天華百剣 ー禍ー   作:HK416

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はぁ、八っちゃんマジわんこ。
まあ、[闇]の方は来てないんですけどねっ! コスだけで十分よ、十分(涙目

では、今回はサブタイからも分かるようにお手入れの時間です。
待ちに待ったお色気シーンじゃ。まあ、読者の皆さんに刺さるかは分かりませんが。では、どぞー!



お手入れの時間だオラァ!!

 

 

 

 

 

(全っ然できないっ! できなーいっ!)

 

 

 既に夜の帳が下りた庭で崩れ落ちる身体を縁側で支えながら、心の中で情けなく弱音を吐く。

 

 新選組から得た光明は明確な成果を上げていた。

 まず、長年に渡る風化によって喪失と混同を繰り返してきた舞の型と呼吸法は、巴の協力もあり実戦向きと訓練向きの選別はほぼ終わったと言っても過言ではない。

 

 しかし、此処でまたしても問題が立ち塞がった。

 剣士として必要な要素は最低限揃っていると思われた人吉の肉体であったが、間ヶ原家に伝わる舞を使用するに当たっては全く足りない状態であったのだ。

 巫剣を伴わず禍憑に対抗するとは、それほどまでの能力が求められるという事。この舞は、有象無象の剣士など技も介さぬまま押し切れるような圧倒的な身体能力を前提としていたのである。

 

 近道などない。どの流派にもあるように結論は同じ。

 即ち“死ぬほど鍛える”。武の道は厳しく険しい。結局の所、それ以外にできる事はないのだ。

 

 

(肺と心臓と全身の筋肉が痛いっ! ……いやこれは、かなり痛いっ! 訓練用どころか実戦用の呼吸でも常時続けてると死にそうになるよっ! 耳の奥がどくんどくんして――――あっ!?)

 

 

 縁側に預けていた身体を突然起こし、慌てて両手を耳に当てる。

 そして、暫く立ってから恐る恐る両手を見るが、当然のように変化などある訳もない。

 

 だが、運動によって紅潮した顔すらも蒼褪めさせ、涙目になりながら恐怖による荒い呼吸を繰り返す。

 

 

(び、びっくりしたーーーーー!! 今一瞬、耳から心臓が飛び出たかと思ったーーーー!!!)

 

 

 心臓は耳から出ない。

 そんなびっくり人間が存在するのなら、大半の者は好奇心から見たがるだろう。もう、びっくり人間などという領域ではなく完全に化物であるが。

 

 

「………………」

 

(肺が痛くなるってことは、呼吸に見合っていないくらいに心肺機能が貧弱なんだ。もっと訓練用の呼吸を繰り返して走り込みだっ!)

 

「…………か?」

 

(頑張れ! オレは昔から頑張ることしかできないっ! 努力は日々の積み重ね。昨日できなかった事でも今日は確かにできた。巴さんや鶯丸さんとの訓練は、無駄じゃない!)

 

「…………っと」

 

「はいっ!!!」

 

「……わぁっ!? きゅ、急に大きな声を出すなぁっ!!」

 

「――――――――はれぇっ!?」

 

 

 己の不甲斐なさに嘆きながらも決して心折れないよう、自らの思考に返事をした。

 しかし、そうまで己の内側に埋没していた故に、今の今まで声を掛けられていたことに気付けなかった。

 

 人吉にとっては突然出現したようにしか思えず、目の前の人物には突然大声を上げたようにしか見えず、互いが互いに驚きの視線を向けていたが無理もない。

 

 聞き覚えがありながらも暫く耳にしていなかった声に、人吉は顔を上げた。

 視界に飛び込んできたのは豊満な肉体に青海波柄の浴衣。みやこ屋の貸出浴衣だ。みやこ屋に宿泊を提供していないが、複数の大浴場を移動したり、按摩を受ける際に身に付ける。

 但し、巫剣に関してはその限りではない。支部の一つとして任務の疲れを癒やし、十分な休息を取って貰うために宿泊、食事も提供していた。今日、彼女がみやこ屋を訪れた目的の一つでもあった。

 

 

「三日月さんっ!」

 

「三ヶ月ぶりになるな。巴殿に随分と絞られているようだが、頑張っているそうじゃないか。見違えたよ、立派な男子(おのこ)の顔つきになった」

 

「いやぁ、毎日毎日、自分の不甲斐なさを痛感するばっかりで」

 

「そうか。だが、それもまた成長の証だ。余り焦らないように」

 

「はい、気をつけます」

 

「ならば、休憩にしないか? 夕食もまだと聞いて厨房を借りてな。拙い手作りで済まないが」

 

「ありがとうございます! 頂きます!」

 

 

 人吉の前に現れたのは、三日月であった。

 風呂上がりらしく頬を紅潮させて、髪は纏めてある。戦装束を脱いだその姿は、美貌さえ除けば只の乙女のようだ。

 両手で持ったお盆の上には、二人分の握り飯と味噌汁、緑茶が湯気を立てている。

 

 僅かなれど鮮やかな朱に染まった両頬は、風呂上がりのせいばかりではなく、気恥ずかしさからも来ていた。

 

 刀として戦いの中で果てる事こそ巫剣に相応しい。

 百華の誓いによって戦いの道具から開放されてもなお、三日月の考えは変わっていない。

 

 廃刀令に合わせた銘治政府による武装解除要請に端を発する百華の誓いなど、巫剣にとって口約束以上の意味を為していない。

 その証左に、多くの巫剣が御華見衆に属している。人々の生活を守る、禍憑は巫剣にしか倒せないという建前の下、戦いの中に居たいという本音を隠している。少なくとも、彼女はそう感じていた。

 

 無論、人々の営みがどうでもいいとは思わない。

 無論、全ての巫剣が戦いを希求しているとも思わない。

 

 ――――ただ自分自身がどうなのか、と問われれば、真っ向から違うとも否定できないのは事実であった。

 

 当然だ。ついこの間まで戦いを求められたと言うのに、今更違う道を歩めなどと言われても、どうしていいのか分からない。

 羅針盤を持たぬ航海、光源を持たずに闇夜を進む旅。巫剣は大なり小なり、そういった不安感と戦っていると彼女は思う。

 

 それがどうだ。

 切欠はどうあれ、こうして一人の青年を気にかけ、拙い手料理など披露するなど。それこそ乙女のようではないか。

 気恥ずかしい、照れ臭い、面映い、収まりが悪い――――しかし、不思議と悪い気だけはしなかった。

 

 何か工夫を凝らした訳でもない握り飯と味噌汁を、美味い美味いと繰り返して食べる彼の姿に思わず三日月は悩みすら忘れて微笑んでいた。

 

 

「それで、巴さんたら全然見えないって言ってるのに、見えるようになるまでいくわよー♪ って木剣でボコボコにしてきて……」

 

「…………あ、あぁ、そうなのか。大変、だったな」

 

(巴殿ェ……そういう気質があったのは薄々感づいていたが、些か、いやかなり、うぅむ……)

 

 

 しかし、それも其処まで。

 世間話の延長で彼の熟している訓練の話に縺れ込んだ瞬間に、三日月の顔が引き攣った。端的に言ってドン引きしている。

 巴の課す訓練は、天下五剣ですらドン引きする過酷な訓練であるようだ。

 

 其処で、三日月は人吉と顔を合わせる前に小烏丸からの頼まれ事を思い出した。

 このままでは更なる戦慄に襲われ、人吉への同情が一層強いものになってしまいそうだった故に話を変えるにはいいのだが、正直なところ抵抗があった。

 どうするべきか思い悩む三日月であったが、訓練の話が進む度ににこにこと笑いながらも人吉の瞳から光が失われていくのを確認した。

 このまま進めば、とても見ていられない状態になるのは明白。意を決して口を開いた。

 

 

「……あ、あー……その、ところで、小烏丸から聞いたのだが“お手入れ”の方に手こずっているようだな」

 

「お手入れ、ですか? 手こずっていると言うか、小烏丸さん以外にやった事ないから、自分が上達してるのかよく分からないですね。小烏丸さんは何をやっても褒めてくれるからなぁ」

 

「そ、そうか。ならば、私もお願いしよう。さして痛手は負っていないが、疲労や穢れは溜まる。君は上達を、私は休息を取れて一石二鳥だ。ま、まあ、私は未経験なので、適切な指導は出来ないだろうが……」

 

「成程、頑張ります」

 

(うっ! 笑顔が眩しい。こ、これでは意識している私の方が気恥ずかしいではないか……!)

 

 

 基本的にお手入れは、巫剣の主が行う。

 例外は、武蔵のような筆頭研ぎ師という専門職くらいのものだ。

 巫剣も乙女である。それが他者に素肌を晒し、柔肌を触れさせるを許すなど、余程の決心がなければ出来まい。

 小烏丸のようにお手入れ自体を好み、相手を気にしない者もいるものの、照れと恥ずかしさから大半の巫剣は主であっても極力世話にならないようにしている。

 その為、特定の主を持たない巫剣から女性の巫剣使いである巴は評判がいい。同性であり、気兼ねなく身を任せられるからだ。

 対し、武蔵は不評である。手付きと目付きがいやらしいようだ。男なので仕方がないと言えるが。

 

 人吉もまた男である。邪心を抱いていないにしても、情欲はあるはずだ。彼を気に入っている三日月であれ、一定の警戒心を抱いていた。

 のだが、当の本人は三日月が己を信じてお手入れ上達の機会を与えてくれたと曇り無き眼で向けてくる。

 これで下卑た笑みでも浮かべようものならば叱責や忠告の一つもできたのであろうが、こうまで純朴では三日月も肩透かしを喰らい、己の自意識過剰さが恥ずかしくなるというものだ。

 

 おほん、と咳払いを一つして歩き出した三日月の後を人吉が追う。

 向かったのは巫剣が宿泊するために設けられた離れであり、三日月に貸し出された部屋であった。

 

 襖で仕切られた部屋の中は、質素な畳張り。本来ならば中央にあるだろう座卓と座椅子は片付けられて布団が敷かれている。

 壁際には文机と鏡台。身支度のみならず、簡単な作業が行えるように調度品が取り揃えられていた。

 ちょっとした旅館の一室と言った風情で、突然の来訪にも何の過不足なく対応できる造りだ。

 

 

「じゃあ、布団にうつ伏せになって下さい」

 

「……あ、ああ、よろしく頼む」

 

 

 言われるがまま、布団へと横たわり、頬を枕に預ける。

 

 三日月は緊張気味であった。

 基本お手入れは疲労が溜まったり、負傷した場合に行われる。

 天下五剣の一振りである三日月は強大な巫魂(ちから)を持って生まれた。お手入れが必要になるほど追い詰められた経験がない。地脈の力溢れる温泉や霊泉による癒やしで十二分だったのだ。

 

 そんな彼女が人吉の訓練に協力する気になったのは、ひとえに小烏丸に乗せられたからだ。

 

 

『なんと小僧が信用できぬと申すのか。アレほど純朴な者、今日び珍しいくらいじゃぞ? これも巫剣使いの立派な仕事の一つ。見習いの成長に一役買うのも先達の務めじゃろうに』

 

『それとも何か? 個人的な感情で務めを放棄すると言うのか? らしくもない上に、それでは天下五剣の名が泣こう』

 

『それで将来、小僧と巫剣の絆に罅が奔ればどうなる。手を貸した者として、これほど悲しいこともあるまい』

 

『こういったものは数じゃっ! 経験じゃっ! 多くの巫剣の好みを把握し、それぞれにあった手入れを施すっ! 凡俗ならば数を熟す! 才能がないなら自信を付ける! これに勝るものはないのじゃっ!』

 

 

 宥めすかし、脅し、叱咤し、勢いに任せる。

 始めの内は難色を示していた三日月も、あれよあれよという間に押し切られる形となってしまった。

 

 その辺りは年季の違いか。単純な強さならばいざ知らず、冷静沈着に見えて感激屋な三日月の事、話術・舌戦では敵わない。

 実際、小烏丸は何一つ間違っていないのだが、押し切られた彼女にしてみれば釈然としないのは仕方のない事だった。

 

 脳裏で笑う小烏丸に溜め息を零しそうになった三日月であるが――――

 

 

「ひわぁっ……!?」

 

「え? 痛かったですか?」

 

 

 ――――足裏から伝わってきた未知の感触に、恥ずかしくなる声が出てしまった。

 

 人吉に悪気はない。まだ足裏に触れただけで開始もしていないのだから。

 だが、三日月には衝撃であった。足裏とは、此処まで過敏なものだったのか、と。

 

 これまで家長として仕事を熟し、鍛錬ですっかり固く人らしさを失った働き者の手。

 少々カサついてはいるものの、それ以上に冬の寒気で熱を奪われた末端に、彼の手は暖かさは心地良い。

 

 巫剣の構造は人のそれと大差はない。違いがあるのは、肉も骨も血潮も同じ巫魂で形作られている事だ。

 故に足の機能も人と変わらず、身体の様々な器官と繋がった末梢神経も同じように集中している。つまり、敏感なのだ。

 

 

「す、済まない。今まで男に……異性に触れられる経験が、なかったのだ。お、おかしな反応をしてしまうかもしれないが、気にしないでくれ。あ、あと、笑ってくれるな」

 

(そうだったのか…………これは、頑張らないとっ!)

 

 

 三日月としては、だから色々と加減してくれと言う意味であったのだが、人吉は完全に間違った方向で受け取ってしまった。

 そうまで自分を信頼してくれるのか。ならば未熟であれども自分は全力を尽くさねば。三日月さんの旅の疲れは、オレが癒やすっ!! と。

 

 生来ドが付く真面目な彼。言葉足らずになればなるほどに間違った方向に暴走してしまうのであった。

 

 

「……っ、ふぅ……くぅ……っ!」

 

(う~ん、凄い! 凄く柔らかい! こんな足って存在するんだ)

 

(少し、痛いが、それがまた何とも……癖になる痛み、というのだろうか、これは)

 

 

 皮膚を傷つけぬように優しく、それで体重の全てを支える足裏の全てを揉み解すように力強く。

 絶妙な加減で筋肉とツボと呼ばれる神経の集中部分を指圧していく。 

 

 人吉はただひたすらに関心していた。

 三日月の足裏はまるで生まれたばかりのように柔らかで、驚嘆するばかり。

 全体重を受け止める足裏は日常生活を送るだけで、踵や指の付け根の皮が厚くなっていく。

 戦いを生業をする者はより顕著だ。強靭な足腰は全ての土台。鍛錬の殆どはこれを鍛える事に費やす流派も存在する。

 

 しかし、三日月はどうだ。

 彼女の性格上、鍛錬をしていないなどありえない。況してや、御華見衆の最高戦力として数多くの任務を熟しているというのに柔らかい。

 師と世話役への労い、お手入れの訓練と称されて触れた巴や小烏丸と比較してもなお。

 

 足裏に影響が現れぬまでに完成した足腰と歩法を身に付けているということだ。

 一歩踏み出して、踏み締めるまで所作でさえ完璧。足の筋肉と関節を余す事なく使い、衝撃を分散させる。そうでもしなければ、こんな足にはならない。

 理想としても決して辿り着けない才能と研鑽の果てが、其処にはあった。

 

 

「う……あぁ……これは……すご、い……なっ……」

 

「母さんにはこうして労うくらいしか、出来ませんでしたし。結構、得意なんですよ」

 

「成、程……くっ……はぁっ……ひぅぅっ……!」

 

 

 足裏のツボを刺激される度に、僅かな痛みと心地良い快楽が襲い、甘い吐息と共に声が漏れる。

 まるで極楽にいるかのような、気に入った温泉にでも入っているような、艶のある声だ。

 

 男なら生唾を飲み込んでしまいそうな色香であったが、集中している人吉は届かない。

 今、彼はその五感の全てを三日月の身体へと向けている。

 

 

「ひわっ……うぅん……はぅぅ……んっ、んんっ……ふ、ふあっ!? な、何だっ!? 何をくんくんしているんだっ!?」

 

「疲れてる部分って何でか匂いが違うんですよ」

 

「そ、そうなのか。いや、しかし、それは流石に……」

 

「…………え?」

 

「…………い、いいや。大丈夫だ、問題ない。このまま、続けてくれて、構わない」

 

「はいっ!」

 

(そ、そんな、捨てられた子猫のような目をしないでくれ…………こ、拒めないではないか)

 

 

 ツボへの刺激で代謝が上がり、足だけではなく浴衣の下で全身がじっとりと汗が浮き出てきた時、三日月は人吉が鼻を鳴らして何かを嗅いでいる事に気がついた。

 

 理由を聞けば納得だ。他の者ならば一笑に付す内容であるが、彼の五感はズバ抜けている。

 三日月も狼などの嗅覚の鋭い生き物は獲物の疲労まで嗅ぎ分けるという話を聞いた事はあった。人と巫剣を五感のみで判別できる彼であれば出来ても不思議ではない。

 

 だとしても羞恥を誘される行為に違いはない。

 自身の体臭を嗅がれては誰であれ、恥ずかしかろう。乙女であれば尚の事である。

 風呂には入ってきたが、もう既に汗を掻き始めている。汗臭いなどと思われただけで立ち直れそうもない。

 

 されども、オレのやり方はダメでしたかと言わんばかりの気落ちした表情と瞳が、三日月の目には雨で濡れて心細そうに震える子猫と重なり、止めて欲しいとは言えなかった。

 

 

「んうンっ……はぁ、はぁっ……はうっ……くぅ……ひうぅっ……」

 

(は、恥ずかしいは恥ずかしいが、確かにこれは気持ち良い、な……足の疲れが抜けていく……)

 

 

 足裏のみならず足の指や足首の関節を動かして、脹脛と太腿に凝りとして現れた疲労を揉み解していく。

 身悶え、嬌声にも似た声を漏らしてしまう羞恥に耐えながらも、丹念な按摩を堪能してしまう。

 

 天にも登る、とは言い難いが、人吉の心が手の動きに合わせて伝わってくる。

 今、彼には何の邪心も迷いもない。一意専心、一心不乱。そんな心が、ただ己を癒やすためだけに向けられる。その事実が堪らなく心地良い。

 優越とも虚栄とも異なる、安堵にも似た感情。身体だけではなく、心まで解されていくような感覚。

 心の中に土足で踏み荒らされるのは御免被るが、こうまで思われては拒む手段も見つからなかった。

 

 

「よし、これくらいかな。じゃあ今度は上に行きますね。浴衣を脱ぐの、手伝います」

 

「は、はぅ……わ、分かった。あ、余り、変な所を触ってはいけないぞ?」

 

(変な所? 変な所って何処だ? …………本気で何処だ?)

 

「ああ、いや、何でもない。私が愚かだった……」 

 

 

 夢心地であった三日月が人吉の言葉で現実に引き戻される。

 お手入れは按摩のそれと大差はないが、刀剣の手入れに使用する丁字油と打ち粉も使う。

 今回は風呂上がりということで打ち粉は使用しないが、錆止めである丁字油は使用しなければならない。

 

 浴衣を着ていては意味がない。とは言え、全裸になる訳でなく腰までだ。抵抗感は拭えまいが、全てを晒す訳ではない。

 

 襟首に手を掛けた人吉に念の為、釘を差した三日月であったが、釘は刺さらずにひん曲がって何処かへ行ってしまう。

 三日月が想像しているような行為を彼は全く考えていないらしく、いくつもの疑問符が頭の上に現れていた。

 彼女としては安心したものの、釈然としない気分である。

 

 

(黄金比、とか言うんだっけ? そんな感じだなぁ)

 

(視線を感じるが、これも邪さを感じない。本当に、私の疲れている部分を見ているだけなのか)

 

 

 露わになったのは美しい背中に、色気も糞もなく感心しきりの人吉であった。

 

 まるで高名な彫刻家が掘ったかのような最高傑作を連想させた。

 抜けるように白い肌。背中の描く滑らかな曲線。肩甲骨と筋肉の薄っすらとした隆起。くびれた腰と下がるに連れて増す膨らみ。女性的な色香を体現しながらも、同時に機能美すらも感じさせる。

 

 こんなものを見せられては男など飛んで火にいる夏の虫になるであろうが、人吉の目にはこの美を損なわせるものを感じ取っていた。

 足と同様にそこかしこに疲れが見られる。まるで真っ白な布地に黒い染みを見つけたかのような不快感。

 

 

(これは落とさなければ……頑張れ、オレっ!!)

 

 

 ボッ、と彼の瞳に更なる使命感の火が灯る。

 今の彼は男ではない。性差すら超越した使命感の権化であった。

 

 無言のまま人吉は両手に丁字油を塗り、人肌にまで暖める。

 武蔵特性の丁字油は本来刀剣に使用するもののように無香ではなく、製法に手を掛けている故に仄かに香る。巫剣の身体のみならず、心も安らげるように配慮したものだ。

 

 

「ふ、ふぁ、んン――――」

 

 

 人吉が首筋に触れると、三日月の口から女の声が漏れる。

 背中がびくりと震えていたが、我ながら余りにも恥ずかしい声色に三日月は耳まで真っ赤に染めながら、慌てて唇を噛み締めた。

 

 その様子にすら気付かないほど集中した人吉の手は止まらない。

 首から肩へ。肩から脇腹へ。脇腹から腰へ。数度かけて満遍なく身体をなぞり、油を塗っていく。

 

 肌を這い回る掌の感覚は、三日月の想像を絶していた。

 人吉の掌はいくつもの血豆で覆われ、痛みを感じなくなるほど分厚い皮で覆われていた。彼の鍛錬の成果を目で追っていたので、よく記憶に残っている。

 

 あんな手で肌を撫でられてはささくれ、ヒビ割れた皮で痛みすら覚えるかもしれないと覚悟していたが、覚悟が全く意味を為さない。

 武蔵特性の丁字油のお陰だろうか。摩擦が限りなく少なくなった手の感触は、余りにも気持ちがいい。

 

 ゾワゾワと肌を通じ、背骨を介して頭に快感を叩き込まれるかのようだ。

 三日月の意思を介さない反射が、身悶えとして腰や手足の先にまで現れる。

 

 

(こ、これはマズい! 絶対にマズいぞっ! こ、こんなの、こんなの絶対におかしくなるぅ……!)

 

「……ま、ふぁっ、は、ひぃ……待てっ、ちょ、ちょっと……少しで、いい、からぁ、はぁああっ……!」

 

「大丈夫です。オレに任せて下さい」

 

「それは、信じて、いるが……んんンン~~~~~~っっ!!」

 

 

 今や三日月の身体からは緊張の強張りが消えてなくなり、それに反して声の艶が増していく。

 

 ぱたぱたと足をバタつかせたかと思えば、爪先までをピンと伸ばす。 

 身体は心鉄から熱くなり、油で濡れた素肌は別の光沢を帯びている。細かい汗でじっとりと濡れ光っていた。

 三日月の表情は蕩けていた。普段の凛とした表情は消え去り、目尻は垂れ下がり、口元は緩んでいる。これでは漏れる声を殺すなど不可能だ。

 

 理性はこれ以上は更に恥を晒すと分かっているのだが、人吉は聞き入れるつもりはなく、また身体はもっともっととせがんでいる。

 彼の使命感からくる強引さに流され、理性と本能の間の板挟みに三日月は気が狂ってしまいそうだった。

 

 

「く、ひぃっ……あっ、あぁっ……だ、ダメだ、これ以上はぁっ……はひぃっ……」

 

(疲れも穢れも残さない。丹念に、丁寧に、徹底的に、だ!)

 

「す、すごいっ……こ、こんな、こんなの……んんあぁっン……は、ぅぅっ……くぅぅっ!」

 

(分かる、分かるぞ。三日月さんも喜んでいる。最後まで手抜かりなく、手加減なしの全力だぁっ!)

 

「そ、そんな、まだっ……はうっ! すごい、こんなの初めてぇっ……気持ち、いい……あぁ、ダメだ、だめだめだめっ――――あぁあああぁぁあぁンンっ!!」

 

 

 一際大きく声を上げると、三日月の身体から一際大きい硬直が現れると一切の力が抜ける。

 三日月はぐったりとしながらも身体をひくひくと震わせていた。

 

 己でも会心の出来であったのか、人吉は大きく頷くと三日月の身体に浮かぶ汗を手拭いで拭き取る。

 そして、夢見心地なのか、気怠いのか、動く気配のない彼女に指示を出しながら浴衣を着せていく。彼女の体重で潰れた大きな乳房にも一切目もくれない。

 

 

「汗を一杯掻いたので、水を入れておきますね」

 

「…………ふ、にゃぁ」

 

「じゃあ、ゆっくり休んで下さい。ありがとうございました!」

 

「は、ふぅ……」

 

 

 反応の悪い三日月を眠くなっているのだろうと判断した人吉は、言葉通りに湯呑みに水を入れると正座したまま頭を下げて礼を述べる。

 恍惚とした表情のまま動かない彼女に布団を掛けてから部屋を後にした。

 

 

「ふぅ………………………………………………あれ? ……………………なんじゃこりゃあっ!」

 

 

 襖をそっと締め、三日月への限りない感謝とお手入れへの自信を手にした満足感に身を委ねていた人吉であったが、身体へと現れた異変に小さく絶叫する。

 

 鼻血が吹き出したのである。

 もう一度言う。鼻血が吹き出したのである。

 たらり、などという可愛い勢いではなく、もはや間欠泉の如き勢いで。

 

 

(いや、この勢い、ちょっと普通じゃないぞっ! びょ、病気かなっ? ど、どどど、どうしようっ!)

 

 

 慌てて鼻を抑える人吉であったが、自分が異常なほど興奮している事に気づいていない。

 人吉も男である。三日月の放つ色香に当てられたのだ。使命感ばかりを優先した故に当人も全く気づいていなかった。

 

 何よりこの男、性的な知識は皆無なのである。

 この年頃の青年にしては異様であるが、それも仕方がない。家族を優先する余りにこれまでそういった知識の源となる男友達など出来た事がなかった。

 

 男と女がまぐわい子供が生まれるとは知っていても、過程や方法がすっぽりと抜け落ちている。

 かつて睦郎が生まれる切欠となった父と母の行為をたまたま覗いてしまった事もあったが、普段とは全く違う父母の様子と余りの迫力に恐ろしくて泣いた経験があった。今回の三日月に対する興奮とは全く結びつかないであろう。

 

 

(と、取り敢えず、誰かに相談しよう……)

 

 

 溢れる血で床を汚すまいと鼻を抑え、よたよたとした足取りで人吉は人を探しに向かった。

 その後、みやこ屋の従業員を見つけたものの、余りの出血量に従業員は悲鳴を上げる事となる。当然である。その時、人吉の鼻下は血で真っ赤に染まっていたのだから。

 鼻血を出した理由は出血の多さから転んで鼻を打ち付けたのだろうと決めつけられ、従業員も人吉自身でも曖昧になってしまったのは、幸運であったのか、それとも不幸であったのだろうか。

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

 人吉が部屋を去ってから数十分後。

 彼と従業員の喧々諤々の騒動を知らぬまま、夢心地から戻ってきた三日月は――――

 

 

(うわぁああああああああぁぁああああああっっっ!!!!)

 

 

 布団に寝そべったまま身悶えていた。

 枕に顔を埋め、バタバタと足を動かして、羞恥と情けなさに悶絶していた。

 

 

(あ、あああ、あのような恥ずかしい声を出した挙げ句、礼も言えない状態を晒してしまうなどっ!!)

 

(しかも気持ちいいだの、初めてだの、あんな甘えた声で、あんなにふにゃけて、あああ思い出しただけで死んでしまいそうだっ!!)

 

(い、いいい、いくらお手入れが初めてとは言え、あられもない姿を見せるなど……! いや、いやいやいや、私ばかりが悪い訳ではないだろう!)

 

(小烏丸も小烏丸だっ! 何故、詳しく説明しないんだっ! あ、あんな、あんなのもう私専用の、私のためだけのお手入れだぞっ! 丁寧で、丹念で、私の身体に合わせて、私だけの事を考えて……うぅ、思い出したらまたふわふわしてきた。もう一回、くらいなら…………ハっ!?)

 

(うわぁああああああああああああっ、私は今何を考えていたっ!? ち、違うっ! 断じて違うっ! そ、そんな事を考えてなどあああああああああああああああああああああああっ!!!!)

 

 

 声にならない声を上げ、埃が舞うのも構わずに足が布団を何度となく叩く。

 

 確かに、お手入れ自体は悪くはなかった。悪くはなかったのだが、あのような状態になってしまうなど考えてもみなかった。

 そもそも聞いていた話と違う。人吉は全くの素人と聞いていたが、按摩自体は手慣れていた。

 夫を早くに亡くした母の苦労、人吉の性格を考えれば、家事に育児に疲れた母の身体を解きほぐすくらいのことはやっていても不思議ではないものの、文句の一つも言いたくなる。

 

 目下、最大の問題は明日の朝、どうやって人吉と顔を合わせるかだ。

 あの様子では彼は気にしないだろうが、己が気にしてしまってとてもではないが顔を合わせられない。

 目を合わせただけで顔から火を吹く勢いで赤面してしまう事は請け合い。まともに話せなくなってしまうだろう。

 

 

(し、しかし、彼は冷静だったな。あんな姿を晒したというのに、私が喜んでくれて嬉しいと笑うばかりで……)

 

(す、少し不公平ではないだろうか。どうして、こう私ばかりが赤面して、彼は素面のままなんだ。こ、これでは私に魅力がないようではないかっ!)

 

(……………………何を考えているんだ私はああああああああああああああああああああああああっっ!!!)

 

 

 本日、何度目になるか分からない身悶えと胸中での絶叫。

 まるで相手に少しは意識して欲しいと願うような考えを自覚して、気恥ずかしさに死にそうになる。

 

 何度思考を繰り返しても堂々巡りの千日手。

 唯一決まったのは、明日は可能な限り早く起きて、人吉と顔を合わせる前にみやこ屋を発つ事だけだった。

 

 

「三日月、何をバタバタやっておるのじゃ。入っても構わぬか?」

 

「はうぁっ!? こ、小烏丸かっ? す、少し待てっ!」

 

 

 トントンと襖をノックする音と共に、小烏丸の声が響く。

 最早これ以上の醜態を御免被ると起き上がり、浴衣の乱れを綺麗に正してから膝を折り曲げて正座した。

 深呼吸を何度となく繰り返す度に頬の赤味は消え、精神の乱れもなくなっていく。精神集中の見事さは流石の一言だ。とても先程まで悶ていた人物とは思えない。

 

 どうぞ、と声を掛けると小烏丸は襖を開いて部屋へと入る。

 余りにも普段通りの姿に怪訝な表情を見せた小烏丸であったが、乱れて額に張り付いた三日月の髪を見るや破顔した。

 

 

「ほう。ほうほうほう。三日月もお手入れの心地良さを身を持って知ったと見えるのぅ」

 

「何の事やら。私の様子を見に来た訳ではないのだろう? 何の用だ」

 

「全く、面白味に欠けるのぅ、お主は。まあ、よいわ。そういうことにしておこう」

 

 

 ニヤニヤと笑う小烏丸を軽く受け流し、鋭い視線を返す。

 しかし、三日月の内心は穏やかではない。此処で声を荒げて抗議しようものなら、更にからかわれるのは目に見えていたからだ。

 本音を言えば握り拳を作り、聞いていた話とは違うと叫びだしたかったが、これ以上彼女を喜ばせるのも癪であった。冷静さの仮面を取り繕い、表面上は平静を装う。

 

 その様子に小烏丸はつまらなそうに唇を尖らせながらも片付けられた座椅子を引っ張り出し、その上にちょこんと座る。

 瞬間、彼女の視線が鋭く尖った。まるで何かを探るかのようだ。

 

 

「して、此処に来る前に本部へと寄ったであろう? 鴉を使って伝令を伝えたからのは妾だからのう。何を話した?」

 

「貴様には関係がない、と言いたい所ではあるが――――隠さず明そう。彼の、間ヶ原 人吉の巫剣にならないかと持ち掛けられた」

 

「ほう、それはそれは。小僧も期待されたものじゃな。天下五剣が一振り、三日月宗近を預けられるとは」

 

「――――小烏丸。下らない探り合いや腹芸はうんざりだ。私がこれを明かしているのは、お前が彼の側だと考えているからだ」

 

「えぇい、分かっておるわ。だからその剣気を納めんか」

 

 

 三日月の身体から放たれる剣気は尋常ではなく、音もなく空気が震え、電灯は怯えたように明滅を繰り返す。

 紛うことなき怒りを抱いた彼女に、小烏丸は呆れながらも慌てて諌める。そうでもせねば、彼女は剣を抜きかねなかったからだ。

 

 彼女の抱く怒りは、巫剣使い見習いの小僧如きに天下五剣である己が充てがわれ、軽んじられている事――――などではない。

 

 人吉が剣士としても巫剣使いとしても未熟であったとしても背中を預け、共に戦うに足る人間であると感じている。

 能力の高さ、才能の有無なぞいくらでも補える。そもそも戦いは巫剣の領分であり、補填は己がすればいいだけの話。

 だが、心の在り方だけは補えない。例え、最も弱い巫剣使いであったとしても、人としての優しさに満ちた彼であるのなら、不足などない。

 

 三日月が怒りを覚えているのは、全く別の部分である。

 

 

「副司令の口から直接聞いた。禍祓いに、宿儺。そして、彼の内に潜む実という宿儺の分身についてもな」

 

「成程……して返事は?」

 

「無論、断った。思惑から何から腹立たしい。彼に対する裏切りも同然だ。そのような申し出は受けられない」

 

「言ったのか、それを。面と向かって」

 

「言ったとも。何の問題がある」

 

 

 ふん、と憤懣やるかたないとばかりに鼻を鳴らし、三日月は肩を怒らせた。

 巫剣使いとして未熟も未熟。知識もなければ経験もない人吉に、御華見衆の最高戦力たる三日月を組ませるのか。

 

 三日月の至った答えは至極単純であり、酷く残酷だった。

 

 要は、彼に対する監視と実に対する牽制だ。天下五剣であれば、主がなくとも十分に戦える。

 万が一、彼が御華見衆にとって裏切りに当たる行為を働いた時、御華見衆にとって危険な存在になった時、迅速に彼を処分するための迎撃準備。

 少なくとも、三日月はそう受け取った。そうとしか受け取れなかった。

 

 そう認識した瞬間、冷たい刃を連想させる彼女には似つかわしくない烈火の如き怒りを露わにした。

 

 副司令としての立場は理解している。万が一に備えるべきなのも理解している。

 しかし、そのような思惑で彼と組ませるのであれば、話は別。

 

 御華見衆は人々の営みを守るための組織。巫剣使いであろうが、禍祓いであろうが守るべきものに変わりはないはず。貴女のそれは人に対する不信であり、彼に対する裏切りだと、気がつけば告げていた。

 椒林は悲しげに目こそ伏せたものの、訂正する気も否定する気もなく押し黙るだけであり、話はそれまであった。

 

 

「――――だが、妾は悪い話ではないと思うがの。お主にとっては、であるが」

 

「どういう意味だ……?」

 

「何、お主は小僧と話す時には表情を緩ませる。御華見衆に入ってから軋むように張り詰めていたものを含めてな」

 

「そ、それは……」

 

「相性は悪くはない。それに考え方を変えてはどうじゃ? このまま行けば、椒林に忠実な巫剣を充てがわれるじゃろう。アレはアレで信念を持っておるからな。お主が頷けば、不安はあるまい?」

 

「確かに、言う通りではあるが………………考えさせてくれ」

 

「よいとも。妾は小僧が好きじゃ。素直で可愛げがあるからな。妾も巴も、アレの味方じゃ。我等は、阿修羅丸のような怪物を二度と生み出すつもりはない」

 

 

 思い悩む素振りを見せる三日月に、相応の覚悟で小烏丸を告げる。

 軽い気持ちで促している訳ではない。言葉とは覚悟を以て放たねば、誰の心にも響かない。

 少なくとも彼女の覚悟は、三日月の心を揺さぶるだけの威力を有していたようだ。

 

 三日月がどう決断にするにせよ、彼女の邪魔をしたくはなかった。

 さてと、と呟き、小烏丸は立ち上がると座椅子を片付けて部屋を後にしようとする。

 

 

「――――ああ、そうそう」

 

「今度は何だ?」

 

「いや何、最後に一つだけな。三日月、想像してみろ。椒林の危惧する万が一に遭遇した時、自分自身が何をするか」

 

「………………私は」

 

「それ以上は言わんでいい。だが、それを想定しない椒林だと思うか? アレは複雑で面倒な奴じゃ、それは理解してやってくれ」

 

 

 小烏丸は困ったような笑みを浮かべて告げ、三日月は気付かされたように目を見開く。

 それを確認してから小烏丸は襖を閉め、自室である二階の書斎へと戻る。

 

 一人残された三日月が後を追って来ないところを見て、少なくとも己の伝えたかった事は伝えられたかと安堵の息を吐く。

 

 もし仮に、椒林が想定したような三日月が人吉を斬らねばならぬ場面に立たされた場合、彼女はどうするか。

 きっと。恐らく。多分。情に厚い彼女の事、斬れはしないだろう。そんな事など椒林もよく分かっている。

 そもそも人吉と実を警戒するだけならば、鬼神丸のような椒林に忠実な者を充てがえばいいだけの話。

 

 敢えて三日月を選んだのは、人吉の気質ならば三日月の張り詰めた空気を和らげてくれるのではないかという期待があったからであり。

 椒林自身が、人吉に対して冷徹に徹しきれていない証明に他ならない。

 

 

「ええい、全く! どいつもこいつも、じゃ! 妾や巴や小僧のように心に余裕を持たぬか、余裕を。全く!」

 

 

 一人ごちる小烏丸の怒りは、誰の耳にも胸にも届かずに消えていく。

 冷たく冴える月だけはそれを見ていたが、何を出来るわけでもなく、ただ静かに夜を照らしているだけだった。

 

 

 

 

 




はい、というわけで、三日月さん再登場&お手入れシーン&副司令裏で色々やってる、の回でした。

今の所、副司令が嫌な感じのキャラになっていますが、シナリオの関係上仕方なし。今後は可愛いシーンも出てくるはずなんじゃ~。許して!
副司令の複雑な内面は、後に語られる予定。どっちにせよ、話を進めないとダメですね。

では、次回もお楽しみに!

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