Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんにちは。
FGOのアニメ、絶対魔獣戦線バビロニアが始まりましたね!!
もう楽しみでしょうがありません。1話目から見入ってしまいました!!



反董卓連合-実は天に帰っていなかった-

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「「あ…」」

 

藤丸立香と雪蓮は短い間抜けな声を出して視線が交わった。

藤丸立香は徐々に冷や汗を掻き、雪蓮はゆっくりとニッコリと笑顔になった。そのゆっくりと笑顔となった雪蓮がとても怖く感じる。

怖くなったので藤丸立香は恐る恐る後退して天幕に戻ろうとした瞬間に雪蓮は動いた。

 

「あんたは何処に行ってたのよ!!」

 

雪蓮の拳が見えたと思ったら藤丸立香は天幕の中へと殴り戻されていた。

 

「おわっっ、どうした主ぃー!?」

「マスター平気ですか!?」

「如何なされたのですか我が主よ!?」

 

天幕の声では何処かで聞いた声や知らない声も聞こえてきた。そう思っていたら天幕から何人か出てくる。

出てきたのは燕青に秦良玉、蘭陵王であった。

 

「おらぁっ、主を殴ったのは……!?」

「燕青っ…って他2人は知らないわね」

「あ…孫呉の長女じゃねえか」

 

マスターである藤丸立香が殴られたのを怒っていた燕青だったが雪蓮を見てすぐに察した。殴られた理由も何となく理解した。

 

「このお方は?」

「ああ、孫呉の孫策だよ」

「この方が…!!」

 

秦良玉と蘭陵王は孫呉の孫策と聞いて興味深く観察する。自分たちの世界の孫策とは違うが三国志の孫策と聞いて興味が無いわけがない。

 

「何だ何だ?」

「どうかしたのか?」

 

更に荊軻と李書文までもが騒ぎを聞きつけて出てきた。

 

「荊軻に李書文まで!!」

「お前ら!!」

「「あ…」」

 

雪蓮と思春は全員が天に帰ったと思っていた藤丸立香たちが全員、桃香たちのところに居たのに驚きを隠せなかった。

逆に荊軻と李書文は燕青と同じような反応をしていた。

 

「あ、あんたたち…天に帰ったんじゃないの!?」

「実は…まだ帰ってませんでした…」

 

玄奘三蔵と諸葛孔明がよろよろな藤丸立香を支えながら天幕から出てくる。

 

「あら三蔵まで。まあ孔明が劉備のところにいるって聞いてたからいるとは思ってたけど…てか、帰ってないってどういうことよ!!」

「実はまだ役目があるのです…」

 

藤丸立香の言う通りだ。実はまだ役目があるからこそ帰れていないのだ。

 

「まだ役目があるから帰ってなかったんなら何で私たちの前から消えたのよ!?」

 

先ほどまで飄々としていた雪蓮が急な変わりようで、これには桃香や北郷一刀たちはポカンとしている。

彼らはどうやら于吉を捕まえるに大陸を渡り歩いていたようだが建業にいたなんて初耳である。正直な所、孫呉にいた二番目の天の御遣いとはもしかしなくても藤丸立香たちではないかと思ってはいた。

 

「え、あの…孫策さん?」

「ごめんなさいね劉備。ちょっとこっち立て込んでるから」

「はい…」

 

雪蓮の笑顔に桃香は黙ってしまう。

 

「何で私たちの前から消えたのか・し・ら?」

「いや、その…于吉を追うために建業から出ていきました」

 

本当は貂蝉の筋肉式タイムスリップによって元の時代に戻ったなんてどうやっても説明できない。

ならばそれ以外でらしい答えを言うしかないのだ。

 

「へえ…何も言わずにねえ」

「言う暇がありませんでした」

 

これは本当である。あの時は炎蓮にだって何も言えずに消えてしまったのだから。その後に炎蓮とは再会したが。

 

「ふーん…」

 

本当に怖くて冷や汗がダラダラである。その横にいる静かな思春も怖い。藤丸立香だってこの反董卓連合で雪蓮たちとは再会するかもしれないと覚悟はしていた。だがまさかこんな朝から再会するとは思わなかったのだ。

 

「うん。本当に言う暇なく于吉を追いかけに行ったんだ」

 

正直なところ今のセリフは雪蓮側の立場から考えてみると酷いと思われるかもしれない。

 

「それでも勝手にいなくなるなんて!!」

「ごめんなさい」

 

もはや謝るしかない。これほど説明ができなくて自分が謝るしかない立場でしかないとは理不尽であり、自分の立場が恨めしい。

まさかタイムスリップしてきて、役目を終えたから元の時間軸に戻ってきたなんてこの時代の者には伝わらないだろう。

この世界には幻想種や妖術などと言ったものが存在するのは知っているが流石にタイムスリップまでは信じてくれない。

 

「あれから大変だったのよ」

「それは知ってます。孔明先生から聞きました」

「孔明先生…って」

「ん?」

「孔明先生って、そこのちっちゃい子?」

「いえ、こちらの先生です。荊軻たちと同じく仲間です」

 

藤丸立香が朱里ではなく、カルデアの諸葛孔明を見る。

 

「…ちょっと待って。もしかして孔明って元々、立香の仲間?」

「そうだよ」

「孔明!!」

「は、はい!?」

「いや、あんたじゃなくて黒髪の方」

 

つい自分の名前を呼ばれて朱里が返事をしてしまった。呼ばれたのは朱里ではなく、カルデアの諸葛孔明である。

 

「何だ?」

 

恐らく面倒事だが名前を呼ばれたので嫌々と返事をした諸葛孔明。

 

「あんた確か、立香の事を知らないって言ってなかった?」

「言ったな」

「立香は仲間だって言ってるけど?」

「あの時は話がややこしくなると思って嘘を付いただけだ」

「孔明!!」

 

悪気も無く雪蓮の言葉に肯定する諸葛孔明であった。

 

「あ、あんた達…何もかも知っておきながら黙ってたって事ね…!!」

「お前ら…!!」

 

雪蓮と思春の目が怖い。

 

「そもそも、あの時はそれどころでは無かった。そうだろう?」

「う…それはそうかもしれないけど」

 

諸葛孔明たちが孫呉の者たちと接触した時は黄祖との戦いで確かにそれどころではなかった。そもそも雪蓮は捕まっていた状況だ。

 

「なら戦いが終わった後に話してくれればよかったじゃない!!」

「やる事やったらすぐに発つつもりだったからな」

「こんの…!!」

 

諸葛孔明には言いたい事はあるが雪蓮の優先度が高いのは藤丸立香である。

彼には、彼らには言いたい事はいくらでもある。勝手に操られた母親を倒して、勝手に自分たちの元から消え去った。

文句も言いたい事があるし、詳しく聞きたい事もあるのだ。

 

「みんな立香たちに言いたい事はあるのよ。勝手に消えて…」

「藤丸……!!」

「ごめんなさい」

 

本当に謝るしかない。先ほどから思春の怖い視線で貫かれそうな気分になってしまう。特に名前しか短く呟いていないのも逆に怖い。

 

「…よくも母様を殺したわね」

 

雪蓮が藤丸立香に対して母親を殺したと言った。それは彼女の母である孫堅を殺したという意味だ。その内容を外から聞いていた桃香たちは初耳だと言わんばかりに驚いていた。

 

「あ…あの藤丸さん。孫策さんの母親の孫堅さんを殺したって…」

 

噂でも孫堅の事は聞いている。その孫堅を藤丸立香が殺したなんて信じられない。

 

「殺したのは儂だ」

「李書文?」

 

李書文が前に出て口を開いた。

 

「そもそも孫堅は操られていた。あの時の最良は殺してでも止めるべきであった」

「操られていたって?」

「于吉だ」

 

于吉の名前を聞いて桃香たちはすぐに理解した。孫家と黄祖との戦いに于吉が加わっていたなんて初耳だ。

情報で集めたものより孫家と黄祖の戦いは複雑なようである。

 

「で、でも殺してでも止めるなんて…」

「そういう時もある」

 

桃香は『殺してでも止める』という部分に納得が出来ないようである。

 

「そう…母様を殺したのはあんたなのね李書文」

「後悔はしていない」

 

李書文は己の拳で炎蓮を貫いた事に後悔も無い。

 

「あんたねえ………はあ」

 

雪蓮は李書文のキッパリとした口調にため息を吐いた。

彼女は藤丸立香たちが母親である炎蓮を殺した事に対して複雑な気持ちでいっぱいだ。元々、炎蓮は黄祖との戦いで戦死していたのだ。

そこを于吉の手によって捻じ曲げられた。良く言えば助けられ、悪く言えば手駒にさせられた。今、冷静になって考えてみると藤丸立香たちがいなければ雪蓮たちは操られた炎蓮に殺されていたかもしれない。

あの時は誰かが炎蓮を殺してでも止めなければならなかった。その役目が藤丸立香たちだったに過ぎないのである。

役目だなんて言うが藤丸立香たちが自分の母親を殺したというのは本当に複雑な気持ちなのだ。状況が状況なだけあって、怒りたいのか泣きたいのか分からなくなる。

それでも何か言わないと気が済まないのである。

 

「……母様はあんたらに何か言ってた?」

「止めてくれて助かっただって」

「全く母様は……それにしても母様も母様よ。何が立香たちは天に帰ったよ。帰ってないじゃない」

 

あの時は本当に天に帰ったと思っていたので炎蓮は間違っていない。炎蓮だって藤丸立香たちと再会した時は天に帰ったんじゃないのかと問い詰めたほどである。

 

「……正直なところ、あんた達が母様を止めたのは感謝してるわ。でも殺したという部分は許せるかどうかハッキリしない」

「それは…分かってる」

 

彼女の気持ちは当然である。何度も考えてしまうが立香たちが炎蓮を殺してでも止めなければ雪蓮たちが己の母親に殺されていた。

結果的には立香たちは命の恩人だ。しかし、彼らが自分の母親を殺したというのも事実だ。とても複雑な立ち位置に雪蓮はいるのである。

 

「でも…また会えたのは嬉しいわ」

「雪蓮さん…」

 

雪蓮が手を差し出してきた。藤丸立香も同じく手を差し出して握手した。

 

「ふん!!」

「痛っ!?」

 

手を握ったら思いっきり雪蓮が握力を込めてきた。

 

「痛いんだけど!?」

「これくらい私の心情に比べたら痛くも痒くもないわよ」

「いや、手が折れそうなんだけど!?」

 

ミシミシと手から嫌な音が聞こえてくる。

 

「思春の剣が振るわれないだけマシだと思いなさい」

「それは確かに…!!」

 

先ほどから思春は剣の柄に手を置いているのが怖い。先ほどから怖いしか思っていない藤丸立香であった。

 

「ほら戻るわよ」

 

ぐいっと雪蓮は藤丸立香を引っ張る。

 

「え、戻るって?」

「何言ってんのよ。私たちの陣営に決まってるじゃない」

 

藤丸立香は元々、雪蓮たちの陣営だ。だからこそ雪蓮が自分の陣営に連れて行こうとするのは当然である。

 

「ほら燕青たちも。蓮華たちもきっとあんた達に言いたいことはいくらでもあるんだからね」

 

ズルズルと引き摺る勢いで藤丸立香を引っ張っていく。

 

「ちょ、ちょっと待ってください孫策さん!?」

「何かしら劉備。作戦なら汜水関に到着したら話し合うって…」

「そ、そうじゃなくて藤丸さんたちを連れていくのは困ります!!」

「何言ってんのよ。彼らは私たちの仲間なのよ?」

 

藤丸立香を自分の陣営に連れて行くのは当然だと言わんばかりの顔である。

 

「あの…藤丸さんたちは反董卓連合との戦いでは、わたしたちの陣営の協力者なので連れていかれるのは困ると言うか…」

 

藤丸立香たちは桃香たちの反董卓連合内での本当の目的のために必要な協力者である。

汜水関の作戦でも燕青は必要だ。彼までも連れていかれたら昨晩考えた作戦が意味が無くなる。

藤丸立香の仲間である諸葛孔明や秦良玉たちも連れていかれる可能性だってあるのだ。それは流石に桃香も見過ごせない。

彼女は弱弱しくもハッキリと藤丸立香たちを連れていく雪蓮を止める。藤丸立香も今は桃香たちの陣営を離れる気は無い。

 

「ごめん雪蓮さん、まだこの陣営を離れる気は無いんだ」

「何ですって?」

「やることがあるんだ」

 

桃香の陣営でなければ討伐対象になっている月を助ける事はできない。そして裏の目的で于吉を捕まえなければならないのだ。

于吉の捕縛は雪蓮たちの陣営でも出来なくは無いが月や詠たちを助けるのは出来ない。雪蓮の目的と桃香の目的は違うのだから。

 

「……そう」

 

雪蓮は手を離す。

 

「また役目ってやつね。まあ孔明から于吉の事は聞いてるし」

「雪蓮さん」

「じゃあ、反董卓連合内が終わったら戻ってきなさい。絶対よ」

 

諸葛孔明からは今は桃香の陣営に世話になっていると聞いた。ならば反董卓連合での戦いが終わればまた次の旅に出るということだ。

 

「分かったわね!!」

 

そう言って雪蓮たちは戻っていった。

朝からまさかの再会で嬉しいような疲れたような気持ちになるのであった。

 

「藤丸…お前色々と大変だな」

「色々あるんだよ北郷…」

 

藤丸立香たちがまさか孫家と関りがあったとは予想外であった。

 

「孫堅を殺したって…」

「その話は後にしよう。今は反董卓連合でしょ」

「……そうだな」

 

藤丸立香たちが孫家で何をしてきたのか気になるが今は反董卓連合が最優先なのだ。

 

(……てか、本当は炎蓮さん死んでいないんだけど)

 

その真実がいつ話せるかはまだ分からない。

 

 

260

 

 

雪蓮は自陣に帰る中で劉備陣営での出来事を思い出していた。

 

「ふふ」

「雪蓮様?」

「んーん、何でもないわ」

 

劉備たちと共闘をするために話し合いに行った。結果的にはそれは約束された。

劉備の人柄も分かった。彼女は見た目に反して相当強かだと思わせるような雰囲気であったのだ。雪蓮の感想としては劉備は善人であり、人を信じやすい人間に見えるが実際は心の底から信用しているというわけではない人間だ。

 

(悪い人間じゃない…間違いなく善人ね。でも本当に私たちを信用してくれているかは微妙な感じなのよね。彼女は信用していると言ってたけど)

 

しかし、ああいう人間は一度信頼を得ることが出来れば心強い味方になる。そしてああいう人間は敵に回すと厄介でもある。

 

(まあでも曹操よりかは善人として信用はできるけどね)

 

雪蓮として劉備は面白い人間だと思ったのだ。しかし彼女が笑顔な理由は劉備ではない。

もう会えないと思っていた藤丸立香たちに再会したからである。

冷静になって藤丸立香たちの事を考えると複雑な気持ちが沸き上がるが、無しで考えれば嬉しいものだ。

 

「まさか再会できるなんてね」

「藤丸たちのことですか」

「そうよー思春」

「しかし、あいつらは勝手に…」

「それはもういいわよ。もう過ぎたことだしね。まあ、今回の事を聞いたら蓮華たちはきっとよくないって言うかもだけど」

「当然です」

「あらら…肯定されちゃった」

 

自陣に戻って今回の事を報告すればきっと蓮華たちは怒るかもしれない。同じように複雑な感情が湧き出るかもしれない。

それでも再会出来ると思えば嬉しいと思うかもしれない。

 

「じゃ、報告が2つ出来たわね」

 

雪蓮は自陣に戻ると早速、今回の事を2つ報告するのであった。

劉備との共闘は問題なく、汜水関での作戦会議のために準備を始めるのであった。しかし劉備との共闘の話よりもやはり藤丸立香たちが天に帰っていなく、この反董卓連合に参加していたという事実に驚いていた。

 

「あんの馬鹿者が!!」

 

内容を聞いてまず怒鳴ったのは雷火であった。

何だかんだで藤丸立香と一緒にいたのが多かった1人が雷火だ。何せ、内政に関して教えていたのだから。

最も、藤丸立香が内政に関して身に付いたかまでは分からないものであるが。

 

「天に帰っていないのなら戻ってくるべきであろうに!!」

「まあ、それは私も思うわ」

「じゃな」

 

やはり天に帰っていなかったのならば孫呉に戻ってくるべきだと言う雷火に粋怜や祭はうんうんと頷いた。

 

「そうだよ。何で戻ってこないのよ!!」

 

小蓮もプンプンと怒っている。

今の孫呉の陣営では劉備の共闘よりも藤丸立香たちの話題の方が大きい。

 

「それに孔明も何でシャオに嘘付いたのよ。何が立香のことを知らないよ!!」

「あ、それ私もう言ったわ。何でもその時は話がややこしくなるから嘘をついただそうよ」

「ややこしくならないわよ!?」

 

孫呉内は怒ったり、複雑だったり、嬉しかったりで様々な感情が混ざっている。

藤丸立香たちが炎蓮を殺してでも止めて雪蓮たちを救った。そして勝手に天に帰ったと思っていたら実は帰っていなかったのだ。そしてこの反董卓連合内にいる。

まさかの再会について孫呉のみんなは黙ることなく、ヒートアップしていくのであった。

 

「…そう立香がね」

「蓮華様?」

「大丈夫よ思春。確かに今からでも立香のところに行って言いたいことはいくらでもあるわ」

「ならやはり引き摺ってでも連れてきますか」

「いや、大丈夫だから。それに聞くと今は劉備殿のところにいるようだし勝手に連れて行くのはマズイわよ」

 

元々は孫呉に属する仲間であるが今は事情があって劉備のところにいるため、此方の勝手で連れてくるわけにはいかない。そもそも雪蓮が失敗しているのだ。

 

「それでも、ゆっくりと話がしたいというのは確かよ」

 

今の孫呉は炎蓮が抜け、藤丸立香たちも抜け、袁術に鎖を付けられた状態だ。

大きな抜け穴を埋めようと雪蓮たちは今も頑張っている。新たな仲間を加え、袁術の鎖を千切るために力を付けているのである。

この反董卓連合では孫呉の兵5万を見せた。それだけでも孫呉が袁術に牙を抜かれていないことは証明できたのだ。そしてもう戻ってこないと思っていた藤丸立香たちが実は天に勝っておらず再会できたのである。

まるで孫呉が元に戻りつつあるのを実感できるのであった。

 

 

261

 

 

殴られた箇所がジンジンと痛い。

 

「痛たた…」

「大丈夫ですかマスター?」

「うん大丈夫だよリャン。そこまで酷い痛みじゃないからさ」

「しかし、いきなり殴ってくるとは…敵であったらトネリコの槍を瞬時に振るいましたよ」

「いやあ…殴られるかもとは思ってたけど」

 

もしも雪蓮たちに再会したら殴られる可能性はあった。殺してはいないが操られた炎蓮に凶拳で打ち抜き、何も言えずに彼女たちの元から消えた。

更に状況が状況であって、悪い言い方をすると藤丸立香たちは何も言わずにやることやって帰っていった。完全に解決もしていないのに途中で雪蓮たちを見捨てて消えたということなのだ。

藤丸立香たちが元の時代に戻った雪蓮たちのその後の経緯は諸葛孔明から教えてもらった。その内容を聞くと戻ったタイミングも悪すぎたのである。

 

「でも…大丈夫そうだ。炎蓮さんには良い報告ができそうだよ」

 

炎蓮は今の雪蓮たちがどうなったか気にしていた。自分がいなくなった孫呉がどうなったか気になるのは当たり前だ。

今回のことを報告をすれば「当然だ」と言って笑うかもしれない。

 

「それにしても話は聞いていましたがマスターは孫呉で天の御遣いをやっていたのですね」

「うん。まあ、天の御遣いって言っても特別な事なんて一切してないけど」

 

孫呉では天の御遣いになっていたが何も特別な事はしていない。神事のような事もとくにしていないのだ。

普通に孫呉で生活して賊退治をしてきただけである。

 

「特別な事はしていないですか…」

「してないけど…どうしたのリャン?」

「いえ。話を聞いたら何でもマスターは…その、孫呉で種馬になっていたとか」

「コフッ!?」

 

吐血したような感覚に陥った。

 

「なななななっ…何でそれを」

「武則天殿からお聞きして……マスター駄目ですよ!!」

「いや、してないから!?」

 

孫呉では天の御遣いにさせられて炎蓮の無茶な命令で種馬にならされようとしていたのだ。天の血を孫呉に入れるなんて名分があったとしてもだ。

 

「本当ですかマスター?」

 

じいぃっと見てくる秦良玉の目が鋭い。

本当に何も無かった。未遂も何もない。

ある意味、男としてはヘタレだったかもしれないが後の事を考えると手を出す、出される事が無かった方が良かったかもしれない。

 

「何も無かったから!!」

「むむむ…」

「本当じゃよな?」

「おわ、武則天!?」

 

急に現れた武則天。まるで気配遮断か霊体化でもしていたかのように急に出てきたのだ。

急な登場に驚くのは当たり前。

 

「妾も詳しく聞きたいと思っていたところじゃ。マスターが孫呉でどんな生活をしていたかの?」

「いや、だから何も無かったからね!?」

 

 

262

 

 

ついに明日、汜水関を攻める事になった。

幽州・徐州の連合軍に加えて揚州の雪蓮たちの兵も加わる事になった。孫家に借りを作る事になったが真の目的を達成にするには仕方がない借りである。

その事に関して覚悟を持って戦うからいいのだ。しかし桃香と北郷一刀は今日、気になる事があったのだ。

それは藤丸立香たちが孫堅を殺したということである。集めた情報では孫堅は黄祖との戦いで戦死したと聞いている。しかし真実は違ったのだ。

その真実は複雑であり、于吉が関わってくるのだ。少し話を聞いた限りだと孫堅は于吉に操られていたという。

 

「操られていたからって…殺すなんて」

「桃香…でも李書文も言ってたけど、それがその時の最良だったらしいぞ」

 

桃香はどうも納得できない。だが北郷一刀は何となくだが理解している。

『殺してでも止めなければいけない状況だった』という言葉は確かに納得はできないが理解は出来る。

そもそも黄巾の乱やこの反董卓連合だって見かたを変えれば当てはまってしまう。ただ自分の感情の問題と相手によるというだけである。

 

「そんな状況がやっぱり本当にあるの?」

「あると思う桃香」

「そうなんだ…」

 

桃香は藤丸立香が『人を殺してでも止める』なんて行動をするなんて人柄から思えなかったのだ。正確には実行したのは李書文だが、主である藤丸立香が許したとは最初は思いもしなかったのである。

その事に関しては北郷一刀も桃香と同じように思っていた。まだ短い付き合いであるが常識も感性も似ていると思っていた。しかし違ったのだ。

 

「藤丸の性格からしてみれば……何とか助けようしたと思うけどな」

「それ、わたしもそう思う」

 

まさかの出来事に桃香と北郷一刀は複雑な気持ちになっていたのだ。

そんな2人の様子を見て声を掛ける者が現れた。

 

「あらあら。複雑な気持ちになってるわねん」

「貂蝉さん!?」

 

ぬるっと現れた貂蝉。そのぬるっと現れたのに実は驚いた2人。

 

「立香ちゃんは優しい子よん。それは短い付き合いだけど分かってるんでしょ」

「それは…まあな」

 

藤丸立香が善人なのは分かっている。

 

「立香ちゃんだって救えるのなら救いたかったでしょう。でもね、救えない時もあるのよん」

「そんな…救えないなんて」

「あるものよ。全てを救えるのなら、それが一番でしょう。でもでも、現実と理想は違うってこと」

 

藤丸立香だって救える選択があるのなら、そちらを選ぶ。しかし、2択に1つを選ばないといけない立場ならば断腸の思いで選ぶしかないのだ。

ロストベルトでの戦いはまさにそれである。汎人類史を救うために異聞帯に生きる罪の無い人々を犠牲にしてまで戦っている。この情報は貂蝉が独自に調べて分かったものだ。

調べたと言っても諸葛孔明と話し合った時に聞いたのであるが。

今、ロストベルトの話を桃香たちに話すと相当ややこしくなるので貂蝉は口を塞ぐ。

 

 

「立香ちゃんたちの事が嫌いになっちゃったかしら?」

「そんなことないよ!!」

「ああ。そんなことはない」

 

藤丸立香たちが悪意を持って孫堅を殺したと言うのなら考えは変わっていた。しかし、彼らには悪意等無い。孫堅を殺したのは、そうするしかなかったのだ。

(まあ、その孫堅…炎蓮は死んでないけどねん)

 

孫堅もとい炎蓮は今頃、桃香が相をしている平原にいるのだ。もしかしたら今頃、腹でも空かして肉でも食ってるかもしれない。

「藤丸さんたちは孫策さんの母親を殺したかもしれない。でもだからと言って、わたしたちが藤丸さんたちを恨んでもしょうがないよ」

「ええ、そうよん。感情的には複雑かもしれないけど…誰にでも何か秘密や後悔はあるもの。それをどう思い、判断するかは人それぞれねぇ」

 

誰にでも何か秘密や後悔があるという貂蝉の言葉に桃香は心をチクリとさせた。その痛みは北郷一刀や愛紗もまだ分からない。

 

「でも、原因は于吉なんだよね?」

 

そもそも藤丸立香たちが孫堅と戦う羽目になったのは于吉が絡んだからである。

もしも于吉が絡んでなければこの外史は外史の歴史通りに進んだ可能性だってあるのだ。

 

「確かにねん…于吉ちゃんが絡まなければ立香ちゃんたちが孫堅に手を下すなんて事は無かったかもしれないわ」

「……やっぱり于吉を捕まえないといけないんだ」

「待って桃香ちゃん。確かに于吉ちゃんを捕まえないといけないけど…貴女の目的は董卓ちゃんを助け出すことでしょ」

「そうだぞ桃香。俺らは于吉がどんな奴か分からないが藤丸たちが苦戦するほどの奴だ。そんな奴を捕まえると同時並行に董卓を助け出すのは無茶だ」

 

董卓を助け出すのにすら細心の注意を払って反董卓連合内を動かなければならない。更に過去の英雄たちでさえ捕まえるのが困難である于吉を捕まえることまで手を出していたら本来の目的を達成するのは難しい。

『二兎を追う者は一兎をも得ず』なんてことわざもあるくらいだ。理想は両方とも達成することだが、貂蝉が先ほど言ったように理想と現実は違う。

 

「俺たちは俺たちの目的を、藤丸たちは藤丸たちの目的で動くと決めたんだ。それは変えないぞ桃香」

「そ、そうだよね」

「ああ、上手くいくさ。そう考えようぜ」

「うん!!」

 

反董卓連合は始まったばかりだ。今は己の目的に専念するだけである。




読んでくれてありがとうございました。
次回も2週間後予定です。早く更新できれば更新します。


今回は藤丸立香たちと雪蓮の再会でした。
どういう風に書くか迷っていましたが、こんな感じになりました。まあまあな着地点だと思います。
内容から分かるように藤丸立香たちは様々な陣営を渡り歩くのでいずれまた孫呉の陣営に戻ります。その話はまた次章になりますね。

そして次回でやっと汜水関での戦いになります!!

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