ゾイド-ZOIDS- “シールドライガーZERO” 作:MONO猫
久しぶりの模擬戦はやはり楽しく思えた。もちろん実戦を想定しているため適度な緊張感もあるが、訓練兵の新鮮な動きからルイス中尉の成長した熟練の戦い方を体感できるのは良い。特にしばらくの間模擬戦すら経験していないためそういった感覚は久しぶりだからだろう。昔戦場にて武装のみ破壊したガイロス帝国兵から言われた言葉を思い出して笑ってしまう。私は戦闘狂ではないと思うのだが。
『もう若くはないのですから、もう少し大人しくやられてもいいのですよ。』
と、コックピットキャノピーがペイント弾の赤色で染まったシールドライガーに乗るルイス中尉から。昔と比べれば動きはよく、指揮官として一定の距離を保持しながら戦闘しつつも指示を出せるように戦っていた。しっかり学んでいる良い動きだった。しかしこちらが躊躇なく距離を詰め、相手の思考する時間を徹底的に潰していく戦い方に翻弄されて態勢を崩した瞬間にコックピットにペイント弾を直撃されていた。
「いやいや、ルイス君はまだ若いのだから、もっと攻め込んできてもいいのだよ。」
『バッサリと言いますね。というか全然衰えてないでなないですか。むしろ腕が上がっていませんか?』
「毎年齢をとるのだから体力は落ちているさ。ルイス君の動きは指揮官として他に部隊員がいて戦闘する場合ならとても良い動きだった。しかし、1対1になった場合はもっと積極的に攻めた方が君には合っていると思うよ。」
もともとルイス中尉は格闘戦を得意としており、砲口を向けられれば大きく回避するがセオリーだが、彼はより近づくことで的を絞らせない戦い方をよくしていた。そのため周囲からの援護射撃は非常に難しく、僚機として動けるものは限られ、敬遠されることも多くあった。しかし彼の働きは劣勢の戦況においては有効に作用することもあり、面倒見の良い性格と相まって信頼される上官として成長したのだろう。
『ありがとうございます。より柔軟に対応が必要ということですね。あと各々への指導も感謝しております。』
その後訓練を終了して各ゾイドを格納庫及び整備場へ移動、訓練兵は休憩に入った。ルイス中尉に導かれ整備場に行き、シールドライガーから外していた水タンクの固定作業や各種点検作業を眺めながら昼食をとっていた。久しぶりの詳細点検のためライガーも心なしか浮かれているようにも見える。
「ロイさんはここを出た後はどちらへ行かれるのですか。たまには故郷のウインドコロニーに行かれるのも良いのでは。」
ルイス中尉はロイがウインドコロニー生まれと知っている数少ない者の一人だ。確かに生まれはウインドコロニーだが、私が生まれた当時はコロニー全体で生活に困窮していた。エレミア砂漠が近く、砂嵐が定期的に吹くため作物も安定して作ることができなかったためだ。
私の父はウインドコロニーの外れでゾイドの修理屋を生業としており、定期的にやってくる商人や傭兵が乗るゾイドのメンテナンスや修理を行っていた。父はゾイドの心が読めると言っており、誰もいない格納庫でゾイドを修理しながら話しかけていたのを思い返す。
父からゾイドは機械生命体をより大出力での作業や戦闘が可能なボディに組み替えられた生き物であり、どんな身体になったとしても元は生き物であり意思がある。生き物を操獣するのだから思い通り動かなくて当たり前、常にゾイドと寄り添ってあげなくてはゾイドからも信頼されなくなってしまう。と、よく口にしていた。
相棒と戦場を幾度も乗り越え、共に旅をしてきた今なら痛いほど分かるが、子供の私には全く理解できなかった。当時、いや今でもゾイドはあくまでロボットであり、操縦したとおりに動くのが当たり前でそうでなければ故障と判断する考え方が大多数を占めている。そのため父のような考え方は変わり者と周囲の人々から馬鹿にされ、私も友人の目を気にしてなるべく外に遊びに行くことが多かった。
現在は南エウロペ大陸の南部中央付近のレッドリバーが国境とされているが、当時はより共和国の首都に近いエレミア砂漠が戦線となっており日々戦闘が行われていた。戦線が近いこともあり、父は民間人にもかかわらず戦闘で傷ついたゾイドの修理を行っては戦場に送り出していた。
大陸全体に戦火を広げていたガイロス帝国はヘリック共和国軍に補給線を断たれたことで物資不足に陥り、戦線を維持できなくなっていた。それを好機と判断したヘリック共和国は、戦線を押し戻すべく大陸南北で強襲しガイロス帝国軍を撤退させることに成功した。しかし、ガイロス帝国軍もただ撤退するわけではなく砲撃によりヘリック共和国軍への牽制を行い、撤退の時間を稼いでいた。
ヘリック共和国軍の猛攻により戦線がウインドコロニーから少しずつ離れていき平和な日々が戻ると思われた矢先、私の家はガイロス帝国軍の遠距離砲撃により破壊された。運悪く家にいた両親は砲撃により亡くなったが。遊びに出かけていた私だけが生き残ってしまった。今思えば戦闘用ゾイドを修理しているところは狙われやすいため、父は私が外で遊ぶよう促していたのではと考えてしまう。
ヘリック共和国軍としてもガイロス帝国との戦争により人員が不足しており、入隊規定年齢は一時的に10歳にまで下げられていた。それを知った私は復讐のためにヘリック共和国軍への入隊を希望したのだった。もちろん戦闘員としてではなく後方での支援要員としてだが、ゾイドの操縦能力が高いと見込まれた者は前線へ送られることも多く、私はしばらくして前線へ送られた。
戦線は刻一刻と変化していたが、運よく生き残った私が大尉となったころに停戦協定が結ばれ十数年経過し、現在のように休暇等では自由にガイロス帝国との往来が可能となった。しかし私はウインドコロニーへ戻ることはなかった。家族が亡くなった地へ行きたくないと考えての事だった。
「いや、今更戻っても知っている者などほとんどいないからな。どうせなら帝国の方にでも遊びに行ってみようと考えている。」
「いいですね。何年か前に行かれた勇者の谷へ行かれてはどうですか。帝国の三銃士は鍛えなおすと言ってしばらく離れていたそうですが、今は戻ってきているとか聞きますよ。また彼らを倒しに行かれますか?」
ルイス中尉がにやけながら提案してくる。今から数年ほど前のまだ軍人時代に帝国最強の三銃士がいると聞き、休暇に見学してくると言い残して勇者の谷に向かったことがあった。その後すぐに三銃士が敗れたと噂になっていたため、要因がロイであるとルイスは感づいているのだ。
「何を言っているのか分らんな。私はそんなことしていないぞ。私は一般人として旅行してくるだけだ。だが、勇者の谷は良いな、ぜひ行ってみようか。」
「わざわざ標準装備に戻されたシールドライガーを勇者の谷に持っていくような人物は一人しか存じ上げませんけどね。」
「ルイス君、言うようになったな。今度君もやってみるといい。」
ひとしきり談笑し、ライガーの整備が完了する。日も傾き、空は紅色に染まっていく。高台でもなくただの基地だが、背の高い施設がないため見晴らしはよく地平線まで見える。日中の高温が嘘のように下がり始め、柔らかな風が流れる。
「そろそろ向かおうかな。」
「もう日も暮れますし、本日はこちらで泊まられてはいかがですか。秘蔵の酒もございますよ。」
ルイスは腕時計を確認し、酒を飲む仕草をして見せる。もちろん非番でもなく、基地を任されている者が飲酒等するわけがない。泊まる口実を与えてくれようとしているのだ。
「ありがとう、それは非常に魅力的なお誘いだが今回は遠慮させてもらおうかな。帝国に行くためにはレッドリバーを越えなくてはならないし、昼になると検問が混んでしまうからね。もう少しだけ南に行くことにするよ。」
両国の往来が可能にはなったが、国境を跨ぐ際には検問が存在する。当初は目的、武器の有無、期間等事細かに確認が必要となっていたが、今では形だけのようなものとなっている。そのおかげか人の往来や物資の輸送も盛んになっており、昼以降は行列ができるほどだ。しかもレッドリバーは渓谷になっていて架かっている橋以外で渡る術が無い。列ができれば形だけの検問とはいえ時間がかかってしまう。
「そうですか、残念ですがまたこちらに戻られた際は是非寄って下さい。」
そう言うとルイスは軽く敬礼をして見せる。そちらもと敬礼をして返す。近くでライガーが唸ってロイを急かす。分かっていると手を振りライガーを一回りし装備や駆動部を確認するとライガーは伏せてコックピットに乗り込みやすくする。靴の汚れを軽く落としてから足をかけて乗り込む。ロイが各種表示やモニタをチェックし終わりベルトを装着し始めるとライガーはコックピットハッチを閉めてゆっくり立ち上がる。
「ああ・・・」ルイスはこちらの姿を見ながら小さく呟く「限りなく一つなんだ。」
周囲が静かなためルイスの呟き声も聞こえてしまう。達人の領域は人とゾイドがまるで一つの生物であるかのように見えることから、ゾイド乗り達はまるで一体となっているような関係を目標としている者が多い。一時は目標とした時期もあったが所詮は夢物語である。早々に諦めたことを思い返す。コックピットを閉めているため外部スピーカーの機能をONにすることで声を伝える。
「今日はありがとうルイス中尉、皆にもよろしくと伝えてくれ。」
「ロイさんもお元気で。またお会いしましょう。」
ルイスが手をふりつつ下がっていくことを確認し、ライガーを基地出口に向けて回頭させ、歩き始める。出口が近づきコンクリート床から均された岩場へ変化していく。一瞬揺れが大きくなるが次の一歩からダンピングを調整し通常通りの振動に戻る。基地出口を超えた瞬間にコックピット右側に対物センサが作動したことを知らせる表記と通知音。出口横の建屋から訓練生たちがのぞいていた。
通常自身に支障がない場合は表記をネガティブにしている機能だが、ライガーはあえて通知したのだ。一度無視して歩き続けようとするが再び通知。しかも先ほどより強めの警戒通知だった。これ以上されては困るのでライガーにこちらの意思を表示するべく重心を下げる。
「まったく、どこが一つだよ。限りなく別々の二つだよな。カッコつけライガーさんよ。」
システム出力を戦闘出力まで引き上げる。前足に荷重を多く加え後ろ脚を大出力で蹴る。荷重の抜けた後ろ足は地面をつかみきれず盛大に土埃を上げる。このままでは走れないため次に荷重の乗った前足の出力を調整しつつ後方にのみ力が働くように蹴る。これで後ろ足が再び地をつかむと同時に急加速を行う。事故のような加速は荒野にもかかわらず数秒で200㎞/hを超える。
後方から見たら急に土煙が上がるため、まるで爆撃されたように見えるだろう。しかも土煙が晴れた時には確認が難しいほど距離を走っている。ライガーが離れる際のふざけた挨拶のようなものだ。ああ、やはり。レーダーで後方を確認すると訓練生たちが慌てて飛び出してくるのが見える。
「ライガー、こんなことしても貫禄はつかないぞ。むしろいい年なのにと笑われてしまうよ。」
吠えるライガーはまるで勝手に言わせておけと言わんばかりに笑っているようだった。その後走行速度を落とし、2時間程度走ったところで丁度良い岩場を見つける。ここからなら明日、日の出とともに起きれば国境検問開始時に間に合うだろう。ライガーを伏せて寝床を用意しつつ夕食を簡単に済ませ早めに眠りにつく。国境を越えて勇者の谷を目指すのだから長距離移動となるため明日は長い一日になるだろう。
読んで頂きありがとうございます。
前話との間が大分空いてしまいましたが、これからも続けていきます。