Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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こんばんわ!!
さて、ついに今年最後の日。大晦日ですね!!
こんな真夜中に更新です!!
真夜中なテンションでなんとか書き上げましたーー!!


反董卓連合-玉璽-

317

 

 

曹操と桃香は話し合っていた。

 

「聞いたわよ。麗羽に随分と絞られたようね劉備」

「あ…あはは。どうも」

 

洛陽での決戦が終わって、数日後。戦いの終わった洛陽は少しずつ復興の道を歩み始めていた。

 

「曹操さんは橋の修繕ですか?」

「ええ。工事を再開させただけだけれどね」

「再開?」

「既に董卓が手を付けていたのよ。今回の戦いで工事が中断して、それを引き継いだだけ。禁城の国庫に余分な金銀はなかったし、この手の修繕を各所で行っていたのでしょう」

 

更に軍備の拡充や街道の整備も行っていたことも分かったのだ。

 

「これなら税が下がらないはずだわ」

「ですが董卓は遷都をすると言ったのでは?」

「あら関羽…そんなことが今の朝廷に出来るはずもないくらい、子供でもわかるでしょうに。引っかかるのは麗羽くらいのものよ」

「華琳さま!! ご指示のあった糧食の運び出し、終わりました!!」

「ええ、ご苦労様」

「糧食?」

「洛陽の民に炊き出しをしていると聞いたわよ。どうせ人手も糧食も足りていないのでしょう?」

「あ…助かります。ありがとうございます」

 

本当は俵藤太のおかげで十分すぎるくらい足りているのだが曹操からの好意として受け取る事にした。

 

「…夏侯惇、どうしたのだその目は!?」

 

あまりにも普段通りすぎて気付かなかった。夏侯惇をよく見たら片目には大きな眼帯が当てられていたのだ。

 

「華琳さまの命を果たす途中で、ちと流れ矢に当たってな。まあ、かすり傷だ」

 

片目失明をかすり傷とは言えない。

 

「いや…明らかにかすり傷ではないだろう。目はまた見えるようになるのか?」

「無理だろうな」

「そんな、あっさり…」

 

物凄くあっさりと言うので大ごとに思えないが、実際は大ごとである。

 

「だが華琳さまがこの眼帯を下さってな。どうだ、よく似合うだろう?」

 

片目が見えなければ距離感が掴めなくなる。武人にとって結構な痛手だ。しかし夏侯惇はそんな事を気にした様子もなく、曹操にもらった眼帯を自慢げに見せびらかしていた。

 

「なら、私たちは次の監督があるから行くわね」

「あ、はい。お気を付けて」

「それにしても片目を失うとは…まあ、本人が気にしていないなら何よりか」

「…愛紗ちゃん」

「わかっています。私は桃香さまが悲しむような真似はしませんよ」

 

 

318

 

 

「はーい、大人しく一列にならんでくださーい!!」

「ご飯は十分あるから大丈夫っすよー!!」

「はい。熱いので気を付けてくださいね」

「いっぱいたらふく食えよ。まだまだあるからな!!」

 

電々と曹純に曹仁、俵藤太は炊き出しを行っていた。

 

「曹純たちが来てくれて本当に助かったよ。ありがとう」

 

曹操の所から糧食と一緒に手伝いに来てくれた曹純と曹仁、陳珪のおかげで町の人に配る炊き出しの作業は順調に進んでいた。

 

「ふふっ。困ったときはお互い様と言うでしょう?」

「はい。私たちがお姉さまに頼んで言い出したことですから。こちらこそ受け入れてくださってありがとうございました」

「それにしても…張遼が曹操の所にいるとは思わなかった」

 

張遼こと霞は色々あって曹操の元に降ったのである。

 

「まあ、色々あってな。そう言えば楼杏は? 燈から劉備ちゃんの世話になっとるて聞いたけど」

「その桃香と周辺警戒に出ているよ。その後は別の場所で炊き出しを行うって。張遼の事も心配してたから、話を聞いたら安心すると思う」

 

皇甫嵩は漢の将であるためこの先どうするか分からなかった。しかし、一時的とはいえ前のような関係でいられるのはありがたい話である。

 

「でも、劉備殿がお留守だったのは残念だわ」

「桃香も陳珪さんによろしくって言ってました。それじゃ電々に孫乾、藤太さんあとは頼むね」

「はーい!!」

「お任せ下さいまし」

「うむ。任せろ」

 

炊き出しは順調であった。更に張遼の行方も分かったのも嬉しい話題だ。

 

「それにしても月らはどこに行ったんかなぁ。禁城の中におったんやろか」

「そうだなぁ…」

 

あの決戦の日。

藤丸立香たちは見つかったが結局董卓を見つけることは出来なかった。

張遼たちも知らないのなら、後は袁紹たちがこっそり見つけてくるという可能性しかなかった。

その袁紹達は桃香たち等の他の諸侯を禁城から閉め出して朝廷の重鎮を相手に色々と画策しているようだ。連合の手柄を独占でもしようとしているのかもしれない。

 

「それだけど結局天子様も董卓も見つかってないぜ。麗羽さま、それでずーっとピリピリしててさー」

「え、どこでそんな情報…って文醜!?」

「この飯なかなか美味いな。どこの味付け?」

 

急に現れたのは文醜であった。

 

「味付けしたのは拙者だ。美味いか?」

「へー。こりゃいけるじゃん!! なんか初めて食べる味付けだな」

「そうだろう。そうだろう」

「いや、何で文醜がこんな所にいるの。禁城に詰めてたんじゃないの?」

「さっき言っただろ。麗羽さまたちが機嫌悪いから居心地悪くってさー。斗詩や真直も役人連中との折衝で胃が痛い胃が痛いって」

 

だから彼女は城下の見回りってことにしてその辺をブラブラしているとの事。

 

「どこも大変だな。でも、いいのか? 天子様や董卓が見つからないって袁家の機密情報なんじゃ…」

「……………あっ」

「「「…………………」」」

 

聞かなかった事にした。

 

 

319

 

 

蘭陵王は荊州からある客人たちを預かって洛陽の街の一角に足を運んでいた。

 

「桃香殿ー!!」

「どうかしましたか蘭陵王さん?」

「実は会わせたい方がいるのです」

 

桃香の前に出てきたのは2人の女性。

1人目の一歩は限りなく優雅に。もう1人はこわばった同じ方の手足をビシリと真っ直ぐに突き出してみせた。

 

「はい。わたくしは荊州の長沙の太守をつとめております、黄忠と申します。それからこちらが…ほら、焔耶ちゃん」

 

黄忠と名乗った女性に促されてガチガチに緊張している方は直立不動の姿勢のまま大きな声を張り上げた。

 

「はっ、初めまして!! ワッ、ワシ…ワタシは、姓は魏、名は延、字は文長と申すものでして…このたびの劉玄徳殿におかれましてが、ご機嫌麗しゅう!!」

「あ…はい。劉玄徳です。初めまして…?」

 

いきなりの挨拶に訳が分からないと言った桃香だ。

 

「あの…何で魏延殿はこんなにも緊張しているのでしょうか黄忠殿?」

「東からの噂を聞いて玄徳さんの事をずっと気にしていてね。洛陽に来るのが決まった時も玄徳さんに会えるととても喜んでいて、それに加えて想像していたよりもずっとずっと可愛らしい子だったから浮ついているのよ」

「そういう事ですか」

「ああいうの見た事あるのだ。青州で天和たちがやってたやつなのだ」

 

実は居た鈴々が魏延を見て思ったのは天和たちというアイドルを前にして緊張したファンそのもの。

斉の城内でも彼女たちのファンになった兵士たちがちょっと話しかけられてガチガチになっていたのだ。

 

「焔耶ちゃん玄徳殿もお忙しい様子だから帰るわよ。失礼いたしました」

「は…はい。玄徳さま、今日はありがとうございました!!」

 

魏延はガチって音がするくらいの勢いで直角に一礼すると、苦笑する黄忠と一緒に戻っていった。

 

「…はふぅ。びっくりした」

 

本当にいきなりであったので桃香はハテナマークがポンポンと頭の上に浮かび上がるのであった。

 

「桃香殿。鈴々殿が歌手の天和殿みたいと仰ってましたよ」

「あ、あはは…あの子たちみたいな人気者ってわけじゃないですよ。でもがっかりされたかな」

「どうしてですか?」

「こんな私を見て想像と違ったんじゃないかと思って…」

「そんな事はありませんよ」

 

それでも桃香の表情はどこか曇ったままだ。その理由は分かっている。

助けたいと思っていた董卓を見つける事が出来なかったからである。見つけられなかったという重みが圧し掛かっている。

 

「桃香殿…」

 

実は董卓もとい月は生きているのだが、この事はまだ桃香は知らない。蘭陵王でさえ知らない。

知っているのは藤丸立香や秦良玉たち極一部の者だけだ。言いたくても月から口止めされているから言えないのである。

極秘の情報であるため藤丸立香たちは仲間にさえ言えないのだ。

 

「……そう言えば我が主。立香殿は何処に?」

 

取り合えず話を変えようと思って自分のマスターの所在を聞く。

 

「立香さんなら確か…武則天さんと一緒に街の見回りに行きましたよ」

 

 

320

 

 

藤丸立香と武則天は2人で洛陽の街を見回りしていた。

武則天としては久しぶりにマスターと2人きりなので上機嫌だ。カルデアでは2人きりになるというのはなかなか無い。

マスターに好意を持っている英霊は何とか2人になる方法を画策しているのだ。だがどの英霊も癖の強い者たちばかりで画策しようが上手くいく事はそうそうないのである。

 

「くっふっふー。マスターよ次はそっちに行くぞ」

「ん、分かったふーやーちゃん」

 

藤丸立香は武則天を肩車しながら洛陽の街を歩くのであった。彼女的にはお姫様抱っこが良かったのだが。

そんな2人きりの時間の中で不思議なものを見た。普通ではあり得ない光景である。

 

「「…………」」

 

その光景に2人は一瞬だけ無言になった。

 

「えーっと…井戸から龍の幻影が昇ってる」

「じゃな…」

 

2人が無言になった理由とはある井戸から龍の幻影が天に向かって昇っている光景を見たからである。

正確には龍みたいに凄い光が放たれているというものだ。

 

「うーむ。この感じ…」

「何か分かるのふーやーちゃん?」

「もしかしたらじゃが…」

 

何か分かったので口を開こうとした時に遠くから声が聞こえてきた。

 

「こっちですこっちー!!」

「はい。こっちです!!」

 

聞き覚えのある声が聞こえてきたのだ。その人物とは明命と魯粛であった。

 

「あれ、明命と妹弟子だ」

「立香さん!!」

「誰が妹弟子ですか!!」

 

更に彼女たちの後ろからは雪蓮に冥琳、雷火が駆けてくる。

 

「立香じゃない。それとそっちの子は確か武則天ちゃんね」

「雪蓮さんたちまで……もしかしてコレかな」

 

彼女たちが来た理由はやはり井戸から昇っている龍の幻影だ。

 

「あ、ほら。あれです。あれ!!」

「ほら包の言った通り井戸から龍が飛び出してるでしょ!!」

 

井戸から昇っている龍の幻影に雪蓮たちは驚いている。明命と魯粛の証言が最初は信じられなかったのだろう。

 

「な、何なの…?」

「雪蓮様、うかつに近づいてはならん!!」

「…ふむ、明命。中に入って確かめてくれ」

「ええっ、入るのですか? だ、大丈夫でしょうか…龍に食べられないですか?」

「大丈夫だと思う」

「本当ですか立香さん…」

「たぶん」

「たぶんですか!?」

 

不思議な光景だが危険ではない感じはするのだ。

 

「明命、さっさと調べよ」

「雷火さまぁ…」

「ほら、早く下りてください。明命さんなら何があっても大丈夫ですよ!!」

 

魯粛が明命をグイグイと井戸の方へと押していく。

 

「わわわっ!? 押さないでください!!」

「ほら、ほらっ!!」

「包さんっ…って、あっ!?」

「え…ひゃわーーーーーーーっ!?」

 

何故か魯粛が井戸に落ちた。

理由としては明命を後ろから押しまくっていた魯粛が最後は身をかわされて、自分が井戸に落ちたというオチである。

 

「もーーー、明命さん!!」

「自業自得なのです!!」

「ほう、生きておったか」

「ねえ、包。何があったの?」

「騒いでないで光の原因を確かめろ」

「ひどい…!!」

 

魯粛の安否は確認しないようだ。

 

「妾が言うのもなんじゃが、こやつらひどいな」

 

取り合えず魯粛は無事であるが相変わらず井戸は光を放っており、上からでは中の様子は分からない。

 

「もー、ずぶ濡れです……ん、あれ?」

「どうしたのー!!」

「あ、何かあります!! ひゃわわっ。これ光ってます!!」

「明命」

「はい雷火様。包さん、待っててください!!」

 

今度は明命が桶にくくられた縄を伝い、井戸の中へと下りて行った。

藤丸立香は先に縄で魯粛の身体を引き上げる。次は明命は猫みたいに壁を蹴って、一人で井戸から上がって来た。

 

「はー、もー、濡れ濡れになったじゃないですかー」

「自分で勝手に落ちたんじゃないの。で、何があったの?」

「はい、これです」

「巾着袋?」

 

魯粛は握っていた物をみんなの前に差し出した。

いつの間にか井戸から昇っていた龍の幻影は消えていた。

 

「これが…ふむ、まだかすかに光っておるな」

「開けてみろ」

「はい…ん、何ですか、印鑑?」

「……貸せい!!」

 

何かに気付いたのか印鑑をひったくって念入りに確かめる。

 

「雷火殿、それは…」

「ふむ、うむ…間違いない。これはまさしく玉璽じゃ!!」

「何ですって!?」

 

『玉璽』という言葉に明命以外の者が驚く。

藤丸立香も玉璽という物は知っている。確か皇帝の権威を示す玉でできた印鑑で秦王朝以降の王権の象徴となった物だ。

カルデアにいる始皇帝に一度見せてもらった事があるのを思い出す。

 

(あれがこっちの世界の伝国璽)

 

玉璽と聞いた雪蓮は雷火の手に置かれた玉璽をじっくりと見る。

 

「…白い大理石を素材とし、龍をあしらった彫刻」

「ひゃわわっ、秦始皇本紀に書かれている表記とまったく同じですよ!!」

「そんなに凄い物なんですか?」

 

明命はよくわかっていないようだが玉璽は価値は凄いものである。

 

「ああ。始皇帝が作らせた皇帝たる証だ。これはとんでもないものを拾ったな」

「何故、井戸の中に落ちていたんでしょう?」

「わからん…しかし誰かによって宮廷より持ち出されたものだろうな」

 

他に考えられるとすれば混乱に紛れて誰かが盗んで、慌てて井戸に隠したという線もある。

 

「天祐よこれは…」

「ふむ、まさしくこれぞ天祐じゃ」

「明命、手の者を洛陽の民に偽装させ、さりげなく情報を流せ。孫策が天より玉璽を授かったとな」

「了解であります」

 

すぐさま明命は動くのであった。

 

「玉璽の噂が広まれば、孫呉に天の御遣いがいたという風評も真実味が増すでしょうね」

「まあ、実は天に帰っていなかったみたいだけどね」

 

ジロリと藤丸立香をみるのであった。これには苦笑いをするしかない。

 

「うむ。雪蓮様これより先は天に選ばれし、徳のある王として振る舞っていただかねばな」

「ちょっとー、まるで今日までの私は、まったく徳が無いみたいな言い草ねー」

「さらに精進されよと申しておるのじゃ」

「うええ…面倒くさいなぁ、もう」

「雪蓮、ふざけている時ではない。孫呉の未来のためにも、この天祐を存分に利用しなければならん」

「分かってるわよ。本音を言っただけ」

 

本音は駄目だろと全員が心の中で呟いた。

 

「雪蓮」

「はいはい、頑張るわよ」

「はい、は一度じゃ」

「はい」

 

面倒くさそうに返事を直されるのであった。

 

「そうじゃ雪蓮様。この玉璽を持ってみてくだされ!!」

「え、ええ。いいけど」

 

そう言われた雪蓮は玉璽を持った瞬間にまたも龍の幻影が現れた。先ほどと違ってはっきりとした龍の幻影だ。

 

「え、ちょっと何これ」

「やはり…本当であったか」

「何か知ってるの雷火?」

「この玉璽は特別製でな。王の資質を持つ者が手にすると今のように龍の幻影が現れるのじゃ。文献によると始皇帝もまたこの玉璽を持つと龍の幻影を出したとされておる」

 

王の資質を持つ者だけが玉璽を手にすると龍の幻影が現れる。今まさに龍の幻影を現した雪蓮は始皇帝のように王になる事を示唆しているのだ。

 

「雪蓮様が王に…!!」

「流石は雪蓮だな」

 

玉璽を持って王になる資質を見せた。その事実に雷火や冥琳は笑顔になった。

やはり孫呉は袁術に一生飼いならされるなんて未来は無いとまた1つ分かったのである。

 

「…王の資質かぁ」

「どうした雪蓮?」

「いや…この玉璽を曹操が持ったら確実に龍の幻影が出るんだろうなーって」

 

だろう、ではなく確実に曹操ならば龍の幻影を出すと思っている。

自分で思うのも何だがこの大陸で一番、天下に近いのは曹操だと思っているからだ。しかし、だからといって負ける気は無い。

 

「負けるつもりは無いわ。母様との約束だしね」

「うむ。雪蓮様よその意気じゃ」

 

孫呉が玉璽を手に入れた事でまた1つ覇道への道に近づくのであった。

 

「……うん」

「どうした雪蓮? また曹操みたいに誰かが持ったら龍の幻影を出す奴でも思い浮かべたか?」

「え? まあね」

 

雪蓮が思い浮かべたのは劉備である。劉備もまた反董卓連合の中でも雪蓮が目を付けた人物だ。

王という感じではなかったが不思議な魅力があるのは確かである。もしも劉備が玉璽を持ったらどのような反応が起きるか気になったのだ。

 

「でも気になったのは立香なのよね」

「え、俺?」

「ええ、天の御遣いだし…ちょっと持ってみてよ」

「持っても龍の幻影なんて出ないと思うけど…」

「試してみないと分からないじゃない。ほら持って」

「出ないと思うけどなぁ」

 

藤丸立香は雪蓮から玉璽を受け取るが龍の幻影が出る事は無かった。

 

「あら、出ないわね」

「だから言ったのに。でもふーやーちゃん…武則天なら出すね」

「え、この子が?」

「くっふっふー。確かに妾なら確実じゃな!!」

 

自信満々の武則天。その理由は藤丸立香と武則天しか分からない。

何故なら武則天はまさに皇帝であるからだ。

 

「こんな童女に王の資質なんてあるわけなかろう」

「何じゃとー、不遜すぎるぞ!!」

 

雷火の一言にプンプンと童女らしく怒る武則天。

 

「立香がそう言うなら確かめてみましょ」

 

雪蓮の武則天に対する感想は偉そうな童女だ。しかし何処か特別な高貴さを持っているのも感じる。

建業ではそこまで長く一緒にいる事も無かったから彼女の内側なんて分からない。もしかしたら武則天は藤丸立香の仲間の中でも特別な存在なのかもしれない。

 

「ほれ寄越せ」

「はい」

 

藤丸立香は武則天に玉璽を渡した瞬間に龍の幻影が現れた。

 

「な、なんと!?」

「ええっ!?」

 

武則天が玉璽を持った瞬間に龍の幻影を出した事に雷火と雪蓮は驚いた。雷火にいたっては本当に龍の幻影を出すと思っていなかったら驚きも倍である。

この結果により武則天もまた王の資質を持っている事が分かった。最も武則天は本当に皇帝なのだから玉璽から龍の幻影を出すのは当たり前であるのだが。

 

「くっふっふー!! どうじゃ、これで妾の凄さが分かったか!!」

「流石です。聖神皇帝様」

「くふふ。流石マスターは分かっておる。ほれ、頭を撫でる事を許可するぞ」

 

言われて武則天の頭を優しく撫でると嬉しそうに目を細めるのであった。

その姿はまさに年相応の童女なのだが王の資質を目の前で出されてはただの童女ではないと認識される。

 

「ほれ。返すぞ」

「あら、返してくれるの? そのまま取られるかと思ったわ」

「妾を何だと思っておるのじゃ。妾にそれは必要無いからの」

「その言葉に驚きね」

 

皇帝の証である玉璽が必要無いなんて言葉はこのある人物たちが聞けば驚くはずだ。だが武則天にとっては確かに必要無い。

そのまま奪い取っても今の武則天にとっては価値の無いものなのだから。

 

「その玉璽はお主らが上手く使うといいぞ」

「まあ、そのつもりよ」

 

玉璽の噂はすぐさま洛陽に広まった。

驚いた事に噂が広まるや雪蓮のもとには人や物が次々と集まり、洛陽の復興作業は一気に加速する。

もともと反董卓連合での雪蓮の名声も高かったため、洛陽の有力者たちはこぞって援助を申し出てきたのだ。

雪蓮も口では文句を言っていたが、徳ある王としての振る舞いに努め、来たるべき時に備えて多くの人と交流を持ち、孫呉の存在感を天下の都に示したのだった。

玉璽をこれからどう使っていくは雪蓮たち次第だ。しかしこの玉璽がまさかの物語を展開していくとはこの時、雪蓮も藤丸立香も思いもしなかった。

 

 

321

 

 

洛陽から離れた場所にて。

 

「ああ、左慈!!」

 

于吉が両手を開いて左慈を出迎えていた。

 

「まったく来ているなら連絡くらいください!! 手料理も作れないじゃないですか!!」

「作らんでいい」

「何処もケガしていませんか!? ケガしているなら言ってください。すぐに治しますよ!!」

「平気だからベタベタ触るな。って、変なところ触るな!!」

「もう左慈は恥ずかしがり屋ですねえ」

「違うからな」

 

いつもの于吉を見て左慈はため息を吐く。

 

「で、どうでしたかこの外史の北郷一刀は?」

「あの北郷一刀と同じだ。どの外史であろうとアイツはアイツだった」

「そうですか。まぁ彼との決着は必ず付けるのでしょう?」

「ああ……ところで後ろにいるのは此方の主力メンバーか?」

 

左慈は于吉の後ろに居た者たちを見る。

 

「ええ、集めるのに苦労しましたよ。ですが戦力としては最高のものです」

「…ほう。で、それはいいんだが何で集合しているんだ?」

 

左慈も于吉の後ろにいる者たちの実力は分かっている。確かに相当な実力を持っていると判断。

これはこれからの計画にとても期待できると思うのであった。

 

「何でもこれからの自分たちの敵を見ておきたいとの事だそうですよ」

「そうか。で、感想は?」

 

左慈は于吉の後ろにいる者たちに感想を聞いた。

 

「ふん。こっちの私を見てみたが弱すぎる。あれでは天下は取れまい」

「流石はこっちの私ね。良い娘ばっかり侍らしてるわ。あれ全部欲しいわぁ」

「………ご主人様、桃香さま」

 

禍々しい気を放つ3人は各諸侯の陣営の中でもある陣営ばかり見ていたようだ。

 

「……不思議なものだな。あいつらとソックリとは」

「まあ、そうですね。しかしあっちの彼女たちとはまったく違いますよ」

「それは分かる。こっちの方が圧倒的に強い」

 

禍々しい気を放つ3人は各陣営にいるある3人とソックリであった。その3人はどういう存在であるかは今は分からない。

後にこの3人とは大きな物語が起こるのであるがまだ先の話である。

 

「で、こっちは……よくこいつらをこっちに連れてこれたな」

「裏技を使ったんですよ」

「裏技ってなんだよ」

「裏技は裏技です」

 

もう一方の者たちは先ほどの3人とは別の禍々しさを纏っていた。

 

「あいつらを皆殺しにすればいいのか。あんな弱い奴らを殺すなんて簡単だ」

「そう言って自分の力を過信して負けたんですがね」

「…五月蠅いぞ方士。貴様を殺してやろうか?」

「新たな力を与えたのは誰と思ってるんですか」

「ふん」

 

その者を見て言い表すならば『鬼』と間違いなく言うはずだ。

 

「…それにしてもまさかあいつまでこの世界にいるとは思わなかった。しかし逆に好都合だ。今度こそ殺す!!」

「ああ、確か貴女はカルデアの『彼』に負けたんでしたっけ? 首を斬られたのは『彼』ではなくあっちの外史の娘みたいですけど」

「……あいつを殺して、向こうの世界に戻る。今度は負けん!!」

 

『鬼』はカルデアに所属している『彼』に対して相当な恨みを持っている。滲み出ている殺気は尋常ではない。

どのような経歴があるかは今の段階では語られないのだ。

 

「あいつはいるようだが源氏の侍大将はいないのだな。ちっ…居れば今度こそ殺せたものの」

「みたいですね」

「…あのマスターとかいう小僧を殺せば出てくるかもしれんな」

 

『鬼』はどうやら『彼』だけでなく源氏の侍大将にも恨みがあるようだ。

 

「時代的、大陸的になぜ『彼』がこの外史にいる理由は貴女やこの妖魔たちが原因かもですねぇ」

 

于吉は後ろに控えていた大きな蟲と着物を着た女性を見た。

大きな蟲は不気味に蠢き、着物を着た女性は静かにたたずんでいた。

 

「どう思いますか?」

 

そう質問すると着物の女性は静かに口を開いた。

 

「……あの者なんて知らない。しかし何故か殺したいと思う」

 

大きな蟲に関してはギチギチと音を発していた。

 

「フフ…それはきっと彼が貴方たちと特別な関係があるからですよ」

 

この2体の妖魔は特別である。于吉が造り出した傑作の妖魔であるからだ。

更にとっておきの妖魔をまだまだ控えている。黄祖との所では前哨戦のようなものであり、これからが本番である。

 

「そうだ。貴方は妖魔の力はいりませんか?」

「…朕に妖魔の力なぞいらぬ」

「欲しくなったら言ってくださいね。貴方の為に特別なのを用意しています」

 

高貴な少年に対して于吉は礼儀正しいお辞儀をするのであった。

 

「ま、何はともあれ貴方たちが動くのはまだ先です。あなたたち3人は宝珠集めに集中してください。『あのお方』が今か今かと待っていますので」

「分かっている。1つは見つけたがまだあるからな」

「逆にそちらは任せたあの計画の準備を進めてください」

「ああ。こちらも計画は順調だ」

 

そう言って彼女たちはそれぞれの目的の為に消えた。

 

「……何とも濃いメンバーが集まったものだな」

「ははは。ですが力量は確かですよ」

「では俺も戻る。こっちも計画の準備をしないとな」

「ええっ!? もう戻ってしまうのですか!? ちょっとでもいいからお茶しましょうよ!!」

「するか!!」

 

そう言って左慈と于吉も消えるのであった。




読んでくれてありがとうございました。
次回も未定ですが早く更新出来たら良いなって思ってます。
う~ん。これで今年最後の更新かな?(いや、頑張れが何とか。やっぱどうだろう…)

さて、タイトルが玉璽って書いてあるように今回の物語のメインは320からでした。

317~319
これらは原作と似た流れです。違うといえば月の所在をごくわずかの者は知っているけど諸事情により教えられないっていうもどかしさですね。

320
玉璽を手に入れた雪蓮たち。この玉璽が次の4章で色々とある予定です。
玉璽を持つと龍の幻影が現れる~王の資質がある~云々はオリジナル設定です。
これは『ある事の証明』につなげる為ですね。
そもそも恋姫アニメ版に登場する兵馬妖は始皇帝が作らせた物です。この事から恋姫世界の始皇帝は少なくとも妖術関連の知識があったと思います。
なら今回のオリジナル設定の玉璽もそんなに違和感がないと思って書きました。
革命の原作でも玉璽から龍のような光が発光されたというのはありましたからね。

321
左慈と于吉sideです。
何かいきなり新キャラを多く出し過ぎて混乱するかもですが敵側の主力たちです。
ある3人はもしかしたらすぐ分かるかもですね。
そして『鬼』や『朕と名乗った者』も考えればすぐ分かると思います。
妖魔も分かっちゃうかもですね。
あときっと「どういうこと?」っていう部分もあると思いますがソコは物語が進むことで分かりますので。
彼女たちの登場はまだ先ですけどね。

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