Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義   作:ヨツバ

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呂布(恋)の襲来編の後半です。



怒れる呂布

341

 

 

徐州の城にて。

 

「月…白湯さまも、こんな所にいたの」

 

詠は護衛も付けずにいた月と白湯を発見する。本当に自分たちの今の立場を考えて欲しいものだと思ってしまう。特に白湯。

 

「詠ちゃん…やっぱり私」

「駄目だよ。ボクも二人もこの城から出るわけにはいかないんだから」

 

月もとい白湯を城の外に出すなんてもっての外だ。恋を止める為に月が出てしまえば徐州に董卓が生き延びていたと知らせているようなもの。

 

「それに今頃出ても、もう追いつけないよ」

「ですが恋もあの戦いで月に尽くしてくれた一人でしょう。何か報いる方法はないのですか?」

「そうだよ。それこそ、恋さんを城内に招き入れてから私が説得するとか…」

「見えない所で何かするのが問題なのよ。袁家の連中なら、そこに煙を立てるくらいいくらでもしてくるんだから。この徐州にだってもうどれだけ間諜が入っているかも分からないし…。だからもし恋を下すなら。まずは目に見える所で下す必要があるの。月の名前を出さずにね」

 

袁紹や袁術はまだ董卓や天子を探している可能性はある。もしかしたら何か気付いているかもしれない。

 

「それって…」

「正面から戦って、倒すか捉えるしかないって事」

「……出来るのですか?」

「諸将の揃った反董卓連合でも出来なかった事ですからね。鈴々まで欠いた今の桃香たちでは、まず不可能でしょう」

「お互いの移動速度を考えれば、もうすぐ接敵する頃だろうけど…」

「桃香さま…恋さん」

 

342

 

 

荒野にて戦闘は始まっていた。

 

「はぁぁぁぁああああ!!」

「……ちい!! やはり一筋縄でいく相手ではないか!!」

「ぐぬぬ…お昼時を襲ってくるなど、卑怯ですぞ!!」

「ねねは下がって!!」

 

愛紗は既に恋と戦闘を開始していた。

 

「それより…鈴々はどうした!!」

「……邪魔!!」

「ちっ、答える気はないか。ならば、力づくで聞かせてもらう!!」

「やれるものなら……っ!?」

「□□□□!!」

 

カルデアの呂布奉先も戦闘に加わっていた。恋も強いが愛紗と呂布奉先が力づくで抑え込めば捕縛が出来ない事は無い。だがそれは通常だった場合だ。

今の恋は普通では無かったのだ。

 

「…このっ!!」

 

恋の目が赤黒く充血し、妖気が滲み出る。

その姿を見る音々音は痛々しい顔をしてしまう。

 

「何だあれは…?」

 

愛紗は反董卓連合で戦った時よりも凶悪そうで不気味と感じてしまう。だが呂布奉先は気にせずに突撃してお互いの方天画戟をぶつけ合う。

 

「□□□□!!」

「うあああああ!!」

 

あの無敵君主、飛将軍の一撃を真っ向から受ける恋は凄いと言いたくなるが今の彼女の状態は普通ではない。

どう見ても暴走寸前の状態だ。どうなればあのような状態になるか分からない。

藤丸立香はよく観察して状況を分析する。今までで似たような事例が無いかを思い出す。

 

「北郷、策は分かってるな!!」

「ああ!! 詠は呂布を倒す方向で考えていたけど愛紗とは出来るだけ疲れさせて捕まえたいと話している。楼杏もその方向で頼む!!」

 

今回の詠の策は愛紗が先陣を切ってくるだろう呂布を抑えている間にそれ以外の賊を楼杏たちで削り切るという単純なものだ。

いくら三国一の武人である呂布もたった1人では何もできない、と考えたいものだ。だが今の恋を見てしまうと本当にそれで大丈夫かと思ってしまう。

 

「邪魔…!!」

「…ぐう!!」

「□□□□!!」

 

恋、愛紗、呂布奉先の3人が戦いを繰り広げる。

 

「月を…返せ!!」

「…ちい、貴様はそればかりだな!!」

「それだけで…いいからぁっ!!」

 

怒りと共にどこか悲痛な声も含んでいた。

 

「はあああああ!!」

 

方天画戟を乱雑に薙ぎ払って愛紗の手から青龍偃月刀を撃ち落とす。

 

「しまった!?」

「呂布奉先!!」

 

藤丸立香が叫ぶと呂布奉先が言いたい事が分かったのかすぐに行動する。

 

「これで…終わりっ!!」

 

呂布奉先は方天画戟を手甲に変形させて愛紗と恋に間に入ろうとするが、その前に別の誰かが入り込む。

 

「させないのだー!!」

「なっ!?」

 

鈴々が入り込んで恋の一撃を防いでみせた。

 

「愛紗、何をしているのだ。だらしないのだ!!」

「鈴々!! お前…お前、無事だったのか!!」

「当たり前なのだ。それより、呂布は鈴々が止めるのだ。愛紗は休んでて!!」

「何を馬鹿な事を…お前一人で呂奉先を止められるはずがあるまい」

「鈴々が止めなきゃなのだ!!」

 

鈴々が無事であって安心したが、彼女の無謀さにすぐに悩む羽目になる。しかし、いつもの調子だと思ってしまい少しだけ笑ってしまう。

彼女がここにいるということは蘭陵王もいる。

 

「マスター!!」

「良かった、蘭陵王も鈴々ちゃんも無事だったんだね」

 

すぐさま藤丸立香の前に立って剣を構える。

 

「ちぃっ!!」

「鈴々は呂布を止める為にここにいるのだ!!」

「そうか…なら一緒に行くぞ!!」

「うん!!」

「邪魔なのが…増えた」

「今度こそ、鈴々がお前を止めるのだ。かかってくるのだ!!」

「どけ……!!」

 

恋にとって今さら邪魔者が一人二人増えた所で同じだ。月を助ける為に時間が掛かってしまう。それが更に怒りを上げてしまう。

 

「邪魔するなああああああああああああああ!!」

 

妖気が爆発するように滲み出る赤黒く充血した目からドロリと血が流れた。

その姿を見て誰もが恋の様子が異常だと分かる。

 

「何だあれは…」

「…怒ってる。そして悲しんでる気がするのだ」

「月を…返せぇえええええええ!!」

 

地面を踏み潰すくらい力を込めた瞬間に跳んだ。

 

「□□!!」

 

方天画戟を手甲に変えた呂奉先は恋の進行線上に移動して受け止めた。

 

「□□□□□!!」

「どけええええええええ!!」

 

受け止めている間に左右に周る愛紗と鈴々が、すぐに挟撃されると予想されて退避される。

 

「はああああああああ!!」

「でやあああああああ!!」

「まだまだなのだ!!」

「□□□□□!!」

 

4人の雄たけびが響く。

 

「しつこい!! 恋…月の所に帰りたい…だけなのに!!」

「なら、話を聞いてくれ恋さん!!」

 

藤丸立香も声を掛けるが聞いてはくれない。やはり月がいれば一番なのだが、それは出来ない。

 

「うるさい!! お前たち…月に、ひどいことしてるって…聞いた!!」

「誰に!?」

 

どうやら恋は誰かにある事無い事を吹き込まれたようだ。

 

「許さない!!」

 

方天画戟を掲げて妖気を集める。

 

「あれは!?」

 

愛紗は恋の構えに覚えがあった。反董卓連合の決戦時に放った妖気の暴風を起こす大技である。

 

「いかん。一旦、退避しないと!?」

 

話も聞いてくれない。これから大技を放とうとしている。

ならばやることはいつもと同じだ。

 

「呂布奉先。恋さんを止めてくれ!!」

 

藤丸立香は魔術礼装を使って呂布奉先に強化を施す。

 

「藤丸殿。アレを止められるのか!?」

「止めるのは俺じゃないけどね」

 

こういう暴走した相手を止めるのも初めてではない。

呂布奉先は咆哮を挙げながら恋に突撃した。

 

「□□□□□□□□□□□!!」

「月を返せぇえええええええええええ!!」

 

 

343

 

 

音々音と騎馬隊は楼杏の部隊に制圧されていた。

 

「ぐぅ…」

「大人しく投降して、ねねちゃん。既に兵のほとんどは降ったわ」

「楼杏殿…そうでしたか、楼杏殿も劉備の所に」

 

何かを察した音々音。

 

「抵抗しないなら、相応の対応を約束するわ」

「むぅ…楼杏殿がそこまで言うなら劉備の待遇が酷いというのも、袁術のホラ話のようですな」

「…袁術? やっぱり揚州で袁術に何か吹き込まれたのか?」

 

南の揚州から恋たちは来た。ならば袁術が何か仕込んだ可能性もあったのだ。

先ほど、音々音が「袁術のホラ話」と言っていた。ならば恋は月を助けたい一心に余計な入れ知恵を入れられたということだ。

 

「楼杏殿。こいつは?」

「玄徳殿の副官の北郷殿よ。恋さんとねねちゃんにも、出来る限りの便宜を取り計らってくれると約束してくれているわ」

「ああ。ここじゃ詳しく話せないけど、それだけは約束させて欲しい」

「…そういうことですか。なら話は後でゆっくり聞かせてもらうのです」

 

小さくてもやはり軍師。陳宮はほぅとため息を吐いて、細い両手を上げてみせた。

 

「それより、恋殿を止めてくださいますか? ねねがお前たちに降伏してやる条件は、その一つだけなのです」

「呂布を止めたいのはこっちも同じだよ。でも…呂布を止められるのは、君だけって聞いたんだけど」

「それが出来るのなら…とっくに止めているのです。今の怒りに狂った恋殿は、ねねにも止められないのですぞ」

 

ただ怒り狂ってるだけではない。今の異常な恋には他にも原因がある。

 

「今の恋殿は……何処か変なのです」

 

音々音だって今の恋がおかしい事は分かっている。袁術のホラ話で怒り狂っておかしいのではない。

恋の異常な変化は反董卓連合の決戦からだ。諸葛孔明の謎の妖術によって恋は弱体化させられたが見逃されて撤退した。

撤退後は反董卓連合の受けた傷を治していた。その時はいつもと同じであったが傷が癒え、月を助け出すと決めた後からは様子が徐々に変化していったのだ。

 

「その変化というのが…呂布の身体に残った妖気だろう」

 

ここで現場にも居ない諸葛孔明の考察が始まる。

 

「考察というか…ただの予想にすぎないがな」

 

恋は反董卓連合の戦いで張譲から妖気を供給されていた。その事に気付かずに暴れていたのである。

妖気は元々、人間の生命力ではなく妖怪の類の生命力のようなものだ。専門家ならばまだしも素人知識も持っていない恋に妖気を供給する事自体が危険である。

人間にガソリンを入れ込んで身体を動かしているようなものだ。そんな事は現実ではできない。

専門家ならば上手く利用できるが恋は妖術師ではない。だが恋は張譲から供給された妖気をコントロールしたのだ。

 

「魔術師もとい妖術師でもないくせにどうやって妖力をコントロールしたかまでは分からない。もしかしたら無意識か、本能かでコントロールしたかもしれないな」

 

もしそうならば恋はある意味、天才かもしれない。

 

「さて、反董卓連合で暴れていた呂布を私の宝具で弱体化させ、張譲からの妖力供給は遮断させた。しかし、それだけだ。呂布の身体には妖力が全て消えたわけではない」

 

永遠に供給されたガソリンが途切れてもまだ残ってる。タンクにガソリンが残っていればまだ車は動く。だが正常に動くのは車のエネルギーがガソリンだからだ。

恋は車ではない。体内に残った妖気は専門家でもない恋にとっては負担にしかないだろう。

 

「最悪…人間でなくなる」

 

妖気が恋の身体に完全に馴染んでしまえば変化が起きる。それは恋が妖魔になるということだ。

 

「最もそれは予想にすぎないがな。そういう可能性があるということだけだ」

 

今の恋は妖気に侵食されて暴走状態だ。精神状態が不安定な彼女にはマズイ状態だ。

 

「手っ取り早い解決が今の呂布をぶっ飛ばして妖気を抜くことだ」

 

恋をぶっ飛ばして気絶させても妖気は残る可能性はある。ならば連れてきて諸葛孔明が妖気を抜く作業をすればいいのだ。

 

「だから留守番して、その準備をしてるわけだ」

「任せなさーい。アタシに掛かればどんな手術も完璧にしてみせるわ。華佗ちゃんもいるしねぇん!!」

 

諸葛孔明、貂蝉、華佗ならばどんな妖術関係の問題を治す事ができる。彼らは専門家なのだから。

 

「まあ、呂布が天才ならば妖気を完全にコントロールして使うかもしれんがな」

「あら、それならアタシたち出番無し?」

「いや、出番は7割の可能性であると思う」

 

 

344

 

 

大きな妖気の暴風が発生した。その様子を確認した北郷一刀たちはすぐさま愛紗たちが戦っている現場へと戻る。

音々音が指揮していた騎馬隊は完全に制圧し、降った。もはや残っているのは恋のみである。

 

「あれは…!!」

「れ、恋殿ーー!?」

 

北郷一刀と音々音が見たのはカルデアの呂布奉先が手甲で恋を地面に叩きつけた状況である。

恋にはまだ意識があるのか足掻いて巨大な手甲をどかそうとしている。逆に呂布奉先は大人しくさせようと地面にめり込ませるのを止めない。

よく見ると呂布奉先の鎧はボロボロになっていた。あの大きな妖気の暴風を正面から突き破って無理矢理に恋に近づいたのだから当然の結果である。

 

「□□□(大人しくするがいい。この世界の我よ)!!」

「邪魔するなああああああああ!! どけえええええええええ!!」

 

赤黒くなった目からが更にドロリと血が流れてる。その表情は鬼気迫るものだ。

彼らの近くには愛紗と鈴々が警戒しながら武器を構えていた。

 

「鈴々ちゃん!?」

「桃香様。どうしてここに!?」

「にゃ、お姉ちゃん!!」

 

桃香がここにいる事に驚いたのか愛紗は視線を向けた。後に合流する手筈なのだから当然だが、今のこの場所は危険だ。

出来れば主君である彼女を近づかせたくはなかったのだ。

 

「他の戦いは終わったって伝えにきたんだよ。それより鈴々ちゃん無事だったんだね…良かった」

 

義妹が無事で良かったと心の底から安心してしまう。

 

「藤丸。お前も無事で良かった。騎馬隊の方は全て制圧した。あとは呂布だけだ」

 

藤丸立香をよく見ると多少の怪我をしていた。

 

「大丈夫か?」

「少し巻き込まれただけ。でもこれくらいはいつもの事だ」

 

英霊と一緒に旅を続け、戦う事なんていつもの事だ。後ろで指示を出しているだけといっても敵の攻撃に巻き込まれる事なんて多々ある。

 

「それよりもこっちはまだかかりそうだ。呂布さんはまだ話を聞いてくれない状況だよ」

 

それは見れば分かる。呂布奉先によって地面に叩きつけられて身動きが取れなくなっているが「月を返せ」や「邪魔だ」と喚いている。

 

「桃香さま、今の呂布には近づいてはなりません。危険です!!」

「呂布さん、刃を退いて!!」

 

首を振る恋。それに対して桃香は悲しそうに見ているが、目を閉じたかと思えば何かの覚悟を決めた目を開いた。

 

「月さんは、わたしたちと一緒にいる。呂布さんの事もすごく心配してるよ」

「桃香さま!?その話は…!!」

 

桃香の口から出た内容は話してはならないものだ。口に出したという事は、どういう意味か彼女だって理解している。

 

「だって…こんな戦い、やっぱり意味がないよ。わたしも月さんと呂布さんに、もう一度会ってほしいって思うもん。愛紗ちゃんだって、本当はそうでしょ?」

「それは…そうですが」

「勝手に決めちゃってごめん。でも、それに覚悟が必要だって言うなら…」

「…そうですね。私も呂布を討つより、そちらの覚悟の方が気楽です」

 

桃香とはそういう人間だ。これから大変だと思いながら彼女の決定に北郷一刀や愛紗はヤレヤレといった感じである。

優しいのか甘いのか、勝手なのか。だが彼女はきっと善意で決定したのだから文句なんてない。

 

「だから…呂布さん!!」

「月の……月の真名を勝手に呼ぶなぁああああああああああ!!」

 

月の真名を名も知らない奴に呼ばれた瞬間に恋の怒りは有頂天だ。自分の身体なんて気にせずに妖気を利用して呂布奉先の手甲をどかした。

 

「□□(こやつ)…!!」

 

恋が桃香の元へと跳び、方天画戟を振るう。だが愛紗と鈴々がそれをさせなかった。

 

「させるかあああああああ!!」

「お姉ちゃんには指一本触れさせないのだああああ!!」

 

方天画戟を受け止めた愛紗と鈴々。とても重い一撃である。

少しでも力を抜けば桃香に方天画戟が届いてしまう。そんな事を絶対にさせるわけにはいかない。

 

「恋殿!!」

「桃香!!」

 

音々音を連れた北郷一刀たちが急いで駆けつける。

 

「ご主人様、楼杏さん!!」

「恋殿。もう戦いは終わったのです。楼杏殿もいらっしゃいます。こいつらは少なくとも今までの連中よりは、ずっとマシな連中です!!」

 

恋は桃香を睨む。赤黒い目から放たれる視線が真っすぐに突き刺さる。

方天画戟は愛紗と鈴々の二人でギリギリに止めたが、恋があと一歩分踏み込めば桃香の喉元に届く間合いだ。

こんな状況を怖いとは思っている。死が目の前に近づいていれば当たり前だ。桃香の足が震えているのを北郷一刀は気付いた。それでも桃香は負けじと恋を見ている。

 

「………信用できないなら、それでいいよ。でも…呂布さんが月さんに会うお手伝いだけはさせてくれないかな」

 

恋は桃香の言葉を聞いても沈黙を守ったままだ。怒り狂う形相で桃香を見る。そして桃香も負けじに恋を見る。

 

「……………その真名は」

 

力同士が拮抗する中、恋がポツリと呟いたのは、そんな一言だった。

 

「……………月が預けたの?」

 

気が付けば恋の背後には呂布奉先と蘭陵王が武器を構えている。

 

「そうだよ。ちゃんと、月さんが呼んでいいって、わたしたちに預けてくれた名前だよ」

 

嘘は言っておらず、全て真実である。だからこそ真っ直ぐに恋に対して見る。

 

「………………………………わかった」

 

長い沈黙経て、そう言って方天画戟を引っ込めた。

 

「おわっ!?」

「ひゃ!?」

 

引っ込めたと同時に愛紗と鈴々が揃ってバランスを崩すのであった。

 

「月が……真名を預けた人は斬れない」

「呂布さん…ありがとう」

 

先ほどまで話を聞いてくれなかった。しかし、やっと話を聞いてくれて武器を降ろしてくれた。

 

「でも…月に酷い事をしてたら…みんな殺す」

 

徐州の彭城にて。

 

「恋さん!!」

「月…? 変な恰好。あいつらに、させられた?」

 

月の元に連れてこられた恋はすぐに彼女の元に駆け付いた。

 

「いいえ、これは私が望んで着ているものです。今の私には似合いだと思いますから…」

「そう…」

 

恋は若干納得がいっていないようだが月がそういうと文句を言うのを止めた。

 

「ああ…本当に恋さんなんですね。ねねちゃんも…無事で本当によかった」

「月…!!」

 

その場に音を立てて転がったのは恋の方天画戟。そして呂布は抱き着いてきた月を方天画戟の代わりに抱き返した。

 

「恋殿、良かったですな。ぐすっ…」

 

涙ぐんでしまう音々音。

 

「……まあ、桃香だし、こうなるわよね」

 

取り合えず、目の前の光景だけで詠も戦場で何があったか想像がついたようだ。

それでも月が喜んでいるのは嬉しいのだ。詠の表情も言う程、怒ってる様子はなかった。

 

「詠…おまえのせいで恋殿とねねは大変な目に遭ったのですぞ」

「それはこっちの台詞だってば。袁術に何かいろいろと吹き込まれたんでしょ? これから大変なのはこっちだっていうのに…せめてこの後は力を貸しなさいよ」

「ねねは恋殿に従うだけですから、恋殿次第ですな」

 

詠の言う「これから大変な事」とは徐州に董卓がいるという可能性が大いに高まったからだ。更に行方不明となっている天子姉妹もいるという可能性も各諸侯に知られることになる。

 

「…ご主人様」

「え!? あ、あの呂布?」

 

急に「ご主人様」と言われて驚いてしまう。先ほどまで争っていた相手からそう言われれば当たり前だ。

 

「ご主人様、桃香さま。今回の件…恋さんとねねちゃんが大変なご迷惑を…本当にすみません」

「ごめんなさい」

 

北郷一刀たちの側にきた呂布は月の脇でぺこりと頭を下げるのであった。

 

「あ、いや…あの状況ならそれも仕方ないかなって。それより頭を上げて」

「そうだよ。わたしたちだって呂布さんたちを攻撃したわけだし…お互い様だよ」

 

月と一緒に恋を見ると驚いてしまう。まさかこんなに素直で大人しくなるなんて思わなかったのだ。

あの暴れまわってた呂布が嘘みたいだ。藤丸立香を見ると彼も意外そうに驚いていた。

 

「それよりも呂布さんたちはこれからどうするの?」

「恋は…月とねねと一緒がいい」

 

というわけで恋たちは劉備の陣営にお世話になるのであった。

その数日後に桃香と月の膝枕で眠る鈴々と恋の光景なんて誰も想像出来なかっただろう。

 

「恋さんはもう大丈夫なんだね?」

「ああ。私と貂蝉、華佗の治療で彼女から妖気を全て消し去った。一応は経過を見るが…大丈夫だろう」

「そっか」

 

幸せそうに昼寝をしている姿を見てしまうと、確かに大丈夫だと思ってしまう。

 

「それよりも蘭陵王たちを助けてもらった人たちの特徴を確認するが…」

 

実は気になった件がある。それは鈴々たちが助けられた人たちの事である。

その人物の特徴を聞き出すと孫家の小蓮と明命だと分かったのだ。

 

「なるほど…あの方たちが孫家の関係者だったとは」

「蘭陵王はシャオと明命に会った事はなかったもんね」

 

彼女たちは今、袁術の下にいる。ならば彼女たちがその場にいたということは恋の動向を見張っていたということ。

恋が劉備陣営に降ったという事は董卓と天子姉妹がいるという事が袁術に伝わるという事だ。

 

「詠さんが言うようにこれから大変になるという事だね」

「ああ、だがそれは桃香殿が決めた事だ。どうなっていくかは彼女たち次第だろう」

「頑張れ孔明先生ー」

 

どうやら手伝わされる未来が見えたのか、頭をガシガシと掻くのであった。

 

「そろそろ徐州から出ようマスター…」

 

 

345

 

 

揚州の建業にて。

 

「…そうか。呂布はそのまま劉備の所に」

「だとすると、やっぱり董卓さんは劉備さんの所ですかねー。どうします? 攻めちゃいます?」

「それがわかっても、天子様がおるかどうかは分からんじゃろうが。今はそれが分かっただけで良い」

 

やはりと言うべきか、袁術が恋にホラ話を吹き込んで徐州に攻めるように仕向けたのだ。

その策は袁術が想像した通りに成功した。確実に董卓と天子姉妹がいるという結果は出ていないが可能性は大きく上がった。

それだけさえ分かれば十分すぎるのだ。

 

「おおおー!!さすがお嬢様です。蛇のいる藪を見つけたって事ですねー!!」

「その通りじゃ。七乃は賢いのう。ほっほっほ!!」

「わーい、褒められちゃいました!!」

「……はぁ」

 

その様子を見て呆れる雪蓮。

 

「何をしておる。用が済んだのなら下がって良いぞ。これ以上、妾の手を煩わせるでない。呂布の説得のような事はもう二度とやらんからの」

「…はいはい、言われなくてもそうさせてもらうわよ」

 

ため息を吐きながら雪蓮は出ていくのであった。

出ていくのを見送った袁術は笑う。

 

「…くふふ、それにしても孫策のやつが妾に玉璽を渡すとはのう」

 

実は袁術は雪蓮から玉璽を献上されてからずっと上機嫌だ。色々と吹き込まれているのか自らが「皇帝」だと今にも言いそうなくらいだ。

最も本当に言ってもらって構わないと思っているくらいだ。雪蓮たちの計画の為に。

 

「それに…この剣も素晴らしいのう」

「はいー、まさかこの地で伝説の宝剣が見つかるなんて思いもしませんでしたよ。てか、黄祖との戦いの戦後処理で見つかっただけなんですけどね」

 

ニコニコの張勲。彼女もまさか宝剣が見つかるなんて思わなかったのだ。

今の袁術は有頂天だ。曹操よりも袁紹よりも天下に近いと思っている。

その理由はやはり玉璽と見つかった宝剣だろう。

 

「七乃。これから徐州の情報を集めるぞ。董卓がいる可能性があるのは分かった。次は天子様じゃ」

「はーい!!」

「玉璽、宝剣に加えて天子様が揃えば妾の天下はもうすぐじゃ!!」




読んでくれてありがとうございました。
次回も一週間後に更新予定です。
今回の話で呂布襲来編は終了で、また日常編にもどります。
その日常編が終わればやっと曹操sideの官渡の戦い編になります。

341
ちょっとした雑談です。

342
怒れる恋との戦闘!!
原作と違って恋がより暴走してます。
FGOの呂布もモーション変更したのでそれっぽく少しだけ戦闘シーンも変わります。

343
孔明が一人語り(予想)
妖気云々はオリジナルの話ですね。

344
原作と骨組みは一緒ですが、そこにカルデア勢が加わった感じですね。
弱体化しているとはいえ、愛紗と鈴々は桃香を守る為に頑張って恋の攻撃を防ぎました。
そしてこれから恋とねねが仲間として本編に活躍していきますね。

345
袁術side
彼女たちの本格登場はもうちょっとだけ先です。
宝剣に関しては今章の孫呉独立篇で分かります。
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