斜めからの考え方をしてくるというのは似ているため雷火は苦労している。だが藤丸立香の方が素直であったと雷火は評しているのだ。

妙な上昇志向がある包に対して雷火は苦労しているが炎蓮が亡くなってから意気消沈していた彼女にとってはある意味良い刺激になってはいる。凸凹コンビではあるが雷火と包はある意味良い師弟関係になりつつあるのだ。

 

「才能は包の方が圧倒的にあるが素直な立香が良いと言っていたぞ」

「あら雷火ったら何だかんだで立香の事を気に入ってたのね」

「はは、そうだな」

 

恐らくだが藤丸立香と包はすぐに仲良くなりそうだと予想してしまう。もしも藤丸立香がいれば包と2人して雷火を面白おかしく困らせていたかもしれない。

 

「雷火はあの子に対して苦労しているようだけど私は好きなのよねー、あの何処から出てくるか分からない揺るぎない自信」

「ああ、お前好みではあるな」

「きっと母様もあの子の面白さに気に入って仲間に引きいれたでしょうね」

 

今の孫呉には新たな風が吹いている。まだ袁術に鎖で繋がれている孫呉だが徐々に鎖を引き千切る力は着々と付けているのであった。

その他の諸侯たちも董卓討伐のために既に動き始めている。

 

「出陣、出陣ーっ!!」

「よーっし、やっと蒼も出番だよー。お姉ちゃんや鶸ちゃんたちばっかり楽しそうで涼州でお留守番してるのつらかったよー!!」

「ああ。大陸中の諸侯が集まる場なんだ。そんな場に顔を出さないようじゃ、西涼の馬一族の名が廃るからな!!」

 

あの西涼の馬一族たちも参加するのだ。

 

「縁が薄いとはいえ、董卓だって涼州の出なんだ。涼州の失態は、あたしたちでカタを付けなきゃな」

 

荊州でも参加する諸侯はいる。

 

「劉表様は董卓討伐に参加するようね」

 

黄忠もとい紫苑は劉表から董卓討伐に参加するように連絡が来ていた。

 

「やっと黄祖殿の件が片付いたと思ったら次は董卓討伐なんてね」

 

黄祖の一件は荊州でも大事件であった。劉表としては配下であった不気味な存在の黄祖が討たれたのは微妙な気持ちであったらしい。しかしあのまま黄祖が討たれなければ、その牙は劉表に向けられていたのは違いない。

黄祖が孫策に討たれてからは大変であった。江夏の後始末などがあったからである。そして次は董卓討伐ときたものだ。

 

「次から次へと…やはり大陸は乱世に入り込んでしまったのね」

 

黄巾の乱が終われば、同じ劉表の配下である黄祖が孫呉と戦を起こした。更にその次には霊帝から献帝へと皇帝が代わった。そして皇帝を裏から傀儡としている董卓の討伐。

大陸はまさに新たな時代に移り変わろうとしている。今はその前段階である。

 

「そいうえば焔耶ちゃんは参加する劉なにがしという将の事を気にしていたわね」

 

 

245

 

 

平原にて。

 

「あ…ご主人様」

 

夜の城壁の上にいたのは桃香たち三人であった。

 

「なんだか三人がそうやって揃ってるのを見るのは久しぶりだな」

「そうですね。鈴々も長い事、青州の賊討伐に出ていましたから」

「ずーっと星と一緒だったから肩がこったのだ」

「あの口ぶりが移らんだけマシだろう」

「あはは…でも、趙雲さんと仲良くなったんだね」

 

真名である星と呼んだということは真名を呼ぶに認められるほど仲が良くなったということだ。

 

「星、美味しいものの見つけた方がすごかったのだ。いっつもよくわかんない事ばっかり言っているだけじゃなかったのだ」

「ま、仲良くなれてるならいいんじゃないか」

 

久しぶりに三人が揃った割には遠目に見た感じはそれほど楽しそうではない。

 

「それで…ね、ご主人様。お話聞いたでしょ?」

「連合に加わるかどうかか」

 

袁紹からの檄文は公孫賛から桃香の元に届いていた。董卓討伐の軍に参加するか否か。

反董卓連合とも言うべき軍に加わるかどうか桃香は悩んでいるのだ。公孫賛には「良ければ手伝ってほしい」と言われている。

 

「白蓮ちゃんは平原は行軍の通り道だから合流するかどうかは、ここを通る時に答えてくれればいいって言ってくれたけど」

「公孫賛は参加する気なんだな。桃香としてはどうしたい?」

「わたしは…」

 

彼女たちは公孫賛の動きも分かっている。参加するかどうか揉めているのではない。

問題になっているのはもっと深い理由がある。

 

「遠慮しないでくれよ。俺だって愛紗や鈴々と一緒に桃園で杯を交わした仲だろ」

「それはそうだけど…話したらご主人様まで巻き込んじゃう。それは、したくないよ」

「オレまで巻き込むって…何を今さら」

 

本当に今さらだと思ってしまう。いきなりこの外史という世界に飛ばされて、いきなり戦に巻き込まれて、天の御遣いに祭り上げられてしまったという流れできたのだ。本当に今さらであるのだ。

 

「ご主人様も黙っていることはあるでしょ?」

「はい。ご主人様も我々に同じ理由で黙っている事があるでしょう。恐らく、朱里あたりを巻き込んで」

 

図星な顔をしていると自分でも思ってしまう北郷一刀。

 

「だって黄巾党の戦いが終わっていた辺りからお兄ちゃんずっとそわそわしてたのだ」

「気付かれていないとお思いだったのですか?」

 

鈴々にでさえ気付かれていた。それは少しだけショックを受けた北郷一刀。

普通に誤魔化せると思っていた自分が恥ずかしいものと思ってしまう。

 

「共犯の朱里以外は気を使っていただけです」

 

前に北郷一刀は皇甫嵩に嘘がヘタと言われたことがあった。彼女たち、特に鈴々まで気を使われるレベルなのは相当なものである。

 

「わたしたちを巻き込まないようにしてくれてるのは何となく分かるけど…それが何か教えてくれないと、わたしも何も言わないからね」

「…分かった」

 

ここまでバレているのならば隠しても無駄だと思い北郷一刀は正直に話した。

彼は黄巾党との決戦の日に天和たち三姉妹を見逃した件を話した。そして彼女たちは生きており藤丸立香たちと旅をしていたのだ。そして平原に今まさに来ているということも。

 

「あの旅芸人の三人が黄巾党の首領?」

「なるほど…納得はいきますね」

「そっか。だからあの時、平原が巻き込まれないようにわたしたちと一緒に来ないって言ってくれてたんだ」

「朱里の分析でも何かの巡り合わせが悪くてああなっちゃったんだろうってさ。三人とも黄巾党みたいのはこりごりって言っていたよ」

 

あの時に黄巾党の勢力が盛り返しがあったならばどうしようかと考えていたが、それが無かった。彼女たちの黄巾党をこりごりしているという気持ちは本物であったのだ。

 

「死んだと聞いていたけど生きていた。なにせ藤丸たちと一緒にいたんだからな」

 

情報だと張三姉妹は曹操に討たれたと聞いている。しかし討たれておらず藤丸立香たちと一緒にいた時は驚いたものである。

 

「そうだったんだね…でも言ってくれてたらわたしだっていくらでも協力したよ。ご主人様のほうが水臭いよ」

「俺たちだけだったら言ってたけどさ。あの時は皇甫嵩や公孫賛との共同作戦だったし、流石に俺の独断以上にするのはまずいだろ」

「それはそうかもしれないけど…」

「でもお姉ちゃんも嘘がヘタだからきっとすぐバレちゃうのだ」

「えーっ、鈴々ちゃんひどーい!!」

 

確かに桃香も嘘が付くのが苦手である。少しの違和感で見抜けそうであると思ってしまう。

 

「ご主人様の行いの是非はともかくとして、その一点だけは二人に賛成です」

「愛紗ちゃんまで…」

「さあ、これで全部話したぞ。約束通り、桃香たちも話してくれよ?」

 

彼女の悩みについて聞き出すが彼は何を悩んでいるか大体察しはついていた。それは董卓を助けたいという事だ。

董卓を助けたいという気持ちは一緒である。

 

「気付いていたんだ」

「当たり前だろ。どれだけ一緒にいると思っているんだよ」

「董卓は青州の平定の支援をしてくれていたし、皇甫嵩殿や風鈴先生も本来は誠実で優しい子なのだとおっしゃっています。ですので彼女の専横を阻止する軍には参加しますが、その命までは奪うつもりはありません」

 

愛紗は北郷一刀が聞きたいことを説明してくれた。やはり愛紗も鈴々も義姉である桃香と同じ気持ちであるのだ。

 

「うん。だからなんとかして、わたしたちで一番早く捕まえて…保護して処刑されちゃうようなことだけはないようにしてあげたいんだ」

「俺もそれには賛成するよ。もし、本当に悪党なんだったとしても手元で監視しておけばもう悪事は働かないってことだな」

「そういうことです」

 

董卓を助ける目的で董卓を討つ連合に参加するなら、その時点で彼らは裏切り者だ。それは公孫賛を巻き込むことになる。

どのタイミングで切り出すかが問題だ。そうなると公孫賛たちが平原に来るギリギリまで考える時間があるのはありがたいものだ。

 

「参加するよご主人様」

「ああ。俺も異論はない」

 

桃香たちも董卓を助ける本音を隠して反董卓連合に参加することを決めたのであった。

 

「…そうだ。藤丸たちにも反董卓連合の事を話してみないか?」

「藤丸さんたちも?」

「ああ」

 

北郷一刀が藤丸立香たちにも反董卓連合について話そうと考えている様子を遠くの屋根から2人の巨漢が見ていた。

 

(やっぱりもう反董卓連合のあたりなのねこの外史は…)

 

貂蝉は隠れて北郷一刀たちの様子を見ていた。

 

「貂蝉よ」

「なに卑弥呼?」

「恐らく于吉が言っていた大きな戦とは…」

「ええ。間違いなく反董卓連合でしょうねん」

 

反董卓連合。どの外史でも何かしら必ずどの陣営にも影響を及ぼす大きな戦である。そして北郷一刀や貂蝉にとっても因縁がある戦いでもある。

 

「左慈ちゃんが来るかしら?」

「左慈がか?」

「ええ。可能性は無くは無いしねえん」

 

最初の外史というべき世界では反董卓連合で北郷一刀は左慈と接触した。そこから北郷一刀と左慈の因縁が加速したと言っても過言ではない。そして貂蝉もまたそこで左慈と北郷一刀と接触したのである。

 

「全ての外史で起こる反董卓連合で左慈が来る可能性は無いが…今回は可能性はあるかもしれんがな」

「ええ。向こうも同じように考えているかもねん」

 

反董卓連合で用意しているであろう于吉の策。そして左慈がついに顔を見せる可能性。

 

「今回も気をつけないとねえん」

「うむ」

(月ちゃんたちも心配ねえ)

 

正義は立場が変わればいくらでも変わるものだ。正しい事が勝つとは限らなくても、勝たなければ正しいとは名乗れない。

今回の戦で都の権力は完全に失われる。これから先、大陸はもっと混乱する。

ついに反董卓連合が始まる。




読んでくれてありがとうございました。
次回は1週間後予定です。もしも早く更新できそうなら更新します。

今回から反董卓連合篇ですが、まずはその前段階のような物語でした。
次回は諸侯たちが集結する話になります。どんどんと恋姫キャラたちが集まるので様々な視点になっていきますね。
反董卓連合では藤丸立香たちが倒すべき敵も暗躍し、北郷一刀が倒すべき敵も現れてくるでしょう。

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