ゾイド-ZOIDS- “シールドライガーZERO” 作:MONO猫
日が落ちた砂漠で上を見るとわずかな雲が流れ、多くの星々が煌めいている。こんな日にはのんびりと夜空でも眺めながら温かい珈琲でも飲みたいものだ。気温も適度に下がり、心地よい風も感じることができるだろう。
ふと孫のことを思い返す。自身の息子がまだ小さいころは各地の戦場を渡り歩いていたため子育てというものをほとんど経験できずにいた。そのため子供は勝手に成長していくものだと勘違いするほどだった。そんな私も今年定年と共に祖父という立場に変更となった。そこで初めて孫を寝かしつけることを経験し、状況によっては敗戦時のしんがりよりも過酷だと痛感したものだ。その時にもし今いるような夜風があれば孫のカールを寝かしつけるのにも一役買ってくれそうだ。
しかし生憎そういうわけにもいかないのが現状だった。軍人にとって上からの指令には逆らえず、たとえ不可能な任務であっても実行しなくてはならないのだ。風景が高速で流れていく中でため息が出る。
「シュバルツ大佐、この任務いくら何でも無茶が過ぎるのではないですか」
愚痴を溢すのは私と同じくアイアンコングMkⅡに乗るハラルド・レーマン少佐だ。夜間の隠密任務であり、無線を封じての敵国侵攻任務のため、互いの機体には軽量の通信ケーブルを接続してある。
アイアンコングにとってはほぼ最大速度である150㎞/hを維持したまま、機体間の距離を適度に保つことでケーブルの撓みを維持して走行を継続している。彼の後方の機体も同様に接続されているが距離を維持できている。自身が選別した精鋭部隊とはいえ感心せざるを得ない技である。
「正確には元大佐だがな。レーマン少佐、どのあたりが無茶だと考えている?」
「失礼しました。しかし現任務中は復職なされた扱いのはずです。冗談はさておきシュバルツ大佐も分かっておりますよね。初めからすべてです。皆口にはしていませんが、こんな任務は今までありません。誰も救われません。」
「そうだな・・・分かっているさ。」
今回の任務は根本的な問題をはき違えている上層部の妄想の産物でしかないのだ。そう心の中でつぶやきつつ事の経緯を思い返す。
―――――――
ガイロス帝国初代皇帝が崩御され、ツェッペリン2世陛下が玉位に就かれて数年が過ぎ、内政は安定しつつあるというのが国民の感覚だった。しかし外交では赤字が続き軍事機密の漏洩すらあると疑われ、一部権力者にとっては因縁ある隣国への不満はつのる一方だった。
また、ヘリック共和国は外交の利益を大型ゾイドの開発に充て、戦争の準備を進めているとの情報が得られ、軍の一部過激派からは直ちに叩くべきとの進言も行われていた。
そこで首脳陣は共和国が新兵器を開発していると思しき施設を洗い出し、大規模戦力による一点突破で開発施設への強襲作戦が提案された。そのような戦闘ではもちろん兵士だけでなく民間にまで被害が出るのは火を見るよりも明らかである。
陛下は事態を沈静化させようとは動いていたが、各貴族長等の賛成多数により開発施設への強襲作戦は可決されることとなった。
もちろんそのような議論の場に私のような退役軍人が呼ばれるはずもないのだ。しかし任務を任せられる人物として多くの困難な任務をこなしてきた経験と、操縦技術を買われて私の名が挙がってきた。さらに極秘任務のため陛下が若かりし頃の戦術講師として勤めていた等信頼の観点から私がとることとなったのだ。
「シュバルツ、すまない私の力不足のせいだ。このような明確ではない目標への侵攻等あってはならないはずなのだが・・・そなたへはいつも無理をさせてしまうな。難しい任務だが必ず生きて帰ってきてくれ。私にはそなたが必要だ。」
任務への配属決定後、ツェッペリン2世陛下の御苑まで呼ばれ拝謁を賜るとあろうことか陛下は頭を下げられたのだ。陛下はお優しい方で、貴族から平民まで平等に応対する姿は私が講師に就いた時には既に多くの国民に陛下の印象が定着していた。
「陛下、お気持ちありがたく頂戴致します。早く頭をお上げてください。このようなところを見られては任務の前に不敬罪で吊し上げられてしまいます。」
しかし、一つ難点があったことを思い返す。陛下はいつも講師だった私に対していたずらを欠かさないお方だった。そのような行動は親密な関係だからこその事なのだろうが、洒落にならないようないたずらも数々ありよく手を焼いたものだ。
「ほう、そうなればそなたは任務に赴かなくてよくなるのだな。誰かおらぬか?」
「勘弁してください。選抜頂いた任務を放棄しては孫の顔を直視できなくなってしまいます。」
ひとしきり笑いが収まると改めて背筋を伸ばし敬礼する。
「ディート・リカルド・シュバルツ。これより共和国への新兵器開発施設への襲撃任務に就きます。ガイロス帝国に栄光あれ!」
「シュバルツ大佐。そなたの孫のためにも必ず生きて帰ってこい。これは命令だ。」
我々は兵士である前に親や子がいる同じ人である。という陛下の言葉を思い返す。優しくも力強いその眼差しに、すでに引退したにもかかわらず新兵のように身震いしてしまった。
―――――――――――――――
思い返しつつ深く深呼吸をして話始める。
「皆、今の国内の状況は分かっていると思う。皇帝の座は引き継がれたが、前皇帝お付きの方々の発言権は未だに強く、陛下とはいえ未だ御しきれていないのが現状だ。一部の過激派連中がヘリック共和国を敵視するあまり、戦争をふっかけて全面戦争に発展させ殲滅できるかのような案まで提案される始末だ。
もちろん皆が懸念している通り、本任務はその過激派の圧力によって決定された任務だ。我が国の5割相当にも及ぶ大規模戦力により開発施設を強襲し破壊。その後反撃がある各基地への一斉強襲という子供でも考えないようなプランだった。」
「まったくふざけた任務ですけどね」
「その通りだな。もちろんそれを実行すれば大戦となり、我が国民にも多くの死者が出ることは容易に考えられる。任務を実行した兵士だけでなく、許可した上層部への責任問題となることだろう。そう伝えたはずなのだがな。」
何人かの隊員の笑い声が聞こえてくる。
「もちろん我々もそこまでは理解しています。しかし、そのような任務をあなたがそのまま実行するとはとても考えられません。ここまでくればもう変更した詳細を話して良いのではないでしょうか。」
レーマン少佐はこれまで数多くの任務を共に乗り越えてきた部下だ。その中で納得できない任務は内容を一部変更することが多々あった。もちろん任務完了後呼び出された回数は覚えられないほどだ。それを知っている彼は今回の任務を私が納得していないことは理解しているのだろう。
「そうだな。話すのが遅くなった。まず前提に陛下からヘリック共和国大統領へ一部過激派の状況の説明と、関係悪化防止のために大規模兵器開発の中断及び廃止を提案している。しかし共和国からはそのような開発は行っていないとの回答が得られている。」
「そのようなことは無いはずです。我が国の諜報員からの情報では、大規模兵器開発施設の存在は確認できているはずです。」
「もちろんお互い理解した上での問答だ。しかし自由な身での対応と攻撃される可能性を考慮しての対応は大きく変わってくる。当初の計画の戦力の大部分を戦力温存という理由から侵攻はせず、南北国境付近からの同時遠距離砲撃に変更している。」
「なるほど・・・そういうことですね」
ここまででレーマン少佐は内容を理解したようだ。理解が早く優秀な兵士だと改めて関心する。他の者も何人かは内容を把握しかけているようだった。
「ではここからは各自に話してもらおうか。」
「こんな敵国の真只中なのに、また始まりましたよ。シュバルツ大佐の戦術授業。」
笑い声がありつつ各自理解している内容を話始める。
「直前のブリーフィングで内容が変更とした南部の戦力規模を小さくしたのは主戦力が北部と誤認させるため。事前に南部の各地に潜入させていた電子ゾイドによるジャミングを大規模に発生させることで、我々が現在国境南端から侵攻していることを察知されることを隠蔽。共和国の新兵器開発施設を破壊したとしても共和国部隊の本隊へ迎撃指令が出ることは無いため容易に撤退も可能ということですね。」
「共和国は存在を否定した施設なのだから、たとえ襲撃されたとしても公にはできない。施設を破壊した部隊が帝国軍のゾイドであっても、他の施設への破壊活動や侵攻中を発見されず、一般市民への影響が一切ないのであれば口実にはなり得ない。そうなれば最低限、全面戦争には発展はしないという考え方か。」
「仮に任務が失敗して施設の破壊が不可能だったとしても、事前に施設の存在を認知し圧力をかけているため、開発の一時中断や隠蔽のための移設等何かしらかの対応を行うことになる。場合によっては開発中断まで追い込める可能性もあります。」
「今回の戦闘はあくまで一部過激派による暴走として発表すればよい。我が帝国の正規軍が鎮圧したこととする。もちろん同時に存在しない共和国の一般市民への被害賠償も行い共和国への誠意を示すことで共和国との関係悪化を最低限に抑えることができます。調査後は過激派のバックにいる一部の上層部を排斥することも可能となります。
最終的に共和国の兵器開発を抑えつつ、我が帝国の内政は安定するということですね。我々が新兵器開発施設を破壊できなくとも、この任務が実行された時点で最低ラインはクリアできていると判断してよろしいでしょうか。」
皆の理解度を確認することができた。また、最後にまとめたレーマンの発言に感心しつつも呆れていた。
「皆十分だ。レーマン少佐、君は恐ろしい奴だな。自分で攻めておいて恩義をきせていく案には驚かされたよ。確かに実行された時点である程度の効果は期待できるだろう。しかし我々の任務はあくまで新兵器開発施設の破壊だ。結果は我々の行動によるものであり、結果判定が神頼みであってはならない。」
「分かっていますよ。」
レーマン少佐は軽く返す。
「もちろん揺動やジャミングにより途中の弊害はなるべく消してあるが、イレギュラーは発生するものだ。見つかった場合は即座に排除しなければならない。我々の部隊は大規模基地であっても十分落とせる戦力を有しているが、隠密任務のため通常の戦線のような補給線や後衛は存在しない。しかも敵国の真只中で撃破されてしまえば撤退すらままならなくなる。必ず全員で帰還するぞ。いいな。」
「はい!!」
各員の緊張を隠し切れない返事を聞き、深呼吸をする。誰も我々を見つけてくれるなよ。そう願いつつエレミア砂漠を進む。