ゾイド-ZOIDS- “シールドライガーZERO” 作:MONO猫
簡単過ぎる。動きに無駄があり、こちらの動きにも全く対応できていない。もちろん仕方ないと分かっているが、それでももう少しは良い動きをして欲しい。
「ジーク、徹底的にやるぞ。」
スロットルを全開にすると、僅かに前傾姿勢になり雄叫びと共に猛然と加速する。正面の棒立ち状態のコマンドウルフから弾丸が連続で撃ち込まれる。しかし、同じところを狙っているため、走りながら左右に少し動けばもちろん被弾しない。それを3度繰り返すと離れていた距離は半減する。そのまま2発左右に若干ずらして発射する。敵は一発目を避けようとするが避け切れず、2発目はコックピットに直撃する。
「どうして動かない!」
つい叫んでしまった。衝撃によって横転したコマンドウルフは白いはずのボディが真っ赤に染まっていた。これは模擬戦で、実弾ではなくペイント弾のため破損しないが、動かない敵はただの的と何も変わりがない。
共和国軍の訓練兵として配属されてまだ日が浅いため、ゾイドの操縦経験の有無の差はそう簡単に埋められるものではない。自身の何倍もあるゾイドと呼吸を合わせて自分の体のように操縦することは容易ではないのだ。しかし、戦場では背中を預ける相手になるかもしれない仲間である。今は停戦状態が長く続いているがいつ火蓋が切られるか分からない状況なのだから少しでも早く成長して貰わなくては困る。
『ダン・フライハイトの勝ちだ。良い動きだったぞ。どうだった?』
普段は各教官から無線があるが、珍しくルイス中尉からの無線が入る。地方の小さな基地でかつ教育用として運用されているため高官はおらず、中尉とはいえ基地局長の肩書きが付いてくる。ルイス中尉は基地局長でありながらも普段から話しやすく、いろいろな相談にも乗ってくれる良い上官だ。度々訓練にも参加し、模擬戦も行ってもらえる。
「狙いはちょっとずつよくなってきていますが、まだ動けていませんね。以前お話ししていた戦闘シミュレータはいつ導入されるのですか?これでは私の訓練にはなりません。ルイス中尉もよければ模擬戦しませんか?」
この時は気持ちが高ぶっており、久しぶりに挑戦してみたいと思ってしまった。いつもは渋りながらも最後は受けてくれるルイス中尉だが、この日は違っていた。
『・・・いいぞ。ただし、相手をするのは俺ではないがな。』
少しの間と含みのある言い方をする。しかし、ルイス中尉でないのであれば敵ではないだろう。正直この基地で自身より強いと思えるのは彼しかいなかった。ルイス中尉は私の愛機であるコマンドウルフ(ジーク)の以前の操縦者だ。まだシールドライガーに乗り換えて間もないが、無駄のない機動と正確な射撃には未だ勝てたことがない。ルイス中尉の集中力は恐ろしいほどのものだが、岩場に隠れてからの奇襲は十分効果がある。どうせなら次の相手にも同じように攻めてみよう。こんなことを考えているとようやく相手のお出ましだ。
「・・・誰だ?見たことのないな。」
目の前に現れたのはルイス中尉と同じシールドライガー。しかし軍仕様である白塗装ではなく本来の青色、武装も初期装備のまま。この程度で十分と思われているのだろうか。だんだん腹が立っているのを感じる。どうせなら全力で叩き潰してやろう。そう決断したタイミングで無線が入る。
『初めまして、ダン君。私はロイ・クラウドという者だ。先ほどの模擬戦は良い動きだったよ。ルイス中尉に代わって私が相手をさせてもらうよ。気にせず全力でかかってきなさい。』
聞こえてきたのは年配の男性の声、驚いてハッチを開けて身を乗り出すとシールドライガーのコクピットから手を振る白髪で小柄な老人が見える。しかも軍服を着ていないではないか。軍人であれば原則として軍服を着ている。それは整備兵や各管制官であっても変わることはないため、軍服を着ていないということは必然的に一般人である。ルイス中尉は守るべき一般人と戦えと言ったのだ。もし故意に怪我を負わせた場合は始末書で済む話ではなくなってしまう。
「ルイス中尉!いくら何でも冗談が過ぎます。一般の方と模擬戦とはいえ出来るわけありません。怪我をさせてしまったらどうするおつもりですか。」
『ダン、彼は私の恩師であり元軍人だ。彼もリスクは承知の上で許可してもらっている。彼は私より遥かに強い相手だ、こんな機会は滅多にないのだから全力で挑んでみなさい。』
「いや・・・しかし・・・」
言葉も出てこなかった。いくら元軍人とはいえ今は一般人であり守るべき市民に怪我をさせてしまうなどあってはならないことだ。そう思っての発言だったが、目の前の老人の方がルイス中尉より強いという。しかしそれは過去の事、よくある「若いころは・・・」という奴だろう。久しぶりに模擬戦を見て動いてみたくなったということだ。もちろんルイス中尉は恩師を目の前にして手を抜け等言えないのだから仕方ないのだ。適度に相手をして一発当たってやればいいだろう。
『ダン君、準備はいいかい?』
そんなことを考えているとシールドライガーのハッチを閉めてこちらへ身体の向きを変え低く構える。ジークが短く吠える、警告の意味だ。ハッチを閉じ、後方へ跳び距離をとる。全身に鳥肌が立ち、呼吸が早くなり心臓の鼓動が大きく感じる。さっきまでの老人というイメージはきれいに払拭されていた。何が恩師だ、一般人だ、人を見た目で判断してしまった。この感覚は初めてルイス中尉と対峙した時の感覚に似ている。ジークが低く唸る。いや、それ以上に危険だ。
正面からでは手も足も出ないことは試さなくても分かる、もちろん何をしてもきっと手の平の上で踊っているに過ぎないだろう。そう感じつつも一切の油断などなく全力で戦ってみたい。周囲を見渡し隠れられる岩場を確認する。深く深呼吸をして操縦桿を握りなおしてから返事をする。
「はい。よろしくお願いします。」
『ふむ、いい反応だ。ルイス君開始の合図をよろしく。』
一拍開けて開始のブザーが鳴ると同時にシールドライガーに向けてペイント弾を連射しつつスモークディスチャージャーを起動し煙幕をはる。弾が当たったか等の確認はせず、煙幕が流れる向きとは逆の時計回りの岩場に身を隠す。通常位置を悟らせないように煙幕が広がる方に移動する。そうすることで相手からはこちらの正確な位置が分からず、相手が一発でも打てば相手の位置は特定できる。
しかし大まかな位置は把握されるため相打ちになる可能性もあるため、あえて逆を突く。無音歩行で岩場を移動し距離を詰める。相手からすれば想定される位置と逆方向から襲撃されるのだ。煙幕が晴れ始めるタイミングは相手がより煙幕に集中する。そのタイミングを狙って跳び出し狙いを定めて連射する。これで以前ルイス中尉を追い詰めることろまでいけた方法だ。
「・・・!?」
跳び出し裏を取るはずが、シールドライガーは開始時の態勢のままだった。1歩も動いていないようにも見えるが元いた場所に足跡とペイント弾が着弾した跡が残っているため、初撃を避けるために右へ跳んでいたようだ。こちらが跳び出したことで位置を確認された可能性があるが、砲口を向けている分こちらが有利なことに変わりはない。照準を若干調整しながら連射する。ペイント弾はシールドライガーに向かって正確に撃ち込まれる。
『狙いは良い。だが、惜しいな。』
ロイはそう言いながらシールドライガーを軽く伏せていた態勢から後方へ宙返りすることで綺麗に避けた。視界を奪い、裏をかき、側面からの襲撃にも余裕で対処されてしまった。これ以外にどんな手を尽くせるというのだ。
そう思った瞬間ジークが吠える。まだ終わっていない。そう叫んだように感じる。頭を切り替えて接近戦に移行する。格闘戦機能をONにし各爪のストライククローと牙のエレクトロンバイトファングでの攻撃を準備しシールドライガーに向けて距離を詰めつつバースト射撃を実施。
目の前のシールドライガーは弾道を予知しているかのように向きを変えつつ宙返り、横跳び、身体を伏せる等で避ける。距離が詰まるが全く当たらない。まるで弾が自ら避けているかのようにすら感じる。残弾が10発を切るタイミングで距離が十分詰り跳びかかるが、前足ストライククローを後方へのステップでかわされる。追い打ちとして着いた前足を踏み込み前傾姿勢になりつつのエレクトロンバイトファングも側転で避けられる。さらなる追い打ちとして重心をさらに前に移しコマンドウルフの前足を軸に身体を横に捻り後足ストライククローもシールドライガーの前足で簡単に止められてしまった。
ここまでの連撃で態勢は崩れ、コマンドウルフは意図しない横転をしてしまう。そんな隙を見逃してもらえるわけもないことは分かっていたが、ほぼゼロ距離での撃ち込みは例えペイント弾といえども衝撃は大きく感じた。
『勝負あり、勝者ロイ・クラウド。ダン、良いところまでいったが惜しかったな。』
「どこがですか?完敗の間違いではないですか?」
息が上がって操縦桿を握る手は痺れている。こちらはペイント弾をほぼ全弾打ち尽くしたが、シールドライガーは一発しか撃っていない。表現できる言葉は完敗だけだった。勝てる手は他にあったのだろうか。全く思いつかない。
『ダン君。良い戦いだったよ。ダン君が思うほどの完敗ではないよ。最後の後ろ足での一撃は想像していなかった。コマンドウルフとしっかりコミュニケーションが取れている証拠だな。とても良い動きだった。しかし、改善した方がいい点が3つある。一つ目は無駄弾が多いことだな。目線を逸らす狙いなら数発で十分。逆に当てるなら弾を散らすのも有効だよ。実戦では弾切れは遠距離戦では即敗北に繋がる。十分注意が必要だね。二つ目は予想で動きすぎだ。煙幕からの裏取りも良い手だが、相手から目を離すということは、相手も予期しない動きをしてくる可能性を考慮しなくてはならない。考えなしに跳び出すと選択肢が限られて何もできずにやられてしまうよ。三つ目は時には引くことも考えること。コマンドウルフに引っ張られて近接戦に来たが、もう一度煙幕で後ろを取りに来ることもできたはずだよ。』
褒めてからの適格な指摘に言葉も出てこなかった。確かに無駄弾が多く、予想で動き、勢いで動いてしまっていた。基地内での模擬戦結果が良かったため調子に乗っていたと自覚する。
『だが、』ダンの落ち込む気持ちを知ってか知らずかロイは続けた『戦う以上、最後は気合いが重要だと私は思う。だからダン君のその熱い思いは忘れないでほしい。』
「ロイ・クラウド様、指導ありがとうございます!」
いろいろ気持ちがすっきりした。そして超えなくてはいけない目標を実感することができたと思う。その後は他の兵士も次々とやられていくのを見守っていた。その中で早くも超えられる気がしなくて仕方がないのだ。ロイ・クラウドが操るシールドライガーは1発も当たることなく、すべての模擬戦で1発だけ撃ち込んで終わらせていた。戦っている際は弾が避けているかと錯覚するが、もちろんそんなことは無く、弾道を予測し事前に重心を移し最低限の動きで避けていた。そして最後の犠牲者は皆に乗せられて止む無く戦ったルイス中尉も例外ではなく、模擬戦後の指導もより懇切丁寧だった。
皆さまご存じのダン・フライハイトの登場です。
アニメでは出てこない若かりし頃の姿です。
誰にでも若いころはありますよね。